メガネ人口を増やす俺
「私はルミリオス・ビオグラヴィタ。この国の第一王子です。あっ、でもわたしの目を治してくださったトーチカさんにはそのまま接してほしいので、どうかこれからも畏まらずに接してくださいね」
うおお……王子様ってば、気遣いのできる子だな……。
「ありがとう、ルミリオス王子。そのメガネは王子の体の成長に合わせて調整が必要なんだ。だからこれからも3か月から半年くらいおきにはチェックさせてもらえると嬉しいよ」
「はいっわかりましたっ、これからも、どうぞよろしくお願いします、トーチカさんっ」
さっと差し出された小さな手と、ぎゅっぎゅと握手をする。
嬉しそうにニコーっと微笑まれると、思わずでれっとしてしまいそうになるな……。
まさに王子様と言わんばかりのキラキラしい輝きを発しているぞ、ルミリオス王子っ!!
「君がトーチカか、話は常々聞いている。私はフィンブランド・ビオグラヴィタ。この国の王だ」
常々ってなんだ……!?
俺は内心冷や汗をかきつつ、その大きな手とも握手する。
「はっ、初めまして、飛来人の遠近です。この国のお世話になっていますっ……」
って感じの挨拶でいいのか!?
よくわからんっ!!
「トーチカ君、フィンブランド王は気さくな人だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
艶やかなバリトンボイスで優しくそう言ってくれるのは、この国イチメガネの似合うイケオジだと俺が思っているドリュエリオン宰相だ。
ああ、相変わらず最高にナイスミドルな魅力全開のその顔面に、茶色がかった金髪がさらりと流れて、外用の艶ありブラウンなスクエアメガネがさらなる色気を重ねている。
正に人間国宝級な仕上がりだ、これは永遠に見ていられるな……。
「ドリュー、私が話している相手を取らないでくれないか?」
「助言をしたまでですよ」
「キミは顔も声も良過ぎるんだ。見ろ、トーチカがすっかりドリューに見惚れてしまったじゃないか。責任持って連れ戻せ」
「トーチカ君。……トーチカ君、御前だよ」
ドリュエリオン様にトントンと肩を叩かれて俺は正気に戻った。
「ハッ、すみません、ドリュエリオン様とメガネの組み合わせが最高で、つい……」
「王よ、これは私だけの責ではないようです。半分は彼の自画自賛ですよ」
「まあ良い、ドリューはもう少し離れておきたまえ。礼もままならんではないか」
ん? 何の話だ?
ドリュエリオン様が三歩ほど下がると、王はゴホンと咳払いをして俺へ向き直った。
「トーチカよ、此度は我が息子ルミリオスの目を治してくれた事、父として、国王として、非常に感謝している。本当にありがとう」
わわっ、王様ってそんな簡単に頭下げたらダメなんじゃないのか!?
「いえ、そんなっ、顔をあげてくださいっ。俺はメガネを作っただけで、頑張ってるのはメガネとルミリオス王子ですからっ」
俺の言葉に、王様はよくわからないような顔で呟く。
「……そうか。メガネとルミリオスが…………?」
俺の斜め後ろで「ぶふっ」とふき出したのはグラ兄だな。不敬だぞ?
「今も、メガネとルミリオス王子が頑張ってるんですっ」
俺はもう一度そう言うと、俺の横に今もぴったり寄り添っているルミリオス王子に、メガネを外しても良いか尋ねる。
了承を得てメガネを外すと、ルミリオス王子の片目は内側に寄った。
「……なんと……」
すっかり治っていると思っていたのか、王様は驚きに少しの落胆を滲ませた。
俺はすぐにメガネをルミリオス王子にかけ直す。
きちんと両眼視で王の姿を見上げた息子を、王様はいたわるように撫でた。
すると、ルミリオス王子も嬉しそうにニコッと王様に微笑む。
うん、ここの親子仲は良好そうで良いな。
まあリオン様のとこも不仲じゃないんだけどな、リオン様がちょっといい子にし過ぎてるだけで。
「今後ルミリオス王子の成長に合わせて、その時々でしっかり合ったメガネを正しくかけ続けていれば、次第に王子の内斜視も落ち着くでしょう。その為には、ご両親や周りの方がルミリオス王子の目について正しく理解して、サポートする必要があります」
俺の言葉に、王様は少しだけホッとした気配を滲ませた。
「……そうか、分かった。必ず時間を設けよう。トーチカ、ありがとう」
なるほど?
