音楽を止めろ
ヒュドラが襲いかかった。
一斉に。
五つの機械の頭が崩壊した隠れ家へ突っ込み、その顎をMACH-01Aごと飲み込めるほど大きく開いた。
キランは目を見開いた。
「五つ?」
Machが怪物をスキャンする。
「七つです」
キランが上を見る。
破壊された二階から、さらに二つの頭が現れた。
「そりゃそうだよな」
最初の頭が噛みつく。
キランが加速。
**フォォォォシュ!**
金属の牙が背後で閉じた。
**ガチン!**
二つ目が右から来る。
「左!」Machが叫ぶ。
キランがロール。
顎が空を切った。
三つ目が下から来る。
「上!」
MACH-01Aが上昇。
**ガシャァァン!**
ヒュドラの頭蓋が階段の残骸を粉砕した。
木片が部屋中に飛び散る。
キランが天井を突き破る。
**ガシャァァァン!**
二階へ飛び出した――
その瞬間、別の頭が壁を突き破った。
「いい加減にしろよ!」
**ドガッ!**
ヒュドラがMACH-01Aへ激突。
キランは部屋の中を回転しながら吹き飛ばされた。
警告がバイザーを埋め尽くす。
**衝撃検知**
**左側装甲:81%**
**スタビライザー補正中**
Machが即座に軌道を修正した。
キランが姿勢を立て直す。
ヒュドラが咆哮した。
**ギャァァァァァァァ!**
巨大な機械の蛇のように、いくつもの頭が建物の中をうねる。
キランは両方のプラズマキャノンを構えた。
「実際に何個必要なのか試してみようか」
**フォォン! フォォン!**
二発のプラズマが一本の首を直撃。
**ドォォン!**
頭部が何千もの光の破片となって爆散した。
キランが笑う。
「まず一つ」
切断された首の周囲へ、即座に光が集まり始めた。
キランの笑顔が消える。
「……いや」
破片が再形成される。
金属の脊椎。
装甲。
顎。
目。
数秒後――
頭が元通りになった。
キランは呆然とした。
「それ反則だろ」
「厳密には、ソリッドライト製ヒュドラとの戦闘に関する規則は存在しません」
「ありがとう、Mach」
「どういたしまして」
「皮肉だよ」
「知っています」
三つの頭が同時に襲ってきた。
キランが後方へ加速。
一つが頭上。
一つが下。
三つ目が真正面。
「Mach!」
「照準」
キランが撃つ。
**フォォン!**
開いた口の中へプラズマが直撃。
**ドォォォン!**
頭部が爆散した。
衝撃波が建物を揺らす。
キランは煙の中を突っ切った。
だが背後では――
破壊された頭がすでに再生を始めていた。
Machがそれを見る。
他の頭を見る。
そして、その身体を流れる光を見る。
「キラン」
「何か見つけたって言ってくれ」
「個々の部位を破壊しても効果がありません」
「うん。気づいた」
「構造体には継続的にエネルギーが供給されています」
キランが目を細める。
低音が建物を震わせ続けていた。
**ドン。**
**ドン。**
**ドン。**
耳を澄ます。
そして――
気づいた。
「DJ Kre8」
「正解です」
また一つの頭が襲う。
キランがその周囲をロール。
「狙うべきはヒュドラじゃない」
「その通りです」
「元を止める」
「正確です」
キランが笑う。
「やっと話が見えてきた」
背後で巨大な顎が閉じた。
「可能であれば、早急に」
「はいはい」
キランが壁の穴へ向かって加速する。
三つの頭が即座に進路を塞いだ。
**ギャァァァァァ!**
「……無理か」
その瞬間――
レーザーがヒュドラの首を貫いた。
**フォォォォン!**
頭部が横へ弾かれる。
キランが下を見る。
破壊された庭にアダムが立っていた。
装甲はボロボロ。
ジャケットは裂けている。
眉の上の小さな傷から血が流れていた。
隣にはPatrol。
アダムが武器を構える。
「行け!」
キランが瞬きをする。
「え?」
「巨大なレイブトカゲは俺たちが引きつける!」
「ヒュドラだよ!」
「どうでもいい!」
Patrolが発砲。
**ピュン! ピュン! ピュン!**
二つの頭が二人へ向いた。
アダムがPatrolを見る。
「おめでとう」
「何がですか?」
「注意を引けた」
四つの頭が向いた。
Patrolが一瞬止まる。
「これは過剰に思われます」
「俺の夜へようこそ」
ヒュドラが襲う。
アダムとPatrolが散開。
**ドォォォン!**
一つの頭が玄関の残骸を粉砕した。
