かろうじて生きている
ロボットアームが一斉に襲いかかった。
**ドン!**
キランが急降下する。
巨大なアームが頭上を薙ぎ払い、そのまま背後の壁へ激突した。
コンクリートがオフィス中に飛び散る。
「左から二本!」とマッハが叫ぶ。
キランが加速する。
**ゴォッ!**
一本目は外れた。
二本目は――
外れなかった。
**バキッ!**
MACH-01Aの後部装甲へ直撃。
キランが空中で激しく回転する。
バイザーを警告表示が埋め尽くした。
**後部装甲損傷**
**推進出力低下**
**スタビライザー故障**
「マッハ!」
「補正します!」
MACH-01Aは、キランが床へ激突する寸前でどうにか姿勢を立て直した。
本当に、ぎりぎりだった。
キランがサヴァントを見る。
まだ机の向こうにいる。
まだ、あの揺らめくフォースフィールドに守られている。
そして相変わらず、腹が立つほど冷静だった。
キランがプラズマキャノンを向ける。
**ピュン! ピュン! ピュン!**
攻撃がバリアへ直撃。
**ドン!**
何も起きない。
「まだ弱点なし?」
「検出できません」
「絶対にどこかにある」
「殺される前に発見できれば理想的です」
別のアームが振り下ろされる。
キランが横へ転がるように回避。
**ドォォン!**
衝撃で床に亀裂が走る。
キランはむき出しになった関節へ照準を合わせた。
**ピュン!**
**バン!**
アームが崩れ落ちる。
「もう一本来ます!」
「見えてる!」
**ドン!**
見えていなかった。
アームがMACH-01Aの側面を殴りつける。
紫色の装甲が一枚引き剥がされ、床を滑っていった。
キランの身体が拘束ベルトへ叩きつけられる。
「ぐあっ!」
「キラン!」
「大丈夫」
マッハの姿がちらつく。
「その言葉の使用基準が、ますます緩くなっています」
キランがもう一度加速しようとする。
MACH-01Aが咳き込むように火花を散らした。
**バチッ!**
動かない。
「ああ、これはまずい」
サヴァントはシールドの向こうから眺めていた。
「言いたいことは十分伝わりましたよ、キリアンさん」
キランは荒い息を吐く。
「そう?」
「あなたは実にしつこい」
サヴァントの背後で、別のロボットアームが持ち上がる。
「ですが、成功させる力を伴わない執念など……」
アームが襲いかかる。
「……ただの愚かさにすぎない」
**ドン!**
キランはMACH-01Aの装甲側面を使い、間一髪で攻撃を受け止めた。
金属が内側へひしゃげる。
車椅子が落下。
**ガシャァン!**
キランが床へ激突する。
激しく。
視界がぼやけた。
数秒間――
耳鳴り以外、何も聞こえなかった。
「キラン!」
マッハの声が遠くに聞こえる。
「キラン!」
キランが瞬きをする。
マッハのアバターが頭上に浮かんでいた。
かろうじて。
身体の半分が何度もノイズへと消えている。
キランが呻く。
「まだいるよ」
「それも間もなく変わる可能性があります」
「相変わらず前向きだね」
キランが動こうとする。
車椅子の左スラスターが火花を散らす。
右側もほとんど反応しない。
頭上では――
残ったロボットアームが位置を変えていた。
マッハがサヴァントを見る。
そしてキランを見る。
「彼のフォースフィールドを突破できません」
分かっている。
「これ以上の損傷には耐えられません」
それも分かっている。
「さらにMACH-01Aの飛行システムは、完全停止寸前です」
「マッハ」
「はい?」
「本当に士気を下げるの上手だね」
「状況の深刻さを伝えようとしています」
キランが見上げる。
アームに包囲されていた。
隙間はない。
逃げ道もない。
フォースフィールドを突破する方法もない。
この部屋へ入ってから初めて――
キランには解決策が見えなかった。
サヴァントが静かに手を上げる。
「さようなら、キリアンさん」
ロボットアームが襲いかかる。
その瞬間――
**ドォォォォォン!**
オフィスのドアが内側へ吹き飛んだ。
全員が振り向く。
煙が入口から流れ込む。
その中から巨大な影が現れた。
**ズン。**
機械の足が床を踏む。
そしてもう一歩。
レイモンドが外骨格を装着して煙の中から姿を現した。
その目が真っ先にキランを捉える。
次にサヴァント。
そしてロボットアーム。
レイモンドの表情が険しくなる。
「そいつから離れろ」
キランは弱々しく笑った。
「遅いよ」
レイモンドが彼を見る。
「合図があるまで待てって言っただろ」
「これを合図ってことにして」
一本のロボットアームがレイモンドへ振りかぶられる。
彼はそれを受け止めた。
**ガン!**
圧力に耐えようと、外骨格のサーボが悲鳴を上げる。
レイモンドが歯を食いしばる。
そして――
**バキッ!**
アームを横へ引きちぎるように振り回し、別のアームへ叩きつけた。
二本とも壁へ激突する。
「動け!」
キランが操作系を押す。
