第四話 (6)
「私たちで、オンニが事務所やヨンヘさんに連れ戻されるのを阻止する。そうすればオンニは整形を強制されることなく、ボラムとしてお父さんを探すことができる」
「そうね、問題はどうやって阻止するかだけど。全く手がかりのない父親に、そう簡単に会えるとは思えない。国内では捜索が続いているし、国外に逃げようにも空港を見張られている。そもそもオンニは今パスポートを持っていないわけだから、網を張られた国内で逃げ続けるしかない」
「オンニがお父さんと出会うまで、追跡を妨害し続ける……そんなこと私たちにできるのかな……」
「できるかどうかじゃない、やるしかないのよ」
お互いに頷くホカゼとムウン。すると、チェソンがつぶやいた。
「無事にお父さんと会えたら、イェリン……ううん、ボラムオンニ、私たちのところに戻ってきてくれると思いますか?」
「どうかしらね。今考えればあの母親、私たちよりも先に事務所からデビューについて知らされていた。少なくとも、あの母親が事務所と繋がっているうちは……」
「そう、ですよね……」
事務所までもう少し、タクシーは漢江沿いを東に走っていた。外を見つめる三人。向こう岸、遠くに見える高層ビルが一つ、また一つと過ぎ去っていく。しかし手前に見える河川敷は、変わらない景色がどこまでも続いている。つい一週間前まで、四人が日課のように走っていた河川敷だった。
「それじゃあ、これから私たち、三人になっちゃうんですね……」
「オンニがいないチームなんて想像できないわ。どうなるのかしら?」
「部長はボーカルがいない限りデビューを許可しないって言っていたから……当面は私たち三人で練習生に戻ることになるんじゃないかな」
「つい四日前、四人のチームとして動画を上げたばかりなのに……って、あれは非公開にされたんだ。あのときはオンニを見つけて帰ってきてもらうつもりでいたけど、こうなるなら非公開にして正解だったのかもしれないわね」
ムウンはそう言うと、笑いながらホカゼに声をかける。
「あんたほんとに芸名にするなら今のうちに考えときなさいよ、ホカジェさん」
「ああ、そういえばそんな話してたね……。でも、もういいかな」
ムウンが横を見ると、ホカゼはぼんやりと車の天井を見つめていた。
「やっぱり、自分の名前で活動したいって思った。これから出会う人たちも、最初は間違えるかもしれないけど……私のホカゼって名前を覚えてほしい」
「賛成、あんな動画のコメントなんて気にしなくていいのよ。何が『帆風だから호바람』よ。バラマだのボラムだの……」
ムウンはそこまで口にするとショックで完全に動きを止めた。ホカゼとチェソンも目を真ん丸にして顔を見合わせる。
「무은아、지금 보람라고……」
「言いました。ムウンオンニ、今ボラムって言いました」
「い、言った……確かにあの動画で見たわよね? ホカゼのことをボラムって呼ぶコメント……」
「ちょっと待ってください、動画はまだ非公開で残っているはずだから確認します」
チェソンが慌ててスマートフォンの電源を入れると、動画を投稿したアカウントの管理画面を開いた。非公開のまま残っている、『THE ONE New Idol Project』唯一の動画。そのコメント欄を開くと、ホカゼの名前で盛り上がっているコメントの中に、確かにボラムという名前が残されていた。
『보람 보고 싶어』
「언니들이、혹시 이것……」
「ええ……。あのときはオンニの名前を知らなかったから、てっきりホカゼの名前で遊んでいるコメントの一つだと思っていたけど……。オンニのことを呼んでいるのだとしたら……」
「動画でオンニはイェリンとして紹介されている。オンニの名前がかつてボラムだったと知っているのは、オンニが生まれたときのことを知っている人たちだけ。そのなかでオンニに会いたがっている人がいるとすれば、それはきっとお父さんだよ!」
「だとしたら……」
チェソンが、ボラムの父のものと思われるそのコメントをタップする。すると、それに対する返信が一件表示された。
『나도 보고 싶어』
ムウンが頭を抱えた。
「確かに、こんな返信コメントもついていたわね……。てっきり『自分もボラムに会いたい』っていう意図のコメントだと思ってたけど、上のコメントがオンニの父親なんだとしたらこんな返信をするのは一人しかいない……」
「オンニが、『私もお父さんに会いたい』って返信したんだ」
「そ、そんなことありえるんですか!? だとしたら奇跡ですよ! 私たちの動画で、二十三年間も音信不通だったボラムオンニとお父さんを巡り合わせたってことですか!?」
「推測の域は出ないけど……可能性としてはありえると思う。でも、これ以上会話は続いていないし、仮にオンニたちだったとしても今どうなっているのかは追跡不可能だね。別の方法で会話を続けているのかも」
「その方法さえ分かれば事務所側の情報をオンニに横流しできるけど、特定は難しいわ。オンニに送ったメッセージには今も反応が無いし、イェリンとして使っていたスマートフォンやアカウントは捨てたんでしょうね……」
「このコメントをしたアカウントから、現在地の特定はできないんですか? 居場所が分かれば連絡を取る方法もあるかも!」
「あんたがそういうの一番詳しいんだから、あんたが無理なら無理よ!」
「죄송합니다! 못합니다!」
徐々に元気を取り戻してきたチェソン。しかし、ホカゼは深刻な表情をしていた。
「私たちには無理でも、事務所にはできるかもしれない。オンニとお父さんはもう他の方法で連絡を取り合っているはずだし、念のためそのコメントはもう消してしまおう」
チェソンは頷くと、アカウントの管理者権限を使って二つのコメントを削除した。
「ありがとう、チェソニ。まだ事務所やヨンヘさんにバレていないと良いのだけれど……」
「怪しいわね。今日ボラムという名前を知った私たちとは違って、当然あの母親はずっと昔から知っていた。あの日動画をアップロードして、コメントがついた瞬間に気付いた可能性すらあるわ」
コメントを消しても、三人の心の中の不安は消えないままだった。




