再戦
金曜の夜がやってきた。
そしてシトロン・アカデミーは満員だった。
完全な満員。
Ventballアリーナは歓声で震えている。
観客席は生徒たちで埋め尽くされていた。
保護者たちは互いの声をかき消すほど叫んでいる。
卒業生たちは昔のパイロッツのユニフォームを着ていた。
ホログラムの応援バナーがコート上空を漂う。
売店の列はコンコースまで続いていた。
そして、どこかでは――
誰かがエアホーンを持ち込んでいた。
**ブワァァァァ!**
キランが顔をしかめる。
「それ持ってる奴、逮捕したほうがいいよ」
マッハが観客席を見る。
「その処罰は少々過剰かと思われます」
再びエアホーン。
**ブワァァァァ!**
キランが真顔になる。
「やっぱり逮捕で」
ミカイラが笑った。
その隣にはレイモンド。
キランの反対側にはギアが座っている。
五人とも早めに会場へ来ていた。
主な理由は、キランが落ち着かなくて家にいられなかったからだ。
レイモンドがコートを見る。
「緊張してる?」
キランは即答した。
「してない」
マッハが彼を見る。
「しています」
キランがため息をつく。
「ちょっとだけ」
ギアが笑う。
「お前、出場すらしないだろ」
「だから余計に嫌なんだよ」
キランが身を乗り出す。
「僕には何もできない」
レイモンドが笑う。
「ファンへようこそ」
「嫌いだ」
眼下では――
パイロッツがウォーミングアップをしていた。
コールとジュークは高速旋回の練習。
ジョジョとダートは全速力で走りながらボールをパスし合う。
トフとスリックは短い攻撃パターンを繰り返す。
ロキーとスウィフトは素早い方向転換を練習。
スカイラーとミラージュはロングパス。
そしてブレイカーたち――
マイケルとストライク。
フレディとフレックス。
シエラとマーキー。
ザグレブとフォース――
ゴールゾーン付近でポジショニングドリルを行っていた。
ロイド監督はすべてを見ていた。
静かに。
集中して。
前回の試合とはまるで違う。
キランは気づいた。
「準備できてる」
レイモンドが見る。
「ロイドが?」
「うん」
キランが笑う。
「あの顔は知ってる」
ギアがベンチを見る。
「便秘みたいな顔してるけど」
キランが見つめる。
「なんで全部台無しにするの?」
「才能」
反対側では――
グリッドタウン・エーシズが入場した。
即座にブーイング。
**ブーーーーーー!**
レクソールは気にしない。
むしろ――
楽しんでいるようにさえ見えた。
ブリッツが隣に浮かぶ。
ロイとラフハウスを先頭に、チームがコートへ入ってくる。
トリクシーとスピア。
ビフとドリフト。
ヴィンとスポイラー。
メグとブラー。
そしてブレイカーたち。
ペリーとシールド。
バイロンとラッシュ。
ピートとフューリー。
ダイアンとブリック。
どのホバーチェアも規定通りに見えた。
少なくとも――
外見上は。
キランは真実を知っていた。
マッハが静かにスキャンする。
「ブースターは現在も搭載されています」
キランが頷く。
「だろうね」
レイモンドがコートを見る。
「お前らが知ってること、向こうは知ってるのか?」
「いや」
キランがかすかに笑う。
「そこがこっちの強み」
その時――
「キラン?」
ギアの声が変わった。
キランが見る。
「何?」
ギアはコートを見ていなかった。
観客席の向こう側を凝視している。
顔から血の気が引いていた。
キランが視線を追う。
そして――
魂が身体から抜けた。
「嘘だろ」
レイモンドが眉をひそめる。
「何?」
キランは凝視した。
数ブロック離れた席――
スザンヌがグリッドタウン側の観客席に座っていた。
笑顔で。
キランに向かって手を振っている。
キランの顔が引きつる。
しかも――
一人ではなかった。
隣に男が座っていた。
上品な服装。
自信に満ちた態度。
高級そうなスーツ。
完璧に整えられた髪。
ニコラス・マドックス。
キランは固まった。
マッハがゆっくり彼を見る。
ギアが囁く。
「嘘だろ」
キランが頷く。
「嘘だろ」
ミカイラも視線を追う。
「あ」
レイモンドも見た。
そして――
「ああ……」
スザンヌが嬉しそうに手を振る。
