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112/225

再戦

金曜の夜がやってきた。

そしてシトロン・アカデミーは満員だった。

完全な満員。

Ventballアリーナは歓声で震えている。

観客席は生徒たちで埋め尽くされていた。

保護者たちは互いの声をかき消すほど叫んでいる。

卒業生たちは昔のパイロッツのユニフォームを着ていた。

ホログラムの応援バナーがコート上空を漂う。

売店の列はコンコースまで続いていた。

そして、どこかでは――

誰かがエアホーンを持ち込んでいた。

**ブワァァァァ!**

キランが顔をしかめる。

「それ持ってる奴、逮捕したほうがいいよ」

マッハが観客席を見る。

「その処罰は少々過剰かと思われます」

再びエアホーン。

**ブワァァァァ!**

キランが真顔になる。

「やっぱり逮捕で」

ミカイラが笑った。

その隣にはレイモンド。

キランの反対側にはギアが座っている。

五人とも早めに会場へ来ていた。

主な理由は、キランが落ち着かなくて家にいられなかったからだ。

レイモンドがコートを見る。

「緊張してる?」

キランは即答した。

「してない」

マッハが彼を見る。

「しています」

キランがため息をつく。

「ちょっとだけ」

ギアが笑う。

「お前、出場すらしないだろ」

「だから余計に嫌なんだよ」

キランが身を乗り出す。

「僕には何もできない」

レイモンドが笑う。

「ファンへようこそ」

「嫌いだ」

眼下では――

パイロッツがウォーミングアップをしていた。

コールとジュークは高速旋回の練習。

ジョジョとダートは全速力で走りながらボールをパスし合う。

トフとスリックは短い攻撃パターンを繰り返す。

ロキーとスウィフトは素早い方向転換を練習。

スカイラーとミラージュはロングパス。

そしてブレイカーたち――

マイケルとストライク。

フレディとフレックス。

シエラとマーキー。

ザグレブとフォース――

ゴールゾーン付近でポジショニングドリルを行っていた。

ロイド監督はすべてを見ていた。

静かに。

集中して。

前回の試合とはまるで違う。

キランは気づいた。

「準備できてる」

レイモンドが見る。

「ロイドが?」

「うん」

キランが笑う。

「あの顔は知ってる」

ギアがベンチを見る。

「便秘みたいな顔してるけど」

キランが見つめる。

「なんで全部台無しにするの?」

「才能」

反対側では――

グリッドタウン・エーシズが入場した。

即座にブーイング。

**ブーーーーーー!**

レクソールは気にしない。

むしろ――

楽しんでいるようにさえ見えた。

ブリッツが隣に浮かぶ。

ロイとラフハウスを先頭に、チームがコートへ入ってくる。

トリクシーとスピア。

ビフとドリフト。

ヴィンとスポイラー。

メグとブラー。

そしてブレイカーたち。

ペリーとシールド。

バイロンとラッシュ。

ピートとフューリー。

ダイアンとブリック。

どのホバーチェアも規定通りに見えた。

少なくとも――

外見上は。

キランは真実を知っていた。

マッハが静かにスキャンする。

「ブースターは現在も搭載されています」

キランが頷く。

「だろうね」

レイモンドがコートを見る。

「お前らが知ってること、向こうは知ってるのか?」

「いや」

キランがかすかに笑う。

「そこがこっちの強み」

その時――

「キラン?」

ギアの声が変わった。

キランが見る。

「何?」

ギアはコートを見ていなかった。

観客席の向こう側を凝視している。

顔から血の気が引いていた。

キランが視線を追う。

そして――

魂が身体から抜けた。

「嘘だろ」

レイモンドが眉をひそめる。

「何?」

キランは凝視した。

数ブロック離れた席――

スザンヌがグリッドタウン側の観客席に座っていた。

笑顔で。

キランに向かって手を振っている。

キランの顔が引きつる。

しかも――

一人ではなかった。

隣に男が座っていた。

上品な服装。

自信に満ちた態度。

高級そうなスーツ。

完璧に整えられた髪。

ニコラス・マドックス。

キランは固まった。

マッハがゆっくり彼を見る。

ギアが囁く。

「嘘だろ」

キランが頷く。

「嘘だろ」

ミカイラも視線を追う。

「あ」

レイモンドも見た。

