第6話 カモちゃん
「ん、むにゃ……。あれ? 俺いつの間にか寝ちゃって……父さんは?」
──俺、いつの間にベッドに寝てたんだろ……。
ベッドから起き上がるが、他に人の気配は無い。
見回すと、ダイニングテーブルに置手紙があった。
『仕事があるから先に帰るね。お菓子と女の子は程々に。 父さんより』
「ハハハッ……。経験者からの忠言だな」
綺麗な文字の書置きを見て朝から苦笑いするしかない俺。
ほんと、カッコいい親父さんだな~。
って、お。
「何か心なしか身体が軽いような気がする」
最近は、クラス入れ替え戦の影で学園に侵入した私設武装組織を壊滅させたり、クラス宿泊合宿では山で遭難したり。
その都度、面倒くさい報告レポートを上げてと最近は疲れがたまっていた気がしたが、何だかスッキリした。
昨晩は結局、ドカ食いして精神を解放した訳でもないのに、はて?
「まぁ、父さんに会えてリフレッシュできたって事だな」
大好きなお父さんに会えて、きっと俺の中の本来の橘知己が喜んでいるのだろう。
そのおかげで、身体が軽くなったんだ。
結構、気の持ちようだよな、こういうのって。
「おっ! 寝てる間に、クラスのグループチャットで遊園地に遊びに行く計画が固まったみたいだな。明日ね、了解。出席ポチーっと」
チャットアプリの出欠確認機能で出席アイコンをポチッとしておく。
これでクラスの遊園地へ遊びに行く日が決まったし、父さんのメンテナンスはもう終わったから、これで晴飛と遊びに行く日が決められるな。
クラスで遊びに行く日の次の日で良いかな。
晴飛に打診しておこう。
色々と各所へ連絡を済ませる。
「さて、朝メシ……と言いたい所だけど、家にあるのは昨日食いそびれた背徳夜食と菓子くらいか」
昨晩に結局は食べずに終わった背徳夜食たちを、朝日が降り注ぐ健康的な時間に食べるのも何だかな~という感じだ。
ポテチやコーラって、やっぱりゴロ寝して夜に食べるのが良いのであって、朝の起き抜けに食うのはな……。
前世で宅飲みパーティした翌朝のポテチって何か湿気てるし。
「よし! 天気も良いし、どこかに出かけるか」
折角のゴールデンウイークだし天気も良い。
日課の銃のメンテナンスも父さんがやってくれたみたいだし、フリーの休日を活かさない手は無い。
そう思った俺は、ササッと着替えて家を出た。
◇◇◇◆◇◇◇
「んは~! 漁師まかない朝定食と金目鯛の煮汁玉子かけ丼、うんめぇ~」
早く起きた休日の朝。
ちょいとハイヤータクシーで隣県の有名な漁港にある朝定食が食べられる食堂まで遠出したけど、こりゃ正解だ。
腹減ってたし、メニューはどれも美味しそうだから思わず定食を2つ頼んじゃったけど、全然食べきれるわ。
「男の子が一人で朝ご飯食べてる……」
「しかも、高級ホテルの朝食ビュッフェじゃなくて、汚ねぇ食堂で」
「店は汚いけど、安くて旨いから無駄に行列する店なのに、ちゃんとお行儀よく並んでたもんね、あの子」
「普通の男の子は、行列なんてガン無視して店の中に入って、他の客をどかして席空けさせるよね?」
「うん。私、彼が入店して来た時に反射的に『すぐ空けます!』ってかきこんだら、笑って『大丈夫ですよお姉さん。ちゃんと待ちますから』って言われた。男の子と会話できて最高」
「定食2つを1人で行っちゃうのオスって感じ……」
「早起きは三文の得って言うけど、これは貴重な物を見せていただいておるのぅ」
今日はゴールデンウイークの初日という事で、この漁師めし食堂も大繁盛。
食堂の中にはたくさんのお姉さんが居て視線が熱いが、もうこのハニ学の世界に来てからは慣れたものだ。
「ご、ご飯、よろしければ、おかわりおつぎしましょうか?」
「おかわり頂きます! この金目鯛の煮汁卵かけご飯は無限に食べれますね。凄く美味しいです」
「はわわっ……男の人からのお墨付きだなんて……。苦節30年……。この場所で食堂を続けて来て本当に良かった……」
定食の美味さを熱弁したら、女将さんが涙ぐんでしまう。
こういう味のあるお店には確かに、あんまり男は来ないんだろうな。
そして、他のお客さんも、定食の内容の渋さから、どちらかというとお姉さま方が多い。
市場併設とは言え、こういう新鮮な魚介類を作った朝定食は、そこそこのお値段もする。
だからだろう。
──俺以外の子供が居ると、とても目立つんだよな……。
他のお客さんも、俺へ最初は目が行くのだが、その後にはとある子にやや警戒した目線を送っているので目立っている証拠だった。
「あの~。君、ハニ学の1年生だよね?」
「ひゃい⁉ な、何の事でしょう! 人違い……です……」
俺と同い年くらいの女子高生で、キャスケット帽子をかぶってサングラスをしていて、魚市場食堂に朝食を食べに来ているなんて怪しい事この上ない。
「いや、1年5組の子でしょ? 尾行されてるのは気付いてたから」
「ひっ!」
実は、この漁港に来る道中の時点で、後続のタクシーに尾行されてるって気付いてたからね。
ハイヤーの運転手さんも気付いて撒こうとしたのを、敢えて俺がそのまま引き連れて目的地まで行ってとお願いしていたのだ。
「まあ、それはそうと、こっちのテーブルで一緒に食べよ」
「エェ!?」
「その、色々と目立ってるし、君」
他のお客さん達が、刺身や釜揚げシラス丼などの朝定食を食べている中で、この子が食べているのがアジの骨せんべいだけで、周りからヒソヒソされていたのだ。
尾行なのに目立ちまくりだったのだ。
「で、でも私……」
「おごるから一緒に食べよ」
周りのお客さんが美味しそうな定食を食べている中、一人だけアジの骨せんべいを噛っていたのは、要はそういうことなのだろう。
それ、本来は酒の肴にする奴だからな。
「そ、そ、そんな……男性様におごってもらうなんて……」
「いいから。席も広いしさ」
混んでるのに、男だからと一番広い席に案内されちゃったので一人増えるくらい楽勝だしな。
お店の混雑緩和にもなるからと、俺は少々強引にその子の手を引いて、自分のテーブルに引き込んだ。
「そういや、名前聞いてなかったね。あ、俺は1年2組の橘知己。君は?」
向かいの席に強引に座らせると、目の前のオタオタおどおどしていた少女は観念したのか、被っていた帽子やマスク、サングラスを脱いだ。
「わ、私は、鴨居……鴨居心音です……。5組の学級委員です」
「え⁉ カモ……ちゃん?」
ボサッとした髪に、こちらと目を合わせられない如何にも内気そうな少女。
俺はこの子の事を知っていた。
ハニ学のキャラの一人である鴨居心音。
ハニ学1年生編終盤で起きる大事件。
主人公誘拐事件の首謀者だった。




