第4話 取り敢えず私、裸になるね
「さて。何だか色んな問題が山積している気はするけど、そんな事は忘れてGW様が始まりましたよ~っと♪」
せっかくの大型連休に仕事の事で思い悩んでも仕方ない。
前世の社畜生活でも、休日には仕事の事は全力で忘れておくのが、結局は良い仕事に繋がるもんである。
休日の前日の華金って、ある意味で連休で一番好きなんだよな俺。
連休前日に会社を出た時の開放感と全能感は、社畜にとっては計り知れない多幸感がある。
という訳で。
「あ、ありがとうございました~」
「コンビニ限定ポテチ各種にフライドチキン、辛口ラーメンに冷凍ピザに〆の一番高いコンビニスイーツ。それを流し込む2Lペットボトルのコーラ良しっとぉ~♪」
お酒で精神を解放したい所だが、今は高校生の身。
なのでその代償行為は食欲に向けられ、食欲旺盛で胃もたれ知らずの若い胃腸頼りの、脂肪と辛味と糖分のパレードだ。
ウヒヒッ、これで連休前の甘やかしの準備はバッチリで。
「トモく~~ん♡」
「うわっ、出た!」
「そんなお化けに出会ったみたいにヒッドイ~♡」
変装もしない、有名女優の顔を丸出しにして輝夜がにこやかな笑顔で、俺の自宅のマンションの前に立っていた。
「おま、俺の家がここって教えてたっけ?」
「うちの芸能事務所の力を使って調べたの」
「ええ……」
あっけらかんと答える輝夜。
これって、前世的にもストーカー規制法とかでアウトな行いだから、こっちの世界で男相手にしでかしたとなると、かなりの大罪なんじゃね?
先日のクラス宿泊合宿の解散式でヘリコプターで乗り付けた行為といい、コンプライアンスの精神が欠片も感じられない。
「いきなりでゴメンね……。でも、明日から泊りでドラマのお仕事が始まるから、その前にどうしてもトモ君とお話したくて……」
ああ、そうか。
ゴールデンウイークは、輝夜にとっては休みじゃなくて、女優の仕事を詰め込んでる期間になるのか。
そう考えると、元社畜的にはこのままバイバイと言うのも気が引ける。
「まぁ、来ちゃったもんは仕方ないな。ちょうと家でパーティでも開こうと思ってたから、輝夜も来るか?」
「フニュ~~♪」
──行くって意味でいいんだよな?
輝夜ことフニュートちゃんの代名詞のセリフが出たが、俺の腕に自身の腕を絡ませてきたので、俺はそのまま輝夜と一緒にマンションの部屋へ向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「ここがトモくんの家か~。うーん……」
マンションの部屋へ入って、勝手にルームツアーをした後に輝夜が何やら不満顔で考え込む。
「何だよ。何かご不満でも?」
「ねぇトモくん。この部屋だと手狭だしセキュリティが万全じゃないから、私の住んでる高級タワーマンションで一緒に住まない?」
「この部屋のセキュリティが万全でない事は、さっきマンション前に不審者が立ってた点から痛感している所だが、俺はこの部屋を気に入ってるから引っ越す気はねぇよ」
この部屋の隣にある秘密部屋の事もあるので、そうおいそれと引っ越しなんて出来ないんだよな。
「不審者⁉ 大変じゃない! すぐに警察に相談しないと! うちの事務所の顧問弁護士使う?」
「本人にまるで罪を犯した自覚が無いって、最早更生は諦めなきゃかね……。そういや輝夜、路上で突っ立っててファンの人に話しかけられたりトラブルになったりしなかったか?」
「私の事、心配してくれるんだ、好き。フニュ~♡」
「今度、遊びに来る時は、ちゃんと変装してこいよ」
かぐや姫が女優オーラ丸出しで家の前に立ってたら目立って仕方ないからな。
このハニ学の世界の主人公の晴飛を見守る日陰者である俺が目立っちゃ、元も子もないし。
とは言え、輝夜はすっかりトロけたフニュートちゃんモードに入ってしまって、まともな語彙能力を喪失してしまっているので、今の輝夜に色々と注意しても響いているのか分からん……。
「は~い。次からがそうする♡ また来ていいんだ♡ そうだよね、私は女友達だもん♡ 友達の家に遊びに行くのは普通だよね♡」
「俺の定義する女友達は、そんな語尾に♡《ハート》つけないんだよな……」
これが、女友達から彼女になってしまった時の弊害か……。
いや、別に輝夜と付き合ってる訳じゃないんだけど、どちらかが相手の事を好きになったら男女の友情は終了とはよく言ったもんだ。