そして――

「ああ……」

スザンヌが嬉しそうに手を振る。

キランはこの世で最も力のない手振りを返した。

ギアは本気でトラウマを負ったような顔をしていた。

「なんであいつ?」

キランが見つめる。

「シトロン・シティに男なんていくらでもいるだろ」

マッハが首を傾げる。

「統計的に見れば、マドックスは経済的に成功しており、社交的な自信もあり、さらに――」

キランがゆっくり振り向く。

「マッハ」

マッハが止まる。

「了解しました」

ギアがキランを見る。

「知ってた?」

「知らない」

「お前は知ってた?」

「なんで僕が知ってるんだよ!?」

「あいつに会ったことあるだろ!」

キランが凝視する。

「だから余計に最悪なんだよ!」

ミカイラが笑いを隠すように口を押さえる。

キランが見る。

「笑い事じゃないよ」

「ごめん」

まったく悪いと思っていなかった。

レイモンドが笑う。

「お前の母さん、見る目あるな」

キランが見つめる。

「レイモンド」

「何だ?」

「やめて」

アリーナの向こう側――

マドックスがキランに気づいた。

ほんの一瞬――

その顔に「知っている」という反応が浮かぶ。

だが、すぐ消えた。

マドックスは礼儀正しく微笑んだ。

まるで一度も会ったことがないかのように。

キランが目を細める。

マッハも気づいた。

「我々を知らないふりをしています」

「気づいた」

キランはスザンヌを見る。

楽しそうだった。

心から楽しそうに。

キランがため息をつく。

「あとで」

ギアが見る。

「あとで?」

「試合が終わってから」

「これが起きてるって分かったまま、ここに座ってなきゃいけないの?」

キランが見る。

「じゃあ今からあっち行く?」

ギアは即座にコートへ向き直った。

「試合始まるぞ」

キランが頷く。

「だと思った」

選手たちが配置につく。

審判がセンターコートへ進む。

ボールは発射装置の中。

観客が静かになる。

ほぼ。

ロイド監督がチームを見る。

そして――

キランを見る。

キランが小さく頷く。

ロイドも返した。

反対側では――

レクソールが笑っている。

何も知らない。

ホイッスルが鳴った。

**ピーーーッ!**

ボールが射出される。

**シュン!**

ゲーム開始。

ジョジョが最初に到達した。

キャッチ。

方向転換。

走る。

ビフが即座に追う。

速い。

速すぎる。

キランが注意深く見る。

「来るよ」

ジョジョがサイドラインへ向かう。

ビフの隠しブースターが起動。

ほとんど見えない。

車椅子の下に小さな光。

**シュッ!**

ビフが一気に飛び出す。

ジョジョが方向転換。

ビフは通り過ぎる。

**ドン!**

バリアへ激突。

観客が沸く。

審判が笛を吹く。

**ピーーーッ!**

「イリーガル・コンタクト!」

ビフが目を剥く。

「はぁ!?」

審判が指差す。

「ボール保持に関与していない状況で接触を開始した!」

ペナルティ。

シトロンボール。

キランが笑う。

「一つ」

レイモンドが見る。

「そんな簡単なのか?」

「簡単じゃない」

キランがジョジョを指す。

「見て」

ジョジョは完全に落ち着いていた。

わざと当たらせたのだ。

ロイドはよく仕込んでいた。

シトロンが再開。

トフがボールを受け取る。

トリクシーが加速。

隠しブースター。

**シュッ!**

トフが減速。

トリクシーは、そのまま進むと思っていた。

激突。

**ドン!**

ホイッスル。

**ピーーーッ!**

「インターフェア!」

グリッドタウン側からブーイング。

レクソールの笑みが薄れる。

キランの笑みは広がった。

「二つ」

マッハがコートを見る。

「ロイド監督は、意図的に相手の過剰な踏み込みを誘発しているようです」

ギアが眉を上げる。

キランが見る。

「日本語で言うと?」

ギアが笑う。

「ミスらせてる」

キランが頷く。

「その通り」

パイロッツはエーシズより速く走ろうとはしていなかった。

そこがポイントだった。

代わりに――

エーシズを追わせる。

ひたすら。

短いパス。

急停止。

フェイクのラン。

素早い方向転換。

ロキーが加速して――

止まる。

ダイアンがブーストで迫る。

遅い。

**ドン!**

ペナルティ。

スカイラーが右へ抜けるふりをして――

