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ドヒョンがホムズの提示した条件を快諾し、無事に依頼は成立した。ホムズは残りの情報をドヒョンから聞き取ると、ダンスの練習に行くと言ってドヒョンを追い出していってしまった。
ダンススタジオにホムズが到着すると、喜びの歓声を上げながら一人の女の子が突撃してきた。
「언니〜〜〜!!!」
ムウンが突っ込んでくる金色のミディアムヘアを押さえつける。
「落ち着け、왕채선!」
反動で尻餅をつく、チェソンと呼ばれた女の子。オンニ……お姉さんという発言からも分かるように、全身オレンジのジャージでメイクも練習中といった様子の彼女はホムズの二人と比べると年下に見える。練習生ではなく一般人ならば、高校生になりたてといったところだろう。
チェソンは勢いよく立ち上がると、飛び跳ねながらホムズの二人に話し続ける。
「オンニ! 私たちライブできるってほんとですか!?」
「맞아요、チェソニ。前座で二曲やらせてもらえることになったから、今日はその練習になるわ」
「最っ高、これでまたデビューに近づきますね! まずは曲選びですよね! ちょっと調べたんですけどfor yourってけっこう激しめのロックバンドみたいなんで、私たちもロックなアイドル曲をやらなきゃ! やっぱりBilllie 선배님のRING ma Bellは外せな……」
「だから落ち着け! 前座をやらせてもらうのはギター探しを手伝うからで、そっちの情報共有が先決!」
ムウンがスマートフォンの画面をチェソンに見せる。それはドヒョンから入手したギターの写真だった。ライブハウスのステージでスタンドマイクを前にギターをかき鳴らすドヒョン。静止画にもかかわらず、飛び散る汗から音楽の激しさが伝わってくる。左右奥に写っているのはメンバーのドラマーとベーシスト。そして今回盗まれたギターはドヒョンが持っているものではなく、ドラマーの手前に飾られている漆黒の一本だ。
「ドヒョンさん曰く、ライブをするときはいつも舞台に置いていたらしいわ。なかなかメジャーデビューできずに自信を無くすことも何回もあったけど、昔の親友のギターを見ると、俺たちはこの道を進むんだ、って思い直せたそうよ」
「でも、あの日は理由があって楽屋に置いていた。そこを盗まれたってわけ」
ドヒョンの証言を思い出すムウン。
『あの日ステージに出る直前、オーナーがギターの反りをライブ中に調整しておいてやるって言うから渡したんだ。オーナーがそのあと楽屋の方に持っていったのは見たんだが、ライブが終わって楽屋に戻ったらもう無くなっていた……』
ムウンは、そんなのオーナー犯人で確定だろ、と口から出る寸前、ホカゼに無言で制止されたことも思い出していた。
「あまり大きなライブハウスではないから、無くなったことに気付いたドヒョンさんたちが帰る前に探したらしいの。でも、ギターは見つからなかったそうよ」
「そんなの、いまさら物的証拠を探せなんてできるわけないじゃないですか」
「ドヒョンさんたちが探したのはギターだから、もしかしたら些細な証拠を見逃しているかもしれない。それを一つでも見つけてオーナーさんに盗みを認めてもらい、穏便に和解させるのが私たちが受けた依頼内容ってこと」
「煩わしい。私たちが前座をやるのも同じ弘大にあるライブハウスだから、そのときにオーナーを問い詰めて白状させればいいのよ」
「안 돼! 証拠が無い状態でオーナーさんに少しでもギターや一昨日の話をするのはNGって言われたじゃない」
「はいはい、まったくホカゼは律儀ね」
馬の合わない二人を見て、この二人はいつもこうだ、とチェソンが苦笑いをする。几帳面で、何事も時間をかけて満足のいくまで徹底するホカゼ。口喧嘩が強く、何事も自分の思い通りに持ち運ぼうとするムウン。歌もダンスも、こうやってときどき舞い込んでくる依頼もこんな調子で、果たして全員揃ってアイドルデビューすることはできるのだろうか。そんな不安を振り払いながらチェソンが次の質問をした。
「オーナー以外に怪しい人はいないんですか?」
