こっちは疲れてるのに、何処に行ったのー!?
ゴリゴリゴリゴリ……
草餅というか、馴染みのあるよもぎ餅。前世の故郷ではふつ餅と呼ばれてたんだけど。ふつって中国語の蓬が訛ったとか、邪気を払う祓から来たという説があるんだとか。
よもぎの香りとあんこの甘さが好きだったなあ。道の駅でも売ってあったけど、我が家で作る事が結構多かったかな。手間暇かかるけど、やっぱり手作りは美味いんだよねえ。
ゴリゴリゴリゴリ……
よもぎは食物繊維が豊富。身体を温めて血液の循環を良くしたりもしてくれるんだったかな。漢方の生薬とかにも使われてたから、良い食材なんだ。まあ、この世界のよもぎもそうであれば、だけど。
ゴリゴリゴリゴリ……
なんでこんな事をつらつら考えているかというと、
先程から聞こえている独特な音と、目の前に大量の若芽のよもぎがあるから。茹でたよもぎをすり鉢とすりこぎ棒を使ってすり潰していってるんだけど、なかなか数が減らない。どんだけ蓄えてたんだ、フォラッドめぇぇぇ。
眉間に皺を刻みながらも腕を動かし、ひたすらゴリゴリしていると休憩を終えて戻ってきたユーリが私の肩を軽く叩いた。
「代わるぞォ」
「あ、ありがとう。これ出来た分は容器に移せば良いのかな」
「あー、良いと思うが……良いんだよなァ?」
ユーリが後方で何やら忙しくしているフォラッドに視線を向ければ、ええよー!と声が返ってくる。
客である私達にこんなことをさせて、フォラッドは何をしてるのかと思えば、依頼の薬作りらしい。数か月サボってたらしく、ウィリアムの手紙には脅しともとれる催促の言葉が並んでいたようだ。突風は敵に回したないしなぁ……とぼやきながら、重い腰を上げていた。いや、そう思うんなら最初から早くやれば良かったんじゃないかな……。
因みに、ウィリアムから私をフォラッドに会わせたかった理由も手紙に書いてあったようで、フォラッドだけ頷きながら納得していた。当事者なのに、1人蚊帳の外な私は気になって問い質してみたけれど、のらりくらりと躱されて何故か今、よもぎを扱ってる。
……なんで?
えっ、この為だけに遠出したんじゃないよね!? ちゃんと理由聞かせてくれないと、離島まで来た意味がないような気がするんだけど!?
まあ今、うんうん唸ってても現状は変わらないので、大量のよもぎを処理する事だけに集中していよう。これをきちんと終わらせればフォラッドも話をしない訳にはいかないでしょ。
モヤモヤを内心抱えながら、ユーリと場所を変わりすり潰したよもぎを容器に入れようと顔を上げた時だった。
「……あれ?」
目線の先、戸棚から見える隙間の奥にフォラッドの姿はあった。そう、見えていたのだが今は誰もいないように見える。視界の問題か、と身体を傾けてみれば戸棚の先がよく見えて。其処には誰の姿もなかった。
「ユーリ、フォラッドさんがいないんだけど」
「ンだとォ!?」
勢い良く振り返ったユーリはその足で、フォラッドがいた場所を見据えるが、気配が完全にない事を察し深々と息を吐いた。
「チッ。あんの野郎、また無断で動きやがった……!」
「よくある事なの?」
「アイツの脳は、出先を誰かに告げて行くという声掛けが理解出来なくてなァ……」
「えっと、どういう?」
「ふらりと出掛け、ふらりと帰ってくるのが普通。何処に行こうが行くまいが己の自由だから、誰にも言わずに出掛けるのが当たり前なんだとよォ。だから、コイツを捕まえんのは骨が折れるんだ。ほぼ1か所に留まってねえからなァ」
今回は普通に出会えたから油断してたなァ、と頭を乱暴にかくユーリに何と声を掛けていいか分からない。変人は、やっぱり行動も変なんだろうか。
早速捜しに行くのかと思いきや、ユーリは此処に留まる事を選択した。ユーリ曰く捜しに行くと、すれ違いにすれ違いを重ねて永遠に会えなくなる可能性もあるそうだ。何それ、えげつないじゃん……。
煮立った鍋からよもぎを取り出しながら、私は軽く首を傾けた。
一先ず、この作業続けてれば良い訳か。単純作業は好きだけどさあ。けどさ、なんでほんとによもぎ塗れになってんだろうね。モヤモヤが溜まるー。
あっ、そうだ。思い付いた。勝手に出掛けたんだから、此方も勝手に動いてもいいよね。うん、そうしよう。よもぎは大量にあるし、私も簡単なお菓子でも作ろうっと。さあて、何をしようかなーー?
そういや、よもぎって連呼してたけど……この野草の名前、よもぎで合ってるんだよね? この世界では違う名前の可能性もあるよなぁ……
まあ、いっか!