左へ切り返す。

ピートがブースト。

行き過ぎる。

**ガン!**

ペナルティ。

マイケルがわざと守備陣形に隙間を作る。

バイロンが突っ込む。

隙間が消える。

バイロンは止まれない。

**ドン!**

ペナルティ。

また。

また。

そしてまた。

ついにレクソールが気づいた。

表情が変わる。

「誘ってやがる」

ブリッツが見る。

「じゃあブースターを使わせるな」

レクソールが眉をひそめる。

「スピードの優位を失う」

ブリッツが目を細める。

レクソールがロイドを見る。

ロイドが笑う。

そして――

キラン。

キランも笑った。

レクソールは即座に理解した。

「キリアン」

パイロッツがボールを取る。

ジョジョからロキーへパス。

ロキーが前へ蹴る。

スカイラーがキャッチ。

即座にコールへ投げる。

観客が爆発する。

「コール!」

ロイの目が見開かれる。

「ヴェンター!」

グリッドタウンが一斉にコールを囲みにかかる。

コールが加速。

ジュークが隣。

ペリーが迫る。

コールが止まる。

ペリーのブースターが起動。

**シュッ!**

ペリーが通り過ぎる。

コールが再び進む。

右からダイアン。

コールは左へ曲がる。

ダイアンも行き過ぎる。

そして――

ロイ。

ラフハウス。

グリッドタウンのヴェンターが突進する。

コールが笑う。

観客が立ち上がる。

二人のヴェンター。

一直線。

4ポイントが懸かっている。

ロイがブースターを起動。

キランの目が見開かれる。

「あ」

ロイが猛烈に加速。

コールは動かない。

待つ。

近づく。

さらに近づく。

ミカイラがキランの腕を掴む。

「ぶつかる!」

キランが笑う。

「いや」

最後の瞬間――

コールが曲がる。

ロイは曲がれない。

**シュゥゥゥッ!**

車椅子がそのまま突き抜ける。

コールが背後から加速。

進路は開いた。

目の前にはゴールゾーン。

アリーナ全体が揺れる。

「行け!」

コールが越える。

**ブワァァァァ!**

4ポイント。

スコアボードが変わる。

**パイロッツ 12**

**エーシズ 7**

シトロン・アカデミー側が爆発した。

キランが両腕を上げる。

「よし!」

マッハも歓声を上げる。

レイモンドが立ち上がる。

ミカイラが叫ぶ。

ギアまで笑っていた。

アリーナの反対側――

スザンヌが嬉しそうに拍手。

マドックスは上品に拍手している。

キランが見る。

笑顔が少し消える。

だが、無理やりコートへ意識を戻した。

災難は一度に一つ。

レクソールがタイムアウトを取る。

**ピーーーッ!**

エーシズが集まる。

レクソールが身を乗り出す。

「誘いに乗るな」

ビフが苛立つ。

「あいつら、ずっと減速するんだぞ!」

「ならお前も減速しろ!」

ビフが眉をひそめる。

「でもブースターが――」

レクソールが即座に声を落とす。

「それを口にするな」

ビフが審判を見る。

レクソールが続ける。

「確実な時だけ使え」

ロイがコートを見る。

コールがジュークと笑っていた。

ロイの表情が険しくなる。

「あいつら、俺たちを馬鹿みたいに見せてる」

レクソールが笑う。

「なら馬鹿みたいに見えるプレーをやめろ」

ブリッツがレクソールを見る。

「それか……」

レクソールが振り向く。

ブリッツが笑う。

「戦術を変える」

レクソールの笑みがゆっくり戻った。

試合再開。

エーシズは追いかけるのをやめた。

キランはすぐに気づいた。

「来た」

レイモンドが眉をひそめる。

「何が?」

「気づかれた」

試合が変わった。

グリッドタウンは我慢強くなった。

冷静になった。

ブースターを常時使わなくなる。

代わりに――

短い噴射だけ。

キランが秘密練習で見た通り。

ロイがボールを持つ。

コールが守る。

ロイはゆっくり進む。

そして――

**シュッ!**

突然のブースト。

隙間を一気に抜ける。

コールが振り向く。

遅い。

ロイがゴールゾーンを越える。

4ポイント。

**パイロッツ 12**

**エーシズ 11**

キランの笑みが消えた。

ミカイラが見る。

「問題?」

「大問題」

グリッドタウンは適応した。

ここからが本当の試合だった。

前半はほぼ互角で終了した。

**パイロッツ 23**

**エーシズ 22**

選手たちがベンチへ戻る。

