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練習生探偵ホムズ  作者: オカザキ
맏언니(マドンニ)のキセキ
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第一話 (3)

 引き出しには蓋付きの缶が一つ入っていた。細かな傷が無数に入っており、イェリンがずっと使っていたことが見て取れる。元はクッキーなどお菓子の詰め合わせが入っていたのだろう。円形で、高さはないが直径は二十センチ程度と大きい。カラフルで、スチール板の凹凸で花を描いたおしゃれな缶だった。

 そして、その蓋の上には『왕채선(ワン・チェソン)、멋대로 열지 마(勝手に開けるな)!』という付箋が貼られていた。


「これ、開けていいのかな? 見られたくないものが入ってるのかも……」


 イェリンの許可を取らず開けることに躊躇するホカゼ。それを見たムウンが缶を取り上げた。


「こんな時に躊躇するな! 私たちはチェソンじゃないし。チェソンが何をしたのか知らないけど……。それに、オンニが見られたくないものこそ、私たちが今見つけるべきものかもしれないでしょ」


 蓋を開けるムウン。缶の中のものを一つずつ掴んでは机の上へ取り出していった。


「風邪薬、胃薬、絆創膏……。ホカゼ、これただの救急箱よ」

「そうみたいだね、なんだか安心した」

「何が入っていると思ってたのよ。救急箱と分かると、蓋についていたメモの理由もなんとなく分かるわ。チェソン、あんたオンニの風邪薬とか勝手に使ってたでしょ!」


 自分の机の上を私物でいっぱいにして今度はベッドへと押し込んでいたチェソンが、ムウンに背を向けたまま肩をすくめる。


「ちょ、ちょっとだけ……」

「何やってるのよ……。まったく、部屋を決めるとき私がこいつと同部屋になるべきだった」

「ええ、イェリンオンニと同部屋じゃなくなるなんて絶対嫌です!」

「じゃあオンニの持ち物くすねるのやめなさいよ!」

「でもチェソンの気持ちも分かるよ、薬って必要な時に限って切らしてたりするもの」

「薬というより、私がイェリンオンニからもらってたのは絆創膏ですね! 知らないあいだに膝を擦りむいていたりするから、私。薬は……風邪引いても気付かないし」

「子供か、あんたは!」

「子供ですよ! 아직 열여섯 살이야(まだ十六歳だもん)!」


 胸を張るチェソンに付き合いきれず、ムウンは缶へと目を戻した。次に目についたのは処方薬の白い封筒だった。ホカゼが手に取る。


「なんの薬だろう」

「まさかあんた、他人に処方された薬まで勝手に取ってないでしょうね」

「だから私、薬はもらってませんから! というか、それは私には必要ない薬ですよ。イェリンオンニ、生理がいつもしんどそうだったから、それ用の薬です。私は全然なので」


 顔を見合わせるホカゼとムウン。


「넌、알았어(あんた、知ってた)?」

「知らなかった、辛そうにしている時なんて無かったから……私たちオンニのこと全然分かってなかったのかも」

「オンニ、その薬すごく良く効くって言ってました。信頼している産婦人科からもらってるって。だから周りの人が気付かないのも無理ないと思います」

「そっか……なんだか、チェソンの方がオンニについて詳しいみたいで妬けちゃうな」


 ホカゼに褒められ、誇らしそうに笑うチェソン。


「これ、処方されたのはつい最近みたい。薬は二週間分出されてるみたいだけど……」


 ホカゼが封筒から中身を取り出すと、残数を確認した。


「ちょうど昨日の朝の分までが無くなってる。あとは残ってるから、実家に帰る時に忘れていったみたい。実家に帰るのが一日だけだから持っていかなかった、なんて可能性もあり得るかしら……」

「だとしたら寮を出た時点では帰ってくるつもりだった、ってことになるけれど……今はまだ判断できないわね」

「うん。でも、もう少し分かってくれば、これは大事な手がかりになる気がする」


 ホカゼが封筒をそっと机の上に置いた。缶の中を占めていた大部分は市販薬と処方された生理の薬だったようで、残っていたのは病院の診察カードが数枚だった。個人情報の塊であることを察知したホカゼが再び躊躇っているので、ムウンが手に取る。カードを束ねているヘアゴムを外すと、一枚目から順にめくっていった。