キランが上空でホバリングする。
「本当に大丈夫?」
アダムが見上げる。
「大丈夫じゃない!」
別の頭が突っ込んでくる。
アダムが横へ飛んだ。
**ガシャァン!**
「だから何だ!」
キランがためらう。
Machが彼を見る。
「音楽です」
キランは耳を澄ました。
低音は通りからではない。
上からだった。
もっと街の奥。
**ドン――ドン――ドン。**
Machが発信源を三角測量する。
「おおよその位置を特定しました」
「どこ?」
ルートがキランのバイザーへ表示される。
数ブロック先。
近くにあるビジネスタワーの一つ。
キランがアダムを見る。
「死ぬなよ!」
アダムがヒュドラへ撃つ。
「お前もな!」
キランのスラスターが点火。
**フォォォォォシュ!**
飛び去った。
ヒュドラが即座に反応する。
三つの頭が向いた。
「キラン」
「見えてる」
三つが飛びかかる。
Patrolが撃つ。
**フォォン!**
一つがPatrolへ向く。
アダムがもう一つへ武器を連射した。
「おい!」
残りの頭も向いた。
アダムは即座に後悔した。
「……ああ、Snat」
ヒュドラが咆哮する。
アダムが武器を構えた。
「はいはい」
Patrolを見る。
「踊ろうぜ」
そして――
**ドォォォン!**
キランは高層ビルの間を飛んだ。
音楽が大きくなる。
**ドン――ツッ――ドン――ツッ!**
Machが信号を追跡。
「三百メートル」
キランが加速。
「二百」
さらに速く。
「百」
低音が周囲の窓を震わせる。
キランが上を見る。
「あそこだ」
巨大なオフィスビルが通りの上にそびえていた。
上層階――
窓の向こうでネオンの光が脈打っている。
**ドン!**
Machがスキャン。
「上層階にソリッドライトのエネルギー反応」
「ナオミ?」
「可能性が高いです」
「DJ Kre8?」
「ほぼ確実です」
キランが笑った。
「音楽を止める時間だ」
加速。
真上へ。
一階。
さらに一階。
さらに上。
Machが彼を見る。
「入口を使用する予定はありませんね」
「ない」
「予想していました」
「じゃあなんで聞いた?」
「聞いていません」
「あ」
キランは光る窓へ機体を向けた。
Machが少し黙る。
「キラン」
「何?」
「窓は強化されています」
「どれくらい?」
「かなり」
キランが推力を上げる。
Machが彼を見つめた。
「それは意図した反応ではありません」
**フォォォォォォシュ!**
MACH-01Aが窓へ激突した。
**ガシャァァァァン!**
ガラスが内側へ爆散する。
ナオミが叫んだ。
「何なの?!」
DJ Kre8がホログラムターンテーブルから振り返る。
音楽が飛んだ。
**ギュルルルッ!**
街の向こうでは――
ヒュドラがちらついた。
アダムが見上げる。
「ああ、助かった」
そして音楽が再開。
**ドォォォン!**
ヒュドラが安定する。
アダムが顔をしかめた。
「勘弁してくれ」
タワーの中では――
キランが部屋を旋回。
ナオミが横へ飛ぶ。
DJ Kre8が即座に両手を上げた。
光が爆発的に広がる。
「Mach!」
「複数の構造体が形成されています」
光る狼が三体出現。
ナオミが指差した。
「やれ!」
三体が襲う。
キランがキャノンを構える。
**フォォン! フォォン!**
一体目が爆散。
二体目が跳ぶ。
キランがロール。
爪がMACH-01Aの装甲を引っかいた。
**ギギギギッ!**
三体目が背後から来る。
Machが迎撃。
**ピュン!**
構造体が砕けた。
ナオミがターンテーブルへ後退する。
キランは見逃さなかった。
「Mach」
「見えています」
「音楽が止まれば――」
「ヒュドラも崩壊します」
DJ Kre8の目が見開かれる。
「気づいた」
ナオミが睨む。
「だったら近づけさせないで!」
再び光が爆発する。
巨大なゴリラが形成された。
キランがうめく。
「本気?」
ゴリラが咆哮。
**グオォォォォォ!**
「そのようです」
突進してくる。
キランは真正面へ加速した。
ナオミが瞬きをする。
「何してるの?」
DJ Kre8が見つめる。
「バカなこと」
Machが訂正する。
「統計的に無謀な行為です」
「ありがとう!」
ゴリラが腕を振る。
キランが急降下。
巨大な拳が頭上を通過。
腕の下を加速。
真正面のナオミへ。
彼女の目が見開かれる。
