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109/228

在庫切れ

翌日の午後――

**ガン!**

「痛っ」

キランが顔を上げる。

「レイモンド?」

レイモンドのエクソスーツの下から、くぐもった声が聞こえた。

「大丈夫だ」

キランが見つめる。

「本当に?」

「いや」

マッハが近くへ浮かぶ。

「何があったのです?」

レイモンドが、半分解体されたエクソスーツの下からゆっくり這い出してきた。

レンチを掲げる。

「こいつだ」

キランが眉をひそめる。

「レンチに襲われたの?」

「落ちてきた」

「ああ」

レイモンドが額をさする。

「世界中の整備士が恐れる、古代からの宿敵だ」

作業場の向こうから――

ギアが叫んだ。

「ふざけてないで手を動かせ!」

キランがそちらを見る。

「何もしてないよ!」

「だから言ってんだ!」

キランが見つめる。

マッハが笑う。

「ギアは非常に機嫌が良いようですね」

「ギアに機嫌が良い時なんてないよ」

「聞こえてるぞ!」

キランがマッハへ身を寄せる。

「ほらね?」

ギアのワークショップは、いつもの統制された混沌に満ちていた。

つまり――

何一つ統制されていない。

作業台は工具だらけ。

半開きの箱には部品。

奥のどこかでは溶接トーチが燃えている。

診断画面には警告が点滅していたが、誰も特に気にしていない。

中央のメンテナンス台にはレイモンドのエクソスーツ。

装甲パネルが何枚も外されている。

内部システムが剥き出し。

その隣にギア。

ゴーグルを下ろし。

工具を手に。

不機嫌そうな顔。

つまり――

いつも通り。

レイモンドがスーツを見る。

「どのくらいひどい?」

ギアが唸る。

「場合による」

「何に?」

「動けることに、どれくらいこだわりがある?」

レイモンドが凝視する。

キランが笑った。

レイモンドが彼を見る。

「楽しみすぎだろ」

「だって今回は僕の車椅子じゃないから」

ギアがゆっくりキランを見る。

「余計なこと言うなよ」

キランの笑みが即座に消えた。

「レイモンドのスーツは非常に大切です」

「そうだろうな」

ギアは作業へ戻った。

マッハがメンテナンス台の隣へ浮かぶ。

「推進系の問題は特定できましたか?」

「ああ」

ギアが診断画面を叩く。

「ブースターが摩耗してる」

レイモンドが眉をひそめる。

「交換できる?」

「そのうちな」

レイモンドが眉を上げる。

「そのうち?」

ギアが部品を引き抜く。

「来月」

キランが止まる。

「来月?」

「そう言った」

レイモンドが腕を組む。

「なんで来月なんだ?」

ギアが部品を作業台へ置く。

「この二十四時間で、お前らの誰かが軍用グレードの推進ブースターを製造できるようになったっていうなら話は別だけどな……」

全員が互いを見る。

誰も答えない。

「……できないなら待つ」

キランが眉をひそめる。

「在庫切れ?」

「そう」

「ブースターが?」

ギアが彼を見る。

「いや、キラン」

作業場を示す。

「バナナが」

キランがため息をつく。

「はいはい。ブースターね」

マッハが棚をスキャンする。

「在庫記録でも、異常な品不足が確認できます」

ギアが彼を見る。

「ありがとな、空飛ぶ表計算ソフト」

マッハが笑う。

「どういたしまして」

ギアはスーツへ戻る。

キランはまだ引っかかっていた。

「どうやったらブースターを切らすの?」

ギアが止まる。

ゆっくり。

キランを見る。

「どうやったら……」

間。

「……切らすって?」

キランは即座に自分の失敗を悟った。

ギアが近づいてくる。

「部品が勝手に俺の作業場へ湧いてくると思ってんのか?」

「いや」

「魔法のブースター妖精でもいると思ってんのか?」

「いや」

「目を閉じてお願いしたら、天国から推進システムが降ってくるとでも?」

キランが見つめる。

「たぶん違う」

「たぶん!?」

レイモンドが笑う。

マッハが顔を逸らす。

キランが両手を上げる。

「分かった! 質問が悪かった!」

ギアがレンチを向ける。

「前にもあっただろ」

キランが眉をひそめる。

「いつ?」

ギアが凝視する。

「三年前」

キランが考える。

「……ない」

「六年前」

何も出てこない。

「九年前」

