メガネに映る7つの宝具
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お屋敷に戻って、いつものように執務室に顔を出す。
そこではやっぱり、山積みの書類に囲まれたリオン様がペンを走らせていた。
ノックをしてドアを開けると、リオン様が書類から顔を上げる。
淡いプラチナブロンドがかかった艶やかなシルバーフレームが、きらりとランプの光を反射して、その奥の美しいラベンダー色の瞳が俺を見る。
それだけでドクンと心臓が跳ねて、俺はこの人が好きなんだな、と、思い知らされてしまう。
あー……、リオン様はいつ見ても綺麗だな……。
そんなリオン様が俺を見上げて、嬉しそうに目を細めて笑う。
俺の胸が、ぎゅうっと苦しくなる。
「おかえり、ショウ」
「おかえりなさいませ、トーチカ様」
リオン様に続いてフラウレイドさんも、鋭い瞳をそっと緩めて俺に声をかけてくれるんだよな。
「リオン様、ただいま帰りました」
俺も、二人に笑顔を向けて答えた。
「おや、大荷物だね。部屋に運ばせようか?」
リオン様の言葉に、すぐさまフラウレイドさんがこちらに足を向ける。
「いえ、これは俺が持っていたいので、このままで……」
俺は反射的に、二つの箱を胸元に抱き込んで首を振った。
これが生まれる前の子なんだと思うと、なんとなく、リオン様以外の誰にも触ってほしくない気がした。
フラウレイドさんが不思議そうに瞬いて、リオン様の隣に戻る。
リオン様は俺を労るように視線で撫でて、優しく言った。
「話は聞いたよ、海に森にとたて続けで大変だったろう。夕食の前に少し休むかい?」
「すぐ夕食で大丈夫ですよ。むしろ待たせてたんじゃないですか?」
「いいや、私もここまでと思っていたところだから、大丈夫だよ」
リオン様が指した書類の山は堆く、まだまだ終わりが見えなかった。
「ショウが食べられるようなら、すぐ行こうか」
そう言ってリオン様が席を立つと、後ろからグラ兄が口を開いた。
「悪ぃけど、俺は今日はここで上がらせてもらうな」
「そーいや、打ち上げ……つーか祝勝会に混ざるんだっけか?」
俺の言葉に、グラ兄は「おうよ」と笑う。
「お疲れ様グラディレオ。予定より遅くなってしまってすまないな」
「いや、リーフェはもう挨拶済ませてきたのか?」
「ああ、開催の挨拶ならもう済ませてきたよ。今日は無礼講でと伝えてきたから、少々騒がしくしても構わないよ」
「そっか、ありがとな。あー、もう皆出来上がってそーだな」
苦笑して後頭部を掻くグラ兄が、扉に向かいかけていた足を止めて、俺を振り返った。
「トーチカも来るか?」
「俺? 行っていーのか?」
だってウィルトゥーズ家に仕える騎士達の宴会なんだろ?
「もちろんだ。ま、トーチカは後から国主催のパーティーでまた城に呼ばれんだろうけどな」
「そうなのか?」
俺の疑問に答えたのはリオン様だった。
「おそらくはね。けれどショウが乗り気でないなら辞退はできるよ」
最大限に俺を気遣ってくれるリオン様に胸を温められながら、俺は尋ねる。
「リオン様は参加するんですか?」
「私は、行かなくてはならないだろうね」
「それなら俺も一緒に行きます。ドリュエリオン様やルミリオス王子にもお会いしたいので」
俺の言葉に、リオン様が「そうか」とやたら嬉しそうに微笑んだ。
あー……、これ、俺と一緒に出かけるのが嬉しいのか。
くっ……可愛い……っ!!
「んで? こっちの宴会は行くのか?」
グラ兄の声に、俺はハッと我に返ると慌てて答える。
だってグラ兄は早く皆のとこに合流したいんだもんな。
「いや、俺はリオン様に今日の話すっから。グラ兄はゆっくり楽しんでくれな」
「ああそっか、そだな……。ん、頑張れよ!」
「ありがとな」
グラ兄はなぜかちょっと寂しそうな顔で、それから背中で軽く手を振って部屋を出ていった。
んん? そんなに俺と宴会行きたかったのか?
そんでも今日はほぼ一日中グラ兄と一緒にいたよな?
グラ兄の出ていった扉が閉まるのを確認して、俺は宝具を抱えたまま執務室の応接セットに腰を下ろした。
「ショウ……?」
「リオン様、これを見ていただけますか?」
俺は、宝具の入った箱の蓋を慎重に開ける。
「これは……」
今日の出来事を説明すると、リオン様とフラウレイドさんはどちらも息を呑んだ。
「俺は、これをリオン様に使ってもらえたらと思うんですけど……」
「私に? こんな……貴重な物を……?」
「どちらも、俺とリオン様にって渡された物なので……」
「私と、ショウに……」
じんわりと頬を染めるリオン様は、俺の言葉を一体どんな風に受け取ってくれたんだろうか。
俺との未来を、少しは想像してくれたのか……?
……そうだといいな。
グラ兄のお兄さん達に2つ譲りたいという話をすると、リオン様は「ショウがそうしたいのなら構わないよ」と優しく笑って答えてくれた。
俺達は、ひとまず宝具をリオン様の執務室の金庫に厳重に保管して、食事に向かった。
シン、と静かな食卓に、遠くから祝勝会の楽しげな声が響く。
あー、あっちは楽しそうにやってんな。
俺は今、リオン様に何をどう切り出そうか、めちゃくちゃ考えていた。
気づけば、リオン様も俺と同じように俯いたまま黙々と食事をしているので、多分あれは相当頭を回転させてんだろうなー。
……そんなんで食事がちゃんと栄養になるのか?
食べてるそばから脳にカロリー取られてんじゃねーか?
リオン様の事だから、きっと俺の都合とかばっか考えてんだろうな……。
「リオン様」
そっと声をかけると、リオン様の肩がビクリと揺れた。
ハッと俺を見たラベンダーの瞳にはうっすらと恐怖が滲んでいる。
おいおい、あんま思いつめないでくれよ……。
つってもなぁ、俺はリオン様の気持ちを知ってっけど、リオン様は俺がリオン様を好きだなんて、全然思ってないんだろうからなぁ……。
俺は、せめて食事が終わるまでは落ち着いて食べてもらおうと、リオン様の気を逸らすべく食事の話をふる。
「これが美味しいですね」とか「これはどこで採れるんですか?」と尋ねると、リオン様はひとつずつ丁寧に教えてくれた。
「もしよければ、食事の後でリオン様と少しお話がしたいんですが、お部屋に行ってもいいですか?」
俺の言葉に、リオン様がラベンダー色の瞳を揺らす。
「ああ、それは構わない……んだが……、今日中に目を通したい書類がまだ残っているんだ。すまないが、執務室でも構わないだろうか」
「はい、どこでも構いません。忙しい時に無理を言ってすみません」
何でもない話なら、また明日とか仕事が落ち着いた後で……って言えば良いんだろうけどな。
これに関しては、さっさとリオン様を安心させてやらないと、ずっとぐるぐる考えそうだからなこの人。
「いやこちらこそ、ゆっくり時間を取れず、すまないな」
そんなの、リオン様のせいじゃないんだから、謝んなくてもいいのにな。
それなのに、そんなリオン様が健気でいじらしいとも思ってしまうんだよなぁ……。
俺は、お茶のカップを傾けて、何とも言えない気持ちを流し込んだ。




