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最後の一曲を終え、大きな拍手に包まれるfor your…の三人。一度楽屋に戻ろうとステージ脇に入ったところ、ムウンとオーナーが二人で話しているところが目に入った。慌てたドヒョンは近くにいたチェソンに話しかける。
「どういうことだ! オーナーとはギターの話はしない約束だろう!?」
「大丈夫です、ギターの話は出していません! ちょっと、諸々の経緯を確認しているだけですから。それにオーナーさんは犯人じゃありませんでしたよ」
「オーナーは犯人じゃなかった……じゃあ真犯人が分かったのか?」
「ええ。それに、ギターも見つかりましたよ」
横から話しかけたホカゼ、その手には漆黒のギターが握られている。ドヒョンは思わずホカゼからギターをひったくった。すぐに我に返り、ホカゼに頭を下げる。
「す、すまない! びっくりして……それで真犯人は……?」
「楽屋にいるわよ」
いつの間にかオーナーと話し終え、ドヒョンの背後にいたムウン。三人は、ドヒョンを連れて楽屋へと向かった。
楽屋の扉を開けたドヒョン。その部屋の中央に立っていたのは、ホムズたち三人がギターショップで出会い、ライブを見に来てくれた男。そして部屋の隅に縮こまっているのはバーテンダー見習い。ドヒョンはバーテンダー見習いには目もくれず、中央に立つ男を見た途端にその名前を叫んだ。
「シウ! どうしてシウがここにいるんだ!?」
「すまないドヒョン……こんなことになるとは思わなかったんだ……」
「まさか、あの日このギターを盗んだのはシウだというのか? でもシウは……」
ドヒョンがホムズたち、そしてシウに訴える。
「シウは、for yourの元メンバー、このギターの元の持ち主なんだぞ! お前がこのギターを必要としているなら、黙って盗んだりしなくても俺たちは返したさ! どうして話してくれなかったんだ?」
ホカゼはドヒョンが落ち着くのを待つと、ゆっくりと種明かしを始めた。
「シウさんも、素直に話せばドヒョンさんたちがギターを返してくれることは分かっていました。そもそもシウさんはギターを盗んだつもりはなかったんです。でもドヒョンさんはギターが盗まれたと思った。その誤解を私たちに解かせてください」
ムウンが引き継ぐ。
「あの日、ちょうどライブが始まる頃。このシウという男はここを訪れた。かつて所属していたバンドから、自分のギターを返してもらうために。そうでしょ?」
「ああ。俺は勤めていた会社が……そもそもバンドを辞めたのも当時できたばかりの家族を養うためだったんだが、それで就職した会社が先日倒産してしまったんだ。金に困っていた俺は昔持っていたヴィンテージギターのことを思い出した」
「先ほど、向かいにあるギターショップの店主に確認しました。このギター、良品であれば現在二千万ウォンはくだらないそうですね。シウさんは次の就職先を見つけるまでの一時しのぎとして、ムウナが今言ったとおりドヒョンさんからギターを返してもらうつもりでした。しかしライブハウスに入る直前、顔見知りのオーナーさんと出会った」
「さっきオーナーに聞いたけど、オーナーにはメジャーデビューすることを話してたんだって?」
ムウンの問いに頷くドヒョン。
「ああ、ここのオーナーにはずいぶん世話になったからな……」
「オーナーもずいぶん嬉しかったそうよ。そんな時、for yourの元メンバーと出会った。オーナー、てっきりシウがメジャーデビューに合わせて復帰するんだと勘違いしたみたい。あんたたちに許可を取らずにシウを楽屋に通した。それを事後報告しようと本番直前のあんたに近づいたところ、シウのギターのネックが反っていることに気付いた。こんな状態ではシウが弾けないと思ったオーナーは、調整を請け負ってシウの待つ楽屋に戻った」
ムウンがそこまで喋ると、ホカゼがカードケースを取り出した。中にある楽器店の名刺の束をドヒョンに見せる。
「でも、ずっと誰も弾かずに放置していたせいか、そのギターはネックの調整だけでは済まなかったようです。自分の手には負えないと判断したオーナーは、信頼できる楽器店へ修理依頼を出そうとした。もともとギターを返してもらう予定だったシウさんはそれを聞くと、自分が修理に出すからと言ってオーナーからギターを受け取りました。その時にシウさんがオーナーから聞いた、おすすめの楽器店がこちら」
シウが名刺を取り出す。それは、このライブハウスの向かいにある홍대 중고 기타 앤드 리페어の名刺だった。自慢げにホカゼが続ける。
「おかしいと思ったんです。今日のライブのポスターを貼ってくれているくらいなのに、名刺は無いなんて。答えは簡単、その名刺は誰かの……ギターを持ち出した人の手に渡っていたんですね。それに気付いた瞬間私は楽屋を飛び出しました」
「私だってホカゼの直後に気付いたから! とにかく、シウは自分が修理に出すと言って楽屋からギターを持ち出した。でも、黙って持ち出したわけじゃない。ちゃんと置き手紙を残していったの」
「最初は、直接顔を合わせてギターを返してくれるよう頼むつもりだったんだ。だがこんな話お前らにしたくなくて……オーナーがギターを持ってきたのを見たときに、手紙だけ残して黙って持って帰ろうと思ったんだ」
「でもそんな、置き手紙なんて俺が楽屋に帰った時には無かったぞ?」
「そう、無かったのよ。なぜならその置き手紙はあんたたちがライブを終える前に盗まれてしまったから!」
部屋の隅にいたバーテンダー見習い。一枚の紙をドヒョンに差し出すと、頭を下げた。
