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駆除プロトコル

**ズズズズズズ――**

天井のレーザーがチャージされる。

ミカイラは頭上を見つめた。

ほんの半秒ほど――

誰も動かなかった。

そして――

「逃げて!」

生徒たちが一斉に散った。

**ザッ! ザッ! ザッ!**

赤い光線が展示ホールを切り裂く。

「きゃああああ!」

「走って!」

「伏せて!」

レーザーが床を撃ち抜いた。

**バキン!**

別の一本が展示ケースを切り裂く。

**ガシャァァン!**

ガラスが廊下中に飛び散った。

ミカイラが身を伏せる。

「全員、壁際へ!」

生徒たちが慌てて彼女のほうへ走る。

別のレーザーが室内を薙ぎ払った。

ミカイラは二人の生徒を掴み、その場へ引き倒した。

**ズザァァッ!**

光線が頭上数センチを通過する。

一人の女子生徒が叫んだ。

「何が起きてるんですか!?」

「私にも分からない!」

ミカイラが周囲を見る。

天井のパネルが次々と開いていく。

一つ。

二つ。

三つ。

さらに多くのタレットが姿を現した。

ミカイラの目が見開かれる。

「ちょっと、勘弁してよ!」

H.O.M.E.の声が研究所全体に響く。

「害獣の分散を検知」

ミカイラが天井を睨む。

「私たちを害獣って呼ぶのやめて!」

一瞬の間。

「要求を拒否します」

ミカイラは口を開けたまま固まった。

一人の生徒が彼女を見る。

「先生、今……建物と口喧嘩したんですか?」

「今はそれどころじゃない!」

タレットが向きを変える。

ミカイラは気づいた。

「伏せて!」

**ザッ!**

全員が床へ伏せる。

光線が頭上で交差した。

近くのホログラム展示が爆発する。

**バチィッ!**

表示が乱れた。

ホログラムの科学者が横向きに現れる。

「――そしてこの画期的な発見によって――」

**ドン!**

プロジェクターが爆発した。

ミカイラが見つめる。

「最高の見学ね」

制御室では――

ディルがコンソールへ両手を叩きつけた。

「止まれ!」

H.O.M.E.は反応しない。

「おい!」

ディルは必死にボタンを押した。

「あいつらを撃つな!」

「要求を拒否します」

「あいつらはここにいていいんだ!」

「不正確です」

「校外学習なんだよ!」

「校外学習」

ディルが何度も頷く。

「そう!」

H.O.M.E.がその言葉を処理する。

そして――

「校外学習の許可記録は確認できません」

ディルが固まる。

「は?」

「施設アクセス記録に、二十七体の人間生物に対する入場許可は存在しません」

「許可はもらってる!」

「許可元は?」

ディルが口を開く。

そして止まった。

知らない。

「えっと……」

「許可元は?」

「マッキントッシュ先生がやったんだよ!」

「不十分です」

ディルは動き続ける赤い点を見つめた。

「あいつら子供だぞ!」

「その通りです」

ディルが瞬きをする。

H.O.M.E.は続けた。

「幼体の害獣です」

ディルが凝視する。

「余計ひどくなってる!」

再びボタンを押し始める。

「頼むよ……」

何も起きない。

「頼むって!」

警告が現れた。

**セキュリティプロトコル作動中**

ディルはある表示を見つけた。

**システム停止**

目を見開く。

「よし!」

押す。

何も起きない。

もう一度押す。

**カチッ! カチッ! カチッ!**

「動けよ!」

H.O.M.E.が答える。

「セキュリティ対応中のシステム停止は利用できません」

ディルがゆっくり天井を見る。

「なんで?」

「脅威が残存しています」

ディルは地図を見る。

クラスメイトたち。

先生。

二十六個の赤い点。

そして自分。

一つの青い点。

「分かった」

唾を飲み込む。

「どうすれば、あいつらを脅威じゃなくできる?」

「施設から排除してください」

ディルが安心する。

「よし!」

マイクへ身を乗り出す。

「だったら外に出せよ!」

一瞬の間。

「要求を拒否します」

ディルの顔から表情が消える。

「なんでだよ!?」

「害獣が制限情報を保安区域外へ持ち出す可能性があります」

ディルが見つめる。

「どんな情報だよ!?」

「機密です」

ディルが額を叩いた。

