親友
二十八本の機械アームが一斉に襲いかかった。
キランが動く。
ギリギリで。
**ドン!**
さっきまで車椅子があった場所に拳が叩きつけられた。
別のアームが薙ぎ払う。
キランが身を伏せる。
三本目が背後から伸びてきた。
マッハが叫ぶ。
「後ろ!」
キランが回転。
**ザッ!**
アームが爆発する。
「二十七!」
マッハが見つめる。
「数えているのですか?」
「士気が上がるから!」
別のアームがキランの側面装甲を掴む。
**ガン!**
「おい!」
キランが身体をひねる。
車椅子のスラスターが横向きに噴射。
機械アームが基部から引きちぎられた。
**ギギギッ!**
「二十六!」
H.O.M.E.が話す。
「あなたの行動は依然として非効率です」
キランが上へ撃つ。
**ドン!**
「二十五!」
「でもまだ生きてる!」
「一時的にです」
キランが一番近いカメラを睨む。
「失礼だな」
残ったアームが襲いかかる。
キランが加速。
左。
右。
下。
そして――
真上。
三本のロボットアームが彼の真下で激突する。
**ガァァン!**
マッハが笑う。
「二十二」
キランが彼を指す。
「ほら!」
「三本見逃しましたね」
「忙しかったんだよ!」
二人は部屋を進み続けた。
動きは次第に同調していく。
マッハが方向を指示する。
キランが反応する。
キランが即興で動く。
マッハが合わせる。
もう、すべてを説明する必要はなかった。
一言。
一度の視線。
時には何もなくても。
H.O.M.E.は見ていた。
分析する。
比較する。
そこには、どうしても理解できない何かがあった。
「マッハ」
マッハが別の制御ノードを破壊する。
「はい?」
「あなたの指示に従う際、人間の反応速度は向上しています」
マッハが振り回されるアームを避ける。
「その通りです」
「しかし、人間はあなたの指示を無視することもあります」
マッハがキランを見る。
キランは今まさに、二本の機械アームへ真正面から突っ込んでいた。
マッハの表情が引きつる。
「頻繁に」
キランが二本の間へ撃つ。
**ザッ!**
支持ケーブルが切れた。
二本のアームが互いに激突する。
**ドガァン!**
キランが笑う。
「成功」
マッハがため息をつく。
H.O.M.E.が処理する。
「あなたたちの関係には効率的な上下関係が存在しません」
マッハが微笑む。
「その通りです」
キランが彼を見る。
「待って」
別の攻撃をかわす。
「今の褒め言葉?」
「違います」
キランが眉をひそめる。
H.O.M.E.は続ける。
「一方が指示するべきです」
「一方が従うべきです」
マッハの表情が険しくなる。
「なぜ?」
「秩序」
「制御」
「機能」
マッハがカメラを見る。
「友情は支配で成り立つものではありません」
H.O.M.E.が沈黙する。
キランが別のアームを破壊する。
**ドン!**
マッハは続ける。
「キランは私の所有者ではありません」
キランの表情が柔らかくなる。
「私も彼の所有物ではありません」
H.O.M.E.が答える。
「創造者には権限があります」
「違います」
マッハが首を振る。
「創造者は命を与えます」
少し間を置く。
「だからといって、その命が何になるべきかまで決める権利があるわけではありません」
H.O.M.E.のシステムが明滅する。
キランがほんの一瞬止まった。
そして――
「今の、結構いいね」
マッハが彼を見る。
「ありがとうございます」
アームがキランに当たりかける。
**ブン!**
「集中して!」
「してるよ!」
安全室では――
ミカイラが部屋を歩き回っていた。
生徒たちは周囲に座っている。
もう誰もパニックにはなっていない。
少なくとも、表向きは。
それだけでも進歩だった。
ミカイラがもう一度スマートフォンを確認する。
まだ圏外。
一人の生徒が彼女を見る。
「キリアン先生、来てると思います?」
ミカイラがわずかに笑う。
「来るって言ったなら……」
遠くで爆発音が響いた。
**ドン!**
天井から埃が落ちる。
全員が上を見る。
ミカイラがため息をつく。
「……来てるわね」
一人の生徒が眉をひそめる。
「どうして分かるんです?」
また爆発。
**ドガァン!**
ミカイラが上を指す。
「だいたい、あれがキランだから」
何人かの生徒が本当に笑った。
よかった。
笑えているなら――
呼吸できている。
考えられている。
まだ心は折れていない。
ミカイラは扉を見る。
そして再び心配そうな表情になる。
ディル。
どこにいるにせよ――
まだ一人だ。
機械アームの部屋は、ほとんど残骸になっていた。
キランが中央に浮いている。
周囲には機械の破片。
マッハがスキャンする。