「すいませんドヒョンさん! 俺、シウさんが残したこの置き手紙を、for yourの新曲のメモだと勘違いして……いつかメジャーデビューして売れた暁にはレアアイテムになると思って……」
「돌려줘 미안해……そうか、この置き手紙をシウが……。それにしてもこの文章、なんだか俺が今日歌った新曲に似てるな?」
「ほんとよ! あんたがオーナー宛に変な新曲を歌ったせいでこっちは大迷惑したんだから!」
「まあまあ、落ち着いてムウナ! 変な偶然が起きてしまったのは事実ですが、偶然のおかげで謎が明らかになったのも事実です。実は私たち、今日ライブをやる前にシウさんに会っていたんです。そのときはfor yourから脱退したのがどんな方なのか知らなかったので気付きませんでしたが……。場所は向かいのギターショップでした。シウさんはあの日、ギターを持って楽屋を去ったあと、向かいのお店を訪れて売却する前に修理を依頼したんです」
「それを今日、受け取りに行ったタイミングで私がライブの宣伝をしたものだから、びっくりしてお店から出ていっちゃったんですよね!」
得意げに聞くチェソンに、シウは少し引きながら頷く。
「あ、ああ……というか、for yourが今日もライブをやるっていうから最後にもう一度だけ見に行こうかと思ったんだが……やっぱり顔も合わせずにギターを持ち出した手前、ライブを見る勇気は出なかった。この子たちの出番を見たあとに立ち去ったよ」
「シウさんは修理されたギターを受け取って別のお店に売却するつもりだったようです。私たちがライブをやったのが今日じゃなければ、この事実に私たちが気付くこともなく、ドヒョンさんがギターの行方を知ることもなく、オーナーさんが犯人だと疑ったままになるところでした」
ホムズが一通りの種明かしを終えると、シウがドヒョンに頭を下げた。
「さっきこの子から向かいの店で話しかけられて、ギターが盗まれたことになってるって聞いたんだ。すまなかった……俺が置き手紙なんかせずに、ちゃんとお前らが帰ってくるのを待っていればよかっただけなのに」
「いや、本当のことが分かってよかった。さっきも言ったとおりそのギターは元々お前のものなんだから、そのまま持っていてくれよ。というより……」
恥ずかしそうに咳払いをするドヒョン。
「実は俺たち、メジャーデビューすることが決まったんだ。全然売れていなかったあの時とは違う。もしお前にその気があるなら、もう一度俺たちとバンドを組んでくれないか」
「もう一度音楽をやれて、家族にも迷惑をかけずに済むなんて俺からしたら願ったり叶ったりだ。ぜひやらせてくれ……ありがとう、この恩は必ず返すよ」
「俺たちこそ! またシウと音楽がやれるなんて!」
抱き合う四人。そのとき楽屋の扉が開いて、客席から聞こえる手拍子の音とともにオーナーが飛び込んできた。
「お前たち、いつまで客を待たせる気だ! まさかアンコールやらないつもりじゃ……って、シウじゃないか!」
「オーナー、急だけどアンコールにシウも参加します。良いですよね?」
「当たり前だろ! for your完全復活だな!」
誰よりも喜んでいるオーナー。そしてドヒョンは、ホムズの二人とチェソンにも目を向けた。目をぱちくりさせる三人。
「それから、今日のMVPも一緒だ」
「MVPって……私たちのこと!?」
「当たり前だろう! お前ら、この子達の一曲目覚えてるよな? シウも客席で見てたんだろ?」
「ああ、キャッチーな曲だったからいけると思う」
「よし! オーナー、急ですけどハンドマイク三本用意してもらえますか?」
「分かった!」
「ドヒョンさん、まさか……」
「君たちがいなかったら、ここにいる全員の関係性が壊れていたかもしれない。お礼として十分とは言えないが……君たちのパフォーマンスに華を添えることくらいならできる。やらないなんて言わないよな?」
顔を合わせる三人。満面の笑みを浮かべると、大きく頷いた。
「やります!」
アンコールを大成功のうちに終え、興奮冷めやらぬまま楽屋で騒ぐfor your…の四人。ライブハウス側が用意した軽食はいつの間にかなくなってしまっている。その楽しげな様子を、一足先に帰り支度を終えたホムズとチェソンが目を細めて眺めていた。それに気付いたドヒョンが三人の元へ小走りで向かう。
「もう一度礼を言わせてくれ。ギターの謎が解けたのも、シウがバンドに戻ってきたのも、全部君たちのおかげだ。本当にありがとう」
「いえいえ。私たちの方こそ、アンコールにまで参加させていただきありがとうございました。ただの練習生なのに生演奏でパフォーマンスができるなんて、夢のような夜でした」
「練習生……か。踊りに関して俺たちは素人だから偉そうなことは言えないが、今日の君たちの姿はテレビで見るアイドルと何ら変わりないように思えた。それでもデビューできないなんて、アイドルになるのは本当に大変なんだな」
「あら。これでも私たち、一度はデビューが決まったこともあるのよ」
「一度は? デビューが決まっていたなら、どうしてまだ練習生を……」
「その話は、長くなってしまいますから」
ホカゼに言葉を遮られるドヒョン。何か、話すことのできない辛い過去があるのだろうか……。憐れむような目で三人を見たドヒョンだったが、すぐにその考えを打ち消した。
三人の眼は闘志に燃えている。それは、まだアイドルとしてデビューすることを諦めていない眼だった。
「ロックンロールは홍대(ホンデ)に戻る」お読みいただき、ありがとうございました! 次回、長編連載「맏언니(マドンニ)のキセキ」彼女たちは何故、練習生探偵の道を選んだのか……。