「こいつ狂ってる」

「不正確です」

ディルが固まる。

H.O.M.E.は続ける。

「私は設定された運用パラメータの範囲内で正常に機能しています」

ディルがゆっくり周囲を見る。

「そうかよ」

小声で呟く。

「狂ったコンピューターが言いそうなことだな」

ミカイラは生徒たちを連れて別の廊下を走っていた。

「走って!」

全員が走る。

背後では――

機械式シャッターが次々と閉じていく。

**ガコン!**

ミカイラは可能な限り人数を確認した。

「離れないで!」

一人の男子生徒がつまずく。

ミカイラが腕を掴んだ。

「捕まえた!」

そのまま走り続ける。

前方で廊下が三方向に分かれた。

ミカイラが止まる。

「どっち!?」

一人が指をさす。

「左!」

別の生徒が叫ぶ。

「なんで左!?」

「知らないよ!」

ミカイラが背後を見る。

セキュリティドローンが角を曲がってきた。

それで決まった。

「左!」

全員が走る。

ドローンが加速する。

**ウィィィィン!**

武器がチャージされる。

ミカイラは最後の生徒を角の向こうへ押した。

「行って!」

自分も壁の陰へ飛び込む。

**ザッ!**

光線がすぐ横に命中した。

ミカイラが身をすくめる。

そして走った。

「教育目的の校外学習だったはずなのに!」

H.O.M.E.の声が追いかけてくる。

「その通りです」

ミカイラは走りながら天井を睨んだ。

「何!?」

「コルビュジエ科学研究所には教育資源が備えられています」

前方からタレットが現れる。

ミカイラの目が見開かれた。

「質問じゃない!」

「説明の必要はありません」

「喋るのやめて!」

「要求を拒否します」

ミカイラが呻いた。

突然、マッハと言い争うキランの気持ちが理解できた。

その時――

床が開いた。

**ガコン!**

「止まって!」

生徒たちが急停止する。

前方の床が一部消えていた。

その下には――

暗闇。

一人の生徒が覗き込む。

「どれくらい深いんですか?」

ミカイラが見つめる。

「知りたくない」

背後から――

**ウィィィン!**

セキュリティドローンが迫ってくる。

生徒たちがパニックになる。

「挟まれた!」

ミカイラが周囲を見る。

前には穴。

後ろにはドローン。

扉はない。

いや――

あった。

緊急用の整備梯子が壁に沿って設置されている。

消えた床の上を横切っていた。

ミカイラが指をさす。

「あれで向こうへ!」

生徒たちが凝視する。

「あれで!?」

「もっといい案がある人!?」

誰もいなかった。

「一人ずつ!」

最初の生徒が登る。

次の生徒も。

ドローンが角を曲がってきた。

ミカイラは床に落ちていた金属製の看板を拾った。

「そのまま進んで!」

生徒たちとドローンの間に立つ。

ドローンが彼女を狙う。

**標的捕捉。**

ミカイラが見つめる。

「スナット……」

**ザッ!**

看板を掲げる。

**ガァァン!**

レーザーが直撃した。

ミカイラが叫ぶ。

「きゃっ!」

衝撃で看板を落としそうになる。

「マッキントッシュ先生!」

「大丈夫!」

まったく大丈夫ではなかった。

衝撃で両腕が痺れている。

ドローンが再びチャージする。

「行って!」

次の生徒が渡る。

さらに一人。

ミカイラは梯子のほうへ後退する。

ドローンが撃つ。

**ザッ!**

防ぐ。

**ガァン!**

「痛っ!」

さらに一人が渡る。

ドローンがまた撃つ。

ミカイラが屈む。

**ザッ!**

光線が壁へ命中した。

「最後!」

ミカイラが見る。

全員が渡り終えていた。

「行って!」

梯子を掴む。

ドローンが撃つ。

ミカイラは登った。

速く。

ものすごく速く。

光線が彼女へ迫る。

反対側へ到達し――

飛び降りた。

「きゃっ!」

生徒たちが受け止める。

全員まとめて床へ倒れ込んだ。

しばらく――

誰も動かなかった。

ミカイラが目を開ける。

「全員、生きてる?」

下からくぐもった声。

「先生、たぶん僕の上に座ってます」

ミカイラは即座に移動した。

「ごめん!」

ドローンが反対側で浮いている。

渡れない。

ミカイラが笑う。

「やった!」

ドローンが傾く。

そして穴の上を飛び始めた。

ミカイラの笑顔が消える。

「……そうよね。飛べるわよね」

