あなたの一番のファン
その夜遅く――
キランはアパートで腕を組んで座っていた。
マッハが隣に浮かんでいる。
レイモンドは二人の向かいに座っていた。
ここ10分ほど――
誰も何を言えばいいのか分からなかった。
ようやく、レイモンドが沈黙を破る。
「つまり……」
キランが彼を見る。
「奴の車をぶっ壊した」
「うん」
「ブースターの受け渡しも止めた」
「うん」
「実際に奴を捕まえた」
「30秒くらいね」
「それでも逃げられた」
キランがため息をつく。
「僕の失敗をまとめてくれてありがとう」
レイモンドが笑う。
「いつでもどうぞ」
マッハが部屋の中央にSilverh33lsの映像を投影する。
12歳ほどに見えるホログラムの少年がゆっくりと回転した。
銀色のレーシングスーツ。
尖った髪。
生意気な表情。
そして、あのふざけたゲーマータグ。
**Silverh33ls**
キランはそれを見つめた。
「手がかりはこれだけ」
マッハが頷く。
「このアバターから得られる個人特定情報は、ほぼありません」
キランが背もたれにもたれる。
「髪は偽物かもしれない」
「はい」
「顔は?」
「カスタマイズされている可能性があります」
「身長は?」
「意味がありません」
「年齢は?」
「それも不明です」
レイモンドが眉をひそめる。
「じゃあ、Silverh33lsは子供ですらないかもしれないのか?」
「その通りです」とマッハ。
キランはアバターを見つめた。
なぜか、それで余計に厄介になった。
シトロン・シティには何百万人もの人間が暮らしている。
Silverh33lsは、ここから三ブロック先のアパートにいるかもしれない。
あるいは、街の反対側かもしれない。
12歳かもしれない。
20歳。
50歳。
男。
女。
障害者。
健常者。
誰だってあり得る。
そしてオムニ・ワールドがどういう仕組みなのか分からない以上――
アバターから、それを操作している本人を追跡する方法はなかった。
キランがため息をつく。
「何百万人か……」
レイモンドが頷く。
「干し草の山から針を探すようなもんだな」
「ホログラムの針」
マッハが首を傾げる。
「その比喩を加えても、正確性は向上しません」
キランが彼を見る。
「ドラマ性は上がる」
「議論の余地があります」
キランはコンピューターに表示されたオムニ・ワールドのウェブサイトを見る。
何も変わっていない。
黒い背景。
銀色のロゴ。
ほとんど存在しない情報。
そして、あの苛立たしい言葉――
**あなたがずっと望んでいた人生を**
キランが眉をひそめる。
Silverh33lsの言葉が頭の中に蘇った。
*僕がずっと望んでた人生をくれた人。*
偶然?
かもしれない。
だが、キランはそうは思わなかった。
「あいつはオムニ・ワールドからこれを手に入れた」
レイモンドが身を乗り出す。
「確かなのか?」
「いや」
キランがスローガンを指差す。
「でも、あいつはこのサイトの言葉をほとんどそのまま言った」
マッハが頷く。
「類似性は注目に値します」
キランが下へスクロールする。
やはり何もない。
開発者なし。
会社名なし。
住所なし。
カスタマーサービスなし。
さっき表示された奇妙な注文確認すら消えていた。
「誰が作ってるのかも明かさずに商品を出す会社なんてある?」
レイモンドが肩をすくめる。
「見つかりたくない奴」
キランが止まる。
「それだ」
マッハが彼を見る。
「残念ながら、その結論だけでは相手の居場所を特定できません」
キランがため息をつく。
「それもそう」
ページを閉じる。
「銀の弾丸はなくなった」
「ブースターもなくなった」
「Silverh33lsも消えた」
キランが両手を上げる。
「そしてオムニ・ワールドの黒幕は、どうやら幽霊」
レイモンドが笑う。
「もっと悪くなる可能性もある」
