第9話 姉妹で一番の素質あり
「四葉の不適切発言、本当に……本当に申し訳ありませんでした! どうか、警察沙汰だけは勘弁してください!」
「まぁまぁ。俺は別に気にしてないから」
外の往来で騒ぎになるのもということで、鴨居家のリビングで俺は、またしてもカモちゃんから謝り倒されていた。
「お兄ちゃん遊ぼ。おままごとしたい」
「お~、いいぞ」
そして、お姉ちゃんの受難は我関せずで、遊びに誘う幼女。
しっかり者の長女と、自由奔放な末っ子。
同じ姉妹でも、こんなに性格が違うもんなんだな。
「こ、こら、四葉。橘君はもう帰られるから」
「え、そうなの? 俺が居ると迷惑だから、早よ帰れって?」
「そ、そそ、そんな事は言ってないですよ! でも、こんな小さい家じゃ……」
そう言いながら、カモちゃんは恥ずかしそうに家のリビングを見渡す。
たしかに、四人姉妹の家としては、正直少し手狭な広さではあるし、家の外観は結構古びてはいた。
「いや、でもこういうのが何か落ち着くんだよな~。畳でゴロゴロするの久しぶりだわ~」
畳の上でごろ寝っていつぶりだろうか?
前世の独身貴族時代は1ルームのアパートでフローリング。
ハニ学の世界に転生しても、マンションだったしな。
「男性様はみんなお金持ちだから畳が珍しいんだね」
「でも、うちの畳って張り替え何年してないの?」
「女の汚い汗やら何やら染み込んでいる畳で本当に申し訳ない……」
「いや、旅館の畳じゃなくて、こういう擦れた畳がいいんだよ。こういう家の方が落ち着く」
お姉ちゃん3人はお年頃故に、自分たちの古い家が恥ずかしいようだが、きちんと掃除は行き届いているし、姉妹が4人も居るのに学童品や雑貨があふれていたりという事も無い。
きちんと家族で綺麗に使っているという感じで。
「良い家だね」
何か、小学生の頃に毎日のように放課後に遊びに行って、一緒にゲームしてた前世の友達の家を思い出す。
「はわわ、こんな家に婿入りを⁉ え、結納金って、うちみたいな貧乏な家でも払えるの⁉」
「初音姉ぇ凄い……ハニ学に行けば、こんな素敵な男性が家に来てくれるんだ。私もマジで受験勉強頑張ろうかな……」
「えぇ⁉ いや、お姉ちゃんも今日初めて男の子と喋って」
家を褒めたら即婿入りって、ちょっと気が早すぎるかな~。
おちおち、お家探訪もできやしない。
「お姉ちゃんたち、うるさい。おままごと出来ないでしょ。さぁ、本日はどこが悪いんですか? お熱はありますか?」
そして、こんな時でもやっぱりマイペースな四女の四葉ちゃんは、白衣を着て聴診器を首に掛けている。
どうやら、今回のおままごとは、お医者さんごっこのようだ。
よし。
前世で、会社のバーベキューや慰安旅行で、同僚の子供たちに妙に懐かれて、『きっと思考が子供と同レベルだからだろう』と周りから評された俺だ。
当然、おままごとにも全力だ。
「ゴホゴホッ、そうなんですよ。ちょっと熱があって寒気もして~」
「それはいけませんね。聴診器で診てみましょう」
そう言って、四葉ちゃんが聴診器を胸に当てようとするので、リアリティ重視のために着ていたTシャツを少しまくり上げる。
「「「──っ⁉」」」
お姉ちゃん3人は俺の俳優魂の高さに絶句していて声が出ない様子。
流石に乳首まで見せるのはお見苦しいと思うので、お腹が見える程度にしておいている。
「じゃあ次は触診しますね~。わ~、お兄ちゃん本当に男の人なんだね。図鑑に載ってる通り、腹直筋や大胸筋の膨らみがすご~い」
「四葉~! 何をベタベタ橘君の身体さわってるの! うらやま……このエロガキ!」
「イタッ! 痛いよ~お兄ちゃ~ん。エーーン」
「お~、よしよし」
高校生のお姉ちゃんが、幼稚園児の妹をひっ叩くにしては、ちょい強めで殴られて、俺に泣きついてくる四葉ちゃん。
泣き声を上げている割には、一向に涙で身体が濡れない事を、Tシャツをたくし上げているままの大胸筋周りで感じながら慰める。
「流石はお母さんから、うちの姉妹で一番の素質ありと謳われた四葉……。何の素質か母さんは言わなかったけど……」
「幼児としてのメリットを最大限享受しやがって……。くそ羨ましい」
「あのエロガキ、幸せそうな顔で大胸筋に包まれやがって」
お姉ちゃん3人は歯ぎしりをしながら悔しがる。
3人にもやってあげたいけど、流石に3人はままごと遊びをする年齢じゃないかな。
それにしても、四つ葉ちゃんは幼稚園児にして、もう大胸筋や腹直筋などの筋肉の名前を知っているのか。
この世界じゃ、お父さんがいる家庭はほぼないんだから、小さい頃に一緒にお風呂の時に見たりする機会も無い訳で、俺が間近で見る初めての男性なんだな。
幼稚園児の四葉ちゃんは、きっと純粋な知的好奇心から絵本や図鑑の中だけの存在である男性への興味津々マシマシなんだ。
きっと、将来は美人なお医者さんになるだろう。
「橘君。もう暗くなってきましたが、お帰りは大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。どうせハイヤーの配車頼むし。けど、今から帰ると夕飯が遅めになっちゃうな。腹減って来たんだけど」
漁市場の食堂で定食を2つ食べたけど、朝昼兼用の食事だったから腹減ったんだよな。
「た、大したおもてなしは出来ませんが、良ければ夕飯を我が家で食べていきませんか?」
「え、いいの? じゃあ、これ使ってよ。魚市場でお土産に買った干物」
「い、いいのですか?」
「自分で適当に食べようと思って買ったけど、そろそろ保冷バッグの限界時間だし、食べてくれると助かる」
そう言って、俺は袋ごと干物をカモちゃんに渡す。
「お兄ちゃん、夕ご飯が出来るまでおままごとの続きしよ。次は、四葉が実はイジメられたい願望があるアラサーシゴデキOLで、お兄ちゃんは年下ワンコ系だけど夜はドSな後輩役ね」
「アハハ、いいぞ」
「四葉~! さては、お姉ちゃんの隠し持ってるレディコミ雑誌読んだわね!」
随分と具体的なキャラ設定をおままごとの世界に持ち込む四葉ちゃんに対し、性癖を露にされたカモちゃんが暴れそうになっているのを、次女ちゃんと三女ちゃんが必死に止めている中、夜は更けていった。
四葉ちゃん書くの楽しい。
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