「DJ!」
DJ Kre8がバリアを展開。
**ブゥゥン!**
キランが両方のキャノンを撃つ。
**フォォン! フォォン!**
バリアが攻撃を受け止める。
亀裂が広がった。
DJ Kre8が耐える。
「ナオミ!」
「分かってる!」
ナオミが操作盤へ走る。
キランが笑った。
狙い通り。
「Mach」
「今です」
Machが天井へ発砲。
**ピュン!**
照明が爆発した。
ナオミが反射的に身をかがめる。
DJ Kre8が上を見る。
集中が途切れた。
ほんの半秒。
バリアがちらつく。
キランが加速。
**フォォォォシュ!**
バリアを突き破った。
**ガシャァァン!**
ナオミが振り返る。
間に合わない。
MACH-01Aが彼女をかすめる。
**ドガッ!**
ナオミは吹き飛び、ソファへ叩きつけられた。
DJ Kre8がキランへ突進。
Machが迎撃。
二体のVentが衝突した。
**ガキン!**
DJ Kre8が回転する。
Machが撃った。
**ピュン!**
攻撃が胴体中央へ直撃。
DJ Kre8が壁へ叩きつけられる。
ホログラムターンテーブルが消えた。
音楽が止まった。
一瞬で。
静寂。
数ブロック先では――
ヒュドラが固まった。
アダムが見上げる。
一つの頭が顔から数センチの位置で停止していた。
ゆっくり武器を下ろす。
「頼むから消えてくれ」
光の亀裂がヒュドラ全体へ広がる。
**ブゥゥゥン……**
巨大な身体が光の粒子となって崩壊した。
アダムが目を閉じる。
「ありがとう」
Patrolが隣に浮かぶ。
「どういたしまして」
アダムが片目を開けた。
「お前に言ったんじゃない」
「理解しています」
タワーの中では――
ナオミがうめいた。
キランが近づく。
彼女は立ち上がろうとする。
「そのまま寝てろ」
「地獄に――」
膝が崩れた。
倒れる。
DJ Kre8も起き上がろうとする。
Machが彼女の上に浮かんだ。
「推奨しません」
DJ Kre8が睨む。
「お前、嫌い」
「相互的な感情です」
キランが周囲を見る。
破壊された窓。
壊れた家具。
焦げ跡。
意識を失った二人の敵。
息を吐いた。
「よし」
Machが彼を見る。
「よし?」
「本当にやった」
「現時点では」
「Mach」
「現実的な期待値を維持しているだけです」
「五秒だけ喜ばせてくれない?」
Machが計算する。
「いいえ」
キランが眉をひそめる。
「なんで?」
気温が下がった。
急激に。
割れたガラスの上を霜が這う。
キランの笑顔が消えた。
「あ」
Machが振り返る。
「ザイラ」
**フォォォォシュ!**
氷の壁が部屋を突き抜けた。
キランが急上昇。
攻撃が真下を通過する。
意識を失ったナオミの身体が床を滑った。
割れた窓からBlizzardが入ってくる。
その後ろにザイラ。
装甲は損傷。
息は荒い。
頬には痣。
それでも、その目は――
まだ燃えていた。
「見つけた」
キランはため息をついた。
「本当に諦めるってこと知らないんだな」
ザイラが両手を上げる。
「お互い様だ」
氷が爆発する。
キランが撃つ。
**フォォン!**
**バキィィン!**
プラズマと氷が衝突。
蒸気が部屋を飲み込む。
Machがその向こうをスキャン。
「左!」
キランが振り向く。
遅い。
ザイラが蒸気を突き破った。
**ドガッ!**
拳がキランの顔面を捉える。
頭が横へ跳ねた。
MACH-01Aが回転する。
「キラン!」
「大丈夫!」
ザイラが側面装甲を掴む。
氷が広がる。
Machが熱出力を上げる。
Blizzardが攻撃。
Machが迎撃。
**ドォォン!**
二体のVentが弾き飛ばされた。
キランがザイラへ肘を振る。
防がれる。
逆噴射。
ザイラの手が外れる。
キランが旋回。
後部装甲が彼女を捉えた。
**ドガッ!**
机へ叩きつけられる。
机が粉砕。
ザイラは即座に立ち上がった。
「まだ面白いか?」
キランが唇の血を拭う。
「かなり面白くなくなってきた」
彼女が攻撃。
キランが加速。
氷が部屋中を追いかける。
**バキン! バキン! バキン!**
通過した場所が次々と凍りつく。
上空ではMachとBlizzardが戦う。
エネルギーが衝突。
氷が砕ける。
家具が吹き飛ぶ。
オフィスは戦場と化した。
ザイラが氷の槍を作る。
投げる。
キランがロール。
槍が壁を貫通した。
