メガネのように生み出せると……?
カルール王子の案内で玉座の間に入ると、やっぱりそこにはオンブロンド王が大魔王みたいな感じでふんぞり返っていた。
俺達はまたカルール王子に倣って王の前に膝を付く。
「表を上げろ」
えーーーーと、こういう謁見の時の会話ルールとかも、家庭教師の先生に教わりはしたんだが、人間の王様用のでいいのか……?
「楽にして構わん。お前に我らの知識がないのは分かっている、合わせる必要はない」
言われて、俺は苦笑を微笑みに変えて挨拶をした。
「オンブロンド王、お久しぶりです。この度はたくさんの助力をありがとうございました」
俺は心からの感謝を伝える。
オンブロンド王のおかげで、ローゼシリア様はずっと安全だったし、海側の隕石もいっぱい集まったしな。
流星が砕けて光雨になったときも、俺の頼みに応えて、大波でかなりの数の光雨を海の方へ引き寄せてくれたと聞いている。
本当に、感謝しかないな。
オンブロンド王は「ふん」と鼻から息を吐くと、口を開いた。
「これまで、流星はどこに落ちるかわからぬ物だった。災害の際は当然海の中へも被害が出た」
ふんふん?
オンブロンド王は、そんな流星が、今回は一つずつ予め落下予測地点を知らされ、当日も正確な修正指示があったことから怪我人どころか住処を崩される者も一人もいなかったらしい。
いやー、分かってりゃ受け止め切れるなんてのがそもそもすごいんだけどな。
つーか、海の民の皆さんって、ちゃんと海の中に家建てて暮らしてんだな……。
俺の心の突っ込みに、オンブロンド王が「当然だ」と律儀に返してくれる。
「さらには、人の王からは協力の礼として貴重な金属を受け取る約束まである。これでは我らばかりが得をして、トーチカに恩が返せていないとカルールに叱られてな」
おお……。
すげーな、カルール王子はオンブロンド王に意見してくれたのか。
「海の中で安全に過ごしていた我々と違い、人間は死に物狂いであの夜を越えたのだと、カルールは言った。あれは良い経験を積んだようだ。いずれ王となるために必要な……な」
満足気に言うオンブロンド王は、我が子の成長を喜ぶ良いお父さんの顔をしている。
まあ、全体的には顔もツノも目つきも怖い雰囲気だが、それでも良いお父さんであることは間違いないだろう。
俺のメガネは、そんなオンブロンド王にさらなる鋭さと知性をプラスしている。
やっぱり良い顔と良いメガネの組み合わせは最高すぎるな。
「お前はいつでもメガネのことばかりだな……」
呆れた様子のオンブロンド王は、それでも薄く苦笑を浮かべた。
オンブロンド王がさっと小さく手を上げて何かの合図を出すと、横に立っていた秘書のような人が薄桃色の艶々した何かを紫のシルクっぽい布の上に乗せて、恭しくかがけて俺の前に進み出る。
「トオチカは『命の宝貝』というのは聞いたことが……ないな、わかっていた。聞いたこちらが愚かだった」
いやまだ考えてもいねーのに、そこまで言わなくてもいいだろ。
「では知っていると?」
すみません知りませんごめんなさい。
俺の謝罪にオンブロンド王がふき出すまいと堪えたのが分かった。
「カルールからお前達の話を聞き、これならばトーチカの望みを叶え、恩を返せると思った次第だ」
俺の望みを、叶える……?
「これは海でも年に一度しか取れぬ貴重な物なのだが……」
それってオンブロンド王の一生だと既に1800個以上取れてるってことでは……?
「……それは今朝カルールに言われた」
そうか、それは悪かった。
「この、そこそこ貴重な『命の宝貝』をトオチカへ、カルールの命を救ってくれた礼と、森との対立を回避できたことへの礼として授けよう」
律儀に貴重度を下げられた『命の宝貝』だが、これがこの広い大海原で年に1つしか取れないとするならそれはやっぱり十分貴重品だよな。
……何のアイテムか知らんが。
「それは海に宿る命の奇跡の結晶。つまり、どんな種族であろうと、メスがおらずとも、子を成す事ができる宝具だ」
えっ……。
マジかよ、ファンタジーじゃん……。
いや、魔法が使えたり海の王とか森の主とか言って人外が出てきた時点でめちゃくちゃファンタジーだったな、この世界……。
……じゃあ、これがあれば、俺一人でも俺の子ができると……?
ん? 待てよ?
そしたらリオン様が使えば、リオン様の世継ぎが生まれるって事か!?
「左様。二人の子を成したい場合は……まあ、仔細を記した書を添えておく。よく目を通すが良い」
……なんか今、生々しい話を避けた気配を感じたな。
さすがカルール王子の良いパパさんだな。
俺は、秘書さんぽい人が見せてくれている『命の宝貝』とやらをドキドキと覗き込む。
突然降って湧いた希望のアイテムに胸が弾むのを抑えきれない。
コロンと艶やかな薄桃色の二枚貝は、1つが両拳を合わせたほどの大きさだ。
それが3つ捧げられている。
………………って、これって1つで1人の子が生まれるって事か?
「そうだ」
じゃあ、3つで、3人……?
「一人きりでは寂しかろう」
うおおおおおおおっ!!
リオン様に3人のお子さんを作ってあげられるのか!!
「オンブロンド王様! ありがとうございますっ!!」
「うむ」
鷹揚に頷くオンブロンド王だが、その笑みはとても満足そうだ。
「カルール王子! 本当にありがとうな!! すげー嬉しいよっ!!」
俺は思わずカルール王子の手を取って、ブンブンと振る。
カルール王子は驚いたように目を丸くしてから、ゆっくりと微笑んだ。
「トーチカ様と、リーフェリオンさんが……喜んでくれたら……、私も、嬉しいです……」
……ん? でもなんで俺達にこれがいるってカルール王子は分かってたんだ……?
「なんだ……? カルールはトオチカに告げてなかったのか……?」
「……ご、ごめん、なさい……」
申し訳なさそうに俯いたカルール王子の様子に、俺はようやく理解した。
カルール王子もオンブロンド王と一緒で人の心が見えるんだな!?
カルール王子は俺の心の声に、こちらを見ないまま、小さくコクリと頷いた。
「いーっていーって、別に気にしてないよ。まああの日はちょっと色々あって混乱してたけど、でも、そのおかげでこんな良い物貰えたんだしなっ! 感謝してるよ、本当にありがとうな!」
俺は感謝を込めて、申し訳なさそうなカルール王子の肩をポンポンと叩く。
本当に、気にしなくていいって。
元気出して、顔あげてくれよ。
俺は可愛いカルール王子の元気な顔が見たいんだよ。
「……トーチカ様……」
「カルール王子、本当にありがとうな」
いっぱいの感謝を込めて、もう一度その手を握ると、今度はカルール王子もぎゅっと握り返してくれた。
オンブロンド王が目を細めて頷く。
「うむ。いずれ子の顔を見せに来るが良い。3号店もな、待っておるぞ」
「はいっ、必ずまいりますねっ!」
秘書さんは、貴重な命の宝貝を1つ1つ布で包むと、海藻がたくさん詰まった箱に丁寧に詰めて俺に渡してくれる。
「……時に、ソスリアルからは話があったか?」
え?
俺のとこにって事なら、まだですけど……。
「まだか、ククッ、今度はあの若造より先んじたようだな」
オンブロンド王様、楽しそうだな。
そうして、俺は大事な宝具を両腕で抱えながら、グラ兄と共に水球に包まれて、海の城を後にした。