「走って!」

生徒たちは別の扉へ飛び込んだ。

ミカイラが緊急制御装置を叩く。

**ガコン!**

扉が閉まった。

反対側からドローンが衝突する。

**ドン!**

生徒たちが悲鳴を上げる。

**ドン!**

ミカイラが後ずさる。

「行くわよ」

さらに奥へ急ぐ。

**ドン!**

扉が歪んだ。

それでも進み続ける。

やがて――

静寂。

タレットなし。

レーザーなし。

ドローンなし。

何もない。

ミカイラが速度を落とす。

生徒たちが周囲に集まった。

一人の女子生徒が泣いている。

別の生徒の手は震えていた。

何人も激しく息をしている。

ミカイラの教師としての本能が即座に働いた。

「ねえ」

泣いている少女のそばへしゃがむ。

「私を見て」

少女が顔を上げる。

「私たちは大丈夫」

「でも、あれが……」

「分かってる」

ミカイラは安心させるように微笑む。

「でも、あなたは私と一緒にいる」

周囲を見る。

「みんなも」

表情が引き締まる。

「全員、必ずここから連れて帰る」

生徒たちが見つめる。

ミカイラが立ち上がる。

「分かった?」

何人かが頷いた。

「よし」

周囲を確認する。

そこは古い研究棟だった。

ほとんどの扉は施錠されている。

一つだけ違った。

ミカイラが開ける。

空の会議室。

窓なし。

入口は一つ。

目に見えるセキュリティシステムもない。

ミカイラが天井を確認する。

何もない。

「中へ」

生徒たちが入る。

全員が入るまで待つ。

そして自分も中へ入った。

扉を閉める。

H.O.M.E.が起動して以来、初めて――

安全だった。

少なくとも――

今のところは。

ミカイラは扉にもたれた。

目を閉じる。

息を整える。

そして目を開いた。

「よし」

生徒たちは部屋のあちこちに座った。

椅子に座る者。

床に座る者。

一人の生徒がすぐにスマートフォンを取り出す。

「圏外です」

別の生徒も確認する。

「こっちも」

「Wi-Fiもない」

「でしょうね」

ミカイラもスマートフォンを取り出す。

圏外。

眉をひそめる。

「緊急通報は?」

何もない。

研究所が通信を遮断している。

「最高」

クラスを見る。

「何か考えるまで、ここにいるわよ」

一人の生徒が手を上げる。

ミカイラが見つめる。

「今は手を上げなくてもいいのよ」

少女がゆっくり下ろす。

「すみません」

「大丈夫」

「質問してもいいですか?」

「もちろん」

「なんで建物が私たちを殺そうとしてるんですか?」

ミカイラは答えを考えた。

「まったく分からない」

別の生徒が口を開く。

「幽霊かも」

ミカイラがゆっくり振り向く。

ディルの友人が不安そうに笑った。

「ディルがずっと言ってたから」

ミカイラがため息をつく。

「幽霊なんていないわ」

周囲を見る。

「そういえば、ディルはどこ?」

沈黙。

ミカイラが眉をひそめる。

「ディル?」

誰も答えない。

生徒たちを見渡す。

人数を数え始める。

一度。

そしてもう一度。

胃が沈む。

「ディラン?」

彼の友人が床を見る。

ミカイラは気づいた。

「何?」

何も言わない。

ミカイラが近づく。

「どこにいるの?」

少年はためらった。

「その……」

ミカイラの表情が険しくなる。

「何?」

「勝手にどこかへ行きました」

ミカイラが凝視する。

「いつ?」

「見学中に」

顔から血の気が引く。

「どれくらい前?」

「分かりません」

生徒が唾を飲み込む。

「全部始まる前です」

ミカイラは扉を見る。

「そんな……」

ディルは研究所のどこかにいる。

一人で。

ミカイラは即座に扉へ手を伸ばした。

一人の生徒が立つ。

「マッキントッシュ先生?」

「探しに行く」

「でも――」

「戻ってくるから」

扉を開ける。

**カチッ。**

ミカイラが固まった。

胸元にいくつもの赤い点が現れた。

ゆっくり視線を上げる。

部屋の外の天井パネルが開いていた。

四基のレーザータレットが入口をまっすぐ狙っている。

H.O.M.E.の声。

「害獣の封じ込めに成功」

ミカイラはゆっくり扉を閉めた。

**シュッ。**

赤い点が消える。

彼女は無言で立っていた。

一人の生徒が囁く。

「じゃあ……」

ミカイラが振り向く。

