宿命のライバル
**ドン!**
ボールが壁へ叩きつけられた。
跳ね返ったボールを選手がキャッチする。
振り向く。
走る。
観客席が沸き上がった。
「行け! 行け! 行け!」
キランが身を乗り出す。
視線はボールを追っていた。
グリッドタウンのダッシャーがコートを駆け抜ける。
速い。
ものすごく速い。
その背後では――
シトロン・アカデミーの選手二人が追いかけていた。
「ランを狙ってる!」
キランはすぐに首を振る。
「違う」
ミカイラが彼を見る。
「え?」
「見てて」
グリッドタウンの選手が突然止まった。
パイロッツの一人が危うく衝突しかける。
選手が回転。
そして――
**ドン!**
ボールをコートの反対側へ蹴り飛ばした。
ミカイラの目が見開かれる。
別のグリッドタウン選手がキャッチ。
完全にフリー。
「どうして分かったの?」
キランが笑う。
「ランが分かりやすすぎたから」
マッハが隣に浮かぶ。
「それと、グリッドタウンは今シーズン、そのフォーメーションを十七回使用しています」
キランがゆっくり振り返る。
「僕をカッコよく見せてくれてもよかったんだけど」
「できました」
マッハが微笑む。
「しないことを選びました」
ミカイラが笑う。
レイモンドが座席にもたれた。
「変わらないものもあるんだな」
キランはコートへ視線を戻した。
眼下では――
シトロン・アカデミー・パイロッツとグリッドタウン・エーシズが、キランがここ数年で見た中でも屈指の激しいVentballの試合を繰り広げていた。
そしてキランは、その一秒一秒を楽しんでいた。
ほとんどは。
シトロン・アカデミーのVentballアリーナは満員だった。
観客席を埋める生徒たち。
保護者。
教師。
卒業生。
ファン。
歓声はほとんど途切れない。
コート上空には巨大なホログラムディスプレイが二つ浮かんでいた。
**CITRON ACADEMY PILOTS**
対
**GRIDTOWN ACES**
点差はまだ僅差。
今のところは。
パイロッツ側では――
ロイド監督がサイドラインを歩き回っていた。
「広がれ!」
指を差す。
「ジョジョ! 左!」
ジョジョが即座に方向転換する。
Ventのダートが隣をついていく。
トフとスリックが中央を進む。
ロキーとスウィフトがグリッドタウン陣内へ押し上がる。
スカイラーとミラージュは両翼に広がった。
その後ろには――
マイケルとストライク。
フレディとフレックス。
シエラとマーキー。
ザグレブとフォース。
ブレイカーズ。
大きい。
強い。
そして今は、グリッドタウンの攻撃陣をヴェンターへ近づけないために全力を尽くしていた。
コール。
コールは専用車椅子でセンターライン付近に待機していた。
ジュークが隣に浮かぶ。
二人は試合の流れを見ていた。
待つ。
辛抱強く。
キランが笑う。
「まだ動かないね」
ミカイラがコールを見る。
「それって悪くない?」
「いや」
キランが身を乗り出す。
「グリッドタウンが自分のことを忘れるのを待ってるんだ」
レイモンドが眉をひそめる。
「得点が四点になる奴を忘れるのは難しいだろ」
「その通り」
キランが指を差す。
「だからレクソールが何人をコールにつけてるか見て」
コートの反対側では――
グリッドタウンのブレイカー二人が、不自然なほどコールの近くに残っていた。
ペリーとシールド。
ダイアンとブリック。
二人とも進行中のプレーへ完全には参加していない。
ミカイラが理解する。
「コールにボールを渡さないためだけに、ディフェンダーを二人も使ってるのね」
「そう」
キランが笑う。
「ヴェンターの面白いところだよ」
マッハが彼を見る。
