↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
練習生探偵ホムズ  作者: オカザキ
맏언니(マドンニ)のキセキ
PR
30/35

第五話 (3)

 翌日、早朝。まだ日が昇っていない、深夜と呼んでもおかしくないような時間帯に、三人は再びチェソンの部屋に集まっていた。慌ただしく動くチェソンを、二人が玄関から見つめている。


「빨리 해(早くしろ)!」

「ごめんなさい、ごめんなさい! どこ行ったんだろう私のパスポート……」

「飛行機の時間は決まってるから、落ち着いて探して。あと十分くらいで見つけられれば大丈夫だよ」

「ホカゼオンニ……」

「でも十分で見つけられなかったら置いていくからね」

「ホカゼオンニ!」

「当たり前でしょ! 誰が欠けたとしても私たちはオンニを助けるのよ!」


 チェソンとは反対に準備が終わった様子のホカゼとムウンだが、スーツケースもボストンバッグも持っていない。二人ともポーチを一つずつ持っているだけである。ムウンはおもむろにそれを開けると、パスポートなどの忘れ物が無いことを確認する。


「……잠시만 무은아(ちょっとムウナ)。이것 뭐야(それ何)?」

「何って……向こうであの母親どもと出くわすかもしれないでしょ」


 ムウンがポーチから取り出したのは催涙スプレーだった。


「いざというときに、素手じゃオンニを守れないでしょ」

「안 돼(ダメだよ)! 荷物検査で捕まっちゃうよ!」

「そうなの!? 先に言ってよ……」


 渋々、催涙スプレーを置くムウン。ちょうどそのとき、チェソンが紺色の手帳を手にして飛び跳ねた。


「あった、ありました! この前、ボラムオンニの手がかり探しで掃除したときに変なところに紛れ込んじゃってたみたいです」

「まったく……やっぱりあんたがオンニのパスポートを持って行くの不安だわ。渡しなさいよ」

「さすがにポーチに入っているものまで失くしませんよ! ちゃんと私が持っていきます!」


 自分のパスポートとボラムのパスポートをポーチにしまうチェソン。そして手には、昨日作ったストラップを大事に握っている。


「空港でオンニのパスポートを間違えて出さないでね、チェソニ……。私のパスポートは赤で分かりやすいから、やっぱり私が持っていようか?」

「私のパスポートとボラムオンニのパスポートも違う色だから間違えません! もう、オンニたち私のこと信用してなさすぎ!」


 気まずそうに目を合わせるホカゼとムウン。返事をしない二人に、チェソンは地団駄を踏む真似をした。ムウンはわざとらしく咳払いをすると、顔をしかめて腕を組む。


「飛行機のチケットも昨日のうちに取ってあるし、これで空港へ向かう準備は整った。時間的にも、今出ればちょうどいい時間に搭乗口にたどり着けるはず。あとは表にいる見張りさえ突破することができれば……」

「問題はそこだよ。なんとかして見張りの人に気付かれないようにここを出ないと……」


 ホカゼが玄関の扉を開けようとしたその瞬間、部屋のチャイムが鳴った。凍りつく三人。部屋の鍵がかかっていることを確認すると、ホカゼが静かにドアスコープを覗く。そのまま忍び足で部屋の奥へと戻るホカゼとムウン。チェソンと合流すると、顔を突き合わせて小声で会話を始めた。


「誰ですか、ホカゼオンニ?」

「見張りの人と、部長……」

「まさか、空港に行こうとしているのがバレた?」

「ありえないよ。この作戦を考えてから誰とも連絡なんて取ってないんだよ?」

「じゃあ、どうして部長がここに……。見張りもついてきてるし、これじゃあ気付かれずに空港へ向かうのは不可能よ……」


 そのとき、玄関の扉越しに部長の声が聞こえてきた。


「起きているのは分かっている。ホカゼとムウンもいるんだろう? 先ほど廊下から話し声が聞こえてきたぞ」

「どうしよう、ムウナ……」

「ムウンオンニ……」

「何よあんたたち、大人とやり合うときに限って私ばっかり……」


 ムウンが額に手を当てて大きく深呼吸する。横にいる二人にも聞き取れないくらいの小声を口から漏らす。


「見張りも来ているということは、ここさえ乗り越えれば何とかなる。土地勘があるのはホカゼ、臨機応変に動けるのはどう考えても私。でも……」


 ムウンが隣を向くと、涙目のチェソンと目が合った。


「オンニ、このままじゃボラムオンニが……」


 チェソンの手はボラムのために作ったストラップを握ったまま震えている。それを見てムウンは、小さなため息とともに肩の力を抜いた。


「今オンニに会う資格があるのは……あんた、か……」

「……ムウンオンニ?」


 扉を強く叩く音が聞こえて、チェソンが小さく悲鳴を上げた。ムウンがホカゼに自分のポーチを投げる。


「ホカゼ、クローゼットの中にポーチを隠して。私のもお願い」


 玄関へと向かったムウンは、ポケットに催涙スプレーをしまった。その背後で、どうしたらいいのか分からずホカゼについていこうとするチェソン。ムウンがそれを呼び止めた。


「あんたはクローゼットに隠さなくていい。その代わり上着の中にポーチを隠しなさい」

「え……?」

「いいから早く! ……あんたのこと、信じるからね」


 ムウンが何をしようとしていたのか分からず、混乱していたチェソン。だが、ムウンの目を見て彼女の思惑を悟る。つばを飲み込み、ゆっくりと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。