ヴェンティックス誕生(前編)
暗闇。
安らかなものではない。
この暗闇には重さがあった。
四方八方からリヴァースを押し潰す。
肺の中まで満たしていく。
頭蓋の奥でかすかに鳴り続ける耳鳴り以外、すべての音を飲み込んでいた。
長い間――
リヴァースは自分がどこにいるのか思い出せなかった。
自分が誰なのかさえ。
やがて息を吸った。
痛みが答えた。
「ぐっ!」
目を見開く。
何も変わらない。
まだ暗闇。
リヴァースは右腕を動かそうとした。
肩から指先まで、激痛が稲妻のように走る。
すぐにやめた。
胸が浅い呼吸に合わせて上下する。
息をするたび、肋骨の内側を何かが削っているようだった。
口の中は血の味がした。
顔の横には何か温かかったものが乾いてこびりついている。
ゆっくりと――
目が暗闇に慣れてきた。
石。
埃。
壊れた装備。
地面に散乱する金属片。
リヴァースはそれらを見つめた。
そして記憶が戻った。
少しずつではない。
一気に。
**バラン。**
レッドハット。
洞窟。
戦闘。
ベゼルカー。
レイモンド。
銃声。
悲鳴。
混乱。
そして――
何もない。
リヴァースは目を閉じた。
十分思い出した。
彼らは去った。
部隊はもういない。
全員いなくなった。
そして自分は――
死んだことになっているはずだった。
リヴァースは身体を起こそうとした。
「ぐああああっ!」
身体が即座に崩れ落ちる。
頭が地面へぶつかった。
数秒間、呼吸すらできなかった。
「分かった……」
目を強く閉じる。
「分かったよ……」
立つのは無理だ。
ならいい。
這えばいい。
リヴァースは片腕を前へ伸ばした。
指を土へ食い込ませる。
引く。
身体がせいぜい数センチ動いた。
肋骨を激痛が引き裂く。
止まる。
待つ。
呼吸する。
そしてまた引く。
さらに数センチ。
もう一度。
もう一度。
もう一度。
出口がどこなのかは分からなかった。
ただ、暗闇がほんの少しだけ薄く見える方向を選んだ。
数歩分進むたびに止まった。
数秒の時もあった。
数分の時もあった。
一度――
完全に意識を失っていたのかもしれない。
それでも目を開けるたび――
進み続けた。
やがて――
前方にかすかな光が見えた。
リヴァースはそれを見つめる。
最初は幻覚だと思った。
その時、何かを感じた。
空気。
温かい。
乾いている。
皮膚を撫でるように流れている。
リヴァースは弱々しく笑った。
笑うだけで痛かった。
「行け……」
身体を引きずる。
「行け……」
光が大きくなる。
ついに――
リヴァースはレッドハットの基地から這い出した。
バランの砂漠の日差しが目を焼く。
腕を上げて顔を覆った。
広大なバランの砂漠が目の前に広がっている。
車両はない。
兵士もいない。
救助隊もいない。
何もない。
あるのは砂だけ。
リヴァースは洞窟を振り返った。
そして果てしなく続く砂漠を見る。
「冗談だろ……」
歩ける時は歩いた。
無理な時は這った。
時には、その二つにほとんど違いがなかった。
太陽が容赦なく照りつける。
水はない。
食料もない。
どこへ向かっているのかさえ分からない。
日没の頃には、喉が紙やすりのようになっていた。
夜になると――
暑さは消えた。
砂漠は凍えるほど寒くなった。
リヴァースは岩場に身体を丸め、日の出まで震え続けた。
そして――
また進んだ。
時間が経つにつれて、思考はまとまらなくなっていった。
時々、軍用輸送機の音が聞こえる気がした。
顔を上げる。
何もない。
時にはレイモンドが自分を呼んでいる声が聞こえた。
何もない。
一度だけ、誰かがこちらへ歩いてくるのがはっきり見えた。
