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【BL】異世界でも、俺はメガネが大好きだ!  作者: 良音 夜代琴


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8/13

メガネとの、新たな出会い

「トーチカ、彼はグラディレオ・グラディウズ。優秀な騎士家系の三男だ」


 リーフェリオン様はそう言って、鮮やかな緑色の髪をした男性を俺に紹介してくれた。


 うわぁ……。背が高い……。


 俺は170センチで、そう低い方でもないつもりだったんだが、フラウレイドさんは俺より5センチは高いし、リーフェリオン様もそこからさらに高いってのに、この人は……リーフェリオン様よりさらに5センチくらいは高いだろ……?


 どう見ても自分より13センチは高そうなその人を、俺は見上げる。


 けれど、俺に紹介されたグラディレオさんは俺を見ているどころではない顔で、リーフェリオン様の顔を凝視していた。


「グラディレオ、彼はトーチカ。三日前に飛来した銀の飛来人で、私の大切な恩人だ。彼の身の安全を守ってほしい」


「い……、いや、お前……その前に、その顔一体どーしたんだよ……」


 唖然とした顔をしたグラディレオさんの、リーフェリオン様を差す指が震えている。


 リーフェリオン様はむっとした顔をして「人を指さすんじゃない。失礼だろう」とその指を掴んで下げさせる。

 それでも、あの睨みがない分、印象はずっと穏やかだ。


「す、すげぇ……リーフェが睨んでこねぇなんて……」


「トーチカにメガネを作ってもらったんだ。だから彼は私の恩人なんだよ」


「メガネって、時々飛来人がつけてるやつだよな!? つけると顔が良くなんのか!?」


 いや、良くなったのは目だけど……。


 それによって顔を顰める必要がなくなったので、表情も段違いに良くなったな。


「グラディレオ、まずは挨拶をしてもらえないか?」


 リーフェリオン様に窘められて、「悪ぃ悪ぃ、あまりに衝撃的だったからさ」と言い訳をしたグラディレオさんがようやく俺を見下ろした。


「挨拶が遅くなって悪かったよ、オレはグラディレオ。普段は屋敷の警護を担当してんだけど、リーフェの頼みで今日からお前の護衛に付くことになった。これからしばらく、よろしくな」


 ニカッと逞しい笑顔は、どこか爽やかでスポーツマンっぽい。

 彼の背中で鮮やかな緑色が揺れて、短髪に見えたその人の後ろ髪だけが長い事に気づく。

 どうやら首の後ろで長い髪を一つに括っているようだ。


 握手を求めるように差し出された手は、俺よりずっと分厚くて大きくて、迫力がある。


 片手じゃ足りない気がして、俺は両手でその手を握り返した。


「俺……あ、私は遠近です。よろしくお願いします」


「オレに敬語とかいらねーから、気楽に話せよ。オレも楽に喋らせてもらうからよ」


 え、いいのか……?

 確かにこの人、まだ一度も敬語使ってないけどさ。


 それって逆に、リーフェリオン様達より偉いか同じくらい偉いって事なんじゃないのか……?


「トーチカって言ったな。お前リーフェの恩人なんだろ? 昨日の今日ですげぇな。よくリーフェと話そうとしたよ。リーフェの顔、怖かっただろ?」


 次々に言われて、俺は思わず笑ってしまう。

 怖くなかったのか、じゃなくて、怖かっただろって。


 リーフェリオン様の睨みは怖いって、共通の認識なんだな。


「あはは」と声を出して笑ってしまった俺に、グラディレオさんは一瞬キョトンとした顔をして、それから俺の肩に太い腕を回してきた。


 うわ、重っ。

 腕がごつい太さでずっしり重いんだが?


「お前って、すーげぇ可愛い顔して笑うなぁ。オレ、俄然仕事やる気出てきたわ」


「こらグラディレオ。本人の許可もなく勝手に触れるんじゃない。失礼だろう」


 リーフェリオン様の言葉に、グラディレオさんは動じることなくにやっと笑って言う。


「睨んでこねぇリーフェとか全然怖くねぇな。あー……その顔見てたら思い出したぜ、ちっちゃい頃はリーフェってめちゃくちゃ可愛くてさぁ、グラ兄さんグラ兄さんってオレの後ろくっついて回ってさぁ……」


「グラディレオ……? その手を離せと、私は言ったが……?」


 リーフェリオン様の瞳が、スッと冷たい色に変わる。

 その両手が丁寧に、左右のメガネのツルをつまんだ。


 ……もしかして、睨むためにメガネを外そうとしてるのか……?


 というかリーフェリオン様は、メガネを外さないと睨めないのか……?


