余震
ヴェンティックスの隠れ家は、見栄えのする場所ではなかった。
それは意図的なものだった。
個人的な写真はない。
装飾もない。
過去の依頼から持ち帰った戦利品もない。
招かれざる訪問者に、ここで暮らす男について何かを教えてしまうようなものは一切なかった。
あるのは装備だけ。
武器。
装甲。
工具。
そして、仕事でしくじった時でも生き延びられるだけの医療用品。
今夜――
それが必要だった。
ヴェンティックスは、容赦なく照りつける天井灯の下に座っていた。
装甲の大部分はまだ身につけたままだったが、上腕部の損傷した装甲板だけは取り外されている。
露出した皮膚は焼けていた。
命に関わるほどではない。
それでも――
痛い。
「くそったれ……」
ヴェンティックスが傷口へ消毒液を注ぐ。
筋肉が硬直した。
叫ばない。
大げさな反応もしない。
ただ灼けるような痛みが引くのを待った。
それから傷に包帯を巻く。
きつく。
雑に。
だが実用的に。
視線がテーブルの上に置かれた損傷した装甲へ移った。
キラン・キリアン。
あの坊主は運がよかっただけだ。
ヴェンティックスはそう自分に言い聞かせた。
契約を完遂するまで、あと数秒だった。
ほんの数秒。
そこへ、あの外骨格が現れた。
ヴェンティックスは包帯をさらにきつく締める。
追加の戦闘員がいるとは聞かされていなかった。
そこが問題だ。
不完全な情報。
不完全な情報は人を殺す。
携帯端末を手に取る。
サヴァントは驚くほど早く応答した。
「はい?」
ヴェンティックスは挨拶などしなかった。
「話がある」
「聞いています」
「言ってなかったことがあるな」
サヴァントは黙った。
ヴェンティックスが腕の火傷を見る。
「標的には援護がいる」
「大抵の人間には友人くらいいるものです」
「友人の話をしてるんじゃない」
ヴェンティックスが立ち上がる。
「戦闘訓練を受けた奴だ。パワード外骨格まで着てやがる」
サヴァントの声は腹立たしいほど冷静なままだった。
「それでも、あなたは生きている」
ヴェンティックスの顎に力が入る。
「かろうじてな」
「それは残念です」
ヴェンティックスが止まる。
今のは皮肉か?
皮肉に聞こえた。
「厄介事があるなんて聞いてねえぞ」
サヴァントがため息をつく。
「もし今回の仕事があなたの能力を超えていたのであれば、別の人間を探しても構いませんが」
沈黙。
ヴェンティックスはゆっくり携帯端末を耳から離した。
画面を見つめる。
そして再び耳へ戻す。
「違う」
サヴァントが黙る。
ヴェンティックスの声が低くなる。
「報酬は倍だ」
「ほう?」
「それから、標的の護衛について完全な資料をよこせ」
サヴァントが小さく笑った。
大声ではない。
それが余計に腹立たしかった。
ヴェンティックスが目を細める。
「何がおかしい?」
「その要求は必要ないと思っただけですよ」
ヴェンティックスが歩くのを止める。
「なぜだ?」
「あなたはすでに彼を知っていると思いますので」
ヴェンティックスが眉をひそめる。
「知らねえよ」
「本当に?」
「間違いなくな」
サヴァントは一拍置いた。
そして――
「あなたの腕にある刺青を見る限り、そうとも思えません」
ヴェンティックスが凍りついた。
視線が即座に三角筋へ向く。
軍の徽章。
**第816大隊。**
数秒間――
呼吸すら止まった。
そして視線が部屋中を走る。
天井。
壁。
隅。
何もない。
手が即座に武器へ伸びた。
「どうしてそれを知ってる?」
サヴァントは答えない。
ヴェンティックスは微動だにしなかった。
ギアの工房へ到着した時、彼は全身を装甲で覆っていた。
刺青が露出したのは戦闘の途中だけ。
レイモンドに装甲板を剥ぎ取られた後だ。
つまり――
他の誰かが見ていた。
あるいは、何かが。
ヴェンティックスはゆっくり隠れ家を見回す。
「俺を監視してるのか?」
沈黙。
「質問に答えろ」
サヴァントは無視した。
代わりに――
「我々の契約条件について考え直しました」
ヴェンティックスが携帯端末を強く握る。
「何をだ?」
「護衛です」
一拍。
「彼も排除してほしい」
ヴェンティックスは即答した。
「断る」
今度は――
サヴァントも本当に興味を持ったようだった。
「断る?」
「俺が雇われたのは、あの坊主とVentのためだ」
「契約を拡大します」
「俺は断る」
「なぜ?」
ヴェンティックスは負傷した腕を見る。
「健常者は殺さない」
サヴァントが黙る。
ヴェンティックスが続ける。
「Vent」
その声は冷たい。
「Ventユーザー」
損傷した装甲へ視線を向ける。
「俺が狩るのはそいつらだ」
「では、護衛は?」
「対象外だ」
「彼にあれだけやられた後でも?」
「関係ない」