「あなたの『面白い』の定義には、依然として疑問があります」
キランが笑う。
グリッドタウンの現在のダッシャー――
ヴィン――
がボールを持っていた。
スポイラーが隣を走る。
ジョジョが近づく。
ヴィンが笑った。
投げる。
ジョジョがインターセプトを狙う。
その瞬間――
ヴィンの肩が彼へ激突した。
**ドン!**
ジョジョが吹き飛ぶ。
観客が息を呑んだ。
「おおっ!」
ボールはそのままメグの手へ飛ぶ。
メグが回転。
ブラーが隣から一気に飛び出す。
メグが蹴る。
**ドン!**
ボールがゴールへ一直線に飛ぶ。
**シュン!**
そのまま通過。
スコアボードが変わった。
**PILOTS — 16**
**ACES — 18**
グリッドタウン側の観客席が爆発的な歓声に包まれる。
レクソール監督が笑った。
その隣では――
ブリッツがさらに嬉しそうな顔をしている。
キランの笑みが消えた。
ミカイラが気づく。
「今の合法?」
キランが少しためらう。
「一応ね」
レイモンドが眉をひそめる。
「そうは見えなかったぞ」
「ヴィンが接触した時、ジョジョはボールを持ってた」
キランの視線はコートから離れない。
「肩からの当たりもクリーンだった」
マッハが付け加える。
「反則となる接触位置より、およそ六センチ下でした」
レイモンドが見つめる。
「やけに具体的だな」
「意図的だったからです」
キランが頷く。
「それがレクソールのやり方なんだ」
ジョジョがゆっくり立ち上がる。
ダートが心配そうに隣へ浮かぶ。
「大丈夫?」
ジョジョが肩をさする。
「うん」
サイドラインからロイド監督が叫ぶ。
「ジョジョ!」
ジョジョが片手を上げる。
「大丈夫!」
ロイドは納得していない様子だった。
キランも同じだった。
審判がプレーを再開させる。
コールがジョジョへ近づく。
「本当に大丈夫?」
ジョジョが頷く。
「取り返そう」
コールが笑う。
「それが聞きたかった」
ホイッスル。
**ピーッ!**
パイロッツが動く。
トフがボールを持つ。
走る。
グリッドタウンのブレイカーが近づく。
バイロン。
ラッシュがその隣をついていく。
トフがパス。
ロキーがキャッチ。
すぐ前方へ蹴る。
スカイラーがパスを受ける。
観客が立ち上がった。
キランの目が見開かれる。
「そこ!」
スカイラーにはシュートコースが開いていた。
投げれば。
一点。
蹴れば。
二点。
だが――
彼女はコールを見た。
キランが笑う。
「ああ、狙ってる」
ミカイラが二人を見比べる。
「何を?」
「四点」
スカイラーが後方へ投げる。
コールがキャッチ。
グリッドタウンのディフェンス全体が反応した。
一瞬で。
「ヴェンター!」
四人が一斉に集まる。
コールが加速。
ジュークが隣を飛ぶ。
観客が叫ぶ。
「コール!」
「行け!」
「行け!」
ペリーが進路へ入る。
コールが方向転換。
右からダイアン。
コールが左へ加速。
バイロンが突っ込む。
コールが回転してかわす。
キランの笑みが大きくなる。
「いいぞ!」
コールがグリッドタウン陣内へ入った。
あと一つ。
一本の道さえ開けば。
四点。
レクソールが立ち上がる。
「止めろ!」
ピートが動いた。
フューリーが隣につく。
コールが身体を低くする。
ジュークが加速。
二人が突っ込む。
ピートが正面に立ちはだかる。
コールは減速しない。
ミカイラの目が見開かれる。
「ぶつかる!」
キランが身を乗り出す。
「行け……」
**ドン!**
衝突音がアリーナ中へ響いた。
コールの車椅子がねじれる。
ピートが後ろへよろめく。
ボールが飛び出した。
「くそ!」
コールが手を伸ばす。
遅い。
ビフがキャッチ。
ドリフトが加速する。