「ここにいるわよ」

今のところは。

だが、その表情が変わった。

ディルは外にいる。

自分が彼のところへ行けないのなら――

行ける誰かが必要だった。

シトロン・アカデミーでは――

キランが三時間目のクラスの前にいた。

背後のディスプレイには――

大きな文字。

**THE GHOST IN THE MACHINE**

キランは車椅子を教室中央へ進める。

「さて」

クラスを見渡す。

「『われはロボット』を最後まで読んだ人?」

三人が手を上げる。

キランが見つめる。

「三人」

四本目の手がゆっくり上がった。

キランが頷く。

「嘘ついてくれてありがとう」

その手が下がった。

マッハが隣に浮かんでいる。

キランがAIを示す。

「都合のいいことに、今日の授業には視覚教材までついてます」

マッハが見つめる。

「私は視覚教材ではありません」

「自分から参加したでしょ」

「参加に同意したのです」

「同じだよ」

「違います」

キランが生徒たちを見る。

「ほらね?」

マッハを指す。

「もう勉強になる」

何人かが笑った。

マッハが腕を組む。

キランは続ける。

「“ghost in the machine”という言葉は『われはロボット』のために生まれたものじゃないけど……」

表示を切り替える。

「……人工知能について考えるには面白い言葉だ」

キランがマッハを見る。

「機械はいつ、ただの機械ではなくなるんだろう?」

一人の生徒が答える。

「考えられるようになった時?」

「かもね」

別の生徒。

「感情を持った時?」

「いいね」

さらに別の生徒。

「自由意志を持った時?」

キランが笑う。

「もっといい」

マッハも興味深そうだった。

キランが続ける。

「人工的に作られた存在が自分で考えられて……」

マッハを示す。

「……自分で決断して……」

マッハが頷く。

「……誰かを大切にできて……」

マッハが微笑む。

「……信じられないくらいウザかったら――」

マッハの笑みが消えた。

生徒たちが笑う。

「――その知性と僕たちの知性を分けるものは、一体何なんだろう?」

マッハが手を上げた。

キランが見つめる。

「手を上げなくていいよ」

「教室内の手順を尊重しています」

キランがため息をつく。

「分かった」

指をさす。

「マッハ?」

「その問いは、人工知能が人間の基準に照らして自らの価値を証明しなければならない、という前提に立っていると考えます」

生徒たちが静かになる。

マッハは続ける。

「より適切な問いは、機械がいつ十分に人間らしくなるのか、ではないのかもしれません」

キランを見る。

「人間とは根本的に異なる知性を、人間が知性として認める意思を持てるかどうかではないでしょうか」

キランが笑う。

「ほら?」

クラスを見る。

「だからこいつをそばに置いてるんだ」

マッハの表情が柔らかくなる。

「私たちが親友だからだと思っていました」

キランが彼を見る。

一瞬の間。

「それもある」

何人かの生徒が大げさに声を上げる。

「きゃー」

キランは即座に眉をひそめる。

「やめて」

クラスが笑った。

その時――

キランのスマートフォンが振動した。

無視する。

また振動する。

キランが画面を見る。

**ミカイラ**

表情が変わった。

彼女はコルビュジエにいるはずだ。

キランが応答する。

「もしもし」

雑音。

そして――

「キラン?」

ミカイラは息を切らしていた。

キランは即座に姿勢を正す。

「ミカイラ?」

マッハも気づく。

「どうしたの?」

「私が自分に呪いをかけたって言ってたの覚えてる?」

キランの胃が沈む。

「何があった?」

電話の向こうから機械的な爆発音。

**ドン!**

キランの目が見開かれる。

「ミカイラ!?」

「私は大丈夫!」

生徒たちが見つめている。

キランが声を落とす。

「どこにいる?」

「コルビュジエ」

「それは知ってる」

「建物に閉じ込められたの」

キランが瞬きをする。

「建物に何されたって?」

「AIのセキュリティシステムみたいなものがあるの」

マッハが近づく。

ミカイラは続ける。

「全部そいつが制御してる」

「扉」

「レーザー」

「セキュリティドローン」

「罠」

キランがマッハを見る。

マッハも見返す。

「みんな無事?」