「内科、眼科、耳鼻科、歯科。さすがオンニ、夢を叶えるには健康第一ってことがひしひしと伝わってくるわ。見て、美容外科の名刺。オンニの顔あんなにかっこいいのにこれ以上どうするつもりなのかしら」


 ムウンが無造作にカードを机の上に置いていくので、ホカゼが一枚ずつ揃えて再度ヘアゴムでまとめた。


「これで缶の中身も全部か。処方箋に診察カードなんて、未だに見て良かったのか不安になるけど……」

「それにしても、机にあるのこれだけ? 文房具と写真立てと薬しかないなんて信じられないんだけど。チェソン、オンニやっぱり寮から何か持って帰ってるんじゃないの?」

「ううん、机にあったのはいつもそれくらいだったと思います。絆創膏もらうために引き出しを開けても、いつもその缶しか入っていなかったし。あとは財布とか貴重品を置いていたくらいかなあ」

「本当にこれだけなんだ……」


 部屋を見渡す二人。床の私物があらかた片付いたようで、チェソンが一生懸命掃除機をかけている。ホカゼがクローゼットを開けると、二人でイェリンの服のポケットなどを確認するが、何も見付からない。


「あ」


 ホカゼがジャケットを手にして小さな声を上げる。


「どうしたの?」

「ブランドもの、こんなの私たちじゃ絶対手が届かないよ。オンニすごいね……」

「集中しなさいよ……。でも珍しいわね、オンニも私と同じでメンズライクなスタイルが多いのに。全く、早くオンニを見つけて、デビューするときのショートヘア権利に決着をつけなきゃ」

「強情なんだから、ムウナは……。オンニに譲りなよ」

「안 돼(ダメ)! 先輩後輩とかじゃなくて、もっと正々堂々決めるべきよ」

「正々堂々って、ラップとかですか?」

「早速茶化すな、ワン・チェソン!」


 なんの収穫もなく、クローゼットを閉じる。最後に残された二段ベッドへと向かうが、こちらも私物が山積みの一段目とは異なり、二段目にあるのは枕と布団だけである。ホカゼが枕の下などを確認するが、何も見付からなかった。


「それにしてもチェソニ、今日の夜はどうやって寝るの? これじゃ寝られないでしょう」

「イェリンオンニのところで寝ます……寝相が悪いから二段目怖いんですけど頑張ります……」

「オンニが帰ってきたらどうするつもりよ」

「そしたらイェリンオンニが帰ってきた記念に一緒に寝ます!」

「チェソニ、寝相悪いんじゃ……」

「イェリンオンニに抱きついて寝るから大丈夫です!」


 それでは寝相が良くなったとしても肝心の解決にはなっていない、と心の中で突っ込む二人。これ以上何もないのかと途方に暮れていると、チェソンが掃除機を振り上げた。


「청소、끝(掃除、終わり)!」

「お疲れ様。結局、床にはチェソンのものしか無かったんだね……」

「当たり前よ。オンニが床を散らかすわけがないじゃない」

「やっぱり部屋が綺麗だと気持ちがいいですね! イェリンオンニが帰ってきたらびっくりしますよ、きっと!」


 そう言いながらチェソンは、掃除機のフィルターを取り出すとゴミ箱に捨てようとする。しかしその瞬間、ホカゼが珍しく大声で制止した。


「잠시만(待って)! そのゴミ箱、オンニと共用だよね?」

「はい、二人で使ってます」

「もしかしたら、ゴミ箱にも手がかりがあるかもしれない」


 ホカゼが急いでゴミ箱を確認する。チェソンがゴミを捨てる前のそれには、紙ゴミがいくつか入っているだけだった。ホカゼはそれを全て回収すると、チェソンに空のゴミ箱を返す。チェソンは掃除機で集めたゴミを捨てると、ホカゼのそばに駆け寄った。


「チェソニ、悪いけど自分の捨てたものだけ選んでゴミ箱に戻してくれる?」

「分かりました。でもこれ、ほとんど私が捨てたものだと思います……」


 レシートにチラシ、お菓子の箱。言葉通り、チェソンはホカゼが取り出した紙ゴミを次から次へとゴミ箱に戻す。残ったのは、くしゃくしゃに丸められた一枚のメモ用紙だった。チェソンが広げて内容を確認すると、首を横に振る。


「これだけ私のものじゃないです」


 そう言うとチェソンは、折り目だらけのメモをホカゼに差し出した。

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