ターンオーバー。
エーシズが即座にカウンターへ移った。
キランの表情が落ちる。
「スナット」
数秒後――
ビフはコートの半分を突破。
投げる。
**シュン!**
ゴール。
一点。
**PILOTS — 16**
**ACES — 19**
グリッドタウン側が沸き上がる。
レクソールが拍手する。
ブリッツは誇らしげに腕を組んだ。
ロイド監督がピートを見る。
そしてコール。
コールはまだ衝突から立て直しているところだった。
ロイドが審判へ振り返る。
「今のはやりすぎだ!」
審判が首を振る。
「正当な接触です!」
「車椅子を狙っただろ!」
「用具への反則行為ではありません!」
ロイドがコートを指す。
「真正面からぶつかったんだぞ!」
「得点を阻止するための接触です」
ロイドが凝視する。
「冗談だろ」
審判は離れていった。
ロイド監督がコートの向こう側を見る。
レクソールがこちらを見ていた。
目が合う。
レクソールが笑う。
そしてゆっくり肩をすくめた。
ロイドの表情が険しくなる。
キランはそのやり取りをすべて見ていた。
「なるほど」
ミカイラが彼を見る。
「あれがライバル?」
キランが彼女を見る。
「え?」
レクソールを指す。
「話してた人」
キランが眉をひそめる。
「何も言ってないけど」
「言わなくても分かるわ」
レイモンドが笑う。
「ここ五分ずっと睨んでるからな」
マッハが訂正する。
「七分四十三秒です」
キランがマッハを見る。
「誰の味方なの?」
「真実です」
キランがため息をつく。
ミカイラがレクソールを見る。
「それで、誰なの?」
キランはしばらく黙っていた。
そして――
「レクソール」
「レクソールだけ?」
「みんなそう呼んでた」
マッハが付け加える。
「通常は、その前にもっと聞こえの悪い言葉がいくつかついていました」
キランが笑う。
「それも本当」
再びコートを見る。
「同じ学校だったんだ」
ミカイラが瞬きをする。
「ここ?」
「いや」
キランがロイドを指す。
「僕とロイドがパイロッツだった」
「ロイド監督がチームメイトだったの?」
「そう」
キランがわずかに笑う。
「彼のお父さんが僕たちの監督だった」
「マーカス・フリート」
その名前が記憶を呼び戻す。
ロッカールーム。
観客の歓声。
痣。
練習。
午前二時に修理されるマッハ。
顔を真っ赤にして怒鳴るフリート監督。
そしてレクソール――
いつもレクソール。
ミカイラが笑う。
「じゃあ、この試合は本当に昔を思い出させるのね」
キランの笑みが弱くなる。
「特にこの試合はね」
レイモンドが気づく。
「どうしてだ?」
キランがグリッドタウン側を示す。
「レクソールは僕のライバルだった」
マッハがブリッツを見る。
「そしてブリッツは私のライバルでした」
ミカイラが彼を見る。
「あなたにもスポーツのライバルがいたの?」
マッハは侮辱されたような顔をする。
「当然です」
キランが笑う。
「ブリッツは隙があればマッハに体当たりしてた」
マッハの表情が険しくなる。
「グリッドタウン戦のほぼ毎回、私は試合後に修理を必要としました」
レイモンドがコートを見る。
「どうやら何も変わってないみたいだな」
「うん」
キランはピートが別のパイロットを壁へ叩きつけるのを見た。
**ドン!**
審判はプレーを続行させる。
「何一つ変わってない」
試合はどんどん荒れていった。
反則ではない。
そこが問題だった。
エーシズは境界線を正確に理解している。
そして、それを越えずにどこまで近づけるかも。
ロキーがパスを取りにいく。
トリクシーがインターセプト。
そのまま肩をロキーへ叩き込み、転倒させる。
**ドン!**
合法。
