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【BL】異世界でも、俺はメガネが大好きだ!  作者: 良音 夜代琴


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2/12

メガネのズレが気になる

 俺がこの世界に飛来したのは、つい昨日のことだ。


 眼鏡屋の店員である俺は、朝一番で店舗から荷物を車に積んで、メガネフェアのイベント会場へと車を走らせた。


 会場であるホテルの駐車場について、店舗から預かったフレームと検査セットを詰めた込んだ段ボール箱を「よいせ」と抱え上げて……。




 次の瞬間、俺の視界いっぱいに青空が広がっていた。




 ……へ?




 俺、車の鍵かけてないどころか、後部座席のドアすら、まだ閉めてなかったよな……?




 ……いや、これ、どーゆーことだよ。



 眼下に広がるのは、高いビルの一つもない平坦な町並みの町に、広大な畑と牧草地と、村々。


 目に鮮やかな緑の広がる山と広大な森。

 陽射しを浴びてキラキラ光る海。


 お。よく見りゃ城っぽいのも建ってるな。




 どこだここ?




 山脈の向こうにはまた違った雰囲気の町や村が並んでいるようだが、ここからでは遠過ぎてよく見えない。


 ひとまず、突然のことにちょっと下がってしまったメガネを上げたい。

 けど俺の両手は段ボール箱を抱えている。


 くそぅ、メガネのズレが気になる。




 現段階で、俺は相当高い空の上にいるってことだけは分かった。



 だが不思議なことに、足元に床らしき感触はちゃんとあるし、肌に風は感じない。


 俺の体は急降下する事なく、ひらひらと風に舞う木の葉のようにゆっくり左右に揺れながら、ゆるやかに降下している。


 ま、そうじゃなきゃ、こんな落ち着いてらんねーけどな。


 普通にこの高さから落下したら、叫ぶか気を失って、地面にぐちゃっとなって人生終了だろう。



 俺は、他にできることもないので、段ボールをもう一度よいせと抱え直して、徐々に近づく景色を観察する。


 村や町の周囲には畑がずずずーっと広がっていて、広く囲われた牧場っぽい場所には馬とか牛みたいなのも沢山育てられているようだ。


 ここらは農業地域なんだなぁ。



 しかし工場っぽいものがまるで見当たらない。

 工房サイズの建物なら、煙突から煙を出しているのがポツポツあるが……科学文明の気配は薄いな。



 俺が着地するのは、この真下に広がる大きめの町のどこかになりそうだが……。


 地上に近づくにつれ、大勢の人が空を……というよりも、俺を見上げていることに気づく。


「おかーさん、見てー」

「あら、飛来人ねぇ。いいお天気でよかったわねぇ」


「おい、飛来人だ! 衛兵を呼んでこい!」


「飛来人だぞーっ!」


 町の一箇所からカンカンという警鐘らしき音が鳴り出したと思ったら、その音は町の数カ所から同じように聞こえ始めた。


「どれどれ、おー? なんかでかい箱持ってんな。なんだあれ」


「なんだ男かぁ? どうせなら可愛い女の子がよかったよなぁ」


「おお、飛来人か、この辺じゃ久しぶりだな」


「おじいちゃん、飛来人だって」

「ほほう、何色かのぅ」


「なんだよ、銀色かぁ」

「ヨッシャ! お前、次は金色にかけてただろ?」

「うぇぇ、そんな前の話、よく覚えてんなぁ」

「俺の勝ちだな!」


「何? 男子!? イケメン!?」

「んー……まだよく見えない……」


 声が聞き取れるほどに近づいてくると、いくつか分かったことがある。


 まず、どうしてかは分からないが、町の人たちの言語が理解できる。

 というより普通に日本語に聞こえる。


 でも町並みはどうみても日本じゃない。

 それ以前に、現代っぽさがなさすぎる。


 だってこんなん見かけたら、普通皆スマホのカメラを構えるだろ?

 なのに、スマホどころか携帯すら誰も持ってないように見える。


 道に車が一台もない。

 代わりに馬やら馬車があるとこをみると……。


 これってあれだろ、異世界転生……いや、転移ってやつか?


 よくある中世ヨーロッパ風ファンタジーな風景に見えるんだよな……。



 いや、まだワンチャン夢だという可能性も残しておくけどな。

 俺の心の、最終防衛ラインだ。



 どうやら、さっきから人々の注目を集めまくっている俺は『飛来人』と呼ばれる存在のようだ。

 確かに現在進行形で、空からひらひら降ってきてはいる。


 そんで、俺の足元で地面がわりに光っている銀色のキラキラした板状の……あ、これ魔法陣か? それっぽい謎言語風の模様が円を描いている。

 これは町の人にも見えていて、これが銅より銀、銀より金、金より七色の方がレアっぽいようだ。




 …………いや、ソシャゲのガチャかよ。




 虹がURで金がSSRなら、銀色の俺はSRってとこらしい。


 まあ、銅色のRよりマシだったって事か?


 つーか、まずレア度は高い方が『俺にとって』いいのかって部分がハッキリしねーとなんとも言えねーけど。




 お。この調子なら、あの石畳の広場に着地できそうか……?


 木の上とか屋根の上だと大変そうだったし、ありがたい。


 町の人達も俺が広場に降りると踏んだのか、広場からは慌ただしく屋台が畳まれている。



 あー……。

 なんか、商売の邪魔してごめんな。


 揃いの制服を着て槍を持った兵達……あれが衛兵かな?