キランが撃つ。
ザイラが防ぐ。
**ドォン!**
盾に亀裂。
もう一発。
**フォォン!**
ザイラが横へ飛ぶ。
Blizzardが隙に気づいた。
「ザイラ!」
遅かった。
Machが背後からBlizzardを撃つ。
**ピュン!**
床へ叩きつけられた。
「Blizzard!」
ザイラが振り返る。
それが間違いだった。
キランが加速。
**フォォォォシュ!**
MACH-01Aが彼女へ激突。
**ドガッ!**
ザイラが吹き飛ぶ。
ガラスの仕切りを突き破った。
**ガシャァァン!**
床へ激突。
激しく。
キランが追う。
ザイラは起き上がろうとした。
腕が震える。
身体を押し上げる。
失敗。
近くでBlizzardの光がちらつく。
Machがキランの隣へ浮かぶ。
二人とも傷ついていた。
二人とも疲れ切っていた。
それでも動ける。
キランが片方のプラズマキャノンを構える。
ザイラが見上げた。
「やれよ」
キランが止まる。
ザイラは真っすぐ彼を見る。
「撃て」
Blizzardが顔を上げる。
「ザイラ」
「撃て!」
キランはキャノンを少し下げた。
ザイラが苦々しく笑う。
「何だ?」
呼吸は荒い。
「急に人を殺せなくなったのか?」
キランの表情が変わる。
「俺はジャリックを殺したかったわけじゃない」
「それを言うな」
「本当だ」
「言うなって言ってる」
「まるで俺があいつの死を望んでたみたいに言うだろ」
「お前が殺したんだ!」
「分かってる!」
静寂。
言葉が壊れたオフィスに響いた。
ザイラが彼を見る。
キランの声が低くなる。
「……分かってる」
Machは黙っていた。
Blizzardも。
キランはザイラを見る。
「お前を見るたびに思い出す」
ザイラが歯を食いしばる。
「よかった」
「ジャリックを思い出す」
「よかった」
「あの時のことも覚えてる」
「なら、私がお前を殺す理由も分かるだろ」
キランは首を振った。
「いや」
ザイラの表情が歪む。
「いや?」
「俺を憎む理由は分かる」
一拍。
「でも、だからって殺されてやるつもりはない」
ザイラは身体を起こし、座り込んだ。
「お前は弟を奪った」
「分かってる」
「全部奪った」
「違う」
彼女の目が細くなる。
キランはBlizzardを見た。
「まだ彼女がいる」
ザイラも視線を向ける。
Blizzardの光がちらついていた。
その表情が、ほんのわずかに柔らかくなる。
キランは続けた。
「そしてBlizzardには、まだお前がいる」
Blizzardがザイラを見る。
ザイラは再び表情を硬くした。
「私たちの何が分かる」
「たぶん、何も分からない」
その答えにザイラが少し驚いた。
キランは武器を完全に下ろした。
「でも、大切な誰かを失いそうになる感覚なら分かる」
レイモンド。
マイケイラ。
Gear。
母親。
Mach。
特にMach。
「自分が関わった何かのせいで、大切な人が傷つく感覚も分かる」
ザイラは黙っていた。
キランは彼女を見る。
「それに、怒ってるほうが楽だってことも」
ザイラが一度だけ笑った。
そこに楽しさはなかった。
「これが怒りだと思ってるのか?」
「ああ」
目が鋭くなる。
「これは憎しみだ」
「時々、その二つは隣同士に住んでる」
BlizzardがMachを見る。
Machも見返す。
二人とも何も言わない。
ザイラはキランを見つめた。
「許してほしいのか?」
「いや」
その答えに彼女が止まった。
キランは首を振る。
「そんなことを頼める立場じゃない」
ザイラの表情がわずかに変わった。
「許すべきかどうかだって、俺には分からない」
少し間を置く。
「でも、ジャリックが死んだからって、お前まで後を追う必要はない」
ザイラの目が見開かれる。
Blizzardが即座に近づいた。
「言葉に気をつけてください」
キランは引かなかった。
「俺を殺そうとして、お前は全部捨てようとしてる」
「私の人生はもう奪われた」
「違う」
「お前に何が分かる」
「ゲートロックから脱獄しただろ」
「サヴァントが私たちに利用価値を見出したからだ」
キランの表情が変わる。
Machが即座に反応した。
「サヴァント?」
ザイラは自分が口を滑らせたことに気づいた。
遅かった。
キランが身を乗り出す。
「あいつがお前たちを脱獄させたのか?」
ザイラは答えない。
Blizzardが目を細める。