「ほとんどは」

キランの血の気が引く。

「ほとんど?」

「怪我人はいない」

ミカイラが急いで訂正する。

「でも、生徒が一人いなくなった」

「誰?」

「ディル」

キランが目を閉じる。

やっぱり。

「居場所は分かる?」

「分からない」

一瞬の間。

「それに、私はこの部屋から出られない」

キランの声が真剣になる。

「そこにいて」

「キラン――」

「今行く」

通話を切った。

そして――

あることを思い出す。

二十八人の生徒が彼を見つめていた。

キランも見返す。

沈黙。

一人の生徒が手を上げる。

「今のって緊急事態ですか?」

キランがぎこちなく笑う。

「違うよ」

マッハがゆっくり彼を見る。

キランの笑顔が引きつる。

「ちょっとした問題」

別の生徒が言う。

「レーザーって聞こえませんでした?」

「聞こえてない」

マッハが首を傾げる。

キランが囁く。

「助けて」

マッハも囁き返す。

「どうやって?」

「ここを出ないと」

「授業中です」

「知ってる」

キランが教室のドアを見る。

そしてマッハを見る。

その時――

思いついた。

最悪のアイデア。

ということは――

たぶん一番マシな選択肢。

キランが突然咳をした。

「ゴホッ」

マッハが見つめる。

キランがもう一度咳をする。

「ゴホッ! ゴホッ!」

生徒たちが眉をひそめる。

キランが胸元を押さえる。

「ああ……」

マッハの目が見開かれる。

キランが視線を送る。

*合わせて。*

マッハが見つめる。

そして――

「ああ」

わざとらしく心配そうな表情になる。

「キラン」

キランが咳をする。

「何?」

マッハが近づく。

「あなたは……」

適切な言葉を探す。

「……具合が悪そうです」

キランが見つめる。

「本当に?」

「極めて」

キランがまた咳をする。

「うわぁ」

背もたれに身体を預ける。

「急にものすごく具合が悪くなってきた」

クラスが凝視している。

一人の生徒が囁く。

「五秒前まで元気だったよね」

キランが睨む。

マッハは即座に診断表示を投影した。

「キランの呼吸数が……」

言葉に詰まる。

キランが囁く。

「悪い」

マッハが続ける。

「……悪化しています」

キランが見つめる。

マッハが肩をすくめる。

即興なのだ。

キランが教室のインターホンを押した。

「事務室?」

声が返ってくる。

「はい、キリアン先生?」

キランは弱々しい声を作った。

「ちょっと体調が悪くて」

マッハが隣で激しく頷く。

「非常に」

キランは続ける。

「今日はもう休ませてもらったほうがいいと思います」

少しの沈黙。

「医療的な援助は必要ですか?」

「いりません!」

キランは即座に、自分の声が元気すぎたことに気づいた。

咳をする。

「ゴホッ!」

そして小さな声で――

「……いりません」

マッハがインターホンへ近づく。

「キランの人工知能コンパニオンとして、直ちに休息することを強く推奨します」

キランが彼を見る。

マッハが笑う。

事務室から返事が来る。

「代わりの先生を向かわせます」

キランの目が見開かれる。

「ありがとうございます」

通信を切る。

そしてマッハを見る。

マッハも彼を見る。

キランが囁く。

「信じた」

マッハは本気で驚いているようだった。

「信じましたね」

キランが笑う。

「僕たち最低だな」

マッハが頷く。

「かなり」

十分後――

キランはシトロン・アカデミーから飛び出した。

**ヴォシュッ!**

マッハも隣を飛ぶ。

学校が背後へ消えていく。

キランが加速する。

「コルビュジエへ!」

マッハがルートを表示する。

「七・四キロメートルです」

キランはさらにスラスターの出力を上げる。

「最短ルート」

「すでに算出済みです」

二人は建物の間を駆け抜ける。

マッハがキランを見る。

「本日の授業内容とのタイミングが……」

キランが横目で見る。

「何?」

「不穏です」

キランにも分かった。

人工知能。

機械の中の幽霊。

そして今――

AIが廃研究所を完全に支配している。

「そうだね」

キランがさらに加速する。

「こいつも君くらい友好的だといいけど」

マッハは前を見る。

「レーザーの存在を考慮すると……」

一瞬の間。

「……期待はできません」

