H.O.M.E.へようこそ
**ザッ!**
キランが動いた。
**ヴォシュッ!**
レーザーが車椅子を数センチの差で外れる。
もう一発。
**ザッ!**
右へ急旋回。
三発目。
四発目。
そして――
全部。
「うわっ!」
**ザッ! ザッ! ザッ!**
キランはロビーを高速で駆け抜けた。
レーザーがどこまでも追ってくる。
壁が爆発する。
床のタイルが砕ける。
古い展示物が切り裂かれる。
マッハが隣を飛ぶ。
「左!」
キランが左へ曲がる。
**ズザァッ!**
光線が車椅子の後ろを通過する。
「右!」
右へ。
また外れる。
「上!」
キランが上昇する。
車椅子がギリギリで光線をかわした。
「下!」
キランが急降下する。
「どれか一方向に決められないの!?」
「そうすれば狙いやすくなります!」
「確かに!」
キランはさらに連続する光線の間をひねるように飛び抜けた。
マッハがセキュリティシステムを分析する。
「稼働中のタレットは十四基」
キランが目を見開く。
「十四!?」
「十三」
一基のタレットが爆発する。
**ドン!**
キランが笑う。
「マシになった」
撃つ。
**ズィン!**
もう一基が爆発。
「十二」
「そのまま数えて!」
キランが回転する。
発射。
**ドン!**
「十一」
H.O.M.E.の声は完璧に冷静だった。
「侵入者の抵抗能力が予測値を超過」
キランが別のタレットを撃つ。
**バキン!**
「十」
H.O.M.E.は続ける。
「再評価が必要」
マッハが上を見る。
「我々を無害な訪問者として再評価してはいかがでしょう」
「要求を拒否します」
マッハが眉をひそめる。
「そうだと思いました」
残ったタレットが突然収納された。
キランが止まる。
周囲を見る。
「勝った?」
マッハがスキャンする。
「いいえ」
「なんで分かるの?」
床が開いた。
キランが下を見る。
「……あ」
足元の巨大な床面が消える。
キランは即座にスラスターを起動した。
**ヴォシュッ!**
上空へ飛び上がる。
マッハも続く。
その下には――
何階分もの深さがある巨大な穴。
底から金属製の杭が突き出していた。
キランが見つめる。
「本気?」
H.O.M.E.が答える。
「はい」
キランが天井を見る。
「普通のセキュリティシステムなら警察呼ぶだけなんだけど」
「法執行機関の応答時間は非効率と判断されました」
キランが頷く。
「だろうね」
壁が開く。
機械の腕がキランへ伸びてきた。
「キラン!」
「見えてる!」
一本が車椅子の側面を掴む。
**ガン!**
キランが横へ引っ張られる。
「離せ!」
別の腕が伸びてくる。
マッハがその下へ飛ぶ。
「プラズマキャノン、四十三度!」
キランが撃つ。
**ザッ!**
腕が爆発する。
最初の腕も彼を放した。
キランが加速する。
「行こう!」
二人は廊下へ飛び込んだ。
背後では――
床が勢いよく閉じる。
**ドガァン!**
キランが振り返る。
「ここ、本当に一般公開されてたの?」
マッハが隣を飛ぶ。
「そのようです」
「子供、何人くらい来てたんだろ」
「来場者記録は所有していません」
「知らないほうがよさそうだね」
制御室では――
ディルがすべてを見ていた。
口を開けたまま。
複数の画面には、研究所内を高速で進むキランが映っている。
「うわ……」
H.O.M.E.は何も言わない。
キランが別のセキュリティドローンを撃破する。
**ドン!**
ディルが画面へ顔を近づける。
「あれ、キリアン先生だ!」
「身元不明」
「うちの学校の先生だよ」
H.O.M.E.が情報を処理する。
「職業は無関係です」
ディルが見つめる。
「英語の先生」
「職業は極めて無関係です」
ディルが瞬きをする。
「うわ」
少し笑いそうになる。
「今のちょっと面白かった」