フレディがバイロンをブロック。
バイロンは身体をひねりながら、動作の中で肘をフレディの胸へ叩き込む。
**ドスッ!**
合法。
スカイラーがボールを取る。
ダイアンが即座にぶつかる。
**ガン!**
合法。
また。
また。
また。
すべての接触には、技術的には目的があった。
すべての衝突には正当化できる理由があった。
すべての動きがルールブックの範囲内に収まっている。
そして、その一つ一つが必要以上に痛かった。
キランの表情が暗くなる。
「わざとやってる」
ミカイラは足を引きずりながらフォーメーションへ戻るスカイラーを見た。
「そうみたいね」
「ただ荒っぽくプレーしてるんじゃない」
キランが指を差す。
「少しずつ削ってるんだ」
レイモンドが頷く。
「消耗戦か」
「その通り」
マッハが両チームを分析する。
「パイロッツの平均移動速度は前半開始時から十一パーセント低下しています」
ミカイラが眉をひそめる。
「エーシズは?」
「二パーセント未満です」
キランが背もたれへ身体を預ける。
「やっぱりね」
戦略は単純だった。
ぶつける。
ぶつける。
ぶつける。
ペナルティになるほどではない。
退場になるほどでもない。
だが最後には――
相手がついてこられなくなる程度には。
また一人パイロットが倒れる。
今度は――
マイケル。
**ドン!**
ホイッスルが鳴る。
ロイド監督が駆け寄る。
「マイケル!」
マイケルが起き上がる。
ストライクが隣に浮かぶ。
ロイドが審判を見る。
「これで三人目だぞ!」
審判がため息をつく。
「監督――」
「三人だ!」
「全員プレー可能と判断されています」
「頑固すぎて下がろうとしないだけだ!」
審判がロイドを指す。
「発言に気をつけてください」
ロイドが苦々しく笑う。
「俺に気をつけろだと?」
エーシズを指す。
「あいつらを見ろよ!」
コートの向こうからレクソールが叫ぶ。
「もっとマシに鍛えろ!」
ロイドがゆっくり振り向く。
レクソールが笑っている。
その隣でブリッツも笑っていた。
ロイドが歯を食いしばる。
キランはその表情をすぐに理解した。
「まずい」
ミカイラが彼を見る。
「何?」
「ロイド、まだ短気なんだ」
レイモンドが笑う。
「昔はひどかったのか?」
キランが笑う。
「審判と口論して、お父さんにベンチへ下げられたことがある」
マッハが付け加える。
「三試合連続で」
キランが頷く。
「懐かしいね」
眼下では――
ロイドがコートの向こうを指す。
「もう一回言ってみろ!」
レクソールが耳へ手を当てる。
「もっと!」
叫ぶ。
「マシに!」
「鍛えろ!」
観客席が沸き上がる。
審判が二人の間へ入った。
「そこまで!」
ロイドが下がる。
ギリギリで。
レクソールはベンチへ戻った。
笑いながら。
キランは彼を見ていた。
あの笑み。
昔と同じ。
何年経っても――
まったく同じ。
後半は虐殺になった。
文字通りではない。
だが、それに近かった。
パイロッツは遅くなる。
エーシズは遅くならない。
グリッドタウンが得点。
また。
そしてまた。
スロー。
一点。
キック。
二点。
ラン。
三点。
そして――
ロイがボールを持った。
キランの目が見開かれる。
「スナット」
グリッドタウンのヴェンターが飛び出した。
ラフハウスが隣で加速する。
パイロッツが守備を固めようとする。
だが疲れ切っていた。
ロイが突破。
コールが止めに入る。
二人のヴェンターが正面から突っ込む。
**ドン!**
コールが横へ回転する。
ロイは止まらない。
そのままゴールゾーンを横切った。
ブザーが鳴る。
**ブワァァァァ!**
四点。
グリッドタウン側の観客席が爆発的に沸き上がった。