「ずいぶんと信念がおありで」
「好きに呼べ」
ヴェンティックスは別の装甲部品を持ち上げ、損傷を確認する。
「報酬を倍にして、頼んだ情報を送れ。そうすればキリアンを仕留める」
「護衛は?」
「他を当たれ」
サヴァントがため息をつく。
「例外を作っていただく必要があります」
「断る」
「残念ですが、そうしていただきます」
ヴェンティックスが一度だけ笑った。
「お前に命令する権利はねえ」
「本当に?」
サヴァントの声に何かを感じ、ヴェンティックスが止まった。
突然、部屋がずっと狭く感じられた。
「あなたが正体を秘密のままにしておきたいのであれば……」
ヴェンティックスの呼吸がゆっくりになる。
「……例外を作っていただきます」
携帯端末を握る手に力が入った。
「脅しか?」
「状況を説明しているだけです」
「お前は俺が誰か知らない」
サヴァントは何も言わない。
ヴェンティックスはヘルメットの下で笑った。
ほらな。
ハッタリだ。
誰も知らない。
それこそがすべての目的だった。
顔は見せない。
指紋も残さない。
必要最低限を除いて個人的な連絡先も持たない。
頭から爪先まで装甲で覆う。
**ヴェンティックス**という名前すら、依頼人が自分を呼ぶために必要だったから存在するだけだ。
その下にいる男は――
存在しない。
その時、サヴァントが口を開いた。
たった一言。
「リヴァース」
ヴェンティックスの呼吸が止まった。
部屋が完全な静寂に包まれる。
その姿から自信が消えた。
手がゆっくりと下がる。
「……何?」
サヴァントは待った。
ヴェンティックスが唾を飲み込む。
「今……何て呼んだ?」
「リヴァース」
あり得ない。
その名で呼ばれるのは何年ぶりだろう。
皆が自分は死んだと信じるようになる以前から。
**ベゼルカー**事件より前から。
そして――
レイモンド。
視線が再び刺青へ向く。
第816大隊。
外骨格の男にも刻まれていた、同じ徽章。
ヴェンティックスの顎に力が入る。
あの男の戦い方に何か引っかかっていた理由が、ようやく分かった。
動き。
構え。
規律。
見覚えがある。
あまりにも。
サヴァントの声が戻る。
「これで、お互い理解できましたか?」
ヴェンティックスは何も言わない。
「当初の依頼は完遂していただきます」
まだ何も言わない。
「そしてレイモンド・ハリソンも……」
ヴェンティックスが目を細める。
名前。
これで確定した。
「……標的と一緒に死んでもらいます」
ヴェンティックスは再び腰を下ろした。
先ほどまでの威勢は消えている。
だが恐怖に変わったわけではない。
もっと計算に近い何か。
サヴァントがどこまで知っているのか把握する必要がある。
それ以上に重要なのは――
どうやって知ったのか。
「ずいぶん調べたな」
「私は取引相手について把握しておく主義です」
「俺を監視してたな」
サヴァントはその非難を無視する。
ヴェンティックスは再び部屋を見回す。
カメラ。
ドローン。
何でもいい。
何も見つからない。
それがかえって不気味だった。
「倍だ」
サヴァントが間を置く。
「報酬は倍」
「では、ハリソン氏は?」
ヴェンティックスが歯を食いしばる。
本能のすべてが拒絶しろと言っていた。
そういう依頼は受けない。
一線がある。
奇妙な線かもしれない。
それでも彼自身が決めた線だ。
Vent。
Ventユーザー。
それだけ。
レイモンド・ハリソンは対象ではない。
だが今――
サヴァントは自分の名前を知っている。
過去を知っている。
住んでいる場所すら知っているかもしれない。
すべてを知っている可能性すらある。
ヴェンティックスは腕に刻まれた軍の刺青を見つめる。
やがて――
「……分かった」
その言葉は小さかった。
サヴァントは何も言わない。
ヴェンティックスの声が硬くなる。
「やる」
「素晴らしい」
「ただし、お前が持ってる情報は全部送れ」
「もちろん」
「キリアン」
「はい」
「奴のVent」
「当然です」
ヴェンティックスはためらった。
そして――
「ハリソン」
電話の向こうでサヴァントが笑った。
「資料はお送りします」
**カチッ。**
通話が切れた。
ヴェンティックスは動かなかった。
携帯端末をゆっくり下ろす。
数秒間――
何も起こらない。
そして――
**ピッ。**
ファイルが届いた。
ヴェンティックスは通知を見つめる。
開かない。
まだ。
その視線は再び、腕に刻まれた徽章へ向かった。
第816大隊。
何年もかけて埋めてきた記憶が、突然すぐそこまで迫ってきたように感じられた。
そしてシトロン・シティのどこかでは――
かつてリヴァースという男を知っていた男が……
今、ヴェンティックスと出会ってしまった。