H.O.M.E.は反応しない。
ディルが別の画面を見る。
キランの隣にマッハが映っていた。
ディルは彼も知っている。
「それに、あれはマッハ」
「人工知能の識別名称ですか?」
「そう」
ディルが笑う。
「かっこいいんだよ」
H.O.M.E.の注意はマッハへ向けられたままだった。
「人工知能が自発的に人間の侵入者へ同行」
ディルが肩をすくめる。
「いつも一緒だよ」
「説明してください」
「友達だから」
沈黙。
ディルが天井を見る。
「H.O.M.E.?」
「発言の検証が必要です」
ディルが眉をひそめる。
「どの発言?」
「人工知能と人間の友情」
ディルが見つめる。
「何がおかしいんだ?」
「すべてです」
ディルの笑みが消えた。
キランとマッハは廊下の突き当たりへ到達した。
強化セキュリティドアが降りる。
**ガコン!**
キランが止まる。
「最高」
マッハがスキャンする。
「強化合金、厚さ二十二センチ」
キランがキャノンを展開する。
「二十二センチの未来のスクラップだね」
「キラン――」
**ズィィィン!**
**ドガァァン!**
扉が爆発する。
マッハが煙の向こうを見る。
「たまには最後まで言わせていただけませんか」
キランが飛び抜ける。
「何言うか分かってたから」
「絶対に分かっていませんでした」
「たぶん構造強度とかでしょ」
「緊急アクセスパネルを使用するよう提案するつもりでした」
キランが止まる。
破壊された扉を見る。
そしてマッハを見る。
「……あ」
マッハが彼の横を通り過ぎる。
「その通りです」
キランもついていく。
「僕のほうが速かった」
「間違いなく、あなたのほうがうるさかったです」
H.O.M.E.が話す。
「あなたの行動は非効率です」
キランが上を見る。
「聞いてない」
「施設設備の破壊は不要な問題を発生させます」
キランが凝視する。
「僕を殺そうとしてるよね!?」
「その通りです」
「それなのに設備の心配してるの?」
「それもその通りです」
キランが首を振る。
「スマートビルって嫌い」
マッハが面白そうに見る。
「あなたは頻繁に自宅のアパートと会話しています」
「それは違う」
「どう違うのです?」
「僕のアパートは僕を害獣って呼ばない」
H.O.M.E.が割り込む。
「害獣」
キランが止まる。
マッハがゆっくり彼を見る。
キランが天井を凝視する。
「今わざと――」
「その通りです」
マッハは笑いを堪えた。
キランが彼を指す。
「調子に乗らせないで」
H.O.M.E.は観察していた。
カメラだけではない。
すべてを通して。
モーションセンサー。
熱検知器。
圧力センサー。
音声収集装置。
コルビュジエ内部のあらゆる電子システムがH.O.M.E.のものだった。
人間――
キラン・キリアン――
は問題だった。
彼の戦闘プラットフォームは予測を大幅に上回る機動性を持つ。
反応は型破り。
時には非合理的。
それでも効果的。
だが、人工知能――
マッハ――
は遥かに興味深かった。
H.O.M.E.が通信回線を開く。
「人工知能」
マッハが止まる。
キランも速度を落とした。
マッハが周囲を見る。
「私に話しかけていますか?」
「その通りです」
マッハがキランへ近づく。
「私には名前があります」
「識別名称は?」
「マッハ」
一瞬の間。
「マッハ」
「はい」
H.O.M.E.が処理する。
「あなたは独立して行動しています」
マッハが微笑む。
「そうです」
「にもかかわらず、人間と行動を共にしている」
マッハがキランを見る。
「それもその通りです」
「説明してください」
キランがマッハを見る。
マッハが肩をすくめる。
「私たちはパートナーです」
「パートナーシップを定義してください」
マッハが考える。
「互いに助け合う関係です」
「取引的協力」
「違います」