全員疲れ切っていた。

だが――

誰も怪我をしていない。

それだけでも勝利だった。

ロイドがパイロッツを集める。

「パターンを変えてきた」

コールが頷く。

「短い噴射」

ジョジョが水を飲む。

「予測しづらいです」

ロイドが観客席のキランを見る。

キランは見守っていた。

ロイドが考える。

そして笑う。

「いい」

コールが眉を上げる。

「いい?」

「予測するのをやめる」

選手たちが耳を傾ける。

ロイドが続ける。

「こっちが望んだ時にブーストさせる」

フォーメーションを描く。

「広がれ」

「コートを広く使え」

「距離が伸びれば、それだけ使いたくなる」

ジョジョが笑う。

「ブースターを」

「その通り」

ロイドがゴールを指す。

「そして相手が食いついたら……」

コールが続ける。

「一気に畳む」

ロイドが笑う。

「分かってきたな」

後半。

パイロッツは広く展開した。

グリッドタウンも追う。

コートが開く。

距離が伸びる。

エーシズのブースターが頻繁に噴射される。

そしてそのたび――

パイロッツは動く。

逃げるのではない。

グリッドタウンが空けたスペースへ。

トリクシーがブースト。

ジョジョが背後へパス。

ビフがロキーへ向けてブースト。

スカイラーが空いたレーンへ入る。

ピートがコールへ突進。

マイケルがブロック。

何度も。

何度も。

グリッドタウンのスピードそのものが弱点になっていく。

スコアが伸びる。

**28 ― 24**

**31 ― 28**

**35 ― 30**

レクソールの顔が赤くなる。

「しっかりしろ!」

ブリッツも叫ぶ。

「もっと速く!」

それがさらに悪化させた。

ブーストが増える。

ミスも増える。

ファウルも増える。

観客の歓声は耳をつんざくほどになった。

残り2分。

**パイロッツ 39**

**エーシズ 35**

一度の得点で、すべてが変わる。

特に――

ヴェンタースコアなら。

ロイがボールを受け取る。

キランの目が見開かれる。

「来る」

パイロッツの守備全体が彼へ集まる。

ロイが加速。

ブースター。

全開。

**シュゥゥゥゥッ!**

コールが迎撃へ。

ロイは減速しない。

キランが身を乗り出す。

「ぶつかるな」

ロイが突進。

コールは位置を維持する。

近づく。

さらに近づく。

そして――

コールが横へ避けた。

ロイが通り過ぎる。

そのままゴールゾーンへ一直線。

グリッドタウン側の観客が爆発する。

レクソールが両腕を上げる。

「よし!」

だが――

コールは笑った。

ロイが眉をひそめる。

パイロッツは意図的にレーンを空けていた。

なぜなら、その先に立っていたのは――

ザグレブ。

フォース。

チーム最大のブレイカー。

ロイの目が見開かれる。

「うわ、スナット」

**ドン!**

ザグレブがブロック。

クリーン。

合法。

ロイが回転する。

ボールが飛ぶ。

コールがキャッチ。

観客が狂った。

「行け!」

コールが方向転換。

グリッドタウンはほぼ全員を前線へ出していた。

自陣はがら空き。

キランの目が見開かれる。

「4点だ!」

コールが加速。

ジュークが叫ぶ。

「行くぞ!」

ロイが立て直す。

追う。

ブースターが噴射。

コールがセンターコートへ。

ロイが迫る。

観客総立ち。

残り40秒。

コールがグリッドタウン陣内へ。

30秒。

ロイがさらに迫る。

20秒。

コールが振り返る。

もうすぐ追いつかれる。

その時、コールはキランが一瞬で分かる動きをした。

減速。

ロイの目が見開かれる。

遅い。

ロイが行き過ぎる。

コールがその背後へ切り返す。

キランが笑う。

「あれ、僕のだ」

ミカイラが見る。

「何が?」

「あの動き、僕がロイドに教えた」

コールが加速。

残り10秒。

グリッドタウンのブレイカーが集まる。

5秒。

コールがボールを投げた。

全員が固まる。

ジュークが上昇。

ブザーが鳴るのと同時に、ボールがゴールゾーンへ入った。

**ブワァァァァァァァァ!**

沈黙。

審判が確認する。

そして4本の指を上げた。

**ヴェンタースコア。**

スコアボードが変わる。

**パイロッツ 43**

**エーシズ 35**

アリーナが爆発した。