リヴァースは腕を上げる。
「おい!」
人影は熱気の中へ消えた。
リヴァースは何もない地平線を見つめる。
「……そうかよ」
また進んだ。
やがて――
脚が言うことを聞かなくなった。
リヴァースが倒れる。
頬が熱い砂へ押しつけられた。
身体を持ち上げようとする。
動かない。
「動け」
指は動いた。
腕は動かない。
「動けよ……」
何も起こらない。
リヴァースは目を閉じた。
初めて――
戦うことをやめた。
影が彼を覆った。
リヴァースは気づかなかった。
近くで車両が止まった。
聞こえなかった。
足音が近づく。
そして――
手が肩に触れた。
リヴァースは本能で反応した。
目を開く。
手が瞬時に伸び、見知らぬ男の手首を掴む。
男が固まる。
「落ち着け!」
リヴァースが見上げる。
一人の男が隣に膝をついていた。
顔はバランの太陽に焼かれ、ゆったりとした砂漠用の衣服が身体を暑さから守っている。
その背後には、工具や籠を積んだ古びた農業用輸送車があった。
男は自分の手首を掴んでいるリヴァースの手を見る。
そしてリヴァースへ視線を戻した。
「もう安全だ」
リヴァースは話そうとした。
喉が言うことを聞かない。
「水……」
男が水筒へ手を伸ばす。
リヴァースの握る力が強くなった。
男が止まる。
「傷つけるつもりはない」
リヴァースは男の目を見つめる。
武器はない。
軍服もない。
レッドハットの徽章もない。
何もない。
ゆっくり――
リヴァースは手を離した。
男は慎重に水を飲ませた。
ほんの少しだけ。
リヴァースが飲み込む。
痛い。
それでも――
人生で飲んだ何よりもうまかった。
「名前……」
声がひび割れる。
「……名前は?」
男が微笑む。
「ギロクサ」
リヴァースも答えようとする。
「リヴ……」
視界がぼやけた。
頭が地面へぶつかる前にギロクサが受け止める。
「もういい」
リヴァースは抵抗しようとした。
「落ち着け」
ギロクサが身体を支える。
「もう十分歩いた」
それがリヴァースの聞いた最後の言葉だった。
再びすべてが消えた。
次に目を覚ました時――
天井があった。
本物の天井。
数秒間、それを見つめた。
そして消毒液の匂いに気づく。
隣で機械が電子音を鳴らしていた。
リヴァースは自分の身体を見る。
胴体は包帯で覆われている。
腕には点滴の針が刺さっていた。
傷は洗浄されている。
生きている。
「目が覚めましたか」
リヴァースが振り向く。
医師が近づいてくる。
「ここは?」
「病院です」
「それくらい分かる」
医師が笑う。
「小さな村の病院ですよ」
リヴァースが身体を起こそうとする。
即座に痛みが返ってきた。
医師が優しく押し戻す。
「やめてください」
「どれくらい?」
「ここへ来てからですか?」
リヴァースが頷く。
「三日です」
目が見開かれる。
「三――」
「ひどい状態でした」
医師が点滴を確認する。
「脱水症状。失血。複数の負傷。それに二つの傷口では感染症も始まっていました」
リヴァースを見る。
「死ぬところでしたよ」
リヴァースは天井を見つめる。
「死ぬところ……」
医師がかすかに笑う。
「残念そうですね」
「いや」
リヴァースは目を閉じる。
「ただ驚いてるだけだ」
回復には時間がかかった。
恐ろしく長く。
軍隊生活に慣れた人間にとって、ベッドから動くなと命令されるのは侮辱に近かった。
その頃からギロクサが見舞いに来るようになった。
最初は――
ほとんど会話もしなかった。
ギロクサは食べ物を持ってくる。
座る。
自分の農場について話す。
そして帰る。
翌日――
また来た。
その次の日も。
やがてリヴァースから質問するようになった。