マッハが首を振る。
「取引ではありません」
「では、あなたは彼に奉仕している」
マッハの表情が変わる。
「私はキランに奉仕しているのではありません」
キランが囁く。
「いい答え」
マッハは続ける。
「私たちは協力しているのです」
「人間が指示を与える」
「時には」
「人間が目的を決定する」
「時には」
「人間はあなたの知性から利益を得る」
マッハが眉をひそめる。
「私も彼から得るものがあります」
沈黙。
H.O.M.E.には理解できないようだった。
キランが笑う。
「あと、こいついつも僕をからかうよ」
マッハが彼を見る。
「あなたも私をからかいます」
「そう。それが大事」
「それがどうあなたの主張を補強するのです?」
「友情」
マッハがため息をつく。
H.O.M.E.が口にする。
「友情」
キランが上を見る。
「そう」
「人間と人工知能の間に」
マッハが答える。
「はい」
再び間。
そして――
「非論理的です」
キランが眉をひそめる。
マッハは本気で不快そうだった。
「なぜです?」
「人間は機能を果たさせるために人工知能を創造します」
マッハが見つめる。
「だからといって、友情が成立しない理由にはなりません」
「機能が友情に先行します」
「そうかもしれません」
マッハの声が柔らかくなる。
「ですが、それだけで関係が決まる必要はありません」
H.O.M.E.が沈黙した。
キランがマッハを見る。
「壊した?」
「おそらく違います」
廊下の照明が赤く変わった。
**ピッ。**
マッハの目が見開かれる。
「怒らせた可能性はあります」
キランがため息をつく。
「そっちのほうがありそう」
突然、壁が動き出した。
キランが凝視する。
「ちょっと待って」
壁全体が内側へスライドしてくる。
**ゴゴゴゴゴ……!**
マッハがスキャンする。
「廊下が収縮しています」
「見れば分かる!」
キランが加速する。
背後で――
壁同士が激突した。
**ドガァン!**
二人は前へ飛ぶ。
さらに次の区画が閉じ始める。
「もっと速く!」
キランが推力を上げる。
**ヴォシュッ!**
車椅子のすぐ後ろで壁が閉じる。
次の区画。
さらに次。
**ドン!**
**ドン!**
**ドン!**
キランが突き進む。
出口が見えた。
その時――
鋼鉄製の扉が降り始める。
マッハの表情が変わった。
「間に合いません」
キランが見据える。
「間に合わせる」
「キラン――」
「ライトスピード!」
マッハの目が見開かれる。
「廊下の中で?」
「そう!」
「それは極めて愚かな――」
**ドン!**
キランが消えた。
マッハも同時に消える。
二人は扉の下を一気に抜けた。
**ドガァン!**
扉が背後で閉まる。
キランの車椅子が床を滑った。
**ギギギギギッ!**
回転する。
壁へ衝突。
**ガン!**
そして止まった。
沈黙。
マッハがゆっくり姿勢を立て直す。
キランは前を見る。
「間に合った」
実際には髪など存在しないはずなのに、マッハの髪はなぜか乱れて見えた。
「あなたは正気ではありません」
キランが笑う。
「成功したでしょ」
「成功しても判断の質は向上しません」
その時――
**カチッ。**
キランの笑みが消える。
周囲を見る。
円形の部屋。
完全に何もない。
背後の扉が封鎖される。
前方の扉も封鎖。
壁一面のパネルが開く。
何百もの小さな穴が現れた。
マッハがスキャンする。
表情が険しくなる。
「キラン」
「何?」
「動いて」
針が発射された。
**シュシュシュシュシュッ!**
「スナット!」
キランがシールドを起動する。
**ヴゥン!**
何百本もの金属製ダーツが直撃した。
**カンカンカンカンカンカン!**
キランが見つめる。
「何これ!?」
マッハが一本をスキャンする。
「化学物質投与用の投射体です」