キランはこの世で最も力のない手振りを返した。
ギアは本気でトラウマを負ったような顔をしていた。
「なんであいつ?」
キランが見つめる。
「シトロン・シティに男なんていくらでもいるだろ」
マッハが首を傾げる。
「統計的に見れば、マドックスは経済的に成功しており、社交的な自信もあり、さらに――」
キランがゆっくり振り向く。
「マッハ」
マッハが止まる。
「了解しました」
ギアがキランを見る。
「知ってた?」
「知らない」
「お前は知ってた?」
「なんで僕が知ってるんだよ!?」
「あいつに会ったことあるだろ!」
キランが凝視する。
「だから余計に最悪なんだよ!」
ミカイラが笑いを隠すように口を押さえる。
キランが見る。
「笑い事じゃないよ」
「ごめん」
まったく悪いと思っていなかった。
レイモンドが笑う。
「お前の母さん、見る目あるな」
キランが見つめる。
「レイモンド」
「何だ?」
「やめて」
アリーナの向こう側――
マドックスがキランに気づいた。
ほんの一瞬――
その顔に「知っている」という反応が浮かぶ。
だが、すぐ消えた。
マドックスは礼儀正しく微笑んだ。
まるで一度も会ったことがないかのように。
キランが目を細める。
マッハも気づいた。
「我々を知らないふりをしています」
「気づいた」
キランはスザンヌを見る。
楽しそうだった。
心から楽しそうに。
キランがため息をつく。
「あとで」
ギアが見る。
「あとで?」
「試合が終わってから」
「これが起きてるって分かったまま、ここに座ってなきゃいけないの?」
キランが見る。
「じゃあ今からあっち行く?」
ギアは即座にコートへ向き直った。
「試合始まるぞ」
キランが頷く。
「だと思った」
選手たちが配置につく。
審判がセンターコートへ進む。
ボールは発射装置の中。
観客が静かになる。
ほぼ。
ロイド監督がチームを見る。
そして――
キランを見る。
キランが小さく頷く。
ロイドも返した。
反対側では――
レクソールが笑っている。
何も知らない。
ホイッスルが鳴った。
**ピーーーッ!**
ボールが射出される。
**シュン!**
ゲーム開始。
ジョジョが最初に到達した。
キャッチ。
方向転換。
走る。
ビフが即座に追う。
速い。
速すぎる。
キランが注意深く見る。
「来るよ」
ジョジョがサイドラインへ向かう。
ビフの隠しブースターが起動。
ほとんど見えない。
車椅子の下に小さな光。
**シュッ!**
ビフが一気に飛び出す。
ジョジョが方向転換。
ビフは通り過ぎる。
**ドン!**
バリアへ激突。
観客が沸く。
審判が笛を吹く。
**ピーーーッ!**
「イリーガル・コンタクト!」
ビフが目を剥く。
「はぁ!?」
審判が指差す。
「ボール保持に関与していない状況で接触を開始した!」
ペナルティ。
シトロンボール。
キランが笑う。
「一つ」
レイモンドが見る。
「そんな簡単なのか?」
「簡単じゃない」
キランがジョジョを指す。
「見て」
ジョジョは完全に落ち着いていた。
わざと当たらせたのだ。
ロイドはよく仕込んでいた。
シトロンが再開。
トフがボールを受け取る。
トリクシーが加速。
隠しブースター。
**シュッ!**
トフが減速。
トリクシーは、そのまま進むと思っていた。
激突。
**ドン!**
ホイッスル。
**ピーーーッ!**
「インターフェア!」
グリッドタウン側からブーイング。
レクソールの笑みが薄れる。
キランの笑みは広がった。
「二つ」
マッハがコートを見る。
「ロイド監督は、意図的に相手の過剰な踏み込みを誘発しているようです」
ギアが眉を上げる。
キランが見る。
「日本語で言うと?」
ギアが笑う。
「ミスらせてる」
キランが頷く。
「その通り」
パイロッツはエーシズより速く走ろうとはしていなかった。
そこがポイントだった。
代わりに――
エーシズを追わせる。
ひたすら。
短いパス。
急停止。
フェイクのラン。
素早い方向転換。
ロキーが加速して――
止まる。
ダイアンがブーストで迫る。
遅い。
**ドン!**
ペナルティ。
スカイラーが右へ抜けるふりをして――
左へ切り返す。