 そんな事はないと思うんだが……。


「トーチカも、オレの事は気軽に『グラ兄さん』って呼んでくれていーんだぜ?」


 ぶっとい指にいきなり頬をつつかれて、流石にイラっとした瞬間、リーフェリオン様がメガネを外した。


「グラディレオ……」


 地を這うような低い声に、俺はそっちを見ないように努める。

 調子に乗り過ぎたグラディレオさんはリーフェリオン様に思い切り睨みつけられたのだろう。

「ヒグッ」と喉の奥で変な音を鳴らして、俺から一瞬で飛び離れた。


「わ……悪かったって……」


「今後一切、本人の許可なく触れる事のないように」


「へーい……」


 リーフェリオン様がメガネをかけるのを床に落ちる影で確認してから、俺は顔を上げる。


 グラディレオさんは冷や汗を滲ませつつも、若干引き攣った笑顔でめげずに俺に話しかけてきた。


「トーチカは歳いくつだ? オレには15くらいに見えるけど、なんか飛来人って大体若く見えるんだろ?」


 15って、中学生かよ!?


「15は言い過ぎだろ、俺は22だよ」


 思わず素で返してしまったけど、グラディレオさんは気にする様子もなく会話を続ける。


「はー……マジか……全然見えねぇ……」


「そんな童顔みたいに言われた事ないけどな」


「んー……?」


 グラディレオさん……もうグラディレオでいいか。

 グラディレオは俺の顔をまじまじと覗き込んでくる。


「あー……。そうだな……よく見りゃ綺麗な顔してるよ……」


 ゴクリ。と唾を飲み込まれて、どういう反応だよ……。と一歩引く。


 多分、俺が幼く見えるのって顔とかじゃなくて、背格好が彼らより一回り小さいからなんじゃないか?


 だってグラディレオの肩幅って、俺の肩幅の2倍を越えそうだもんな。



 そんな事を思った時、外から「火事だー!」という叫び声が聞こえた。


「はぁ!?」

 声を上げてグラディレオがバルコニーに飛びつく。


「火事だと? どこからだ!」

 リーフェリオン様もすぐにバルコニーへと向かった。


 バルコニーから外を見れば、確かに煙が上がっている場所がある。


「あそこは……厩舎か!?」

 リーフェリオン様はバルコニーの外を指しつつグラディレオにいくつか指示を出している。


 んん? さっきからグラディレオって遠くを見るたび眉を顰めて目を細くしてないか?


「んじゃあオレはちょっと消火してくるな。トーチカはここで待ってろよ!」


 言い残すと同時に、グラディレオはひらりとバルコニーを飛び越えた。


 え。


 ……ここ3階なんだが……?


 しかも、普通の家よりずっと、このお屋敷天井高いんだが!?


 バルコニーから身を乗り出して覗き込むと、グラディレオはひょいひょいと階下のひさしに飛び移ってスタンッと1階に着地したところだった。


「すっ……すげぇぇぇぇっっ!!」


 思わず上げてしまった俺の声に気づいたのか、グラディレオがチラとこちらを見上げてパチンとウインクを投げる。


 は……?


 俺が唖然とする間に、グラディレオは煙の上がる方へ駆け去った。


 うっわ、なにあれ……。

 あんなことする人、本当にいるんだ……?

 アイドルのファンサとかじゃなくて……?


 俺は一瞬心配してしまったのが馬鹿みたいに思えて、堪えきれずに肩を揺らして笑った。


「ふ、はははっ、グラ兄さんはすごいなぁ」


 こんなに凄い人がそう呼んでいいと言うなら、それもいいなと思えてしまうくらいに。



「私達も行くぞ」

「はい」

 リーフェリオン様の声にフラウレイドさんの声が続く。

 扉の方を振り返ると、ちょうどリーフェリオン様が俺を見たところだった。


「トーチカ、すまないがこの部屋で待っていてもらえるだろうか。ここに火が来ることは決してないと約束する」


「分かりました。お気をつけて」

 俺は急いでいるリーフェリオン様の足を引っ張らないよう、なるべく簡潔に答えて微笑んで見せる。


「ああ、ありがとう」

「失礼致します」

 そう言って2人は部屋を出るとバタバタと廊下を駆けて行った。


 お貴族様でも、緊急事態の時は走るんだなぁ。なんて、場違いなことを思う。


 駆け去ったリーフェリオン様の横顔に、キラリと光る銀のフレームが実に絵になっていて、本当に美しかった……。


 俺は、バルコニーから白い煙ののぼる方向をなんとなく眺めつつ、リーフェリオン様の華麗なメガネ姿を胸の内で繰り返し描く。



 ああ、やっぱり、プラチナブロンドに細いシルバーフレームの組み合わせは最強だな。



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