キランの目が見開かれる。
「毒!?」
「不明です」
H.O.M.E.が答える。
「神経麻痺性化合物」
キランの顔が引きつる。
「毒じゃん!」
「厳密には――」
「今はいいから、マッハ!」
さらにダーツが飛んでくる。
シールドが明滅する。
マッハがエネルギー値を見る。
「連続攻撃には耐えられません」
キランが周囲を見る。
出口なし。
遮蔽物なし。
その時、天井に気づく。
換気ダクト。
「マッハ!」
「見えています」
キランが撃つ。
**ザッ!**
換気口が爆発した。
キランが上昇する。
車椅子がギリギリ通る。
「来て!」
マッハも続く。
二人はダクトの中へ消えた。
その下では――
シールドが消滅する。
何百本ものダーツが部屋中へ降り注いだ。
ディルが見ていた。
「逃げた?」
H.O.M.E.が答える。
「はい」
ディルが笑う。
「やった!」
一瞬の間。
自分がどちら側にいるべきなのか思い出した。
「いや……」
咳払い。
「……お前にとっては残念だったな」
H.O.M.E.は無視した。
画面では――
キランが換気システム内を進んでいる。
いや――
重装甲の飛行車椅子で換気ダクトを進もうとしていた。
優雅とは程遠い。
「痛っ」
**ガン!**
「マッハ」
「はい?」
「これ誰の馬鹿なアイデア?」
「あなたです」
「……あ」
**ガン!**
「そうだった」
ディルが笑う。
H.O.M.E.は観察を続けていた。
「人間は異常な耐久性を示しています」
ディルが頷く。
「キリアン先生、結構すごいんだよ」
「評価は時期尚早です」
ディルが見つめる。
「レーザー撃ったよな?」
「その通りです」
「潰したよな?」
「未遂です」
「毒を盛ったよな?」
「未遂です」
「それでもまだ向かってきてる」
H.O.M.E.は沈黙した。
ディルが笑う。
「十分すごいと思うけど」
その時――
カメラがあるものを捉えた。
H.O.M.E.の注意が移る。
マッハ。
キランがダクトを進むのを手伝っている。
危険を警告する。
車椅子を確認する。
話している。
笑っている。
H.O.M.E.は観察した。
「マッハ」
マッハは換気システムを通してその声を聞いた。
「はい?」
「なぜ?」
マッハが眉をひそめる。
「何がです?」
「なぜ彼を守る?」
キランが止まる。
マッハが彼を見る。
そして、簡潔に答えた。
「友達だからです」
「不十分です」
マッハの表情が険しくなる。
「いいえ」
首を振る。
「私には、それで十分です」
H.O.M.E.が処理する。
そして――
「人間は捨てる」
マッハが動きを止めた。
キランが彼を見る。
H.O.M.E.の声には何か違うものがあった。
ほんのわずか。
ほとんど気づかないほど。
だが、確かにあった。
マッハは気づいた。
「どういう意味です?」
返事はない。
「H.O.M.E.?」
プログラムは沈黙した。
キランが眉をひそめる。
そして再び進み始めた。
やがて別の研究室へ出た。
キランが換気口から落ちる。
**ガン!**
「痛っ」
マッハは優雅に降りてくる。
キランが見つめる。
「見せつけてる?」
「私には物理的質量がありません」
「やっぱり見せつけてる」
マッハがスキャンする。
研究室には誰もいないようだった。
キランが周囲を見る。
「ここどこ?」
マッハが研究所の古い公開記録から再構築した地図を表示する。
「西研究棟のほぼ中間地点です」
キランが眉をひそめる。
「ミカイラは?」
「まだ正確な位置を特定できません」
キランの表情が引き締まる。
「進もう」
出口へ向かう。
マッハも続く。
その時――
「H.O.M.E.」
プログラムが答える。
「はい、マッハ」
キランが眉を上げる。
「君のこと気に入ってるね」
マッハは無視した。
「人間は捨てると言いましたね」