 衛兵達は街の人を避難誘導し終えると、広場をぐるりと囲い始めた。


「しっかり距離を取れ!」

「民間人を広場に入れるな!」


「総員配置完了です!」


「よし、久々の銀色だ! 全員気を引き締めろ!」


「なるべく無傷で確保だ、相手はどんな手を使うか分からん。油断するな!」 



 ……やっぱ衛兵達って俺のこと捕まえる気満々だよな……?


 俺って、この人達に捕まるしかねーのかなぁ。



 まあ、衛兵さん達も無傷でって言ってるし、抵抗しなきゃ痛い目には……遭わされねーといいなぁ……。



 広場の近くに馬車が止まる。

 途端、人々が騒めいた。


「おお、ウィルトゥーズ公爵家だ!」

「公爵家の馬車だぞ!」


「冷酷公爵様かしら!?」


「お顔は良いのよねぇ……」

「目つきは怖いんだけれどねぇ」


「あら、お使いの方みたいね」


「補佐官様だわ」


「そんな急にはいらっしゃらないわよ」

「ああ、補佐官様も相変わらずかっこいいわね……」


「道を開けろ!」

「ウィルトゥーズ公爵家の補佐官様がお通りだぞ!」


 騒がしい人混みの中に、馬車の前から広場までの道ができると、その隙間を抜けて、黒髪をオールバックにした執事風の男性が広場に姿を現した。


「フラウレイド補佐官様!」

 執事風の人をそう呼んで駆け寄る人は、衛兵のリーダーなのかな。

 この人だけ帽子に立派な羽がついてるので上からでも見分けやすい。


「隊長殿、ご苦労様です。飛来人来訪の知らせを受け、急ぎ参りました」


「ウィルトゥーズ公爵様の迅速な対応に、心から感謝いたします」



 つまり?


 俺は衛兵に捕まったら、そこのオールバック執事っぽい人に身柄を引き渡されるのか。



 なんとも言えない緊張感が広場を包む中で、俺は広場の中央にふわりと着地した。


 距離を取っていた衛兵達が、槍を俺へと構えた姿勢でじわじわと距離を詰め、俺を完全に包囲する。



 えーと……。


 ここは無害アピールに、まずは挨拶でもするべきか……?

 それともじっとしてる方がマシなのか……。


 なんか相手も俺の動きを警戒してるっぽいんだよな……。



 俺が判断に迷ううちに、さっきのオールバック執事っぽい人が俺の前に歩み出た。


「ようこそ我が国へおいでくださいました。私はフラウレイドと申します。この地を束ねるウィルトゥーズ公爵家より、使いの者として参りました」


「……あ、どうも、初めまして。俺は遠近とおちかと言います」


 俺がぺこりと頭を下げて挨拶を返すと、フラウレイドと名乗った30代前半くらいのお兄さん執事……いや補佐官さんは、男らしいキリッとした目元と眉を、ほんの少し見開いた。


「トーチカ様……。これはまた、随分と落ち着いた方ですね……」


 いや、慌ててはいる。

 内心そこそこパニックではあるし、夢かなー? 夢だといいなーと思ってもいる。


 その上で、今ここでパニックを丸出しにするのは、よくない状況なんだろうなという程度の判断ができているだけだ。


「よろしければ、ご年齢をおうかがいしても?」


「22歳です。フラウレイドさん……様? はおいくつですか?」


「私ですか? 私は33ですが……。ああ、私の事はフラウレイドと呼び捨ててください」


 俺に歳を聞かれるとは思ってもみなかったのか、返事をしたフラウレイドさんが、答えた後でまた驚いたような顔をする。


 いや正直、聞いた俺自身、ちょっとびっくりしてるからな。

 ついつい接客業の癖なのか、相手に丁寧に話を振られると、こっちも返したくなっちゃうんだよ。会話のキャッチボールを。


 流石にお姉様方に歳は聞かないけどな。


「到着早々で分からない事ばかりとは思いますが、お荷物も多いようですし、私と共にあちらの馬車でご移動いただいても構いませんか?」


 確かに段ボールを抱え続ける腕はそろそろ疲れてきたし、荷を下ろせるならありがたい。


「ではお言葉に甘えて……」


 微笑んで答えた俺に、フラウレイドさんはどこか迷う様子で声をかけてきた。


「……もしよろしければですが……、お荷物をお持ちいたしましょうか?」


 ああ、なるほど。

 見知らぬ場所の見知らぬ人に、いきなり唯一の荷物を渡すのは怖いだろうかと気遣ってくれてるのか?


 この段ボールを手放せば、俺の荷物なんてあとはジャケットの内ポケットの財布と筆記用具、ケツのポケットにスマホが入ってるくらいだしな。


 つーか、フラウレイドさんにとっても、なにが入ってるのか分からない箱だろ?


 それって結構勇気のいる声掛けだったんじゃないか……?




 だが今、俺は、何よりも、ズレたメガネの位置を直したい!




 だからちょっと図々しくはあったがその言葉にも続けて甘える事にした。


「ありがとうございます、助かります。壊れ物が入っているので、そっとお願いできますか?」


「かしこまりました」


 段ボール箱をよいしょと手渡すと、フラウレイドさんは小さく会釈してしっかり受け取ってくれた。



 俺はすかさず両手でメガネのフレームの両端をつまんで、正しい位置に持ち上げる。


 あーーーーっ。

 スッキリした!!



 メガネが下がってんのが、上空にいた時からずーーーーーっと気になってたんだよッ!!




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