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練習生探偵ホムズ  作者: オカザキ
맏언니(マドンニ)のキセキ
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8/35

プロローグ

長編連載「맏언니(マドンニ)のキセキ」開幕! これは彼女たちが、練習生探偵になったきっかけの物語……。

 真っ白な部屋。天井に規則正しく配置された蛍光灯も真っ白に光り、同色の床、壁、天井に反射し、全てを等しい明るさで照らしている。そんな影のない空間で、壁一面に広がる鏡を前に踊る四人の女の子。反対の壁際からは、スタンドに設置されたビデオカメラが鏡に映る四人を見下ろしていた。窓がないこの空間では今が何時なのかも分からない。少し冷え込んだ密室の中で、四人の体を透明な汗がつたう。

 スピーカーから流れる、テンポの早いアイドルソング。途切れることのないボーカルと部屋全体を揺らすリズムパート。真剣な表情で踊る四人のスニーカーが床とぶつかり、擦れ、それが音楽と一つになる。もしもこの靴の音だけを聞いたなら、誰しもがこの部屋で踊っているのは一人だと思うことだろう。それほどに、この日の四人は一体となっていた。


 黒く艶やかな長髪を束ねた少女が息一つ切らさずに宙を舞う。書かれた名前は호카제(ホカゼ)。指先まで、足先まで……一つ一つの振り付けを丁寧に、それでいて自由に羽ばたく鳥のごとく誇らしげに全身を動かす。まるで踊ることが彼女にとって飛ぶことかのように、腕を伸ばす度に、足を踏み出す度に、彼女の体は軽くなっていく。

 その隣から、真っ赤な髪を短く切り揃えた무은(ムウン)が前に出た。右の拳を握って口の前に添えると、力強い声で言葉のリズムを刻む。弾けるようなラップパート。険しい表情に、身体は低く構えて攻撃的なスタイルを強調する。天へと向かって踊るホカゼとは対極的に、ムウンの両足はしっかりと大地を踏みしめていた。

 ムウンからセンターポジションのバトンを受け取って飛び出したのは채선(チェソン)。天井からの光を受けて輝く金のミディアムヘア、それを激しく振り乱しながら繰り出すのは高速のストリートダンス。床に両手をついたかと思えば一気に飛び上がる。先の二人の特徴をうまく組み合わせたアクロバットを披露すると、腕を組んだまま後ろに下がった。

 チェソンがホカゼ、ムウンと横一列に並んだのをきっかけに、満を持して前に出る最後の一人。一拍の静寂。右手を口元で握る。ショートカットの茶髪が少し揺れる。口を開いて、大きく息を吸い込んだ。

 その名は예링(イェリン)。彼女の奏でるメロディが白い部屋を七色に彩っていく。自信に満ちた表情と同じく、放つ言葉にも迷いがない。まるで満員の観客に届けるかのごとく、イェリンの歌声は鏡の向こうの世界へと広がっていった。


 一曲を終えて、最後のフォーメーションのまま呼吸すら止めている四人。完全な無音のなかで数秒を過ごしたのちに、イェリンが小さく頷いた。


「うん……나쁘지 않아(悪くない)」


 その一言を引き金に、肩の力を抜く残りの三人。チェソンがカメラへと小走りで向かい、映像が取れていることを確認する。ホカゼは水筒のお茶を一口飲むと、大きく伸びをした。するとムウンが、イェリンに不満の声を上げる。


「悪くない、ってオンニの評価厳しすぎ!」


 だが、言葉とは裏腹にムウンは満足げな表情を浮かべていた。イェリンが笑いながらムウンの頭を撫でる。


「ごめん、訂正! 最高だった!」

「やっぱりイェリンオンニのボーカルが最高です! 너무 멋있어요(かっこよすぎます)!」


 ビデオカメラの映像を見ながら興奮した様子のチェソンがやってくる。映像をかじりつくように見つめる四人。


「見てよホカゼとチェソンのダンス! こんなに踊れる練習生、うちの事務所に他にいる?」

「ムウナのラップもどんどん上達してるのが分かるよ。抑揚がすごく豊か」

「やめて、ホカゼ! 同期のあんたに褒められるとムズムズする!」

 音楽がサビに入る。四人で同じ振り付けを踊るパートを黙って見つめる四人。口を開いたのはまたしてもイェリンだった。


「何よりこんなに息ぴったりなんだよ、今の私たち」


 今まで、ダンス練習後の映像確認で四人がここまで褒め合うことはなかった。KPOPアイドルを目指す練習生として、事務所側が機械的に選んだ四人グループ。最初は一人一人のスキルが足りないうえに連帯感もなく、踊りもバラバラだった。しかしこの四人は諦めなかった。そしてお互いに支え続けた。練習を終えると全員、まずは自分の欠点を振り返り、そしてぽつりぽつりとお互いへの改善点を伝える。それを踏まえて再び練習……そんな日々を休むことなく繰り返してきた四人。それが今こうして実を結んでいることを、全員が噛み締めていた。

