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召喚余剰人員の為、魔王は任せて異世界満喫?!  作者: 倉地冬馬


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第21話 契約:不安:ペットアプリ

 二匹が携太の膝に額を寄せたまま、しばらくの時間が過ぎた。頭を撫でる。かわいい。


 空を見上げると、木々の隙間から青空が見える。雲が穏やかに流れている。


 その時──スマホが、チリン、と小さく鳴った。


 携太はそっと画面を見る。


【ペットアプリ:契約可能対象を検出しました】


(……ペットアプリ。今朝、レベルアップで解放されたやつか)


『ペットアプリについてご説明いたします』


 オラクルの声が、頭の中に響く。


『このアプリは、信頼関係にある魔物との"契約"を行う機能です。契約が成立すると、携太さんと対象の間に恒久的な意思疎通の経路が確立されます。現在は信頼関係が前提となっているため一時的に会話が成立していますが、契約なしでは距離が離れると意思疎通は途切れます』


(今は近くにいるから話せてるけど、離れたら聞こえなくなるってことか)


『契約には双方の意思が必要です。携太さんが望んでも、相手が拒否すれば成立しません。逆もまた然りです。また、契約は"主従"ではなく"対等な絆"として機能します。命令や強制はできません』


(……対等な絆、か)


 携太は二匹を見た。


「話がある」


 二匹が、耳を立てる。


「この板──俺の世界じゃ"スマホ"って呼ぶんだけど、これにこの世界の魔物と契約できる機能が追加されたらしい。契約すると、離れていても会話ができるようになる」


『……契約?』


 姉が、ぴくりと体を強張らせた。


「強制じゃない。お互いが望まないと成立しないし、命令もできない。対等な関係だって」


 沈黙が落ちた。


 さっきまでの穏やかな空気が、一瞬で変わったのがわかった。


『……一緒にいたい。それは本当よ』


 姉が、低い声で言った。


『でも──"契約"は、別』


 その声には、はっきりとした拒絶があった。


『あの人間たちも、私たちを"連れていこう"としたの。契約って──それと、何が違うの?縛られるみたいでイヤ……』


 携太は、言葉に詰まった。


 弟が、不安そうに姉と携太を交互に見ている。


『僕は……一緒にいたいよ。でも、姉ちゃんが怖いなら──』


『怖いわ』


 姉が、遮るように言った。


『怖いに決まってるでしょう。"契約"なんて──何があっても逃げられない、そんな言葉に聞こえるの。あの日、あの人間たちの恐ろしさを思い出してしまうの』


 エメラルドの宝石が、微かに震えていた。


 携太は、膝の上の拳をぎゅっと握った。


(……そりゃそうだ。あんな目に遭った直後に、"契約"なんて言葉を聞かされたら──)


「……ごめん。忘れてくれ。無理に契約なんてしなくていい」


 携太は静かに言った。


「一緒にいたいって気持ちは、契約がなくても変わらない。ただ──」


 言葉を切る。


「……そもそも、魔獣は街の中には入れない。城壁の外で待っててもらうしかないんだ」


 二匹の表情が、固まった。


『……待つって、外で?』


 弟が、小さな声で聞いた。


『離れるってこと……?』


 携太は、黙って頷いた。


 一緒に行こうと言ったばかりなのに、街に戻るたびに離れなきゃいけない。


 その現実が、三人の間に重く落ちた。


 ◆


 その時、オラクルの声が割り込んだ。


『補足いたします。ペットアプリには"ペットルーム"機能が搭載されています』


(ペットルーム?)


『契約済みの対象は、ペットアプリ内の専用空間──広い部屋のような場所に入ることができます。食料の転送も可能で、空間内にいる対象とも会話は途切れません。画面越しに様子の確認も常時可能です』


 携太の目が、少しだけ見開かれた。


(……待てよ。ってことは──)


「なぁ、聞いてくれ」


 携太は、二匹の前にスマホの画面を見せた。


「契約すると、この板の中に──君たちの"部屋"ができるらしい。広くて、自由に過ごせる場所だって」


『……部屋?』


 弟が、首を傾げた。


『この薄い板の中に……?』


 姉も怪訝そうに目を細めている。


 無理もない。目の前の薄い板を見せられて「広い部屋ができる」と言われても、意味がわからないだろう。


「今は理解できないかもしれないが、とにかく、街に入るとき、その部屋にいてくれれば──外から君たちの姿は見えない。人間に見つかる心配がない」


 姉の耳が、ぴくりと動いた。


「画面越しに様子も見えるし、中にいても俺と会話できる。餌も届けられる。……閉じ込めるんじゃなくて、安全な居場所を作るってことだ」


 沈黙が流れた。


『……人間に見つからないの?』


 姉が、ぽつりと聞いた。


 その声には、さっきの拒絶とは違う色があった。


「ああ。街中だろうが、どこだろうが。俺が出すまで、誰にも見つからない」


『……出たいときは、出られるの?』


「もちろん。安全な場所なら、いつでも出してあげるさ」


 長い、長い沈黙。


 姉が弟を見た。弟が姉を見た。


 弟が、小さく尻尾を振った。


 姉が、ゆっくりと携太に向き直った。


『……一つだけ聞くわ』


「なんだ?」


『もし──私たちがその部屋から出たいと言ったとき。あなたは、止めない?』


「止めない。約束する」


 まっすぐな声だった。


 姉の宝石が、ゆっくりと淡い光を放った。


『……あなただから。あなただから──信じるわ』


 弟が、ぱっと顔を上げた。


『僕も! 僕も信じる!』


 ◆


 携太はスマホを取り出し、ペットアプリを開いた。


 画面に、二匹のシルエットが表示されている。


【契約可能対象:カーバンクル】


【契約可能対象:カーバンクル】


【契約を開始しますか?】


「開始」をタップする。


 瞬間、携太の体と二匹の体が、同時に淡く光った。


 携太の光から細い糸のような光が伸び、二匹それぞれの光と結ばれた。


 固く、だが優しく──そして、静かに消えた。


【契約成立】


 痛みはない。


 ただ、胸の奥に──細い糸が繋がったような、不思議な感覚があった。


『あったかい!!』


 弟が、ニコニコ顔で言った。


『うん。……あったかいわね』


 姉はそう言って、心地よさそうに目を閉じた。

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