第四話 (7)
タクシーが事務所へと到着する。それと同時に、建物からヨンヘ、マネージャー、部長が姿を現した。
「どうしてヨンヘさんがここに……?」
ホカゼが車窓に顔を近づける。すると向こうもホカゼたちに気付いたらしく、明らかに車内を見つめていた。三人はタクシーを降りると、ヨンヘたちの前に立ち並ぶ。一メートルほど開いた空間を沈黙が支配する。最初に口を開いたのは、ムウンだった。
「ヨンヘさん、事務所に何のご用ですか?」
口を開かないヨンヘ。代わりに部長が答えた。
「彼女とともに釜山へ向かわれるところだ」
マネージャーと目が合うムウン。力強く睨みつけるが、マネージャーの表情は微動だにしない。
「マネージャーもオンニの捜索に向かうんですね」
「担当練習生の問題ですので、対応するのは当然です。それよりムウンさん、黒染めスプレーを無断で使用したのですか? イェリンさんが帰ってくれば本格的にデビューに向けて動き出すことになります、容姿の変化に対してもっと慎重になってください。髪色の変更は一時的なものであっても事務所の許諾が必要です」
「マネージャー、今そんなことを言っている状況ですか……?」
「ええ。むしろ、何のためにイェリンさんを探していると思っているんですか? あなたたちがデビューするためでしょう」
淡々と言葉を返すマネージャー。イェリンを見つけることが当たり前のことのように話を進める。その様子に、チェソンが悲痛な声を上げた。
「もうやめてください! ヨンヘさん、ボラムオンニがなんでいなくなったのか分かっているんですよね!?」
チェソンから矛先を向けられたヨンヘ。マネージャーに受け答えを全て任せ、三人を見ることすらしていなかった彼女だが、チェソンに目を向けるとようやく口を開いた。
「その名前まで……どうやってたどり着いたのかしら。ただのアイドル練習生が大したものね。最初は何も知らないままイェリンの捜索に加担してくれるかと思ったのだけれど、見通しが甘かったわ」
「もしそんなことになっていたら、私たち悔やんでも悔やみきれない! 騙していたなんて許せません!」
チェソンの言葉を聞いて、ヨンヘが高らかに笑う。
「騙す? 身の程をわきまえなさい。このマネージャーが言ったように、あなたたちイェリンがいなければデビューできないのよ? 探してあげていることに感謝してほしいくらいよ」
ムウンが耐えかねてヨンヘに向かって歩き出そうとしたが、すんでのところでホカゼが止めた。それを見て鼻を鳴らすヨンヘ。
「あなたたち、それならあのコメントにも気付いたのかしら」
凍りつく三人。やはり、既にバレていた……ムウンの背中を汗がつたう。ヨンヘがマネージャーに合図を出すと、マネージャーがスマートフォンを操作し、写し出された画面をヨンヘに見せた。声を上げて笑うヨンヘ、その銀髪が風に揺れる。
「あら、コメントを消したのね。でももう遅いわ、既に逆探知は始めてある。時間の問題よ」
マネージャーが近くに止まっている車へと向かう。それに続くヨンヘ。その背中に向けて、ホカゼが声を絞り出した。
「……警察に言います」
ヨンヘがゆっくりと振り返る。その顔には、歪んだ笑みが貼り付いていた。
「なんと通報するの? 母親が、いなくなった娘を見つけようとしています、って? あなたたちの考えるイェリンがいなくなった理由……それが本当だと、警察が相手にしてくれるような証拠が一つでもある? どうぞ言ってごらんなさい。きっと警察は、私たちと一緒に娘を探してくれることでしょう」
マネージャーが車の後部座席の扉を開ける。ヨンヘは車内へ入ろうとしたが、すぐにまた動きを止めた。背中を向けたまま部長に言葉をかける。
「……とはいえ、これ以上動かれてもこちらにメリットがない。イェリンを連れ戻すまで、その子たちの動きを封じておきなさい」
後部座席に座るヨンヘ。マネージャーは扉を閉めると、運転席へと向かった。
「待ってください!」
走り出すチェソン、二人もその後に続く。だが、その前に部長が立ちはだかった。その背後で、ヨンヘを乗せたマネージャーの車が静かに走り出す。すぐ先の角を曲がり、車の姿は見えなくなってしまった。
「部長、どうしてですか!」
チェソンが抗議の目を向けるが、部長の顔は影になっていて表情を読み取ることはできない。ただ、感情のない低い声だけが返ってきた。
「……寮に戻れ」