キランが彼を見つめる。
「絶対にそれ言わないで」
「何が?」
「誰かがそう言うたびに、本当にもっと悪くなるから」
レイモンドが笑う。
「迷信深いな」
「経験豊富なんだよ」
**ピンポーン。**
全員が止まった。
キランが玄関を見る。
レイモンドが眉をひそめる。
「誰か来る予定か?」
「ない」
キランがマッハを見る。
「食べ物?」
「あなたは食事を注文していません」
キランが止まる。
「何かは注文したみたいだけど」
マッハの表情が変わる。
三人は同時に思い出した。
**ご注文ありがとうございます。**
**3~5営業日以内にお届けします。**
キランがゆっくり玄関を見る。
レイモンドが立ち上がった。
「早かったな」
キランが眉をひそめる。
「早すぎる」
レイモンドが外骨格の一部を起動する。
腕を囲む機械フレームが固定された。
**ガチャン。**
キランが見つめる。
「本気?」
レイモンドが振り返る。
「謎のネット注文について文句言ってたのはお前だろ」
「それはそう」
レイモンドがドアへ近づく。
ディスプレイを確認する。
誰もいない。
ドアを開ける。
廊下は空だった。
レイモンドが左を見る。
次に右。
何もない。
「誰もいない」
キランが近づく。
「外に何かある?」
レイモンドが下を見る。
床に封筒が置かれていた。
無地。
白。
切手なし。
差出人住所なし。
彼が拾い上げる。
「これ」
キランが眉をひそめる。
「全然不気味じゃないね」
レイモンドがキランへ渡す。
マッハが即座にスキャンする。
「電子部品は検出されません」
「爆発物は?」
「検出されません」
キランがレイモンドを見る。
レイモンドが肩をすくめる。
「開けろよ」
キランは慎重に封筒を破った。
中には一枚のカード。
それだけ。
取り出す。
中央には三つの情報が印刷されていた。
場所。
日付。
時間。
キランは黙って読む。
レイモンドが肩越しに覗き込む。
「待ち合わせ?」
「みたいだね」
「誰と?」
「名前がない」
マッハが近づく。
「他には?」
キランがカードを裏返す。
何もない。
その時――
表面の一番下に小さな一文があることに気づいた。
他の文字よりもずっと小さい。
キランの表情が変わる。
「何だ?」
レイモンドがさらに近づく。
キランが声に出して読む。
「あなたの一番のファンより」
沈黙。
レイモンドの笑みが消えた。
マッハがもう一度カードをスキャンする。
キランはそのメッセージを見つめる。
謎の招待状。
自宅へ直接届けられた。
オムニ・ワールドを調べ始めた直後に。
嫌な感じがした。
ものすごく。
レイモンドが腕を組む。
「まさか、本当に行くつもりじゃないだろうな」
キランが彼を見る。
レイモンドが見つめ返す。
そして、ため息。
「なんで聞いたんだ、俺」
マッハがキランを見る。
「罠の可能性があります」
「たぶんね」
「Silverh33lsと関係している可能性もあります」
「たぶん」
「まったく無関係という可能性もあります」
キランが招待状をもう一度見る。
「たぶん、それはない」
マッハがため息をつく。
キランの目は、最後の四つの言葉に釘付けになったままだった。
**あなたの一番のファンより**
誰かが、彼の住んでいる場所を知っている。
誰かが、彼へ直接接触できるほどの情報を持っている。
そして、どうやら――
誰かがずっと見ていた。
キランはゆっくりカードを下ろした。
「さて……」
レイモンドが眉をひそめる。
「何だ?」
キランが二人を見る。
「……どうやらデートの予定ができたみたい」
マッハが見つめる。
「その表現は不適切です」
キランが笑う。
「嫉妬?」
「いいえ」
レイモンドが笑った。
そしてキランは、もう一度招待状へ視線を落とす。
笑みが消えた。
その待ち合わせ場所




