メガネに加わる機能
城での重役会議の後、日を改めてもっと人数の多い会議が2日間に渡って行われた。
俺はその間、そっちには顔を出す事なく、グラ兄と一緒に城の人達にメガネを作って回っていた。
前回は手ぶらで来たが、今回は段ボールに入っていた検査機器もフレーム類も全部持ってきたからな、視力の測定もなるべく手作業で行なって、既製品フレームが合いそうな人には既製品を使った。
レンズ作製とレンズ加工だけなら一日で5本は作れる事が分かった。
……まあ、初日は6本作ったんだけど、膝がガクガクになったので、一日5本だなという事が分かったってのが正直なトコだが。
今日はリオン様は港に船の状態を確認に行くとかで、宰相様とフラウレイドさんと一緒に早朝から出かけていたので、俺はグラ兄と一緒に高谷に会いに行っていた。
城内に作られた飛来人の居住区は広々としていて、廊下の幅も横に人が5人は余裕で歩けそうなほどだ。
「すげー……、ちゃんとしてんだな……」
「トーチカも、希望すりゃココで贅沢生活できんだぜ?」
グラ兄の揶揄うような言葉に、俺は「ハハッ、遠慮しとく」と笑って返す。
高谷の部屋に行くと、思った通りというか何というか……。
壁際をびっしりとプラモデルが埋め尽くしていて、何だか懐かしいような気がした。
「よく来たな遠近! これ見てくれよっ!」
そう言って破顔した高谷の作ったゴーグルは完璧だった。
機能は完璧だったが、外見は俺の作った工業用ゴーグルっぽいものではなく、やたらとこの世界に馴染みそうな西洋ファンタジーっぽいものやら、SFっぽいものまで色々なバージョンがあるな……。
何でまたこんなに色々作ったんだ……?
なるべくシンプルな形で一つでも多く量産する方が良くないか……?
いや、これはこいつの趣味だったか……。
小学生の時に出席番号が隣でたまたま話すようになったこいつと、こうやって別の世界でたまたま出会って、こんな風にまた話すようになるとはなぁ……。
「なー、これ良いだろ? これ、この曲線がさぁ……」
俺に近未来風の艶のある黒いゴーグルのビジュアルを熱く語る高谷が、切なげにぎゅっと眉を寄せた。
「あーーー、これでなんか、熱源感知とか、そういう機能がついてたら最っっ高にかっこいいのになぁっ!」
ん? 俺そんな感じの機能って、前に一度付けたことあるな。
「ダメ元でやってみるか?」
「何をだ?」
「オプション機能」
最初に俺が作った見本用ゴーグルを手元に回収していた俺は、ゴーグルのレンズへ『レンズ加工』で熱源感知加工と、調子に乗って飛来物軌道予測加工なんてものをオーダーしてみる。
お? 意外とすんなり通ったな。
ゴーグルをかけてみれば、確かに人の姿に色が重なって……あ。これサーモグラフィーか。
「なになにどーなったんだ!? 俺にも俺にもっ!」
目をギラギラさせている高谷にゴーグルを手渡して、俺は部屋に散乱していた紙の切れ端を丸めて高谷の近くに投げてみる。
「おおおっっ!? カッケーーーっ!!」
どうやらちゃんと軌跡予測も出たみたいだな。
俺も後で見てみよう。
高谷は興味津々の顔をしていたグラ兄にゴーグルを渡して、二人で部屋の物を投げたり避けたりしてキャッキャと盛り上がっている。
「遠近すげーじゃんっ! これで銀とか嘘だろっ!?」
「いやその追加機能、俺の作ったレンズにしかつけらんねーから」
「なにぃ!? そーなのか!? じゃあ俺の作ったゴーグルには無理か……」
「つーか、プラスチック作る能力だけで完全に熱と光を遮るゴーグルが再現できてる高谷のがすげーって」
既に高谷の作ったゴーグルは、ヴァルさんの魔法による魔法の光の眩しさ軽減テストにも合格しているらしい。
「なあなあトーチカっ、オレのメガネにもその機能ってつけられんのか?」
ワクワクした顔のグラ兄に言われて、そういやそうだな、と思う。
「そうか、俺が今まで作ったメガネになら、つけられるのか……」
「遠近……?」
「高谷、またなっ! 災害が落ち着いたらまた顔出すからなっ!」
慌てて立ち上がる俺に、高谷は「また遠近は……」と苦笑しながらも、俺の作ったゴーグルを渡して手を振ってくれた。