「バンドメンバーはライブ中だったから当然アリバイがあるでしょ。あとステージ裏に入れるのはスタッフだけで、小さなライブハウスだからオーナーさん、受付、音響照明スタッフ、バーテンダー、あとバーテンダー見習いの人だけだって」
「受付、スタッフ、バーテンダーもライブ中は持ち場を動けないからアリバイがあると言っていい。オーナー以外に盗めるとしたらバーテンダー見習いね。依頼人曰く、そこでは貧乏な出演バンドのためにライブ後の軽食を用意してあげているらしいのだけれど、いつもバーテンダー見習いがライブ中に楽屋に運んでいるそうよ。一昨日もライブ終わりには軽食が用意されていたと言っていたわ」
とはいえやはり、理由をつけて本番前にギターを預かったオーナーが一番怪しい。ホムズもその点はドヒョンと同意見であった。
「まあ、共有事項はこんなところかな。あとはチェソニの言ったとおり、ロックバンドの前座でやるカバー曲を選ぶよ!」
ホカゼがそう意気込むと、ムウン、チェソンが「가자!」と拳を上げた。
三人が一曲ずつ持ち寄ったなかで選ばれたのは、ムウンが選んだ男性アイドル楽曲とチェソンが選んだ女性アイドル楽曲。何事も押しが強いムウンとKPOPの話になると前が見えなくなるチェソン。その二人にホカゼが選曲を譲るのはよくある話なのだが、ホカゼはメインダンサー志望なだけあって振り付けを覚えるのがとても早い。自分が選曲したはずなのにいつの間にかホカゼの方が上手くなっている、というのはムウンとチェソンにとってよくある話なのである。
壁の一面が鏡張りの部屋で、鏡越しにホカゼが二人のダンスの粗を指摘する。
「ムウナ、ラップパートの振りが遅いよ!」
「分かってる!」
再び同じパートをやり直す三人。今回のライブは原曲の音源を使ってダンスに専念することになっているが、それでも曲のラップパートで前に出るのはメインラッパー志望のムウンだ。
そしてダンスブレイクのパートで飛び出したのは、ホカゼと同じくメインダンサー志望のチェソン。幼少期からダンススクールに通って身につけた華麗なジャンプを披露するが、背後からホカゼのダメ出しを食らう。
「チェソニ、ヒップホップ感が抜けてないんじゃない? もっとロックに決めなきゃ!」
「それなら!」
再び飛び跳ねたチェソン、今度は空中で大きく開脚。エアギターのポーズを楽曲のギターソロに合わせて決めてみせる。
「そのアドリブ、いいじゃない! 私も!」
センターをチェソンから引き継いだホカゼが変則パターンのドラムに合わせて連続回し蹴りを披露。そこから三人のタイミングを完璧に合わせて最後のサビを踊り切った。
「うん、これなら本番も行けそうね」
息一つ切らしていないホカゼに心の中で感嘆するムウン。普段はおとなしいホカゼだが、踊っているときは別人のように輝いている。
「やっぱり、アイドルになるためだけに国を越えてきたやつは違うな……」
「何か言った、ムウナ?」
「なんでもない」
「それより今思ったんですけど、実際にお客さんの前でステージを披露したことなんて私たちありましたっけ? こういうのって事務所の許可取らなくていいんですかね?」
「いいわよ、やるのはオフの日だし。それにうちのマネージャーめちゃくちゃ事務的だから、こんなこと言っても絶対やらせてもらえないでしょ」
仏頂面のマネージャーを思い浮かべる三人。まだ若い女性なのだが、アイドルの夢を追いかける彼女たちと比べると、ずいぶん現実に揉まれてきたのだろう、というのが見てとれる表情をいつもしている。
相談すれば断られるだろうとはいえ、黙ってライブをやるのが不安なホカゼ。マネージャーの顔を脳内から振り払うと、手を叩いた。
「でも、あんまり課題に関係ないことばっかりやっていても怒られるし、そろそろ事務所の課題曲に移ろう。ギターの件は、あとは当日ね!」
Talent Profile 〜CHAESEON〜
名前:チェソン/채선
年齢:16歳
誕生日:8/21
身長:154cm
MBTI:ENFP
担当:メインダンサー/リードラッパー
趣味:ゲーム
所属事務所:THE ONE (公開練習生)




