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ステージ脇、幕の裏からこっそりと様子を眺めている三人。誰もいないステージとは真逆に、スタンディングの客席はfor your…を見に来た観客たちでごった返している。それでいて話し声は聞こえず、うっすらと流れているBGMが鮮明に聞こえる。三人は大きくため息をついた。
服は白黒で柄が無いが、全員トゲのついたチョーカーや指抜きのグローブでパンクを演出している。目元のメイクを濃くすることで女の強さを演出したつもりだが、当の本人たちは居心地が悪そうに肩をすくめていた。
「緊張するね……」
「たったの二曲よ。それも踊りだけ。こんなことで緊張してちゃダメじゃない」
「そんなこと言ってムウンオンニも声震えてますよ」
そこにオーナーがやってきた。
「準備はいいか? もう開演時間だから、問題なければ開始の合図を出すぞ」
「はい……お願いします」
「緊張してるみたいだな。まだアイドルとしてデビューもしてないんだろ? それがどういう縁か知らないが、人気ロックバンドの前座。満員の客席は完全アウェー、俺がお嬢ちゃんたちなら逃げ出してるぜ。まあ、胸張って楽しんできなよ」
「はい!」
三人が頷くのを見ると、オーナーは幕から手を出して客席奥のスタッフに合図を出した。BGMの音量が上がってステージの照明が消える。三人は覚悟を決めてステージに歩き出した。
「ムウンオンニ、オーナーめちゃくちゃ良い人じゃないですか……絶対あの人ギター盗んでなんかいませんよ」
「第一印象なんて当てにならない。っていうか、今その話やめろ! さすがにパフォーマンスに集中!」
客席に背を向けて横に並ぶ三人。それを真っ白な光が照らした。
「誰?」
「知ってるアイドル?」
「アイドルじゃなくてアイドル候補らしいぞ」
「そもそもなんでアイドルなんかがfor yourの前座を……」
客席から聞こえてくる怪訝な声。それを打ち消すようにステージ左右のスピーカーが震えた。曲の歌い出しとともに完璧なタイミングで振り向く三人。
チェソンが選んだ一曲。近年の女性KPOPアイドルの中でも、飛び抜けてロックンロールのイメージを押し出した楽曲だ。七人グループの曲だが、ユニットごとのパートが多いこと、また全員パートはセンターを除いて横並びのシーンが多いため、三人でも元のダンスのかっこよさを失わずにカバーできると、チェソンが二人を説得したのである。
三人は一つのパートを踊ると瞬時にフォーメーションを切り替え、別人になりきって踊る。七人パートではステージいっぱいに広がり迫力を出し、ユニットパートでは中央に集まって一体感を演出。
一番のサビの終わり、センターにいたチェソンが急に目を見開いた。客席奥に知っている男を見つけたのだ。
その場で振り付けを変更し、決めポーズでその男に向けて笑顔で人差し指を向ける。
急なアドリブに戸惑ったムウンだったが、一ミリ秒も遅れることなくチェソンからセンターを引き継いだ。二人を左右後ろに従え、ラップパートに入る。音源を流しているだけでマイクも使っていないが、原曲のラップを完璧に再現。前列の客はムウンが口パクではなく実際に歌っていることに気付き、そのラップの完成度の高さに感嘆の声を上げた。そしてパートの最後には強烈なキックを披露。
笑顔になるホカゼ。あの日、ムウンがこのパートを一人で練習するのを見ていたのだ。ホカゼも負けじと、長い髪を活かしたヘドバンで場を盛り上げる。
そして、最後のサビに入る時にはチェソンが頭の上まで足を振り上げた。沸き上がる観客。三人はステージギリギリまで前進するとそのままサビを踊り切り、各々の決めポーズを固めた。
曲が終わると、少しずつ客席から拍手が聞こえてきた。絶賛とまでは行かないが、無名の前座としては大満足の評価だろう。次の曲に入る前、三人は観客に話が聞こえないように顔をつき合わせた。
「お客さんあったかいですね、オンニ!」
「そんなことよりあんた、イチサビ終わりの急なアドリブ何!? 本番でやることは共有しておきなさいよ!」
「だって、今日誘ったあの人が来てたんですよ!」
ホムズの二人が客席をチラリと見る。客席の一番後ろ、出入口の近くに今日ギターショップで会った男がいた。
「あの人、本当に来てくれたんだ……」
「感激ですよね! 私、声かけて正解でしたよね!」
「そうだね、ありがとうチェソニ。よし、もう一曲行くよ!」
三人が次の曲のスタートフォーメーションに着くと、ホカゼがステージ脇に目を向けた。オーナーがドヒョンと一緒に幕の裏から三人を見ている。ホカゼの合図に気付いたオーナーがスタッフに指示を出すと、次の曲の音源が流れ始めた。
「それでは最後に挨拶します! 私たち、THE ONE所属のホカゼと!」
「ムウン!」
「チェソンでした、ありがとうございました! このあとはお待ちかね、for yourのライブをお楽しみください! 안녕〜!」
二曲目も成功に終わり、拍手に包まれる三人。客席奥を見ると、チェソンの誘いで来てくれた男がちょうど出入口に消えるところだった。
「まさかあの人、私たちだけ見に来てくれたわけ?」
「ほんとですか!? でも、ギター屋さんで会ったときはfor yourの名前を知ってるみたいでしたよ?」
「ファンではなかったのかな……?」
そんなことを話しながら、三人はステージ脇に入っていった。オーナーが拍手しながら出迎えてくれる。
「よくやった! うちもたまにアイドル系のライブはやるが、ファンがいないことを除けばお嬢ちゃんたちの方が盛り上がってたんじゃないか?」
「いや、ファンがいない時点で比べものになってないから!」
ツッコみつつも、少し嬉しそうなムウン達。オーナーに挨拶して奥に進むと、ドヒョンたち三人が出演準備を終えて待っていた。
「お疲れ様、ずいぶん盛り上がってたじゃないか」
「ありがとうございます! オーナーさんは、ライブの時はいつもステージ脇から見ているんですか?」
「ああ。ただあの日はライブ直前にギターを預けて、オーナーは楽屋に向かったよ。しばらくしたらいつもの場所にいたから、その時はネックの調整が終わったものだと思っていたけど……」
「ライブが終わって楽屋に戻るとギターが無かった、ってことね。でもやっぱり怪しいわよ。オーナーにはギターが盗まれた話はしていないんでしょ? いつもライブを見ているなら、今日あなたたちがギターを持っていないことを指摘するはずだわ」
「そうだよな……。とにかく、あとは頼んだよ。俺たちのライブ中、オーナーはずっとステージ脇にいるはずだから、そのあいだに何か証拠を見つけてくれ」
「分かりました。私たち素人から言われる筋合いは無いかもしれませんが……ライブ頑張ってください」
ドヒョンたちは礼を言うと、ステージへと向かった。そしてホムズとチェソンは頷くと、楽屋へと歩き出した。