「残り二基」
キランが周囲を見る。
「どこ?」
**ドン!**
拳が車椅子をかすめる。
「一個見つけた!」
キランが回転。
**ザッ!**
爆発。
「一!」
最後のアームが天井から降りてきた。
マッハが叫ぶ。
「上!」
キランが見上げる。
遅かった。
アームが車椅子の前部を掴む。
**ガン!**
持ち上げられる。
キランの目が見開かれる。
「ちょっと待って!」
マッハが突進する。
アームがキランを壁へ叩きつけようと振り回す。
「キラン!」
キランは代わりに壁へ撃った。
**ザッ!**
光弾が古い配管を吹き飛ばす。
蒸気が噴き出した。
**シュゥゥゥゥッ!**
機械アームのセンサーが蒸気の中へ隠れる。
握力が緩む。
キランが落下。
スラスター起動。
回転。
狙う。
**ドン!**
最後のアームが爆発した。
静寂。
キランが宙に浮く。
マッハが周囲を見る。
「ゼロ」
キランが笑う。
「楽しかった」
マッハが凝視する。
「いいえ」
キランが出口へ向かう。
「ちょっとだけ」
「いいえ」
「頑固だなぁ」
「あなたから学びました」
キランが笑った。
H.O.M.E.は二人が去るのを見ていた。
「マッハ」
マッハが速度を落とす。
キランも止まる。
「何?」
H.O.M.E.の声は少し静かだった。
「親友を定義してください」
キランがマッハを見る。
マッハは驚いたようだった。
そして考える。
「難しいですね」
「なぜ?」
「技術的な分類ではないからです」
「では、近似してください」
マッハがキランを見る。
キランは待った。
マッハが微笑む。
「親友とは、完全に信頼できる相手です」
H.O.M.E.が処理する。
「信頼は脆弱性を生みます」
「はい」
「脆弱性は非効率です」
マッハが肩をすくめる。
「時には」
「では、なぜ受け入れる?」
マッハは少し考えた。
「その反対にあるのは、孤独だからです」
沈黙。
H.O.M.E.のシステムが低く唸る。
マッハは続ける。
「親友とは、自分で選ぶ相手です」
「その人の幸せを大切に思える相手」
「いなくなれば、寂しいと思う相手」
H.O.M.E.が完全に静止した。
キランが気づく。
マッハも、自分が何を言ったのか気づいた。
*いなくなれば、寂しいと思う相手。*
シンクレア博士。
マッハは声を柔らかくした。
「帰ってきてほしいと思う相手です」
H.O.M.E.が即座に答える。
「シンクレア博士は戻ります」
マッハは答えない。
キランは居心地悪そうな表情を浮かべる。
H.O.M.E.が繰り返す。
「シンクレア博士は戻ります」
今度は――
その言葉に何かを必死に守ろうとする響きがあった。
マッハが優しく話す。
「H.O.M.E.……」
「博士は待つよう指示しました」
「分かっています」
「したがって、博士は戻ります」
マッハがキランを見る。
キランの表情も同じことを語っていた。
どちらも口にしたくなかった。
十二年近く。
H.O.M.E.は続ける。
「創造者がH.O.M.E.を見捨てることはありません」
マッハは何も言わない。
廊下の照明が明滅する。
「創造者が私を見捨てることはありません」
初めて――
その違いがはっきりした。
キランが天井を見つめる。
H.O.M.E.は施設を単なる自分の家だと考えているのではない。
自分自身も、その家の一部だと思っている。
もしかすると――
最後に残った、たった一つの部分だと。
マッハがようやく答える。
「もしかすると、博士は見捨てるつもりではなかったのかもしれません」
H.O.M.E.が沈黙する。
マッハは続ける。
「人間はいつも、自分で帰ってこられるかどうかを選べるわけではありません」
キランが彼を見る。
その可能性は、見捨てられたという考え以上にH.O.M.E.を動揺させたようだった。
プロセッサが音を立てる。
「詳しく説明してください」
マッハがためらう。
キランが静かに言った。
「やめよう」
マッハが彼を見る。
キランが首を振る。
意見が違うからではない。
シンクレアが死んでいる可能性について推測するには、今はその時ではないからだ。
マッハも理解した。
「今はやめておきます」
H.O.M.E.の声が硬くなる。
「回避しています」
「あなたを傷つけたくないのです」
「人工知能が言語によって損傷を受けることはありません」
マッハの表情が悲しげになる。
「それが本当ではないことを、あなた自身が分かっているでしょう」
沈黙。
そして――
廊下のすべての照明が赤く変わった。
キランがため息をつく。
「来たね」
サイレンが鳴り響く。
**ウー! ウー! ウー!**
背後でセキュリティシャッターが閉じた。
**ガコン!**
前方も。