スコアがさらに伸びる。
キランが見つめる。
「終わった」
ミカイラが時計を見る。
「まだ六分あるわよ」
「関係ない」
パイロッツを見る。
「もう限界だ」
そして、その通りだった。
試合終了のブザー。
**ブワァァァァァァ!**
スコアボードが止まる。
**CITRON ACADEMY PILOTS — 21**
**GRIDTOWN ACES — 43**
グリッドタウン側が歓声に包まれる。
エーシズが勝利を祝う。
ロイが両腕を上げる。
ラフハウスが彼の周囲を回る。
トリクシーがビフの背中へ飛び乗る。
ピートが観客へ向かって叫ぶ。
レクソール監督が笑う。
ブリッツがコートの向こうを見る。
真っ直ぐキランへ。
マッハが気づく。
「キラン」
「見えてる」
ブリッツの笑みが大きくなる。
そして――
マッハへ小さく手を振った。
マッハが凝視する。
キランがゆっくり彼を見る。
「大丈夫?」
「人工知能をこれほど殴りたいと思ったことはありません」
キランが笑う。
「それでこそマッハ」
コートでは――
パイロッツは完全に打ちのめされていた。
コールは車椅子の背もたれへ頭を預けている。
ジョジョは肩へアイスパックを当てていた。
スカイラーは床に座っている。
マイケルはストライクにもたれていた。
誰も何も言わない。
それでもホームの観客たちは拍手を送った。
キランは車椅子でできる限り身体を起こす。
「頑張ったぞ、パイロッツ!」
コールが観客席を見る。
キランが拍手する。
「顔を上げろ!」
マッハも加わる。
ミカイラが立つ。
レイモンドも。
やがて――
他のシトロンファンたちも加わった。
拍手が大きくなる。
コールが周囲を見る。
そして弱々しく笑った。
パイロッツが集まる。
敗北した。
痣だらけ。
疲れ果てている。
それでも一緒だった。
ミカイラが座る。
「見てるのがつらかった」
レイモンドが頷く。
「汚い勝ち方だ」
キランがコートの向こうを見る。
レクソールとブリッツが去っていく。
「違う」
レイモンドが彼を見る。
キランの表情が険しくなる。
「あれがレクソールの勝ち方なんだ」
マッハがかつてのライバルを見る。
「何も変わっていません」
キランが頷く。
「何一つね」
ロッカールームは静かだった。
とても静か。
キランがマッハと入る。
選手たちは部屋のあちこちに座っていた。
誰も祝っていない。
誰も冗談を言わない。
何人も痣を冷やしている。
コールはジュークの隣にいた。
顔を上げる。
「キリアン先生?」
キランが笑う。
「入っていい?」
ロイド監督がオフィスから出てくる。
立ち止まる。
そして笑った。
「こりゃ驚いた」
キランがニヤリとする。
「ロイド」
ロイドが歩いてくる。
二人は手を握る。
そのままロイドが軽く抱きしめた。
「何年ぶりだ?」
「長すぎるね」
ロイドがマッハを見る。
「まだこいつに付き合ってるのか?」
マッハが微笑む。
「誰かが面倒を見なければなりませんので」
キランが凝視する。
「みんなコメディアンだね」
ロイドが笑う。
一瞬――
敗北の空気が消えた。
だが、彼がチームを見る。
笑みが弱くなる。
「ひどい夜だった」
キランもその視線を追う。
「うん」
コールが俯く。
「俺たち、最悪だった」
キランはすぐに眉をひそめた。
「違う」
コールが顔を上げる。
「負けたんだ」
キランがロッカールームの中央へ進む。
「それは別の話だよ」
誰も答えない。
キランが周囲を見る。
「君たちは九十分間、徹底的に身体をぶつけてくるチームと戦った」
ジョジョが肩をさする。
「もっと長く感じました」
何人かが弱々しく笑う。
よし。
キランは続ける。