キランがマッハを見る。

マッハが頷く。

「三件とも発生しています」

キランが見つめる。

ギアが両手を上げる。

「ほらな!?」

キランが眉をひそめる。

「覚えてない」

「お前がアホだからだ」

「傷つくなあ」

「事実だ」

マッハが頷く。

キランが彼を見る。

「君は黙ってて」

レイモンドがメンテナンス台の隣へ座る。

「それで今回は何が原因なんだ?」

ギアがため息をつく。

「大量注文」

キランの冗談めいた表情が少し消える。

「何?」

ギアが仕入先の在庫ページを開く。

「シトロン周辺はほとんど空だ」

スクロールする。

「ブースター」

「推進コイル」

「スラストレギュレーター」

「スタビライザー」

「俺が普段注文する高性能モビリティ部品の半分くらいな」

レイモンドが眉をひそめる。

「供給不足?」

「そういうわけじゃない」

ギアが画面を指す。

「メーカーには在庫がある」

「地元の流通業者にはない」

マッハが近づく。

「つまり、在庫はすでに購入されている」

「その通り」

キランが眉をひそめる。

「誰に?」

ギアが肩をすくめる。

「誰でもあり得る」

「そんな大量のブースターを必要とする誰か?」

ギアが目を回す。

「テック企業なんて、こういうことしょっちゅうやってる」

「大量に買う」

「供給を押さえる」

「競合他社を待たせる」

「誰かが艦隊でも作ってるのかもしれない」

「どこかの企業が契約を取ったのかもしれない」

ギアが在庫画面を閉じる。

「金だけ余ってて常識が足りない奴かもしれない」

キランは考え込んだままだった。

ギアが気づく。

「おい、やめろ」

「何が?」

「その顔」

レイモンドがキランを見る。

「探偵の顔」

マッハが頷く。

「間違いありません」

キランが眉をひそめる。

「探偵の顔なんてないって!」

三人が同時に答える。

「ある」

キランが見つめる。

ギアがレンチを向ける。

「考えすぎるな」

「でも――」

「ダメだ」

「誰かが大量に――」

「キラン」

ギアが近づく。

「お前、昨日は殺人ビルに殺されかけたんだぞ」

レイモンドがキランを見る。

「お前、何だって?」

キランが固まる。

マッハがゆっくり後ろへ下がる。

キランが彼を見る。

「レイモンドに言ってなかったの?」

マッハが見つめ返す。

「その会話はあなたの担当でした」

レイモンドがキランを指す。

「殺人ビル?」

「正確にはAIだったんだけど」

「建物を操ってたんだろ!」

「うん」

レイモンドが凝視する。

「じゃあ殺人ビルだ」

キランがため息をつく。

「分かったよ」

ギアがエクソスーツへ戻る。

「とにかく、お前の人生にはもう十分すぎるほど変なことが起きてる」

別の工具を手に取る。

「謎のブースター不足は放っておけ」

キランが仕入先の画面を見る。

そして渋々頷いた。

「分かった」

作業場の扉が開く。

**チーン!**

全員が振り返った。

スザンヌが入ってくる。

笑顔で。

それ自体は珍しくない。

スザンヌはよく笑う。

だが、この笑顔は――

違った。

いつもより大きい。

明るい。

怪しいくらい明るい。

キランが目を細める。

ギアも目を細める。

マッハも。

レイモンドは三人を見た。

それからスザンヌを見る。

「やあ、スザンヌ」

「レイモンド!」

彼女が近づく。

「元気にしてる、あなた?」

レイモンドが笑う。

「元気だよ」

スザンヌが分解されたエクソスーツを見る。

そして――

「あら」

レイモンドも視線を追う。

「大丈夫」

ギアが即座に答える。

「大丈夫じゃない」

レイモンドが見つめる。

「助かるよ」

スザンヌが笑う。

「まあ、ギアに任せておけば安心ね」

ギアが誇らしげに笑う。

「当然」

キランは母親を見つめ続けていた。

スザンヌが気づく。

「何?」

「何でもない」

キランがギアを見る。

ギアがキランを見る。

マッハが二人を見比べる。

スザンヌが眉をひそめる。

「どうしてみんなそんな目で私を見てるの?」

キランが即座に笑う。

「別に」

「何もないぞ」とギア。

マッハが頷く。

「あなたの行動は完全に正常に見えます」

キランとギアがゆっくりマッハを見る。

マッハが眉をひそめる。

「何です?」

スザンヌが腕を組む。

「分かった」

三人を見比べる。