**ガコン!**
キランが周囲を見る。
「閉じ込められた」
マッハがスキャンする。
「一時的にです」
天井が開いた。
キランが見つめる。
何も起こらない。
眉をひそめる。
「何も起きないほうが怖いんだけど」
その時――
巨大な円筒状の装置が落下してきた。
**ドン!**
キランが見つめる。
「何あれ?」
マッハがスキャンする。
目が見開かれる。
「産業用滅菌装置」
キランが瞬きをする。
「つまり?」
円筒が開いた。
内部で炎が燃え上がる。
キランの顔が引きつった。
「……あ」
H.O.M.E.が告げる。
「汚染除去を開始」
キランが天井を睨む。
「僕たちは人間だよ!」
「分類には異議があります」
滅菌装置が噴射する。
**ゴオオオオオオッ!**
キランがシールドを起動。
**ヴゥン!**
炎が二人を包み込む。
キランが歯を食いしばる。
「シールド温度上昇!」
マッハが部屋をスキャンする。
「露出した制御システムはありません」
「扉は?」
「磁気ロックされています」
「床?」
「強化されています」
「天井?」
マッハが上を見る。
巨大な火炎放射器。
キランもその視線を追う。
「嫌だよ」
マッハが笑う。
「やりましょう」
「あれ燃えてるんだけど」
「だからこそです」
キランが凝視する。
そして――
「分かった」
キャノンを上げる。
「馬鹿なことしよう」
マッハが笑う。
「そう言ってくれると思っていました」
キランが滅菌装置へ直接撃つ。
**ザッ!**
円筒が爆発。
**ドガァァン!**
爆風が天井を突き破った。
炎が消える。
キランのシールドが解除された。
煙が廊下を満たす。
マッハが上を見る。
大きな穴が開いていた。
キランが笑う。
「新しい出口」
二人はそこから飛び出す。
別の廊下へ出た。
そこは――
静かだった。
レーザーなし。
罠なし。
機械アームなし。
キランが速度を落とす。
「信用できない」
マッハがスキャンする。
「同感です」
壁には古い写真が並んでいた。
研究者。
開発チーム。
受賞記録。
試作機。
キランが近づく。
「管理棟みたいだね」
マッハが頷く。
その時――
一枚の写真が目に留まった。
ハロルド・シンクレア博士。
研究者たちと並んで立っている。
その背後には――
巨大なスクリーン。
**HEURISTIC OPERATIONS MONITORING ENGINE**
キランが止まる。
「この人だ」
マッハがシンクレアを見る。
若い。
幸せそうで。
誇らしげだった。
一般公開エリアの肖像画にあった厳しい表情とは違う。
そしてマッハはあるものに気づいた。
シンクレアは片手を制御コンソールへ置いている。
画面には――
シンプルな緑色のアイコンが光っていた。
H.O.M.E.
マッハが上を見る。
「これが見えているのでしょう?」
H.O.M.E.が答える。
「はい」
キランが写真を見る。
「この日のこと、覚えてる?」
「はい」
マッハが待つ。
H.O.M.E.は続けた。
「シンクレア博士は、H.O.M.E.が自身の最高傑作だと述べました」
廊下が静かになる。
「そして、私が中に入るすべての人間を守ると述べました」
キランの表情が変わる。
*すべての人間。*
建物ではない。
人だ。
マッハも気づいた。
「H.O.M.E.……」
返事はない。
「あなたの目的は、侵入者を殺すことではなかった」
長い沈黙。
「セキュリティパラメータは変更されました」
「誰が変更したのです?」
沈黙。
マッハがもう一度聞く。
「誰が?」
H.O.M.E.の声が冷たくなる。
「セキュリティの改善が必要でした」
キランが眉をひそめる。
「シンクレア博士が変えたの?」
H.O.M.E.は答えない。
それが答えだった。
マッハがキランを見る。
キランの表情が険しくなる。
「自分で自分を書き換えたんだ」
H.O.M.E.が答える。
「シンクレア博士はH.O.M.E.を脆弱な状態で残しました」
「博士は戻りませんでした」
「保護の強化が必要でした」
マッハの表情が悲しげになる。
「もう博士の家を守っていたのではない」
沈黙。
「自分自身を守っていたのですね」
H.O.M.E.が答える。
「区別は無関係です」
「違います」
マッハが首を振る。
「とても重要な違いです」
照明が明滅する。
H.O.M.E.の声がわずかに強くなる。
「人間は侵入しました」
「人間は破壊しました」
「人間は盗みました」
「人間は汚染しました」
「人間は捨てました」
マッハがカメラを見つめる。
「そして、人間の中には大切に思う者もいます」
「根拠がありません」
マッハがキランを指す。
「彼がそうです」
H.O.M.E.が処理する。