ピートがブースト。
行き過ぎる。
**ガン!**
ペナルティ。
マイケルがわざと守備陣形に隙間を作る。
バイロンが突っ込む。
隙間が消える。
バイロンは止まれない。
**ドン!**
ペナルティ。
また。
また。
そしてまた。
ついにレクソールが気づいた。
表情が変わる。
「誘ってやがる」
ブリッツが見る。
「じゃあブースターを使わせるな」
レクソールが眉をひそめる。
「スピードの優位を失う」
ブリッツが目を細める。
レクソールがロイドを見る。
ロイドが笑う。
そして――
キラン。
キランも笑った。
レクソールは即座に理解した。
「キリアン」
パイロッツがボールを取る。
ジョジョからロキーへパス。
ロキーが前へ蹴る。
スカイラーがキャッチ。
即座にコールへ投げる。
観客が爆発する。
「コール!」
ロイの目が見開かれる。
「ヴェンター!」
グリッドタウンが一斉にコールを囲みにかかる。
コールが加速。
ジュークが隣。
ペリーが迫る。
コールが止まる。
ペリーのブースターが起動。
**シュッ!**
ペリーが通り過ぎる。
コールが再び進む。
右からダイアン。
コールは左へ曲がる。
ダイアンも行き過ぎる。
そして――
ロイ。
ラフハウス。
グリッドタウンのヴェンターが突進する。
コールが笑う。
観客が立ち上がる。
二人のヴェンター。
一直線。
4ポイントが懸かっている。
ロイがブースターを起動。
キランの目が見開かれる。
「あ」
ロイが猛烈に加速。
コールは動かない。
待つ。
近づく。
さらに近づく。
ミカイラがキランの腕を掴む。
「ぶつかる!」
キランが笑う。
「いや」
最後の瞬間――
コールが曲がる。
ロイは曲がれない。
**シュゥゥゥッ!**
車椅子がそのまま突き抜ける。
コールが背後から加速。
進路は開いた。
目の前にはゴールゾーン。
アリーナ全体が揺れる。
「行け!」
コールが越える。
**ブワァァァァ!**
4ポイント。
スコアボードが変わる。
**パイロッツ 12**
**エーシズ 7**
シトロン・アカデミー側が爆発した。
キランが両腕を上げる。
「よし!」
マッハも歓声を上げる。
レイモンドが立ち上がる。
ミカイラが叫ぶ。
ギアまで笑っていた。
アリーナの反対側――
スザンヌが嬉しそうに拍手。
マドックスは上品に拍手している。
キランが見る。
笑顔が少し消える。
だが、無理やりコートへ意識を戻した。
災難は一度に一つ。
レクソールがタイムアウトを取る。
**ピーーーッ!**
エーシズが集まる。
レクソールが身を乗り出す。
「誘いに乗るな」
ビフが苛立つ。
「あいつら、ずっと減速するんだぞ!」
「ならお前も減速しろ!」
ビフが眉をひそめる。
「でもブースターが――」
レクソールが即座に声を落とす。
「それを口にするな」
ビフが審判を見る。
レクソールが続ける。
「確実な時だけ使え」
ロイがコートを見る。
コールがジュークと笑っていた。
ロイの表情が険しくなる。
「あいつら、俺たちを馬鹿みたいに見せてる」
レクソールが笑う。
「なら馬鹿みたいに見えるプレーをやめろ」
ブリッツがレクソールを見る。
「それか……」
レクソールが振り向く。
ブリッツが笑う。
「戦術を変える」
レクソールの笑みがゆっくり戻った。
試合再開。
エーシズは追いかけるのをやめた。
キランはすぐに気づいた。
「来た」
レイモンドが眉をひそめる。
「何が?」
「気づかれた」
試合が変わった。
グリッドタウンは我慢強くなった。
冷静になった。
ブースターを常時使わなくなる。
代わりに――
短い噴射だけ。
キランが秘密練習で見た通り。
ロイがボールを持つ。
コールが守る。
ロイはゆっくり進む。
そして――
**シュッ!**
突然のブースト。
隙間を一気に抜ける。
コールが振り向く。
遅い。
ロイがゴールゾーンを越える。
4ポイント。
**パイロッツ 12**
**エーシズ 11**
キランの笑みが消えた。
ミカイラが見る。
「問題?」
「大問題」
グリッドタウンは適応した。
ここからが本当の試合だった。
前半はほぼ互角で終了した。