「それでも最後までプレーした」
スカイラーがため息をつく。
「二十二点差で負けました」
「うん」
キランが頷く。
「そこは最悪だった」
ロイドが笑う。
キランは続ける。
「でも、負けたからって下手ってことじゃない」
コールを見る。
「負けたっていうのは、相手にやられたってことだ」
「次は、なぜやられたのかを考える」
「そして直す」
コールが彼を見る。
ロイドが腕を組む。
「聞いといたほうがいいぞ」
チームがロイドを見る。
彼が笑う。
「キランは現役時代、シトロン・アカデミー最高のヴェンターだった」
キランは即座に居心地悪そうな顔をする。
「ちょっと」
ロイドは続ける。
「俺が見た中で一番速かった」
「ロイド」
「勘も最高だった」
「ロイド」
「四点ランなんて簡単みたいに決めてた」
キランがため息をつく。
マッハが笑う。
「何度もクラッシュした事実を省略しています」
キランが指を差す。
「ありがとう」
ロイドが笑う。
コールは感心したようだった。
「本当にそんなにすごかったんですか?」
キランがマッハを見る。
そして笑う。
「僕たちがね」
マッハが彼を見る。
キランは続ける。
「マッハがいなかったら、何一つできなかった」
マッハの表情が柔らかくなる。
ロイドが頷く。
「それでこそ俺の知ってるキランだ」
キランが選手たちを見る。
「だから、完璧じゃなきゃいけないなんて思わなくていい」
ジュークを指す。
「ダート」
「スリック」
「スウィフト」
「ミラージュ」
そして他のVentたち。
「ストライク」
「フレックス」
「マーキー」
「フォース」
Ventたちが彼を見る。
「君たちには仲間がいる」
キランは人間の選手たちを見る。
「頼るんだ」
「お互いを信じる」
「それで次にレクソールが力任せに潰そうとしてきたら……」
笑みが浮かぶ。
「……後悔させてやればいい」
コールが笑う。
「どうやって?」
キランが笑う。
「それは監督の仕事」
ロイドが凝視する。
「ありがとな」
キランがニヤリとする。
「いつでも」
その後――
キランとロイドはロッカールームの外に立っていた。
マッハが近くで待っている。
ロイドが腕を組む。
「今度ゆっくり話そう」
キランが頷く。
「絶対に」
「本気だぞ」
「僕も」
ロイドが笑う。
「長すぎた」
キランがコートを見る。
「大丈夫?」
ロイドは、その質問の本当の意味を理解した。
ため息をつく。
「来週までに何人残ってるか分かったら、もう一回聞いてくれ」
キランが眉をひそめる。
「そんなにひどい?」
「ほとんど痣だけだ」
ロイドがロッカールームを見る。
「でもレクソールは……」
キランが続きを言う。
「変わってない」
「そうだ」
ロイドの表情が険しくなる。
「まったくな」
キランが頷く。
「また話そう」
ロイドが笑う。
「ああ」
二人は別れた。
キランとマッハが外へ向かう。
駐車場近くにはグリッドタウンのチーム用ホバーバスが待っていた。
エーシズの選手たちが乗り込んでいく。
笑いながら。
勝利を祝いながら。
キランはそのまま通り過ぎるつもりだった。
その時――
「キリアン」
止まる。
マッハも止まる。
キランがゆっくり振り返った。
バスの近くにレクソールが立っていた。
その隣にはブリッツ。
年月はレクソールを変えていた。
歳を重ね。
身体も大きくなり。
こめかみには少し白髪。
だが、あの笑みだけは――
まったく同じだった。
「レクソール」
レクソールがキランを眺める。
「まだ転がってるか」
キランが笑う。
「まだ息してるよ」
ブリッツがマッハを見る。
「マッハ」
マッハの表情が明らかに険しくなる。
「ブリッツ」
レクソールが笑う。
