メガネが結んできた縁
「わぁ……。父様が……メガネを……。わたしと同じですねっ」
ルミリオス王子が嬉しそうに言うので「そうだな、お揃いだな」と答える。
にこーっと満面の笑みを浮かべるルミリオス王子が可愛過ぎるな……。
チラと後ろに立つグラ兄を見ると、グラ兄もやっぱりルミリオス王子の笑顔にデレデレみたいだ。
おーい、鼻の下伸びてんぞー。
そんな怪しい顔してたら、親御さんに奥城出入り禁止にされんじゃねーのか? 大丈夫か?
さて、俺はお礼も受けたしメガネも作ったし、そろそろ引き上げるか。
グラ兄もここだと俺の護衛だから、立ちっぱなしでお茶も飲めねーもんな。
そんな風に思って、俺がお茶の最後の一口を飲み切った時だった。
「その案では、海の王と森の主に助力を得られることが前提になってしまうだろう。今からこの短期間で話を詰められるとは、とても……」
王様の言葉に、リオン様とドリュエリオン様とフラウレイドさんが俺を見た。
続けて、ヴァルさんも『もしかして』みたいな顔をして俺を見る。
「トーチカならば、それが可能です」
リオン様の優しい声が、凛とした響きで俺の名を口にした。
一気に部屋中の人の注目を浴びてしまったんだが。
えーと……何の話だったんだ?
「私が彼をこの場に呼んだのは、これが理由です。彼の能力が……いえ、彼の温かな人柄が、既にお二人から協力の約束を得ています」
「お二人……共を……味方に……? そ、それは海の民や森の民ではなく、海の王と森の主そのものである、と……?」
「はい。既にどちらもが、トーチカの生み出したメガネをかけており、彼のためならば喜んでその力を貸してくれるとお約束をいただいております」
ゴクリ。と誰のものかもわからない音がして、皆の俺を見る目に畏怖のようなものが混ざる。
いやいや、そんな怖がらなくて大丈夫だからな?
俺は人畜無害なただの眼鏡屋店員だからな??
「えっと、それって、オンブロンド王とソスさんですか? お話があるのでしたら、呼んでみましょうか?」
まあ、オンブロンド王の場合は、来てくれるか、向こうに呼ばれるかわかんねーんだけどな……。
あっ。
俺が呼び出しアイテム持ってんのって、内緒にしてなきゃまずかったんだっけ!?
チラとリオン様の様子をうかがうと『大丈夫だよ』とラベンダー色の瞳が微笑んだ。
良かった……。
この場ではセーフだったようだ。
「なんと……」
驚きを口にしたまま黙ってしまった王様に、リオン様は何やらやたらと妖艶な笑みを浮かべて言った。
「ただし……、トーチカの力を借りたいのでしたら、彼の機嫌を損ねないように努める必要があります」
ざわりと円卓に動揺が走って、空気が一瞬で張り詰めた。
え……?
なんでリオン様は、そんな不穏な方向に持って行こうとしてるんだ……?
「なんと言っても、彼の後ろには海の王と森の主がついているのですから」
「聞くところによると、海の第一王子もトーチカ君にベッタリで、森の主のお孫さんに至ってはトーチカ君を師匠と呼んで慕っているそうですよ」
ドリュエリオン様まで、楽しそうな顔でそう付け足してくれる。
うわ、親子揃って何だか悪そうな顔をしているように見えるんだが……?
「……トーチカは、国に保護され城に留められる事を望んでおりません」
静かな声で、けれどハッキリと、リオン様は言った。
「……しかし、このように強大な力を持った者を……」
王様は場の空気もあり、言い辛そうだな……。
「それは先もお伝えした通り、彼の人柄によるものです。たとえ彼と同じ能力を持っている者が他に現れても、こうはならないでしょう」
「そうか……。トーチカは、銀色だという話だったな……」
王様は俺の色まで把握しているのか、流石だな。
「それでも、陛下が彼を野放しにはできないと仰るのでしたら、私が……。私がトーチカのそばで彼をずっと見守ります」
リオン様は王様を真摯に見つめてそう言った。
睨まなくても、リオン様の決意の籠った眼差しは強く鋭い。
シルバーフレーム越しのラベンダーの瞳がものすごく綺麗で、思わず見惚れてしまいそうになる。
「リーフェ……、お前がそこまで言うとはね。……彼の人柄というものに、お前もまた惹かれているのかい?」
ドリュエリオン様が、何だか場違いなくらいに優しい声で尋ねた。
艶やかなバリトンボイスが優しく響くと、その音の響きにばかり魅了されて、なんて言われてるのかまるで理解できなくなるな。
ドリュエリオン様に何かを尋ねられたリオン様は、小さく息を詰めて頬を赤く染める。
……ん? 何でだ?
