第11話 何だかオジサンの飲み会みたい
「ふぅ、すっかり遅くなっちゃったな」
結局、カモちゃんの家で夕飯まで御馳走になったから、帰りはすっかり夜だが、電車に揺られて帰るんじゃなくて、ハイヤーで快適に帰るから大して疲れない。
──ノープランで外出したけど、このゴールデンウイーク初日は中々に実りがあったな。
思い付きで魚市場の食堂に行ったら、思いがけずに5組のカモちゃんと繋がることが出来た。
おかげで、クラス入れ替え戦において暗躍して貢献した実績ができて、原作キャラのカモちゃんが地雷少女堕ちして晴飛誘拐イベントを画策する芽も事前に摘み取ることもできた。
これで、2組の皆にも、晴飛の護衛としてあのおっかない母さんにも、色々と面目が立つというもの。
「まったく。できる男は呼吸するように、連休中もビジネスにプラスになるムーブをしてしまうものだな」
そう自画自賛しつつ、俺はカモちゃん宅にいる間は全然構っていなかったスマホを取り出し眺める。
小さい子供と遊ぶ時には、スマホ弄ってると子供がそっちに興味が行っちゃうからな。
「って、え⁉ 通知48件⁉ 母さんから⁉」
何気なく見たスマホのホーム画面には、連絡アプリの新着通知が雨あられで来ている事が示されていた。
慌てて連絡アプリを開くと、母さんから通話が何度も掛けられていた。
一体なんだ⁉
冷や汗をかきながら、慌てて折り返す。
『私だ』
「す、すいません母さん! ちょっとスマホから離れてまして」
『言い訳はいい。メッセージの内容は読んだか?』
「メッセージ? あ、すいません……。スマホを開いて慌てて折り返し通話をかけたので。直ぐに確認を……」
『いい。二度手間だ』
ひえ~。
連休中だから完全に油断してて不意を突かれた。
っていうか、連休中に上司が鬼電してくんなよクソが!
休日の仕事ってのは、自由気ままで思い付きでやった分については苦にならないけど、上司からの電話で対応する分は、イライラマシマシになるんだぞ。
『至急、帰宅するように』
「はぁ……。今、帰りの車中ですが」
息子の帰りが遅いのを心配してるのか?
なんだよ、たまには母親っぽい所もあって。
『観音崎晴飛様がお前の事を待っている』
「え? 晴飛が?」
『お前のマンションのエントランスホールだ。警護員が不審者排除をして露払いしているが、早くしろ。あと、観音崎晴飛様がお前と行動を共にしている間は、警備主任はお前となるから留意するように』
「ただちに! 運転手さん、すいませんが急いでください! 法定速度内で!」
切電した後、俺は運転手さんにお願いをし、家路を急いだ。
◇◇◇◆◇◇◇
ハイヤーが自宅マンションに到着したら、俺はすぐさまマンションのエントランスへ走り込んだ。
「はぁはぁ。晴飛っ!」
「あ、知己くん。遅いよ、もう……。こんな夜遅くまで出歩いてるなんて危ないよ」
エントランスの壁にもたれるように体育座りしているのに声を掛けたら、晴飛が顔を上げて、一丁前に説教してくる。
だが。
「危ないのはそっちだろ! こんな所で!」
うちのマンションはそこそこ高級目でオートロックで防犯はしっかりしているとは言え、エントランスにコンシェルジュが常駐していたりの超高級というほどではない。
住民や来客、宅配の人などが出入り出来る場所に、晴飛が座り込んでるなんて、危ない事この上ない。
この世界の女の人にとってドストライクタイプな小柄な晴飛なんて、ヒョイッと小脇に抱えられて誘拐されちまう。
「大丈夫だよ。幸い誰も来なかったし」
誰も来なかったのは、うちの家の関係者の警護員が手を下していたからで……。
っと……。こんな所で問答してる場合でもないか。
背中に突き刺さる殺気。
