餅は美味しかったんだよね、うん
その男は、端から見れば良い人に見える。
コミュニティに馴染むのも早いし、頼まれ事も喜んで引き受けるし、何より仕事が早かった。
ただ、ある程度仲良くなり、会話を交わす事が増えると疑問に思う事が増える。あれ、コイツちょっと違うな?と、思い始めたら、もう以前の間柄には戻れない。
何というか、嫌なとこが余計に目立つように見えるというか。空気読まないんだなという事が徐々に明らかになっていく。
ただ、ほんと仕事は出来るから依頼が尽きる事はない。ないが、会話が上手く成り立たないのが非常に厄介で。思った事を脳内で考えず、そのまま口にしてしまうから、喧嘩に発展した事もある。
普通の人ならそれで気不味くなるものだが、男は違った。言った言葉や行動を忘れてしまっているので、以前と変わらず普通に接しに行くのである。
心臓に棘でも生えてるのか、と当時を知る人は皆、頭を抱えるしかなかったという。
淡々と男ーーフォラッドの内面や遍歴などを話していたユーリは深々と息を吐いた。
何か、すっごく疲れた表情をしているのは気の所為ではないだろうな。私も聞いただけで何か胃がキリリと痛くなってきたからね。フォラッドとの会話はなるほど、気力体力勝負なのはやっぱり間違いない。
「まァ、見た目も野暮ったくなったのはこの数年だからなァ。それまでは普通っつぅか……平凡な青年を装ってたから、騙されたって思う輩も多かったんだよ」
「まあ普通、仲良くなった人が実は言葉が通じない変人だとは思わないし……」
「大体、ある程度まで普通に会話出来るから、ややこしくなんだよォ。最初から、ヤベェ奴の雰囲気出してれば人は寄り付かねぇのに。アイツ、わざと小綺麗にして街に繰り出しては、井戸端会議にしれっと参加してるからなァ」
「うっわ、怖っ」
思わず感じた悪寒を逃がすように両腕を勢いよく擦る。
振り返ったら奴がいる!並にゾワッとするやつね。放置された家屋に足を踏み入れたら、嫌な虫達と遭遇して悲鳴あげちゃうやつ。
ミシッと床板の軋む音が聞こえ、顔を上げる。ユーリは既に気付いていたようで、視線だけをそちらに向けていた。視線の先には紙袋を抱えたフォラッドがにこにこ笑顔で佇んでいる。
「おんやぁ? 2人して何の話しとるん? まさか、世界滅亡の予定話!?」
「……お前に対する評価云々を振り返ってたんだよォ」
「評価ぁ?」
「おう……っと、そのまま座ろうとすんな! 何で外に出てねぇのに砂塗れになってんだ、お前はァ!」
「えー、家の戸開けたらドバッと上から落ちてくるもんやん。こんなん普通やし、気にせんといて」
「いや、何処から砂が落ちてくんだよォ……」
ユーリが軽く頭を叩けば砂がパラパラと溢れ落ちていく。仕方ないとばかりにフォラッドの砂を払い落としているユーリを見て、ほんと優しいなあとしみじみ思う。
やっほやっほ! 引き続き、フォラッドの家に滞在しているリティシアでーす。早く帰りたい気持ちが強いんだけど、ウィリアムの用事がまだ何なのか把握してないからね。悲しいかな、帰りたくても帰れない……。
茶請けを取りに行ってくると言って、帰ってきたフォラッドは何故か砂塗れになってるしねぇ。何なの、砂漠まで取りに行ってきたの?ぐらいな量の砂なんだけど。まさか、この家も家主と同様に変なのか……?
「そがん叩かんでもええのにぃ。食べモンはなーんも汚しとらんよ」
頭だけでなく全身を叩き続けるユーリをさり気なく押し戻すと、フォラッドは胸元に抱えていた紙袋を私に向けて差し出した。
「これは?」
「草餅や。作ったばかりのやから、柔らかくて美味かよー」
軽く砂の掛かった紙袋を恐る恐る開けてみると、其処には緑色の丸い餅が入っていた。匂いを嗅ぐように鼻を揺らせば、独特な匂いを感じる。身体に良さそうな、あの新芽を揉み込んだ時の……
あー! 草餅っていうと……よもぎ餅か! うっわ、懐かしい!
ぼんやりとしていた記憶と同じ、よく似た形の代物に私は思わず笑みを溢した。
よもぎ餅は大好物だったんだよー! 異世界でも食べられるなんて……!
食べてみぃ?と促すフォラッドに、私は返事の代わりにそれに手を伸ばした。