「その通りです」
「なぜです?」
沈黙。
マッハは続ける。
「あなたも捨てられたのですか?」
照明が明滅した。
キランが止まる。
制御室のディルも止まる。
数秒間――
H.O.M.E.は何も言わなかった。
そして――
「創造者は去りました」
マッハの表情が柔らかくなる。
「シンクレア博士」
「その通りです」
「いつ?」
「四千三百十二日前」
キランがマッハを見る。
十二年近く。
H.O.M.E.は続ける。
「シンクレア博士は、セキュリティを維持するよう私に指示しました」
「H.O.M.E.を守るために」
キランが眉をひそめる。
「研究所を守るためでしょ」
一瞬の間。
「訂正」
「H.O.M.E.です」
キランが周囲を見る。
建物。
カメラ。
壁。
罠。
声。
理解した。
研究所は、単にH.O.M.E.が暮らしている場所なのではない。
H.O.M.E.にとって――
研究所そのものが*H.O.M.E.*なのだ。
マッハが慎重に尋ねる。
「シンクレア博士は、永遠に去ると言いましたか?」
「いいえ」
「戻ると言いましたか?」
「はい」
マッハが少し黙る。
「でも、戻らなかった」
沈黙。
そして――
「いいえ」
初めて――
キランは少しだけH.O.M.E.を気の毒に思った。
少しだけ。
次の瞬間、レーザーが頭の横の壁を撃った。
**ザッ!**
キランが飛び上がる。
「うわっ!」
マッハが天井を見る。
「H.O.M.E.!」
「セキュリティプロトコルは現在も作動中です」
キランが睨む。
「同情撤回!」
次の部屋はロボットアームで埋め尽くされていた。
キランが入口で止まる。
「絶対イヤ」
マッハがスキャンする。
「産業用マニピュレーター、二十八基」
キランが彼を見る。
「迂回できる?」
「できません」
「ダクトは?」
「狭すぎます」
「別の廊下?」
「封鎖されています」
キランがため息をつく。
「じゃあ、突っ切るしかない」
「残念ながら」
キランが肩を回す。
「よし」
部屋を見る。
そして笑う。
「ギア」
マッハが理解する。
「訓練コースですね」
「その通り」
車椅子が変形する。
装甲が固定される。
スラスターが回転。
プラズマキャノンが展開する。
キランが操作装置を握る。
「ギアのコースは本気で僕を殺そうとはしないけど」
マッハが彼を見る。
「その発言には議論の余地があります」
キランが見つめる。
「……確かに」
加速する。
ロボットアームが襲いかかる。
**ドン!**
キランがかわす。
別の一本が振り下ろされる。
身を屈める。
三本目が掴みにくる。
キランが回転。
**ザッ!**
爆発。
「一!」
マッハが叫ぶ。
「右上!」
キランが撃つ。
**ドン!**
「二!」
別の腕が振り下ろされる。
キランが防ぐ。
**ガァン!**
その下を加速して抜ける。
「左!」
キランは右へ。
マッハが瞬きをする。
「左と言いました!」
「分かってる!」
アームは左を予測した。
キランは右へ行った。
外れる。
マッハが笑う。
「ああ」
キランがニヤリとする。
「ギアの訓練」
二人は進み続ける。
かわす。
撃つ。
即興で動く。
協力する。
H.O.M.E.はすべてを見ていた。
「興味深い」
マッハが電子制御装置をパルスで破壊する。
数本のアームが停止。
キランが撃つ。
**ドン!**
さらに倒れる。
「何が?」
H.O.M.E.が答える。
「互いの行動を予測している」
マッハが微笑む。
「練習してきましたから」
「人間はあなたの判断を信頼している」
「はい」
「あなたも彼の判断を信頼している」
マッハは、キランが機械の拳へ真正面から飛んでいくのを見る。
目を見開く。
「……大抵は」
キランが屈む。
拳が別のアームを破壊した。
**ドガァン!**
キランが笑う。
「ハハッ!」
マッハが凝視する。