「あなたたち三人、何を企んでるの?」

「何も!」

三人が同時に答えた。

レイモンドが見つめる。

「全然怪しく聞こえなかったぞ」

キランが睨む。

スザンヌが作業台へ近づく。

「Ventballの試合のこと聞いたわ」

キランが止まる。

ギアも。

マッハも。

レイモンドが三人を見る。

「なるほど」

スザンヌが笑う。

「かなりすごい試合だったそうね」

キランがゆっくりギアを見る。

ギアもゆっくりキランを見る。

マッハが囁く。

「興味深い」

スザンヌが眉をひそめる。

「何?」

キランが彼女を見る。

「試合のこと聞いたの?」

「ええ」

「Ventballの?」

スザンヌが笑う。

「昨日、あなたはいくつ試合を見たの?」

キランが見つめる。

「一つ」

「なら、それよ」

彼女が笑う。

「その試合」

ギアが工具を置く。

「いつからVentballに興味持つようになったんだ?」

スザンヌの笑みが揺らいだ。

ほんの少し。

キランは見た。

ギアも見た。

マッハは当然見た。

レイモンドだけ――

見ていなかった。

スザンヌが軽く手を振る。

「別に興味なんてないわよ」

キランが目を細める。

「へえ」

「ただ、みんなが話してたから」

「誰が?」

スザンヌが彼を見る。

「みんなよ」

キランがギアを見る。

ギアが口だけ動かす。

『みんな?』

キランも口だけ動かす。

『みんな』

マッハは無言のやり取りを見ていた。

スザンヌが続ける。

「面白かったって聞いたわ」

キランが肩をすくめる。

「激しかったよ」

スザンヌがため息をつく。

「今でも、よくあなたにあんなスポーツをやらせたと思うわ」

キランが笑う。

「やらせてないよ」

スザンヌが彼を見る。

「何?」

「止めようとしてた」

「してないわ」

ギアが即座に顔を上げる。

「してた」

スザンヌが凝視する。

ギアが笑う。

「確かこう言った――」

芝居がかったように姿勢を正す。

「『絶対にダメ。学校への愛校心のために、私の息子を人間砲弾にするなんて許しません』」

キランが吹き出す。

スザンヌの目が見開かれる。

「そんなこと言ってないわ!」

マッハが答える。

「言いました」

スザンヌが彼を見る。

「あなた、その場にいなかったでしょ」

マッハが笑う。

「キランから何度も聞いています」

「裏切り者」

スザンヌが首を振る。

「まあ……」

笑いを堪えようとする。

「最終的には許したでしょ」

キランが頷く。

「フリート監督が家に来てからね」

「ちゃんと話してくれたから」

「二時間も」

「説得力があったのよ」

「パンフレットまで持ってきた」

スザンヌが笑う。

「準備がよかったのよ」

キランが笑う。

「結局、ホームゲーム全部見に来てたよね」

「心配だったからよ!」

「はいはい」

「本当よ!」

スザンヌが懐かしそうに笑う。

そして――

「でも、認めるわ……」

全員が待つ。

「……面白かった」

沈黙。

キランが見つめる。

ギアも。

マッハも。

レイモンドが周囲を見る。

「何?」

キランがゆっくりスザンヌを指す。

「母さんが」

スザンヌが眉をひそめる。

「私が?」

「今、Ventballを面白いって言った」

「ええ」

ギアが近づく。

「母さんが?」

「そうよ」

「決勝戦に本を持ってきた女が?」

スザンヌの目が見開かれる。

「ハーフタイムだったわ!」

「第三クォーターだった!」

「Ventballにクォーターはないよ」とキラン。

ギアが彼を見る。

「言いたいことは分かるだろ」

スザンヌが腕を組む。

「新しい趣味くらい持ってもいいでしょ」

キランが目を細める。

「できるの?」

スザンヌが凝視する。

「できるわよ」

「突然?」

「ええ」

「その歳で?」

スザンヌの口が開く。

ギアが即座に離れた。

マッハが囁く。

「致命的なミスです」

キランの顔から血の気が引く。

「そういう意味じゃ――」

「その歳で?」

「母さん――」

レイモンドが口を押さえる。

キランが慌てる。

「何十年もVentballを知ってるのにって意味!」

スザンヌが見つめる。

「そうは言わなかったわ」

「言い方が悪かった」

「ものすごくね」

マッハが頷く。

「壊滅的でした」

キランが彼を見る。

「助けなくていい!」

最終的に――

