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練習生探偵ホムズ  作者: オカザキ
맏언니(マドンニ)のキセキ
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第二話 (2)

 蛍光灯の消えたスタジオを青白いLEDライトが不気味に照らす。全ての準備を終えた三人がカメラの後ろに並んでいた。


「まずは全身、それから顔のアップ。三人それぞれ、短い動画を二本ずつ撮ろう」


 ホカゼはそう言うと、ダンス動画を撮る予定の曲をスマートフォンで再生した。画面上にあるループのマークをタップする。


「今日は踊らないけど、この曲の雰囲気に合わせてクールに、ミステリアスにね」

「分かってるわよそんなこと。私から行くわ、チェソンよろしく」

「はい、録画開始しました!」


 カメラの前に立つムウン。白いワイシャツに真っ黒なネクタイを崩して着用している。グレーのスラックスは、彼女が履いている黒いピンヒールすら半分隠すほど裾が長い。トレードマークの真っ赤なショートヘアはワックスで完全に固め、メイクで切れ長の目を強調。左手をポケットに突っ込むと、気だるそうに右手でシャツの襟を下へ引っ張った。

 チェソンがカメラの画角をムウンの全身に合わせると、抑えきれずに叫んだ。


「우와(うわ)、언니 진짜 멋있어(オンニかっこよすぎ)!」

「分かってるっての。次、ホカゼ」


 ムウンとホカゼがお互いの方向へと歩き、カメラの横でハイタッチする。ホカゼがムウンの元いた場所へ到着すると、カメラを見つめたまま右目にかかるサイドの髪を耳にかけた。少し大きめの黒いジャケット、その袖口から垣間見える白シャツにはフリルがついている。首元には白い大きな蝶ネクタイ。そして白黒二色のミニスカートとショートブーツで細くきれいな足を大胆に披露。パンツスタイルでメンズライクなかっこよさを表現したムウンとは反対に、ホカゼはキュートさを全面に押し出していた。だが、決してコンセプトは忘れていない。真っ青なカラーコンタクトレンズをつけ、微笑を浮かべたまままばたき一つしない。人形が動いているかのような違和感でミステリアスさを演出してみせた。

 ムウンが鼻を鳴らす。


「悪くないコンセプトね。ほらチェソン、次はあんたよ。カメラは見ておくから」

「行ってきます!」


 チェソンがホカゼの元へ走っていく。ホカゼはにっこりと笑うと、チェソンの髪を整えた。


「너무 예쁘다 채선이(凄く可愛いよチェソニ)、화이팅(頑張って)!」

「언니 고마워(オンニありがとう)〜!」


 ムウンの横に並ぶホカゼ。カメラの画面でチェソンの姿を確認する。

 身体のラインを自信満々に見せつけるタイトな黒のジャケットは胸の少し下のあたりで切れていて、くびれたウエストを露わにしている。そして大胆なショートパンツに厚底ブーツで、最年少メンバーらしくスーツのコンセプトをアレンジしてみせた。カメラに背を向けたまま片手を腰に添えると俯きがちに横顔を見せた。上にカールした長いまつ毛と整った鼻のシルエットがカメラに映し出される。肩のあたりで金髪が揺れる。


「なるほど、正面は顔アップのときに撮るから敢えて全身の映像は背後から。謎めいた感じを出しつつしっかり私たちと差別化して自分を目立たせてる。素敵だよ、チェソニ!」

「なかなかやるわね、ワン・チェソン! そのままアップも撮るよ!」


 年上二人に褒められ嬉しそうに振り向くチェソン。ムウンとホカゼがカメラの位置や角度を再調整し、画面いっぱいにチェソンの顔を映し出す。楽しそうな表情から一転、挑発的な笑みを浮かべる。チェソンがウインクすると、オレンジのアイシャドウのラメに光が反射した。



 そうやって三人分の映像を撮り終えると私服に着替え、デスクトップPCの前に座ってああでもない、こうでもないと編集を始めた。マウスを握るチェソンをホカゼとムウンが囲む。