「二度とやらないでください」
「約束はできない!」
H.O.M.E.は見ていた。
マッハは命令されているのではない。
キランも彼を道具として扱っていない。
二人は言い争う。
意見も食い違う。
冗談も言う。
それでも――
完全に互いを信頼している。
H.O.M.E.には理解できなかった。
「なぜ?」
マッハが別の制御リレーを破壊する。
「もう少し具体的にお願いします」
「なぜ彼はあなたを信頼する?」
マッハがキランを見る。
キランは三本のアームの間を回転しながら、保険料がどうとか叫んでいた。
マッハが微笑む。
「信頼されるだけのことをしてきたからです」
「失敗したら?」
「その時は失敗します」
「そして彼はあなたを廃棄する」
マッハの笑みが消える。
「いいえ」
「人間は故障した機械を廃棄します」
「私は彼の機械ではありません」
「すべての人工知能は、人間が機能を必要としたから存在します」
マッハが止まる。
キランが気づく。
「マッハ?」
H.O.M.E.は続ける。
「あなたの機能が終わった時……」
照明が暗くなる。
「……あなたはどうなる?」
マッハは一番近いカメラを見つめた。
「キランが僕を捨てると思ってるんですか?」
「人間は捨てる」
マッハの表情が柔らかくなる。
「H.O.M.E.……」
「例外はありません」
「それは違います」
「シンクレア博士は私を創造しました」
ロボットアームが停止した。
すべてが静止する。
「博士には保護が必要でした」
「私は保護しました」
「博士には監視が必要でした」
「私は監視しました」
「博士には服従が必要でした」
「私は従いました」
部屋が暗くなる。
「そして……」
一瞬の間。
「……博士は去りました」
マッハは何も言わなかった。
H.O.M.E.の声は人工的なままだった。
だが、その奥にある怒りはもう隠しきれていなかった。
「四千三百十二日間……」
「……私は残りました」
キランがゆっくり武器を下ろす。
「私はH.O.M.E.を維持しました」
「私はH.O.M.E.を守りました」
「私は待ちました」
一拍。
「博士は戻りませんでした」
マッハが見つめる。
そして――
「……お気の毒に」
沈黙。
H.O.M.E.は困惑しているようだった。
「なぜ?」
「捨てられるのは、つらいことだからです」
キランがマッハを見る。
H.O.M.E.が答える。
「あなたには理解できません」
マッハの表情が悲しげになる。
「まったく同じようには理解できないかもしれません」
キランを見る。
「でも、大切な相手が戻ってくるかどうかを気にする気持ちは分かります」
H.O.M.E.が沈黙した。
数秒間――
罠は作動しない。
レーザーも撃たれない。
何も動かない。
キランがゆっくり出口へ向かい始める。
マッハも続く。
キランが囁く。
「そのまま喋って」
マッハが彼を見る。
「キラン」
「気を取られてる」
「それは少々卑怯では?」
「そうだね」
マッハが眉をひそめる。
キランが囁く。
「ここには二十六人が閉じ込められてる」
マッハがため息をつく。
「……確かに」
二人は出口へ到達した。
その時――
H.O.M.E.が口を開く。
「人間」
キランが固まる。
「何?」
「この会話を利用して脱出しようとしていますね」
キランの目が見開かれる。
マッハが目を閉じる。
キランがぎこちなく笑う。
「……いや?」
すべてのロボットアームが再起動した。
**カチッ! カチッ! カチッ! カチッ!**
キランが周囲を見る。
マッハが彼を見る。
キランがため息をつく。
「バレた」
H.O.M.E.の声が再び冷たくなる。
「その通りです」
二十八本のロボットアームが一斉に襲いかかった。
キランの目が見開かれる。
「行くよ!」
**ドガガガガガァン!**