スザンヌは許してくれた。

ほぼ。

彼女がレイモンドへ近づく。

「最近どう?」

「元気だよ」

「ミカイラは?」

キランが振り返る。

「なんでレイモンドに聞くの?」

スザンヌが笑う。

「あなたに聞くと変な空気になるから」

キランが見つめる。

「どうして?」

「私があなたたちの関係について聞いてると思うでしょ」

キランが止まる。

「聞いてるの?」

スザンヌがレイモンドを見る。

「ほら」

レイモンドが笑う。

「ミカイラは元気だよ」

スザンヌが頷く。

「よかった」

彼女がマッハを見る。

「あなたは?」

マッハが笑う。

「正常稼働中です」

スザンヌが眉をひそめる。

「そういうことを聞いたんじゃないわ」

マッハの笑みが柔らかくなる。

「元気です」

「よかった」

彼女がマッハのホログラムへ手を伸ばす。

手は何の抵抗もなく彼の身体を通り抜けた。

それでもスザンヌは、愛情を込めた仕草をやめなかった。

マッハが微笑む。

キランはそれに気づいた。

いつも気づいていた。

スザンヌは一度たりとも、マッハをただの機械として扱ったことがない。

もしかすると、それもH.O.M.E.のことがあれほど気になっている理由の一つなのかもしれない。

キランはその考えを追い払った。

今日はやめよう。

スザンヌがギアを見る。

「ちゃんと食べてる?」

ギアが見つめる。

「食べてる」

「まともなものを?」

「まともの定義は?」

スザンヌがため息をつく。

「自動販売機から出てこない食べ物」

ギアが目を逸らす。

スザンヌが凝視する。

「ギア」

「忙しかったんだよ」

「明日、何か持ってくるわ」

「いいって」

「明日持ってくる」

ギアがため息をつく。

「……分かった」

キランが笑う。

ギアでさえ、戦わないほうがいいと理解している戦いもある。

スザンヌが時間を確認する。

「あっ!」

表情が再び明るくなる。

出た。

あの笑顔。

キランが気づく。

ギアも。

マッハも。

スザンヌがバッグを手に取る。

「もう行かないと」

キランが眉をひそめる。

「どこへ?」

スザンヌが止まる。

「外よ」

ギアがゆっくり振り向く。

「外のどこ?」

スザンヌが見つめる。

「どうして?」

「別に」

キランが不自然なほど無邪気に笑う。

「ちょっと気になっただけ」

スザンヌは二人の息子を見る。

次にマッハ。

そしてレイモンド。

今や四人全員が彼女を見ていた。

レイモンドは、他のみんなが見ているから見ているだけだったが。

スザンヌが目を細める。

「あなたたち変よ」

キランがぎこちなく笑う。

「いつも変でしょ」

「それもそうね」

彼女は扉へ向かう。

そして止まった。

「あっ!」

全員が待つ。

「次の試合、見に行こうと思ってるの」

キランの目が見開かれる。

ギアの手からレンチが落ちる。

**ガン!**

スザンヌが見る。

「大丈夫?」

ギアが凝視する。

「大丈夫」

キランが唾を飲み込む。

「次のVentballの試合?」

スザンヌが笑う。

「ええ」

「シトロン・アカデミーで?」

「普通はそこでやるでしょ」

キランが見つめる。

「なんで?」

スザンヌが眉をひそめる。

「行きたいから」

ギアがキランを見る。

キランがギアを見る。

マッハの表情が深刻になる。

レイモンドがようやく理解した。

「ああ」

キランが即座に彼を見る。

「何?」

レイモンドが首を振る。

「何でもない」

「レイモンド」

「何でもない」

スザンヌが笑う。

「じゃあ、またね」

キランの額へキス。

次にギア。

レイモンドを抱きしめる。

そしてマッハへ手を振った。

「じゃあね、あなた」

「さようなら、スザンヌ」

彼女は扉へ歩いていく。

そして――

ガラスに映った自分の姿を確認した。

髪を整える。

キランの目が見開かれる。

ギアの目も。

マッハの目も。

扉が開く。

スザンヌが出ていった。

**チーン!**

沈黙。

誰も動かない。

キランは扉を見つめる。

ギアも扉を見つめる。

マッハも。

レイモンドが三人を見る。

そして――

キランが囁いた。

「……いやだ」

ギアがゆっくり頷く。

「……いやだ」

マッハが心配そうに見る。

「統計的確率は大幅に上昇しました」

キランが彼を見る。

「言わないで」

マッハは続ける。