「ねえチェソニ。全身の映像をベースに顔アップの映像を重ねる、みたいなことできないかな?」

「ええ、そんなこと言われても私分かりませんよ! だいたいそういうのってグリーンバックとかで撮るんじゃないんですか?」

「そうだよね、大人しく順番に繋げよう。良いアイデアだと思ったんだけど……」

「今更だけどこれスローモーションにしたほうが良くない? チェソン、ちょっとやってみて」

「せっかく音楽に合わせたばっかりなのに、オンニたちの意地悪!」


 文句を言いながら二人の要望を可能な限り詰め込むチェソン。一時間半かけて、ようやく三人分の映像を繋げた。


「あとはイェリンオンニのパートですけど、どうしますか?」

「さっき、今まで撮った動画や写真を見返してたの。これを使うのはどうかな?」


 ホカゼがスマートフォンに表示したのは、写真撮影の練習をしていたときのイェリンだった。スーツではないが白いジャケットを着ており、髪をかきあげて真剣な表情をしている。


「確かにこの写真なら切り抜けそうです。一人だけ写真だから付け足した感は拭えないけど、雰囲気は合わせられるかも!」


 チェソンはホカゼのスマートフォンから写真を取り込むと、そこからイェリンだけを切り取った。三人が撮影した様子となるべく似通った写真になるよう、ダークブルーと白の二色でできた即席背景にイェリンを貼り付ける。その画像を三人の動画の直後に数秒分追加した。


「これでどうですか?」

「私は良いと思う。どう、ムウナ?」

「素人にしては上出来よ。何よ、チェソンのくせに今日はずいぶん活躍してるじゃない」

「良かった〜! じゃあ、マネージャーに送りますね!」


 チェソンが社内フォルダにデータをアップロードし、マネージャーにメッセージを送った。


「ありがとう、チェソニ。よし、次はダンス練習ね。一度練習した曲とはいえオンニがいないパターンでも再構成しないといけない。気合い入れてやるよ!」


 ホカゼの号令で二人も立ち上がる。昼の打ち合わせからすでに五時間は経過していたが、休むことなく動き続けていた。



 なぜかセンターの空いたフォーメーションで同じ振り付けを踊る三人。


「チェソン、そこソロパート忘れてない? 私たちと同じタイミングで動いてるわよ」

「違うよムウナ、そこはイェリンオンニのソロパートだったんだよ。でも私たちは流れ的にセンター行きづらいし、チェソニお願いできる?」

「分かりました!」


 チェソンを中心に三人が間を詰めると、チェソンが一拍早いタイミングでさっきと同じ振り付けを踊る。そして前回と同じ、チェソンから一拍遅れたタイミングで左右の二人が追従。腕の動きが波紋となって左右へと広がるような演出を繰り広げる。そのまま最後のサビに入ると、ムウンが脇に寄ってラップを披露。ダンスパフォーマンスがメインの動画になるため、ラップ中も少し大げさにアドリブを加える。中央ではホカゼとチェソンがイェリンの不在をカバーしながらキレのあるダンスを間違えることなくやり切った。ダンス練習を始めてから二時間が経過していた。


「一周はさらえたね、これなら明日には次の動画を公開できるかも。オンニに届くと良いんだけど……」

「호카제 언니(ホカゼオンニ)、배고파요(お腹空きました)……」


 チェソンの悲痛の訴え。その瞬間、ホカゼとムウンのお腹が鳴った。


「そうだ、私たち今日お昼も食べてないんだった……」

「ホカゼ、今日はここまでにしよう」


 ホカゼが頷いたそのとき、チェソンのスマートフォンが震えた。チェソンが確認すると、急いで二人に画面を見せた。


「マネージャーからです! 『確認しました。事務所名は全て大文字です、修正しておきましたので以後間違えないよう。あとイェリンさんの静止画があまりにも浮いていたのでエフェクトを追加しました。このあと午後八時に公開します』だそうです」

「なんかやっぱりムカつく! けどその修正はすごく助かる!」

「午後八時って……もうすぐだよ!」


 チェソンのスマートフォンは七時五十八分を表示していた。ホカゼたちは急いでデスクトップPCに向かうと、YouTubeで自分たちのアカウントを検索する。何の動画も無い「THE ONE New Idol Project」と名付けられたアカウント。アイコンにも事務所であるTHE ONEのロゴが設定されている。三人がつばを飲み込む。八時になった瞬間、チェソンがサイトを更新する。そこには、まだ一度も再生されていない動画が一本アップロードされていた。

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