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能力も大事だけど、一番は機動力。職員はほんと多忙なんです





ユグラン中心部にある、行政管轄庁。いわゆる世界領主《マスター》の居住区域、政治の中心。ウィリアムの仕事場である。

戦後数年しか経過しておらず、まだまだ荒れ果てた地域も多数あるので、政治を担う職員は常に多忙なのだが、中心人物のウィリアムはあっちへフラフラこっちへフラフラ。席を不在にする事が大半だった。


「故に、溜まりに溜まっているのですよね」


庁内の最深部、執務室に辿り着いた私《オレ》を待ち構えていたのはウィリアムではなくーーーー


部屋一杯に広がる紙の束だった。


何時もの事だと、溜息を吐くユニスは笑っているが言葉には棘がある。目の前に積み上げられた書類の山を見れば、この表情になるのも仕方ないかなと思う。


「……これ、何か月分なの?」


「あー、6日分ぐらいじゃねェか」


「えっ!? 月の単位じゃなくて日数なの!?」


机にうず高く積み重なった書類や資料。これが1週間も経過していないという驚き。1日に捌かなくてはならない量がどれ程のものなのかというのが、察してしまうというもの。


世界領主という肩書きは、ただ椅子に座って指示を出すだけの存在ではなく、世界のあらゆる物事に干渉する役目も担う。全てに手が届く訳でもないし世界領主が出来ることは限られているが、それでもウィリアムは自分の足で現地に飛ぶ事が多いらしい。


「ウィリアムは、事務作業より現場で動くのが好きな奴だからなァ。だが、アイツの認印や許可がなきゃ動かない事案が結構あるモンで、こうなっちまう訳よ」


「えぇ……領主代理とか、いないの?」


「ウィリアムが指名すんの面倒クセェって言って、直ぐ様却下されたなァ。下っ端からすると絶望の一声だったが」


うっわ、可哀想。日頃から阿鼻叫喚で仕事を捌いている職員達の苦労が目に浮かぶ。付き合いが短い私ですら、仕事量がえげつないのがよく分かるというのに。


「だが、何とかなりそうな存在が出来たからなァ。あの世界領主の相棒が、な?」


ピシリと動きを止めた私《オレ》は悪くないと思う。ちょっと、誰のことを言ってるのかなあ?

ユーリは勿論、リチェッタとユニスの視線まで受けて、気の所為という事は早々に却下された。


ふぅん、成程ね。やっぱり地位がある人の相棒は止めた方が良かったかもしれない。


「……まさか、相棒である私に仕事をさせようとしてる?」


部屋にいるウィリアムの部下達が一斉に首を縦に振った。


「冗談でしょ!? 私が此処に来たのはリンファの付き添いと、フォラッドを捕まえる為で!」


「残念ながら庁舎に入った時点で、逃げらんねェよ。リティシア、ほんの少しでいいんだ。手助けしてやってくれ」


「社会経験ないエルフに何をさせる気なの……」


「なァに、簡単な書類処理だ。一心不乱にやれば直ぐに終わる」


いや、事務作業は前世で経験あるから分かるけども。この量を捌いていけと……??

どう考えても、数日は缶詰状態になるのは間違いないんじゃないかな。


「リティシアが書類を処理してる間に、俺とリンはフォラッド(やつ)を捕獲してくるわ。楽しみに待ってろォ」


尾をピシリと揺らしながらユーリは良い笑顔を此方に向けた。

リンファが捕獲なら、ちょっと可愛いらしい絵面で終わるけども、ユーリが動くとなると血生臭い展開とかならないよね? ガブッとやられてしまわない?


うーん?と唸ってる間に書類を片付けれるように場所を移された。あれ、私《オレ》まだやるって了承の声すら上げてないんだけどな?


目の前に並べられていく書類を横目に忙しなく動き回る職員達へ目を移す。


大量の本や資料を読み漁って、この世界を知った気になっていたけど行政機関の事はよく調べてなかったなぁ。戦争ばかりで文明が発展しなかったんだから、行政関係も疎かなんだろうと思ってた私《オレ》が馬鹿でした。


ザッと見た限り、きちんとした紙束の書類だし内容は世界情勢、災害地や反乱地域の巡回、種族別の領地配分や税収、だったりして前世《かつて》の世界と変わらない情報があった。


そっか、そうだよなあ。この世界の皆も普通に生きて暮らしてるんだよなあ。

辺境で暮らしてたから、その辺がちょっと曖昧というか、ウィリアムの所為でドタバタ日常だったから考える暇がなかった訳なんだけども。


「はいっ、これも! 宜しくねー!」


リチェッタが最後の書類と思われるものを机に勢い良く置く。バサリと振動で落ちた紙を拾い上げ、小さく息を吐いた。


うん、仕方ない。コレはやるしかないよね。


「……リィタ」


『ハァイ! ナアニ?』


ぷにゅんと跳ねて足元から顔を見せるリィタの頭を優しく撫でる。


「1人じゃ捌いていくの大変だから、ちょっと手伝ってくれる?」


『ワカッター!』


リィタの元気な返事に頷きを返し椅子に座ると、山積みされた書類に手を伸ばした。





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