「スザンヌが恋愛的な関心を――」

「言うな!」

ギアが両手を上げる。

「知りたくない!」

レイモンドが吹き出す。

キランが彼を指す。

「笑い事じゃないよ!」

「いや、めちゃくちゃ面白い」

キランがギアを見る。

「もし誰かと付き合ってたら?」

ギアが恐怖の表情を浮かべる。

「黙れ」

「もしその人を試合に連れてきたら?」

「やめろ」

「もし手をつないだら?」

ギアが耳を塞ぐ。

「ラララララララ!」

マッハがキランを見る。

「人間は親の恋愛関係に対して、頻繁に非合理的な不快感を示します」

キランが凝視する。

「これは非合理的じゃない」

「非合理的です」

「違う」

「客観的に見ても非合理的です」

キランが扉を指す。

「僕の母さんだよ!」

マッハが頷く。

「承知しています」

ギアが叫ぶ。

「話題を変えろ!」

レイモンドはまだ笑っていた。

ギアがレンチを掴む。

レイモンドは即座に笑うのをやめた。

数分後――

作業場はいつもの状態へ戻った。

ギアが作業。

レイモンドが手伝う。

マッハが診断データを確認。

キランは近くにいた。

母親がデートしているところを想像しないよう必死に努力しながら。

その時、視線が仕入先の画面へ向かう。

ブースター不足。

キランが眉をひそめる。

大量注文。

しかも、とんでもない量。

エーシズを思い出す。

あの動き。

あの速さ。

あの攻撃性。

でも――

違う。

首を振る。

ギアの言う通りだ。

大量に部品を購入する企業なんていくらでもある。

二つを結びつける理由はない。

キランは目を逸らした。

画面に――

流通業者からの通知が表示される。

**高性能ブースターアセンブリ**

**現在の地域在庫:0**

さらにもう一つ。

**再入荷予定:27日後**

キランが再び見る。

マッハが気づく。

「キラン」

「何?」

「考えていますね」

「考えてない」

「考えています」

キランがため息をつく。

「分かったよ」

画面を見つめる。

「ただ、変だなって」

ギアは顔を上げない。

「お前には何でも変に見える」

「だって何でも変なんだよ」

「昨日は建物と戦っただろ」

「だからだよ!」

ギアが呻く。

キランが笑う。

そして――

空になった在庫表示をもう一度だけ見た。

誰かが大量のブースターを買った。

シトロン・シティ全体の供給に影響が出るほどに。

ギアが正しいのかもしれない。

何の意味もないのかもしれない。

だがキランは長年の経験から、一つ学んでいた。

本当に何の意味もないことは――

いつまでも頭から離れないものではない。

一週間後――

シトロン・アカデミーでの練習が終わった。

太陽は街の向こうへ低く沈みかけている。

Ventballアリーナは何時間も前に空になっていた。

パイロッツの選手数人が一緒に帰路についていた。

ジョジョ。

ロキー。

マイケル。

そしてコール。

Ventたちも隣を進む。

ダート。

スウィフト。

ストライク。

ジューク。

ジョジョが肩を伸ばす。

「やっと痛くなくなった」

ロキーが彼を見る。

「あと五分ね」

ジョジョが眉をひそめる。

「なんで?」

ロキーが笑う。

「あなた、プロ級に文句言うから」

マイケルが笑う。

ジョジョが凝視する。

「俺は文句言わない」

ダートが彼を見る。

「練習中に十七回言いました」

ジョジョが指を差す。

「誰もお前に聞いてない」

ダートが笑う。

コールも笑った。

グリッドタウン戦で負けて以来初めて――

ほとんど日常が戻ったように感じられた。

その時――

ジュークが止まる。

コールが気づく。

「どうした?」

ジュークが前を見る。

歩道を四人の人影が塞いでいた。

ホバーチェア。

Vent。

エーシズのカラー。

ジョジョの笑みが消える。

「最悪」

グリッドタウンの選手たちが振り返る。

ビフ。

バイロン。

ピート。

ダイアン。

ドリフト。

ラッシュ。

フューリー。

ブリック。

ビフが笑う。

「おやおや」

コールが前へ出る。

「行こう」

ジョジョが頷く。

「賛成」

通り過ぎようとする。

ピートが車椅子を動かした。

道を塞ぐ。

コールが止まる。

ピートが笑う。

「帰っていいなんて言ってないぞ」

ロキーの表情が険しくなる。

「どいて」