MACH-01Aが不安定に前進する。
サヴァントの冷静さが、ついに崩れた。
「止めろ!」
さらに二本のアームが襲う。
レイモンドは真正面から突っ込んだ。
**ドン!**
一本が外骨格へ直撃する。
レイモンドがよろめく。
それでも倒れない。
アームを掴む。
「キラン!」
「動いてる!」
「もっと速く!」
「エンジン半分しか動いてないんだよ!」
マッハが残った推進力を再配分する。
「非常用電力を転送」
MACH-01Aが突然加速した。
**ゴォッ!**
キランが壊れた入口を飛び抜ける。
レイモンドも続く。
ロボットアームが二人を追って伸びてくる。
**ガン!**
レイモンドが背後のドア枠を叩き壊し、崩れた瓦礫をアームの進路へ落とした。
「行け!」
キランが廊下を飛ぶ。
いや――
飛ぼうとする。
MACH-01Aが危険なほど片側へ傾いた。
後方には火花の軌跡。
「マッハ?」
「飛行安定性は極めて低い状態です」
「下まで行ける?」
「“行ける”の定義をお願いします」
「生きて」
一瞬の間。
「可能性はあります」
「それで十分」
二人は階段へたどり着いた。
キランが下を見る。
そして、今にも死にそうな推進システムの表示を見る。
レイモンドが後ろから追いつく。
「やめろ」
キランが振り返る。
「何が?」
「今考えてること」
「何も考えてないけど」
「そっちのほうが怖い」
レイモンドが外骨格でMACH-01Aの後部を掴んだ。
キランが眉をひそめる。
「ちょっと!」
「一緒に行くぞ」
二人は降りた。
速く。
優雅ではない。
だが速く。
次々と階を通過する。
背後から――
サヴァントのロボットアームは追ってこなかった。
キランは、その理由を確かめる気にはならなかった。
そしてついに――
下から日光が見えた。
ミカイラは建物の外を落ち着かない様子で歩き回っていた。
その時、音がした。
**ガシャァン!**
彼女が入口へ振り向く。
最初にレイモンドが飛び出してきた。
続いてキラン。
ミカイラの目が見開かれる。
「そんな……!」
彼女は二人へ駆け寄った。
MACH-01Aは、まるで戦場を引きずり回されてきたような姿になっていた。
装甲の大部分が失われている。
側面から配線が垂れ下がっている。
片方のスラスターは完全に死んでいた。
後部推進システムから煙が立ち上っている。
キランの隣では、マッハのアバターが安定した姿を保とうと必死にちらついていた。
だがミカイラは、そんなものにはほとんど目もくれなかった。
彼女が見たのはキランだった。
服の一部は焼け焦げている。
顔には痣。
呼吸は荒い。
「キラン!」
ミカイラが駆け寄る。
「何があったの!?」
キランが顔を上げる。
ミカイラの顔が少しぼやけて見えた。
それでも笑う。
「見た目ほどひどくないよ」
マッハの姿がちらつく。
「その発言は……」
声がノイズに引き裂かれる。
「……客観的に見て誤りです」
ミカイラがキランの顔に触れる。
「怪我してるじゃない」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない」
キランは笑おうとする。
「もっとひどい目に遭ったことあるよ」
レイモンドが彼を見つめる。
「いつ?」
キランが考える。
「……あとで思い出す」
ミカイラは笑わなかった。
「キラン、ちゃんと診てもらわないと」
「うん」
突然、ひどく疲れた。
異様なほどに。
戦いの間ずっと身体を動かしていたアドレナリンが、一気に消え去った。
腕が重い。
視界の端から暗くなっていく。
「ミカイラ……」
彼女は即座に気づいた。
「キラン?」
キランの頭がわずかに落ちる。
「キラン!」
答えようとする。
だが声が出ない。
世界が傾いた。
ミカイラが手を伸ばす。
「キラン!」
そして――
すべてが暗闇に消えた。
**ザザザザ……**
レコードは回り続けていた。
破壊されたオフィスをクラシック音楽が満たしている。
サヴァントは、残骸と化した机の向こうに立っていた。
壊れたロボットアームが壁から垂れ下がっている。
床にはコンクリートの破片。
入口は完全に破壊されていた。
そしてキラン・キリアンは――
いない。
サヴァントは誰もいない廊下を見つめた。
顎に力が入る。
彼らを甘く見ていた。
キラン。
マッハ。
そして何より――
彼らの援軍を。
それが気に入らなかった。
ひどく。
サヴァントはレコードプレーヤーへ歩いていく。
オーケストラは、まるで何事も起こらなかったかのように演奏を続けていた。
サヴァントは手を伸ばし、慎重に針の位置を調整する。
呼吸がゆっくりと落ち着く。
怒りも静まっていく。
気に病む理由などほとんどない。
キランは逃げた。
今のところは。
だが、これは終わっていない。
まったく。
サヴァントの顔に、かすかな笑みが戻る。
何しろ――
彼はキランがどこに住んでいるのか、正確に知っているのだから。