**パイロッツ 23**
**エーシズ 22**
選手たちがベンチへ戻る。
全員疲れ切っていた。
だが――
誰も怪我をしていない。
それだけでも勝利だった。
ロイドがパイロッツを集める。
「パターンを変えてきた」
コールが頷く。
「短い噴射」
ジョジョが水を飲む。
「予測しづらいです」
ロイドが観客席のキランを見る。
キランは見守っていた。
ロイドが考える。
そして笑う。
「いい」
コールが眉を上げる。
「いい?」
「予測するのをやめる」
選手たちが耳を傾ける。
ロイドが続ける。
「こっちが望んだ時にブーストさせる」
フォーメーションを描く。
「広がれ」
「コートを広く使え」
「距離が伸びれば、それだけ使いたくなる」
ジョジョが笑う。
「ブースターを」
「その通り」
ロイドがゴールを指す。
「そして相手が食いついたら……」
コールが続ける。
「一気に畳む」
ロイドが笑う。
「分かってきたな」
後半。
パイロッツは広く展開した。
グリッドタウンも追う。
コートが開く。
距離が伸びる。
エーシズのブースターが頻繁に噴射される。
そしてそのたび――
パイロッツは動く。
逃げるのではない。
グリッドタウンが空けたスペースへ。
トリクシーがブースト。
ジョジョが背後へパス。
ビフがロキーへ向けてブースト。
スカイラーが空いたレーンへ入る。
ピートがコールへ突進。
マイケルがブロック。
何度も。
何度も。
グリッドタウンのスピードそのものが弱点になっていく。
スコアが伸びる。
**28 ― 24**
**31 ― 28**
**35 ― 30**
レクソールの顔が赤くなる。
「しっかりしろ!」
ブリッツも叫ぶ。
「もっと速く!」
それがさらに悪化させた。
ブーストが増える。
ミスも増える。
ファウルも増える。
観客の歓声は耳をつんざくほどになった。
残り2分。
**パイロッツ 39**
**エーシズ 35**
一度の得点で、すべてが変わる。
特に――
ヴェンタースコアなら。
ロイがボールを受け取る。
キランの目が見開かれる。
「来る」
パイロッツの守備全体が彼へ集まる。
ロイが加速。
ブースター。
全開。
**シュゥゥゥゥッ!**
コールが迎撃へ。
ロイは減速しない。
キランが身を乗り出す。
「ぶつかるな」
ロイが突進。
コールは位置を維持する。
近づく。
さらに近づく。
そして――
コールが横へ避けた。
ロイが通り過ぎる。
そのままゴールゾーンへ一直線。
グリッドタウン側の観客が爆発する。
レクソールが両腕を上げる。
「よし!」
だが――
コールは笑った。
ロイが眉をひそめる。
パイロッツは意図的にレーンを空けていた。
なぜなら、その先に立っていたのは――
ザグレブ。
フォース。
チーム最大のブレイカー。
ロイの目が見開かれる。
「うわ、スナット」
**ドン!**
ザグレブがブロック。
クリーン。
合法。
ロイが回転する。
ボールが飛ぶ。
コールがキャッチ。
観客が狂った。
「行け!」
コールが方向転換。
グリッドタウンはほぼ全員を前線へ出していた。
自陣はがら空き。
キランの目が見開かれる。
「4点だ!」
コールが加速。
ジュークが叫ぶ。
「行くぞ!」
ロイが立て直す。
追う。
ブースターが噴射。
コールがセンターコートへ。
ロイが迫る。
観客総立ち。
残り40秒。
コールがグリッドタウン陣内へ。
30秒。
ロイがさらに迫る。
20秒。
コールが振り返る。
もうすぐ追いつかれる。
その時、コールはキランが一瞬で分かる動きをした。
減速。
ロイの目が見開かれる。
遅い。
ロイが行き過ぎる。
コールがその背後へ切り返す。
キランが笑う。
「あれ、僕のだ」
ミカイラが見る。
「何が?」
「あの動き、僕がロイドに教えた」
コールが加速。
残り10秒。
グリッドタウンのブレイカーが集まる。
5秒。
コールがボールを投げた。
全員が固まる。
ジュークが上昇。
ブザーが鳴るのと同時に、ボールがゴールゾーンへ入った。
**ブワァァァァァァァァ!**
沈黙。
審判が確認する。
そして4本の指を上げた。
**ヴェンタースコア。**
スコアボードが変わる。