おそらくは、うちの家の関係者が意図的に飛ばしてきている物だろう。
大事な晴飛様を、これ以上危険に曝すなと。
あと、母さんが、俺が晴飛と合流したら警備責任は俺にあるって言ってたしな。
「とりあえず家に上がって行けよ」
説教は後だと思い、俺は家の鍵を出してマンションのオートロックを解錠し、エレベーターへ向かった。
ったく……。ゴールデンウィークもお仕事とは、前世の社畜生活での超繁忙期を思い出すぜ……。
◇◇◇◆◇◇◇
「んじゃ、取り敢えず。お疲れ~」
「お疲れ。って、何だかオジサンの飲み会みたい」
クスクスッと笑いつつ、持っているオレンジジュースの缶を傾ける晴飛。
すいませんね、中身オジサンで……。
家に上げたはいいが、特にやることがある訳でもないので、一先ず宴会ということになった。
明日も休みなゴールデンウイークならではだ。
「それにしても、お菓子とか色々と充実してるね。いつも、こんなにお菓子を家に貯蔵してるの?」
「ん? いや、普段は大して買わないんだけど、ちょうど羽目を外そうと思ってな。ゴールデンウイークだから」
昨晩は結局、輝夜が乱入してきたり、父さんが突如来訪したりで背徳夜食たちはほぼそのままだったからな。
この世界の主人公の晴飛に残り物を振る舞うのはちょいと申し訳ないが、急なことだったし。
そう、今回の来訪は急だった。
「で、どうしたんだ晴飛? 急にアポなしで俺の家に来るなんて。遊ぶのは明後日の予定だし」
帰りのハイヤーでスマホを確認したけど、晴飛からの連絡は特になかった。
ゴールデンウイーク前日の晩に、晴飛に一緒に遊ぶのはゴールデンウイーク3日目で良かったか? と確認する連絡して以来していなかった。
「実は明後日は都合が悪くて……。でも、連休中、ずっと知己くんと顔を合わせないのもなって思って、つい思い付きで来ちゃった」
「なんだ晴飛もか」
お騒がせのかぐや姫も、ゴールデンウイーク中に仕事があるから一目会いたくてと、昨晩突撃して来たんだよな。
「もって何? 誰か来たの?」
「ギクッ⁉」
「考えられるのは不入斗さんか2組担任の大楠先生か……。あと、今日も外出してたのだって、どうせ他の女の子と遊んでたんでしょ?」
──なんで、晴飛は俺に関してはそんなエスパーなの⁉
「そ、そんなことないぞー。俺も晴飛に会いたかったって思ってたってだけさー」
「まったく、調子いいんだから」
そう言いつつも、晴飛はちょっと嬉しそうで、それを誤魔化すようにオレンジジュースの缶に口をつける。
「けど、明後日はダメなのか~。何か予定でもあるのか?」
「う、うん……。ちょっとね、家の所用で」
「ほーん。家族でお出かけか?」
「まぁ、そんなとこ……かな……」
途端に歯切れが悪くなる晴飛。
何だろう、あんまり詮索されて欲しくないのかな?
そう言えば晴飛から、あんまり家族の話とか聞かないよな。
晴飛の家である観音崎家について、我が橘家は何やら並々ならぬ忠義を誓っているようだけど、観音崎家が何なのかはとんと分からないんだよな。
観音崎家に関連する記述は、橘知己がファイリングしていた資料にもあまり記載が無かったし。
まぁ、流し読みした程度だから、俺が該当箇所を見つけられていないだけかもしれないけど。
今度、ヒマな時にでもきちんと目を通してみるか。
「んじゃ、折角だ。今日は夜更かしすっか」
「ふふふっ、ボクも今日は知己くんを寝かせるつもりはないよ」
片や自覚なしだがこの世界の主人公に、片やこの世界がゲームの世界だと知っている影の役割持ちの脇役キャラ。
──お互いに色んな物を背負った者同士、たまにはこんな夜もあってもいいよな。
こうして盛りだくさんのゴールデンウィーク1日目は更けていった。