 その時、部屋の扉が開いて一人の女性が入ってきた。


「良かった、四人ともいるわね。朝からご苦労様」

「선생님(先生)! これ、今撮ったBilllie先輩のRING X RINGなんですけど……」

「大丈夫よ、チェソン。あなたたちが完璧に仕上げていることは見なくても分かっているわ。私も……そして、事務所もね」


 意味深な言葉に固まる四人。まさか、とイェリンがつぶやいたのを見て、先生と呼ばれた女性は頷いた。


「デビューが決まったわ……あなたたち四人で!」


 大きな歓声をあげて飛び跳ねるホカゼ、ムウン、チェソン。イェリンはその場で崩れ落ちると、最年長にも関わらず……最年長だからこそ泣きじゃくった。


「良かった、私、もうダメかもって思ってた……! 三人のおかげだよ、本当にありがとう……」

「オンニがデビューできないわけないじゃない!」

「本当ですよ! オンニのおかげで私たちデビューできるんです、本当に嬉しい!」


 イェリンを左右から抱きしめるムウンとホカゼ。その後ろから更にチェソンがくっついてきた。


「イェリンオンニも、ホカゼオンニもムウンオンニも、みんな사랑해(大好き)〜!」


 はしゃぐ四人を微笑ましく眺める先生。彼女たちだけにしてあげようと思ったのか、部屋の扉に手をかけるが、思い出したように事務連絡を伝えた。


「これからデビューするまでのあいだ、あなたたちは公開練習生としてKPOPファンたちにその存在をアピールしていくことになる。デビューする前の基盤固めってところね。明日の正午、今後の活動についての打ち合わせが行われるわ。お偉方もいらっしゃる予定だから、早めに来るようにね」

「네(はい)!」


 声を揃えて返事をする四人。するとチェソンは、両親に連絡したいと言って先生と一緒に部屋を出ていってしまった。鼻を鳴らすムウン。


「왕채선(ワン・チェソン)、相変わらずタイミングが悪いわね! ここは四人で喜びを噛み締める場面でしょ!?」

「まあまあ、ムウン。あの子が一番KPOPを愛しているんだし、私なんかよりもよっぽど嬉しいに違いないわ。やっとあこがれの先輩たちに追いつけるんだから。でも、私もお母さんに……」


 イェリンが荷物からスマートフォンを取り出したそのとき、再び部屋の扉が開いた。やってきたのは、まさに今イェリンが連絡しようとしていた人物。イェリンを見つけると、腰まであろうかという長い銀髪を翻し、彼女の近くへ歩いていく。


「엄마(お母さん)!」

「聞いたわよ、イェリン。デビューが決まったそうね」

「そう! この事務所に入ってからずいぶん時間かかっちゃったけど、やっとアイドルになれるよ!」


 母に抱きつくイェリン。一方、ホカゼとムウンは初めて会うイェリンの母の美貌に圧倒されていた。


「イェリンオンニのお母さん、皺一つないね……どんなケアしてるんだろう……」

「髪型やファッションが全然違ってあんまり似てないってのもあるけど、それにしても親子の年齢差には見えないわね……」


 自分の噂話が聞こえたのか、イェリンの母が二人の方を向いて笑顔を作った。


「挨拶が遅れてごめんなさい、キム・イェリンの母です。あなたたちが一緒にデビューする予定の子たちね?」

「は、はい! 私がホカゼで、こっちが同い年のムウンです。年下にもう一人チェソンって子がいるんですけど、デビューが決まった途端に飛び出していっちゃって……」

「慌てん坊なんです、あの막내(末っ子)は! すぐ挨拶させに連れてきます!」

「ずいぶん楽しそうなチームね、デビューの話を聞いて立ち寄っただけだからお構いなく。二人とも、イェリンをこれからもよろしくね。それより……」


 急にイェリンの母から見つめられ、固まるムウン。しかしその目線はすぐにイェリンへと移った。


「イェリン、こんなにショートヘアが似合う子が同じチームにいたのね。お母さんの言うとおり、あなたやっぱり髪を伸ばしたほうがいいんじゃない?」

「だから冗談やめてよお母さん! 私、キレイ系じゃないんだから髪伸ばしてもお母さんみたいにはなれないよ。 だいたいムウンより私の方がオンニだし!」


 顎に手を当てて考える仕草をするイェリン。


「そうね、ホカゼがポニーテールでチェソンがストレートだから……ムウンはツインテールなんてどう?」

「はあ!? 절대 안 돼(絶対ダメ)! 先輩後輩出されてもそれだけは絶対無理!」

「デビュー活動の時だけよ、良いじゃない! 将来、新曲でカムバックするときは交代するから!」

「デビューの時が一番嫌!」


 追いかけっこを始めるイェリンとムウン。まだまだ子供染みている娘に軽くため息をつくと、イェリンの母は出口へと向かっていった。ドアノブに手をかけて最後に一度振り返る。


「そうだイェリン。デビュー準備で忙しくなる前に、今日は一度家に帰ってきなさい。今後のことも話しましょう。事務所には私から言っておくわ」

「分かった。じゃあ私はお母さんと寮に行くから……ホカゼ、ムウン、明日の打ち合わせで!」


 母と一緒に部屋を去ったイェリン。残された二人も荷物をまとめる。


「オンニは実家がソウル市内で羨ましいね」

「ほんと。あんたなんて海の向こうだし」


 からかうムウンをホカゼが小突いた。

 壁のスイッチを押すと窓のない部屋は完全な暗闇へと姿を変える。ホカゼが重たい防音扉を開けると、東向きの窓から強い光が飛び込んできて二人を照らした。


「私たち、これからだよ。ムウナ」


 無言で頷くムウン。汗で冷えた体が少しずつ温まっていく。ホカゼとムウンの瞳が太陽を映し出す。二人とも信じていた。自分たちの行先は、希望に満ちているのだと。一片の疑いも抱いていなかった。

 そんな、十月最終日の朝だった。



 翌日、キム・イェリンが事務所に現れることはなかった。

Talent Profile 〜YERING〜

名前:イェリン/예링

年齢:22歳

誕生日:11/17

身長:167cm

MBTI:ISFJ

担当:メインボーカル

趣味:掃除

所属事務所:THE ONE (練習生)

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