「見ろよ、俺たち」
二人の間を示す。
「すっかり大人になった」
キランがエーシズを見る。
「一部はね」
レクソールの笑みが大きくなる。
「それだよ」
キランが近づく。
「本当にあそこまで荒くやる必要あった?」
レクソールが肩をすくめる。
「たぶんなかったな」
キランが見つめる。
ブリッツが答える。
「でも楽しかった」
マッハの表情が険しくなる。
キランがレクソールを見る。
「あの子たちは子供だ」
「俺たちもそうだった」
「だから言ってるんだ」
ほんの一瞬――
二人の間に何かが走った。
昔の記憶。
昔の怒り。
レクソールが笑う。
「それでも俺たちは生き残った」
キランの表情が暗くなる。
「全員が無傷で終われたわけじゃない」
レクソールの笑みがわずかに消えた。
ブリッツがレクソールへ近づく。
マッハもキランへ近づいた。
突然、駐車場が狭く感じられた。
レクソールがキランの車椅子を見る。
「まだ自分のほうが俺より上だと思ってるのか?」
キランが見つめる。
「いや」
レクソールが眉を上げる。
キランが笑う。
「そうだと知ってる」
ブリッツのシステムが低く唸る。
マッハの目が細くなる。
レクソールが前へ出る。
「だったら証明しろ」
キランのプラズマシステムが静かに起動した。
マッハが彼を見る。
レクソールの車椅子が動く。
ブリッツは待ちきれないような表情を浮かべる。
危険な一秒間――
二十年という歳月が消えたようだった。
二人のヴェンター。
二体のVent。
二人のライバル。
ずっと昔に終わっているはずだった何かに、決着をつけようとしている。
だがキランは武器を解除した。
レクソールが眉をひそめる。
キランが首を振る。
「やらない」
「何?」
「こんなことしないよ」
レクソールが笑う。
「怖いのか?」
「違う」
キランが学校を見る。
「もう十六歳じゃないんだ」
マッハが微笑む。
キランは続ける。
「駐車場で君を殴り倒して、何かを証明する必要なんてない」
レクソールが見つめる。
そして笑う。
「臆病者」
ブリッツも笑う。
「臆病者たち」
マッハの表情が強張る。
キランが背を向ける。
「行こう、マッハ」
マッハはためらった。
それからついていく。
背後から――
レクソールが叫んだ。
「相変わらず逃げるんだな、キリアン!」
キランが止まる。
マッハが彼を見る。
キランは振り返らない。
しばらくして――
そのまま前へ進んだ。
マッハがついていく。
「難しかったでしょう」
「想像もつかないよ」
「つきます」
キランがわずかに笑う。
「確かに」
ミカイラとレイモンドがアリーナから出てきた。
キランとマッハに気づく。
ミカイラはすぐキランの表情に気づいた。
「大丈夫?」
「うん」
レイモンドが二人の後方を見る。
グリッドタウンのホバーバスが空へ上がっていく。
眉を上げる。
「本当に?」
キランがため息をつく。
「昔の学校のライバル」
ミカイラが飛び去るバスを見る。
「それだけ?」
キランがためらう。
そして――
「それだけ」
マッハが彼を見る。
だが何も言わなかった。
レイモンドが肩をすくめる。
「分かった」
ミカイラが笑う。
「帰る?」
キランは友人たちを見る。
そして夜空へ。
「うん」
笑う。
「家に帰ろう」
四人はアリーナから離れていった。
その背後では――
巨大な窓越しに、まだスコアボードが光っている。
**21 — 43**
キランは一度だけ振り返った。
レクソール。
ブリッツ。
エーシズ。
昔のライバル関係。
もう終わった。
ただの過去。
それ以上のものではない。
そう自分に言い聞かせた。
残念ながら――
歴史というものは、繰り返すのが大好きだった。