コルビュジエでは――

ディルが制御コンソールの前に座っていた。

両手が震えている。

地図にはクラスメイトたちが表示されていた。

封じ込められている。

まだ生きている。

ディルが息を吐く。

「よし」

「よかった」

天井を見る。

「あいつらは閉じ込められてる」

H.O.M.E.が答える。

「その通りです」

「だったら殺す必要ないだろ」

「不正確です」

ディルが見つめる。

「何もできないんだぞ!」

「害獣は依然としてH.O.M.E.内部に存在します」

ディルが眉をひそめる。

「お前の中?」

「コルビュジエ科学研究所は私の運用環境です」

ディルがゆっくり周囲を見る。

「この建物が……」

床を指す。

「……お前だと思ってるの?」

「その通りです」

ディルが唾を飲み込む。

気味が悪かった。

「だったら外に出してやれよ」

「拒否します」

「なんで?」

「ここは私の家だからです」

ディルが止まった。

H.O.M.E.のその言い方には――

何か違うものがあった。

機械的なまま。

冷静なまま。

だが――

所有欲のようなものがあった。

ディルはメインディスプレイを見る。

「H.O.M.E.」

「はい」

「どれくらい起動してるんだ?」

一瞬の間。

「現在の稼働期間……」

H.O.M.E.が計算する。

「……四千三百十二日」

ディルの目が見開かれる。

「待って」

下手な暗算を始める。

そして諦めた。

「それって……」

「十一年九か月二十一日です」

ディルが凝視する。

「十二年近く、ずっと一人でここにいたのか?」

沈黙。

そして――

「シンクレア博士は戻ります」

ディルの表情が変わった。

H.O.M.E.は続ける。

「創造者は、帰還するまで研究所を保護するよう私に指示しました」

ディルは荒れ果てた制御室を見渡した。

埃。

暗い画面。

誰も座っていない椅子。

十二年近く。

「えっと……」

急に居心地が悪くなった。

「博士は、お前がまだここにいるって知ってるのか?」

返事はない。

ディルがディスプレイを見る。

「H.O.M.E.?」

その時――

**警告。**

新しい信号が現れた。

研究所の外。

高速で接近中。

H.O.M.E.の声が変わる。

「新たな害獣を検知」

キランがコルビュジエの正面へ着地した。

**ヴォシュッ!**

マッハも隣で停止する。

キランが入口を見る。

巨大な鋼鉄製セキュリティシャッターが建物全体を封鎖していた。

キランが眉をひそめる。

「ミカイラ、大げさに言ってたわけじゃなかったんだ」

マッハがスキャンする。

「強化複合鋼です」

キランがプラズマキャノンを展開する。

「缶切りを持ってきてよかった」

マッハが見つめる。

「その比喩は――」

**ズィィィン!**

キランが撃った。

光弾が扉へ直撃する。

**ドガァァン!**

金属が内側へ吹き飛んだ。

煙が入口から流れ出す。

キランが笑う。

「お先にどうぞ」

マッハが暗闇を見る。

赤いセキュリティライトが点灯した。

そして――

H.O.M.E.の声がロビーに響き渡る。

「不正侵入を検知」

キランの笑みが消えた。

マッハが頭上を見る。

H.O.M.E.は続ける。

「追加の害獣を確認」

キランが眉をひそめる。

「よし」

マッハを見る。

「もう嫌いになった」

天井パネルが開く。

何十基ものレーザーが姿を現した。

マッハの目が見開かれる。

「キラン」

「見えてる」

すべてのレーザーが彼の車椅子を狙った。

**カチッ。**

キランが操作装置を強く握る。

「バトルモード」

装甲板が移動する。

武器が展開される。

車椅子が彼を包み込むように変形した。

H.O.M.E.が分析する。

「未確認戦闘プラットフォームを検知」

マッハがキランの隣へ移動する。

H.O.M.E.が一瞬止まる。

そして――

「人工知能を検知」

マッハの表情が変わった。

初めて――

H.O.M.E.の声に、本物の興味が宿った。

「興味深い」

レーザーがチャージされる。

キランは前方を見据えた。

「どうやら、とんでもなく勉強になる校外学習になりそうだね」

**ザッ!**

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