「おう、また来いよー。あんま無理して倒れんなよーっ。あ、災害の日は怪我しねーようにちゃんと引っ込んどくんだぞ!?」
「わかったー! 高谷も安全に過ごしてくれなーっ!」
「……ったく、相変わらずのお人好しだな。今日は彼女を紹介しようと思ってたのにさ」
俺は、高谷の部屋を飛び出すと元来た道を走る。
高谷はまだ何か文句を呟いていた様子だったが聞き取れなかった。
他にも見せたいプラモがたくさんあったのかもしれないな。
急に帰って悪いことをしてしまった。
災害が落ち着いたら必ず会いに行こう。
「なあなあ、トーチカっ」
オレにもつけてとせがむグラ兄は後回しにして、俺は騎士団長さんやヴァルさんといった光雨に前線で立ち向かう人達の元を駆け回っては、希望の機能を聞いて追加加工していく。
「グラ兄とかお屋敷の皆には、帰りの馬車で好きな機能つけてやるって」
「絶対だぞ! 絶対オレの『好きな機能』をつけろよっ!?」
そんなこんなで慌ただしい城での日々を経て、リオン様と俺達はまた大急ぎで領地に戻ってきた。
ちなみに、散々機能追加のお預けを喰らっていたグラ兄は、帰りの馬車に乗り込んだ途端に「服が透けて裸が見える機能をつけてくれ!」とか言い出したので、「は?」って返事した。
グラ兄は、俺だけじゃなくリオン様やフラウレイドさんからも冷え切った眼差しで見られて「……と、いうのは冗談だが……」と言っていたが、絶対冗談じゃなかったよな。
だって目がマジだったもんな。
つーか誰の裸が見たいんだよ。
屋敷にいる女性なんて侍女さん達くらいだろ?
真面目に働いてる人達の裸をこっそり覗くとか酷すぎないか?
そもそも服が透けて骨が見える機能ならレントゲン的な物がつけられるかもしれないが、グラ兄の希望は物理的に難しいだろ。
俺も別に裸が見たい相手とかいないしな、この機能の検討はここまでで……。
そう思った矢先、城の大浴場で見た、薄い浴用の衣服を濡れた肌に貼り付けていたリオン様の姿が思い浮かんだ。
いやいや……。
いや、確かに。
確かに肌が見えなくてなんかちょっと残念だなと思いはしたけど、それは別に見たかったとかそういう事じゃなくてだな。
俺とかグラ兄が腰しか布巻いてないのに対して、上から下まで隠されてると、逆に俺の方が恥ずかしいというか何というか……。
城の大浴場は、流石に高貴な人も入れるようになってるだけあってか、着衣OKだったんだよな。
でもなんつーか、素肌より、素肌が透けて見えてる薄い布地を貼り付けた肌の方が、なんかエロくて……、見ちゃいけないような気がして、リオン様の方を直視できなかったというか……。
「おーい、トーチカ、降りてこいよー」
馬車の外からかけられたグラ兄の声に、俺は頭を振って雑念を追い払う。
グラ兄の手を取って馬車から降りると、ズレたメガネを両手で上げて、一週間ぶりに戻ってきたお屋敷を見上げた。
夕日に照らされたお屋敷は屋根も壁もオレンジ色をしていて、何だかとても懐かしい感じがした。
「ショウ、おかえり」
優しい声に視線を下すと、リオン様が扉の前で微笑んでいる。
ああそうか。
リオン様はこうやって、一緒に帰ってきた時でも、わざわざ一足先に行って俺を出迎えてくれるのか。
リオン様の優しい視線が俺に注がれているのを感じると、胸の奥がジンと熱くなった。
ああ、俺はリオン様が大好きだ。
本当に、律儀で真面目で……優しい人だと思う……。
リオン様のところに帰って来れるのは、あと何回だろう。
不意に夕陽が滲みそうになってしまって、ツンとする鼻の奥に、俺は大きく息を吸い込んで答える。
「ただいま帰りました、リオン様」
「おかえり。長旅で疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」
「リオン様もですよ」
「ああ、ありがとう」
優しく微笑むリオン様にも、そろそろ隠しきれない疲れが浮かんでるな……。
光雨災害まで、あと2週間だ。
俺は俺のできることを、できる限りやろう。
リオン様と、リオン様の大事な領地の人達を守れるように。