ダイアンが笑う。

「あら」

「パイロッツも生意気になったじゃない」

マイケルが周囲を見る。

近くに人はいる。

多くはない。

だが、いる。

コールは冷静さを保った。

「俺たちはやらない」

ビフが笑う。

「何を?」

「お前らがやろうとしてるくだらないこと全部」

バイロンが笑う。

「挨拶しに来ただけだよ」

ジョジョが肩をさする。

「こんにちは」

背後を指す。

「さようなら」

エーシズは動かない。

ビフがコールを見る。

「四十三対二十一」

コールが歯を食いしばる。

ビフが笑う。

「忘れてないか確認したかっただけだ」

コールが見つめる。

「おめでとう」

ピートが身を乗り出す。

「心がこもってないな」

「こめてないからな」

沈黙。

ドリフトがダートへ近づく。

ダートが後ろへ下がる。

ジョジョの表情が変わる。

「やめろ」

ビフが笑う。

「何を?」

ジョジョが真っ直ぐ彼を見る。

「俺のVentに触るな」

ビフが笑う。

「神経質だな」

ロキーがジョジョの隣へ移動する。

コールがため息をつく。

「お前ら……」

遅かった。

バイロンがマイケルの車椅子へぶつかる。

強くはない。

ほんの少し。

マイケルが下を見る。

そして顔を上げる。

「マジか?」

バイロンが笑う。

「事故だよ」

マイケルがぶつけ返す。

今度は強く。

ラッシュが前へ出る。

ストライクも前へ。

コールの目が見開かれる。

「全員落ち着け」

ピートがコールを突き飛ばす。

ジュークが反応する。

フューリーが動く。

ジョジョが間へ入る。

ビフが押す。

ロキーがビフを掴む。

ダイアンがロキーを掴む。

そして――

すべてが爆発した。

**ドン!**

コールがピートへ激突。

マイケルがバイロンと衝突。

ジョジョがビフへ飛びかかる。

Ventたちも突進する。

ダートがドリフトへぶつかる。

ストライクがラッシュと激突。

スウィフトとブリックが正面衝突。

ジュークがフューリーへ突進する。

周囲から悲鳴。

「おい!」

「やめろ!」

「何やってんだ!?」

歩道はルールのないVentballコートへ変わった。

審判はいない。

ホイッスルもない。

ペナルティもない。

あるのは怒りだけ。

そして今度は――

エーシズは境界線で止まらなかった。

ピートの車椅子が加速。

**ドン!**

コールが後方へ吹き飛ぶ。

ジュークが叫ぶ。

「コール!」

ジョジョがビフへ拳を振る。

ビフがかわす。

ドリフトがダートへ激突。

**ガン!**

ダートが路面へ叩きつけられる。

「おい!」

ジョジョが振り向く。

その一瞬が命取りだった。

ビフが突っ込む。

**ドン!**

ジョジョが倒れる。

ロキーが突進。

ダイアンが正面から迎え撃つ。

**ドン!**

マイケルが助けようとする。

バイロンとピートが彼を囲む。

ストライクが二人との間へ入る。

「下がれ!」

フューリーが横からストライクへ激突。

**ガン!**

ストライクの外装が割れた。

マイケルの目が見開かれる。

「ストライク!」

何かが変わった。

もう挑発ではない。

ライバル同士の争いでもない。

Ventballですらない。

最初にそれを理解したのはコールだった。

「やめろ!」

誰も聞かない。

「やめろ!」

ジョジョのところへ行こうとする。

ビフが押しのける。

その時――

通りにいた誰かが叫んだ。

「警察呼ぶぞ!」

全員が固まった。

さらに多くの人が立ち止まっていた。

スマートフォンが向けられている。

録画されている。

エーシズが周囲を見る。

ビフが悪態をつく。

「行くぞ」

ピートがコールを見る。

「まだ終わってないからな」

コールが唇の血を拭う。

「ああ」

仲間たちを見る。

ジョジョは立ち上がろうとしている。

ロキーは脇腹を押さえていた。

マイケルは損傷したストライクの機体の隣に膝をついている。

コールの表情が険しくなる。

「終わった」

エーシズは加速して去っていった。

パイロッツは追わなかった。

追える状態ではなかった。

一週間で二度目――

グリッドタウンは彼らを打ち負かした。

ただ今回は――

スコアボードなど存在しなかった。

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