カルテNo,2 あらたな患者
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白い光が差し込みいつも以上に白く輝いている。
歩き続けたら、どこまでも続きそうな長い廊下。
ゆらは、1人で廊下を歩くこの光景が……好き。
少しだけ患者さんに寄り添えるようなそんな気持ちになるからだ。
廊下を歩きながら、
今日巡回に行く患者さんの情報を電子カルテで確認していたとき、
「ゆらさん」
背後から声がした。
一度足を止め振り向くと、白衣の男――院長が立っている。
月城静。
いつものように、感情の読めない穏やかな微笑みを浮かべていた。
「新しい患者さんが来たよ。」
「……そう、ですか」
ゆらは小さく頷く。
胸の奥に、わずかなざわつきが生まれる。
それが何なのかは、いつもわからない。
でも、すぐに過ぎ去るので気に留めていなかった。
「どんな人ですか?」
「アオイという名前の少女だよ」
「……そうですか」
そのまま聞き流そうとした。
けれど数秒遅れて、胸の奥がざわついた。
思い出せそうで思い出せない。
「……アオイ」
知らない名前のはずなのに、
――なぜか懐かしかった。
胸の中で砂嵐が過ぎていくような感じがした。
考えようとしたその瞬間。
ズキン――
頭の奥に鋭い痛みが走った。
「っ……」
思わず眉をひそめる。
ほんの一瞬のことだった。
けれど、確かに痛かった。
「……気のせいですね」
そう小さく呟いて思考を閉じた。
「どうかした??」
「いえ……何でもありません」
院長は少しだけ笑う。
どこか軽い、掴みどころのない笑い方だった。
「もしかして、僕に惚れた?」
「いえ。そういうことはありませんので大丈夫です」
院長は少しだけ肩をすくめた。
「つれないねぇ…」
ゆらは視線を逸らす。
どういう表情をすればいいのか、よくわからない。
とりあえず、気のせいだと。
そう思うことにした。
そう"思えるよう"に処理した。
「それじゃあ、患者さんのもとに行こっか」
ゆらは静かに頷き、 院長と一緒に白い廊下の先へ向かう。
さっきと変わらない白い光が差し込む廊下。
少し日差しが強まったように感じる。
まだ見ぬ患者のもとへ。
歩き出したそのとき、
ふと壁の窓ガラスに自分の姿が映った。
見慣れたはずの姿。
見慣れた看護服。
なのに一瞬だけ。
「患者服」に見えた気がした。
――この廊下は回復傾向の患者さんの病室が近くにある。
今も院長の近くを患者服を着た小さな男の子が楽しそうに走り回っていた。
そして笑っている。
…きっと、他の患者さんの服が反射したのだろう。
重くも深くも考えずそれ以上考えるのをやめた。
その時心のどこかで、
小さく何かが笑った気がした。
けれど振り返っても誰もいない。
ただ、なんとも言えない静けさだけが残っていた。
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