キランが叫ぶ。

マッハも叫ぶ。

ミカイラがキランを抱き締める。

レイモンドが両拳を上げる。

ギアは何を言っているのかまったく分からない声を上げた。

パイロッツがコールへ殺到する。

ロイド監督がクリップボードを投げる。

シトロン・アカデミーの勝利。

ブースターを相手に。

汚いプレーを相手に。

レクソールを相手に。

勝った。

コートの反対側――

レクソールは動かなかった。

ブリッツも見つめている。

エーシズは呆然と座っていた。

レクソールの手がゆっくり拳になる。

審判が近づく。

「いい試合でした、監督」

レクソールが笑う。

かろうじて。

「ああ」

審判と握手。

「いい試合だった」

そして背を向ける。

笑顔が消えた。

顔が歪む。

「全員バスに乗れ!」

ロイが見る。

「監督――」

「今すぐだ!」

エーシズが動き出す。

ブリッツがレクソールを見る。

「負けた」

レクソールはコートの向こうを見る。

キランがサイドライン付近でロイドと勝利を祝っている。

「いや」

その表情が暗くなる。

「まだ終わってない」

外――

グリッドタウンのホバーバスが浮上し、去っていく。

エーシズは全員乗っていた。

全員――

レクソールとブリッツを除いて。

レクソールはバスが消えるまで見ていた。

そして振り返る。

キランとマッハがアリーナから出てきた。

キランは笑っていた。

そしてレクソールを見る。

笑いが止まった。

マッハの表情も険しくなる。

レクソールは二人の真正面に立っていた。

「いい試合だったな」

キランが見つめる。

「どうも」

レクソールが笑う。

「面白いよな」

キランは待つ。

「パイロッツが突然、うちのスピードを完璧に封じる方法を思いついた」

キランが肩をすくめる。

「監督が優秀なんじゃない?」

「そうだな」

レクソールが近づく。

「お前が教えた」

キランが笑う。

「何を?」

レクソールの目が細くなる。

「やめろ」

キランの笑みが消える。

数秒間――

二人とも動かなかった。

やがてレクソールが笑う。

「昔から、自分のほうが俺より頭がいいと思ってたよな」

キランがため息をつく。

「またこれ?」

ブリッツがレクソールの隣に浮かぶ。

マッハもキランへ近づく。

レクソールが一歩前へ出る。

「俺に恥をかかせた」

「違う」

キランが首を振る。

「君のチームが試合に負けただけ」

「同じじゃない」

レクソールの表情が険しくなる。

「俺と戦え」

キランが見つめる。

「何?」

「聞こえただろ」

レクソールの車椅子が動く。

ブリッツが笑う。

「ここで」

キランが周囲を見る。

駐車場。

生徒たち。

保護者たち。

監視カメラ。

「嫌だ」

レクソールが笑う。

「相変わらず臆病者だな」

キランが歯を食いしばる。

マッハが彼を見る。

レクソールは、何をすればキランを刺激できるのか正確に知っていた。

「来いよ」

さらに近づく。

「もう一試合だ」

キランが眉をひそめる。

レクソールが笑う。

「俺たちだけで」

その言葉でキランの注意が変わった。

「一対一」

レクソールが自分の車椅子を叩く。

「ストリートVentball」

マッハがキランを見る。

キランはレクソールを見つめた。

チームなし。

監督なし。

審判なし。

ただ、二人のライバル関係だけ。

ずっとすべての下に隠れていた、本当の形。

レクソールが笑う。

「怖くないならな」

キランは黙っていた。

そして――

「いや」

レクソールの笑みが薄れる。

キランが続ける。

「君とは戦わない」

レクソールが笑う。

「だろうな」

キランが笑う。

「でも、試合ならする」

レクソールが止まる。

マッハの目が見開かれる。

キランが身を乗り出す。

「一対一のVentball」

レクソールの笑みがゆっくり戻る。

「そうこなくちゃな」

マッハがキランを見る。

「キラン」

「やらなきゃいけないんだ」

レクソールがアリーナの先にある暗い通りを見る。

「場所なら知ってる」

キランもその視線を追う。

二つの倉庫の間に路地が伸びていた。

広い。

長い。

誰もいない。

即席のコートには十分な広さ。

レクソールが笑う。

「ゲーム開始だ」

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