俺の『内斜視とはなんぞや』講義を聞く時間を取ろうって言ってくれてるのか。
逆に言えば、今はこの話を聞いている暇はないって事だな。
よしわかった。
俺は王様の言葉に礼を告げて、後ろに下がる。
すると、ドリュエリオン様が地図を、リオン様が書類の束をそれぞれ机の上に素早く広げて、重役会議が始まった。
そこそこ大きな丸い机には、王様と宰相様とリオン様の他にメガネをかけた顔がいくつもある。
ヴァルさんと、ヴァルさんの隣にいるのは魔導士団の団長さんだな。彼も前回俺が作ったメガネをかけて会議に参加している。
王様の斜め後ろにいるのは近衛騎士団長のカーマイドさんで、机についてるのは王立騎士団長のハウンディさんだ。どちらもグラ兄の兄達でグラ兄と同じく近視用のメガネをかけている。近視家系なんだよな。
副騎士団長さんはメガネではないが、騎士団の皆さんにメガネを作りに行った時に挨拶をして、廊下で会えば会話をする程度には顔見知りだ。
王様の手前、誰も俺に直接話しかけてはこなかったが、誰もが俺と目が合うと微笑んだり頭を下げたりしてくれていた。
……いや、この部屋ってメガネ人口多いな!?
13人が集まっても王様の執務室はまだまだ余裕の広さだが、俺もメガネだしグラ兄もメガネだし、リオン様もフラウレイドさんもルミリオス王子もメガネだからな!?
13人中10人がメガネ……。
王様と、騎士副団長さんと、王様の後ろに控えるカーマイドさんじゃない方の近衛騎士さん以外全員メガネじゃないか!!
俺は少し離れたソファにかけて、円卓を囲む錚々たるメンバーを眺める。
皆さんメガネが似合う美形揃いで眼福すぎんだろ……っっっ!!
俺の隣にはちょこんとルミリオス王子が座っていて、こちらもクリアのプラフレームが子どもらしい愛嬌をさらに高めていて愛らしいこと、この上ない。
俺と王子がソファに落ち着くと、俺達の前にはすかさずお茶とお菓子が出された。
……フラウレイドさん、会議でリオン様のサポートをしつつ俺達にお茶まで入れるの優秀すぎませんか……?
あー……重役会議だからか、普段は居るであろう侍女さんとか侍従さんが席を外してんのかな?
俺好みのお茶にホッと癒されながらカップを持ち上げた俺の、湯気で軽く曇ったレンズに見過ごせない動作が映った。
……ん? 王様が今、書類を持った手を少し伸ばしたな?
何かをよく見ようとした時に、近づける事はあっても、遠ざけるのは……老眼以外でやんねー仕草なんだよな……。
俺は「会議の最中にすみません」と断って、王様にメガネ作製の許可をもらう。
どうぞお気になさらず会議を続けてください。と促して、王様の背後で俺は作業に取り掛かる。
後ろからそっと視力を測定して、軽い老眼の王様には遠近両用メガネを一本作ることにする。
ルミリオス王子と同じ明るいオレンジの髪には明るいカラーのメガネも似合いそうではあったんだが、今は聞き取りをしてる時間もなさそうなので、王様の立場を考えた上で、落ち着いたシルバーのフレームを用意した。
会議の隙を見て、王様の耳にそっとかける。
「おお、細かい字までクッキリ見えるな……。これがメガネというものか……」
王様が漏らした感動の声に、円卓にいるほとんどが深く頷いている光景がちょっと面白いな。
先セルと鼻あてを覗き込んで、何とかフィッティングを済ませて、俺はソファに戻った。
着用の注意や手入れの仕方については、王様のメガネが遠近両用と聞いた宰相のドリュエリオン様が後ほど伝えておくと引き受けてくれたので、お任せする。
俺以外にもメガネの事を知ってる人が増えるってのはいいな。