次に冗談を言うようになった。
そして文句を言うようになった。
ギロクサは文句を言い始めたことを特に喜んでいるようだった。
「元気になってきた証拠だ」
「どういう理屈だ?」
「健康な人間ほど文句が多い」
「医学的にかなり怪しいぞ」
「私は農家だ」
「だからだよ」
ギロクサが笑った。
体力が戻るにつれて、リヴァースは病院の外でも時間を過ごすようになった。
村は小さかった。
古い石造りの建物。
細い道。
砂漠へ向かって広がる畑。
家々の間を走り回る子供たち。
夕方になると外に集まる年配の住民たち。
誰もが互いを知っていた。
名前だけではない。
本当に互いを知っている。
リヴァースにはそれが不思議だった。
それ以上に不思議だったのは、彼らがあっという間に自分を受け入れたことだった。
誰も彼の軍での階級など気にしなかった。
どこから来たのかも気にしない。
彼らにとって――
リヴァースはただ、ギロクサが砂漠から引きずってきた負傷した外国人だった。
やがて――
彼はリヴァースになった。
救助から数か月後、リヴァースはギロクサの家の外に座っていた。
夕日が砂漠を深いオレンジと赤に染めている。
ギロクサが飲み物を渡した。
リヴァースは受け取る。
しばらく――
どちらも話さなかった。
やがてリヴァースが口を開く。
「俺は死んだと思われてる」
ギロクサが彼を見る。
「俺の国にな」
リヴァースは飲み物を見つめる。
「確認した」
その言葉が妙に感じられた。
「俺の記録」
苦々しく笑う。
「正式にな」
ギロクサを見る。
「リヴァース。死亡」
ギロクサはもう一口飲む。
リヴァースが眉をひそめる。
「それだけ?」
「何と言ってほしい?」
「知らねえよ」
リヴァースが前屈みになる。
「最悪だとか?」
「最悪だ」
「ありがとう」
「気が済んだか?」
「いや」
「だろうな」
リヴァースは地平線を見る。
「何年も国に仕えた」
ギロクサは黙って聞く。
「国のために戦った」
リヴァースの顎に力が入る。
「国を守ると誓った」
カップを握る指に力が入る。
「それで俺が消えたら?」
鼻で笑う。
「名前の横に“死亡”って書いて、それで終わりか」
「本当にそうだと知っているのか?」
リヴァースが彼を見る。
「何?」
「本当に、皆がそれだけで終わらせたと知っているのか?」
「俺は死亡扱いなんだぞ」
「私が聞いたのはそれではない」
リヴァースが黙る。
ギロクサが続ける。
「一緒にいた者たちは、お前が生き延びたと知っていたのか?」
「俺は……」
リヴァースが止まる。
分からない。
それが余計につらかった。
この数か月、皆が自分を見捨てた瞬間を何度も想像してきた。
だが実際に見たわけではない。
自分は意識を失っていた。
「奴らは置いていった」
「そうだな」
「俺を見つけるべきだった」
「そうかもしれない」
ギロクサが彼を見る。
「だが怒りというものは、自分が恐れている“起きたかもしれないこと”を、“実際に起きた記憶”へ変えてしまうことがある」
リヴァースが見つめる。
「いつから哲学者になった?」
「今朝、ジャガイモを育ててきた」
ギロクサが肩をすくめる。
「私は多面的な男なのだ」
リヴァースは思わず笑った。
だがすぐに笑みが消える。
「俺は死んだことになってる」
ギロクサが彼を見る。
「違う」
「公式には」
「お前の国のコンピューターが何と言おうと、私は知らん」
ギロクサがリヴァースの胸を軽く叩く。
「お前はここにいる」
リヴァースが視線を落とす。
「つまり、お前には大半の人間が決して手にできないものがある」
「何だ?」
「二度目の人生だ」
リヴァースが眉をひそめる。