Machが静かに言った。
「高度な連携が可能だった理由が説明できます」
キランはザイラを見る。
「あいつに利用されてる」
「知ってる」
その答えにキランが驚く。
「知ってる?」
ザイラが苦々しく笑う。
「私を馬鹿だと思ってるのか?」
「いや」
「ならいい」
彼女は下を向いた。
「あいつが何者かくらい分かってる」
「なら、なんで協力する?」
ザイラがゆっくり顔を上げる。
「あいつが、お前にたどり着く機会をくれたからだ」
キランは黙った。
「それだけで十分だった?」
「私には?」
冷たい笑み。
「ああ」
Blizzardが彼女へ近づく。
「ザイラ」
ザイラが彼女を見る。
ほんの一瞬――
怒りが消えた。
本当に一瞬だけ。
その下にあったのは――
悲しみ。
生々しい。
疲れ果てた。
まだ血を流しているような悲しみ。
キランには見えた。
Machにも。
Blizzardが静かに言った。
「ジャリックは、自分のためにあなたが壊れていくことを望みません」
ザイラが固まる。
視線がBlizzardへ飛ぶ。
「やめろ」
「私も彼を知っていました」
「やめろって言った」
「私も彼を失いました」
ザイラの顎が震えた。
ほんの少し。
それでもキランは見た。
Blizzardは続ける。
「そして私は、あなたまで失いかけました」
沈黙。
ザイラが顔を逸らす。
「失ってない」
「はい」
Blizzardが近づく。
「ですが、失う可能性はあります」
ザイラは目を閉じた。
キランは何も言わなかった。
ここは自分が口を挟む場面ではない。
Machも同じことを理解しているようだった。
数秒間――
誰も戦わなかった。
誰も動かなかった。
壊れたオフィスが軋む。
割れた窓から風が吹き込む。
遥か下では、警察のサイレンがビルの谷間に響いていた。
やがてザイラが目を開いた。
疲れていた。
身体ではない。
もっと深いところが。
「お前が憎い」
キランは頷いた。
「分かってる」
「許してない」
「分かってる」
「一生許さないかもしれない」
「分かってる」
ザイラが見つめる。
「他に返事ないのか?」
キランは少し笑いそうになった。
「たぶん必要だな」
BlizzardがMachを見る。
「あなたは相変わらず不愉快です」
Machがわずかに首を傾ける。
「収監生活によってあなたの観察能力が低下していないことを嬉しく思います」
Blizzardが見つめる。
Machも見つめ返す。
キランは二人を交互に見た。
「お前らも感動の仲直りしてる?」
「いいえ」
二体のVentが同時に答えた。
キランが笑う。
ザイラも――
ほんの少しだけ笑いかけた。
ほんの少し。
その時――
Machの表情が変わった。
キランは即座に気づいた。
「どうした?」
Machは答えない。
視線が背後の暗闇へ動く。
何かが動いた。
ほんのわずかに。
キランの笑顔が消える。
「Mach?」
割れたガラスにネオンの光が映った。
一つ。
そしてもう一つ。
さらにもう一つ。
Machが振り返る。
「キラン」
キランはゆっくり背後を見た。
破壊された入口の近くにGlowstickが立っていた。
その後ろから複数のNeonが現れる。
上階の通路にも。
割れた窓からも入ってくる。
一人。
三人。
五人。
八人。
さらに増える。
誰にも気づかれず、部屋を完全に包囲していた。
Glowstickが肩を回す。
サヴァントとの先ほどの遭遇でできた痣が、顔の片側に残っている。
彼は笑った。
「感動的だな」
キランがプラズマキャノンを構える。
Machが隣へ移動。
ザイラがNeonsを見る。
Blizzardの目が細くなる。
キランはため息をついた。
「この街には順番を待てる奴いないの?」
Glowstickの笑みが広がる。
Neonsの身体が輝き始めた。
Machが部屋をスキャンする。
「キラン」
「何?」
「包囲されています」
キランはNeonsを見る。
次にザイラ。
Blizzard。
意識を失っているナオミとDJ Kre8。
そしてGlowstick。
操縦桿を強く握った。
「……また?」
Glowstickが両手を上げる。
ネオンエネルギーが部屋中に噴き上がった。
キランのスラスターが点火。
**フォォォォシュ!**
「分かったよ」
プラズマキャノンが輝き始める。
「第三ラウンドだ」