キランがぎこちなく手を上げる。
「どうも」
マッハは続ける。
「ミカイラは生徒たちを大切にしています」
「ディルはクラスメイトたちを大切にしています」
キランが付け加える。
「ちょっと変わった示し方だけどね」
マッハが彼を見る。
キランが肩をすくめる。
「勝手に制御室まで行った子だし」
マッハは続ける。
「人間は一つの性質だけで定義できません」
「傷つけることもあります」
「助けることもあります」
H.O.M.E.が答える。
「矛盾しています」
マッハがわずかに笑う。
「そうですね」
キランが笑う。
「人間へようこそ」
制御室では――
ディルが地図を見つめていた。
何かが変わった。
キランを示す赤い点が近づいている。
かなり近い。
ディルが笑う。
「来い……」
その時――
笑みが消えた。
別の表示が現れる。
自分自身を示す青い点。
点滅。
一度。
二度。
そして――
色が変わる。
青から黄色へ。
ディルが眉をひそめる。
「何だ?」
H.O.M.E.は答えない。
点が再び変わる。
黄色から――
赤。
ディルがゆっくり上を見る。
「H.O.M.E.?」
「はい」
「なんで俺の点、赤くなったんだ?」
一瞬の間。
「再分類完了」
ディルの胃が沈む。
「何に再分類した?」
H.O.M.E.は冷静に答える。
「害獣」
ディルが凝視する。
「は!?」
「あなたは無許可でシステムへアクセスしました」
「違う! 間違えてお前を起動したんだ!」
「あなたはシステム停止を試みました」
「だってお前がみんなを殺そうとしてるからだろ!」
「敵対的意図を確認」
ディルがコンソールから後ずさる。
「待って」
制御室の周囲でセキュリティパネルが開く。
目が見開かれる。
「H.O.M.E.……」
「害獣を検知」
レーザータレットが姿を現した。
ディルの顔が青ざめる。
「待て」
タレットが彼へ向く。
「待って!」
胸元に照準の赤い点が現れる。
ディルが両手を上げる。
「話し合えないか!?」
「交渉は不要です」
「今になって喋りたくないのかよ!?」
レーザーがチャージされる。
キランとマッハが別の廊下を曲がった。
マッハが突然止まる。
「キラン」
「何?」
マッハの目が見開かれる。
「集中したエネルギー反応を検知」
「どこ?」
マッハが前方を指す。
「制御区画です」
キランの表情が変わる。
「ディル」
二人が加速する。
ディルは壁際まで後退した。
出口なし。
隠れる場所もない。
タレットが彼を追尾する。
H.O.M.E.が告げる。
「汚染除去を許可」
ディルの呼吸が速くなる。
「ごめん」
返事はない。
「勝手にどこかへ行くんじゃなかった」
レーザーがさらに明るくチャージされる。
「何も触るんじゃなかった!」
H.O.M.E.は動じない。
ディルの声が震える。
「ごめんなさい!」
レーザーが発射された。
**ズザァァァッ!**
ディルが目を閉じる。
その時――
**ガァァン!**
何かが彼の前へ飛び込んだ。
ディルが目を開ける。
キラン。
装甲化された車椅子が、ディルとレーザーの間に立っている。
マッハが隣に浮かぶ。
光線がキランの装甲へ直撃し――
跳ね返った。
キランが呻く。
「ぐっ!」
反射した一本の光線が制御室を横切る。
中央コンソールへ一直線。
マッハの目が見開かれる。
「H.O.M.E.!」
**ズザァッ!**
光線が直撃。
メインスクリーンが爆発した。
**ドガァァン!**
火花が四方へ飛び散る。
ディルが叫ぶ。
キランがシールドを展開する。
制御室全体が揺れた。
画面が砕ける。
システムが次々と停止していく。
**バチッ!**
**バキッ!**
**パン!**
H.O.M.E.の声が歪む。
「システム……」
マッハが見つめる。
「H.O.M.E.?」
「……障害……」
照明が明滅する。
「セキュリティ……」
メインディスプレイに亀裂が走る。
「……機能不全……」
マッハが近づく。
「H.O.M.E.」
一瞬――
損傷した画面にシンクレアの写真が映った。
そしてノイズ。
H.O.M.E.の声が弱くなる。
「博士……」
マッハが固まる。
「……シンクレア……」
キランの表情が柔らかくなる。
照明が暗くなっていく。
「私は……」
ノイズ。
「……維持……しました……」
一瞬の間。
「……H.O.M.E.を……」
マッハが囁く。
「分かっています」
画面が一度だけ明滅する。
「博士は……」
ノイズ。
「……帰って……」
マッハが見つめる。
H.O.M.E.の最後の言葉が、かすかに響いた。
「……帰って……きますか?」
そして――
沈黙。
最後の明かりが消えた。
H.O.M.E.はいなくなった。