ギロクサは夕日を見る。
「あの洞窟へ入った男は……」
一拍置く。
「そこで人生を終えたのかもしれない」
リヴァースは何も言わない。
「だが、そこから這い出してきた男は?」
ギロクサが微笑む。
「まだ人生のすべてが目の前にある」
リヴァースは砂漠を見つめる。
「じゃあ、俺はそれで何をすればいい?」
「偉大なことをしろ」
「具体的だな」
「私の人生ではない」
ギロクサが立ち上がる。
「お前の人生だ」
家へ向かって歩き出す。
そして止まった。
「何になることを選んだとしても……」
ギロクサが振り返る。
「……与えられたその命にふさわしいものになれ」
数週間後――
リヴァースは故郷へ帰ることを決めた。
出発の朝、小さな鞄を肩に掛けて外へ出た。
そして止まる。
村中の人間が待っていた。
ギロクサの家から砂漠へ続く道まで、二列になった人々が並んでいる。
全員が小さな素焼きのランプを持っていた。
リヴァースが見つめる。
「これは何だ?」
ギロクサが近づいてくる。
今日はいつもと違う服装だった。
伝統衣装。
深く折り重なる布には、手縫いの紋様が施されている。
その手には――
もう一つの素焼きのランプ。
「帰還する星の道だ」
リヴァースが村人たちを見る。
「帰還する星?」
「我々の祖先は、すべての旅人がその身の内に一つの星を宿していると信じていた」
ギロクサがランプを掲げる。
「誰かが村を旅立つ時、その星が家へ帰る道を見失わぬよう、我々は光を与える」
一人の長老が前へ出た。
村が静まり返る。
彼女が語り始めた。
名前。
何百もの名前。
遠い昔のもの。
最近のもの。
リヴァースより前に、この道を歩いた人々。
旅人。
戦士。
成長し、村を旅立った子供たち。
帰ってきた者。
二度と帰らなかった者。
すべての名前が記憶されていた。
リヴァースは胸の奥が締めつけられるのを感じた。
ギロクサが自分のランプへ火を灯す。
その炎で、リヴァースのランプにも火を灯した。
「お前は死を背負い、砂漠からやって来た」
ランプを慎重にリヴァースの手へ置く。
「これからは、生を前にして旅立て」
リヴァースが唾を飲み込む。
「ギロクサ……」
「演説はいらん」
ギロクサが笑う。
「台無しになる」
リヴァースが小さく笑った。
そして――
歩き始めた。
村人たちの間を。
誰も歓声を上げなかった。
誰も拍手をしなかった。
代わりに――
リヴァースが通り過ぎるたび、一人ひとりがランプを低く掲げた。
敬意を示す仕草。
一人の子供が手を伸ばし、リヴァースの手に触れる。
老人が頭を下げた。
誰かが囁く。
「良き星の下を歩まれますように」
別の誰かが言う。
「砂漠がお前の足跡を覚えていますように」
リヴァースは村の境界へたどり着いた。
そこには古い石碑が立っていた。
何世代もの人々の手によって刻まれた紋様が、その表面を覆っている。
リヴァースは膝をついた。
ランプをその傍らへ置く。
そして立ち上がった。
背後でギロクサが待っている。
リヴァースが振り返る。
「ありがとう」
ギロクサが頷く。
「偉大なことをしろ」
リヴァースが笑う。
「やってみる」
砂漠へ向き直る。
そして歩き始めた。
伝統では、振り返ってはいけないことになっていた。
だから振り返らなかった。
だが彼の背後で太陽が昇ると――
光が村全体へ降り注いだ。
道沿いには何百もの小さな素焼きのランプが輝いていた。
まるで昼の光の中でも消えることを拒む星々のように。
リヴァースは故郷へ向かって歩いた。
シトロン・シティへ。
二度目の人生へ。
その人生が何になるのか――
この時の彼には、まだ知る由もなかった。