「はい」
リオン様が口にした短い同意の言葉には、なぜかとても心が込められているように聞こえた。
……何の話だったんだ?
王様は、ふぅ。と息を吐いて肩を気持ち下げると、リオン様と俺を見た。
「……よく分かった。長らくこの国を支え続けたウィルトゥーズ公爵家がそう言うのならば、私もこれ以上無粋な事は言うまい。トーチカには我が子を救ってもらった件もあるし、こうして私もメガネを作ってもらってしまったからな」
あ……。
いや別に、王様を懐柔しようとしてメガネを作ったわけでは……ないんだが……。
戸惑う俺に、リオン様がまた『大丈夫だよ』と言うようにラベンダー色の瞳で微笑んで、俺の手を取って円卓まで連れてきてくれる。
そして、流星光雨災害に対し、光雨を回収する計画を俺にザッと説明すると、こことここでこんな協力をオンブロンド王に頼んでほしい事、こことここではこんな協力をソスさんに頼んでほしい。と俺にも分かるように教えてくれた。
ほわー……頭がいい人の考える作戦ってすごいな。何というか、頭がいい。
あ、ダメだ。俺の頭の悪さしか伝わらない感想になったぞ?
「頼めそうかい?」
リオン様に優しく尋ねられて、俺は「はい」と答える。
あ。でもなんかメモしておかないと忘れそうだな……。
と思った時には、リオン様の横で全てを書き留めていたらしいフラウレイドさんが俺にサッとメモを渡してくれた。
くっ。至れり尽くせりだろ……っ。
「飛来人であるトーチカには、我が国に協力する上で報酬を受け取る権利があります」
「もちろんだとも。私と息子のメガネの分も合わせて、叶えよう。ただし、報酬は成功の後にという事でも構わないかな?」
「はい、ありがとうございます」
何やらリオン様と王様との間で話がまとまったようだが、えーと……?
「ショウ、フィンブランド王に望む物を伝えてごらん。ショウの望みを叶えられるのは、森の主でも海の王でもない。人の王であるこの方だ」
リオン様に促されて、俺は気づく。
あーーー。マジで?
これ、今、ここで店舗とかスタッフとか望んでいいとこなんだ!?
「もちろん、私に頼ってくれても構わないんだが、陛下から賜ると箔もいただけるからね」
なるほど? 王室御用達的なやつか?
それじゃあ。と俺は王都に眼鏡店を開きたいという望みを伝えた。
「それはこちらとしても実にありがたい申し出だ。メガネを必要とする国民にメガネを供することがトーチカの望みなら、それは是非国の事業として予算を組んで長く支援したいと思う」
おおお、マジでか……!?
王様は二つ返事で、王都に立派な工房付きの店舗を建てようと答えてくれた。
どうやら、流星光雨災害の後は復興作業に合わせて建築物がドッと増えるので、それに合わせて毎回公共事業の整備も行うらしい。
なので、そのタイミングで区画整備をしつつ建てるのが確実なんだそうだ。
店舗のスタッフや機材についても全面的に協力してくれるそうで、俺は一気に夢の実現に近づく感触に思わずにやけそうな顔を必死で引き締める。
あと、サーティラには俺の事は全面的に内緒にしてほしい。と伝えておく。
最終的に王様達の権力でサーティラを止められるとしても、あのサーティラがそれで簡単に引き下がるとも思えないし……。
王様達もそれに関しては同意見なのか、互いに顔を見合わせて「確かに」と納得していた。