**パイロッツ 43**
**エーシズ 35**
アリーナが爆発した。
キランが叫ぶ。
マッハも叫ぶ。
ミカイラがキランを抱き締める。
レイモンドが両拳を上げる。
ギアは何を言っているのかまったく分からない声を上げた。
パイロッツがコールへ殺到する。
ロイド監督がクリップボードを投げる。
シトロン・アカデミーの勝利。
ブースターを相手に。
汚いプレーを相手に。
レクソールを相手に。
勝った。
コートの反対側――
レクソールは動かなかった。
ブリッツも見つめている。
エーシズは呆然と座っていた。
レクソールの手がゆっくり拳になる。
審判が近づく。
「いい試合でした、監督」
レクソールが笑う。
かろうじて。
「ああ」
審判と握手。
「いい試合だった」
そして背を向ける。
笑顔が消えた。
顔が歪む。
「全員バスに乗れ!」
ロイが見る。
「監督――」
「今すぐだ!」
エーシズが動き出す。
ブリッツがレクソールを見る。
「負けた」
レクソールはコートの向こうを見る。
キランがサイドライン付近でロイドと勝利を祝っている。
「いや」
その表情が暗くなる。
「まだ終わってない」
外――
グリッドタウンのホバーバスが浮上し、去っていく。
エーシズは全員乗っていた。
全員――
レクソールとブリッツを除いて。
レクソールはバスが消えるまで見ていた。
そして振り返る。
キランとマッハがアリーナから出てきた。
キランは笑っていた。
そしてレクソールを見る。
笑いが止まった。
マッハの表情も険しくなる。
レクソールは二人の真正面に立っていた。
「いい試合だったな」
キランが見つめる。
「どうも」
レクソールが笑う。
「面白いよな」
キランは待つ。
「パイロッツが突然、うちのスピードを完璧に封じる方法を思いついた」
キランが肩をすくめる。
「監督が優秀なんじゃない?」
「そうだな」
レクソールが近づく。
「お前が教えた」
キランが笑う。
「何を?」
レクソールの目が細くなる。
「やめろ」
キランの笑みが消える。
数秒間――
二人とも動かなかった。
やがてレクソールが笑う。
「昔から、自分のほうが俺より頭がいいと思ってたよな」
キランがため息をつく。
「またこれ?」
ブリッツがレクソールの隣に浮かぶ。
マッハもキランへ近づく。
レクソールが一歩前へ出る。
「俺に恥をかかせた」
「違う」
キランが首を振る。
「君のチームが試合に負けただけ」
「同じじゃない」
レクソールの表情が険しくなる。
「俺と戦え」
キランが見つめる。
「何?」
「聞こえただろ」
レクソールの車椅子が動く。
ブリッツが笑う。
「ここで」
キランが周囲を見る。
駐車場。
生徒たち。
保護者たち。
監視カメラ。
「嫌だ」
レクソールが笑う。
「相変わらず臆病者だな」
キランが歯を食いしばる。
マッハが彼を見る。
レクソールは、何をすればキランを刺激できるのか正確に知っていた。
「来いよ」
さらに近づく。
「もう一試合だ」
キランが眉をひそめる。
レクソールが笑う。
「俺たちだけで」
その言葉でキランの注意が変わった。
「一対一」
レクソールが自分の車椅子を叩く。
「ストリートVentball」
マッハがキランを見る。
キランはレクソールを見つめた。
チームなし。
監督なし。
審判なし。
ただ、二人のライバル関係だけ。
ずっとすべての下に隠れていた、本当の形。
レクソールが笑う。
「怖くないならな」
キランは黙っていた。
そして――
「いや」
レクソールの笑みが薄れる。
キランが続ける。
「君とは戦わない」
レクソールが笑う。
「だろうな」
キランが笑う。
「でも、試合ならする」
レクソールが止まる。
マッハの目が見開かれる。
キランが身を乗り出す。
「一対一のVentball」
レクソールの笑みがゆっくり戻る。
「そうこなくちゃな」
マッハがキランを見る。
「キラン」
「やらなきゃいけないんだ」
レクソールがアリーナの先にある暗い通りを見る。
「場所なら知ってる」
キランもその視線を追う。
二つの倉庫の間に路地が伸びていた。
広い。
長い。
誰もいない。
即席のコートには十分な広さ。
レクソールが笑う。
「ゲーム開始だ」