こういうのって、前世的には女の人が男友達に女として見られててショックというパターンが大半だろうが、まさかその気持ちを俺が味わえるとは思わなかったよ。
「橘は前の私の方がいいんだ? そっちでも出来るけど、どうする?」
「おおう……。急に前のかぐや姫になってビックリした」
「どう橘? 出会った頃の私よ」
流石は有名女優。
瞬時に自分を客観視して、出会って間もない頃のワガママかぐや姫を再現して演じてみせるとは。
普通は男の前で猫を被る時には可愛くぶりっ子を演じる物だが、輝夜の場合は演じたら高飛車お姫様になるのか。
完全に逆やんけ。
「う~ん……。確かにそっちの輝夜の方が気安くはあるけど、わざわざ俺の前で猫被んなくていいぞ」
とは言え、俺の前で演技し続けるっていうのもしんどいだろうしなぁ。
「ありのままの私を受け入れてくれるトモくん好き~♡ フニュ~♡」
「あ~、はいはい。ほら、コーラ飲みながら、何か映画でも観ようぜ」
もう、放っておくとずっとフニュートちゃんタイムなので、ここは適当に映画でも流して菓子とジュースでも振る舞って、輝夜にはとっととお帰りいただこう。
そう思った俺は、動画配信サービスのアプリをテレビで開いて、適当にトップページに表示されたランキング上位の映画を開く。
「あ、この映画……」
「ん、なんだ?」
始まった映画を観て輝夜が何やら驚くが、その意味を俺も直ぐに悟る事になる。
『んくっ……。あ、いい……いいよ。もっと』
「「…………」」
突如大画面テレビに映し出される濃厚な男女がベッドの上で絡み合うシーンを前に沈黙する2人。
あ、これ俺、前世でも経験ある。
お茶の間に流れたロードショー番組の洋画が、思いがけずにエロかった時に流れる沈黙だ。
めっちゃ気まずい奴だ……。
「な、何だかなー。男の喘ぎ声なんて見せられてもなー」
こういう濡れ場シーンでも男にフォーカスを当てられてるのが男女比1:99世界ならではだけども、とにかくこの気まずい空気を一刻も早く入れ替えて……。
「こんなエッチな映画観せて……トモ君は私と、こういう事したいの?」
ほらぁ~!
ただ自分に正直なだけの輝夜が、その気になっちゃったじゃん!
「いや、俺はこの作品の事、よく知らなくてな。何か、ほっこりするアニメでも観て。あ、ちょうどコンビニで赤魚の煮つけがコラボ商品で出てたアニメ映画が観れるぞ」
「自分の家で女と2人きりで、男の子がそういう映画を観せるっていう事はそういうサインって事でいいん……だよね?」
いや、すっげぇ俺の話無視するじゃん輝夜の奴……。
俺の事、好きなんだよね?
「取り敢えず私、裸になるね」
たしかに、俺の方のセキュリティが甘かったのは認める……。
でも、だからって即脱ぎだすな! チャンスと見て、がっつき過ぎだろ!
「あ~、もうっ! これ着ろ!」
迅速に脱ぎだして下着が露になっている輝夜に、慌てて手近に転がっていた自分の制服の上着を着せる。
これで落ち着いて……。
「はわぁ……トモ君の匂いだぁ……。トモ君に貰ったパーカー、最近は使い過ぎてあんまりトモ君の匂いがしなくなってきてたから捗るぅ♡」
何やらいけないお薬をキメてしまっているような恍惚顔になる輝夜。
パーカーを使い過ぎるって何だよ……。
あのパーカーは貸してるだけだけど、俄かに返して欲しくなくなってきたぞ……。
ピンポ~ンッ♪
──き、来た! 救いのインターホンが!
最近のお約束、インターホン様だ!
きっとエッちゃん先生か多々良浜さん辺りが、この強制スケベ空間を切り裂くべき来てくれて。
「はぁ~、トモ君の匂いで高まった。さぁ、トモ君。しよっか♡」
「きゃああああ!」
って、まるで意に介さないだと⁉
そ、そうか……。
我が道を行くワガママ姫の輝夜にとっては、インターホンの音なんかで己のしたいと思う行動は止める理由にならないのか!
いかん、このままでは俺の貞操がピンチで。
「よぉ知己。父さんが遊びに来たぞ~」
男女で相撲が始まる寸前。
突然、家の中に成人男性が現れた。
──って、父さん⁉ あ……これ。俺自身は前世では経験した事ないけど、エッチ寸前で部屋に親が乗り込んでくる奴や……。
前世では大抵乗り込んでくるのは母親だし、エッチしたがるのは男の方で、今は全てが男女逆だなと思いつつ、俺はこの世界の父親と気まずいファーストコンタクトをかましたのであった。
かぐや姫は肉食。
ブックマーク、★評価よろしくお願いします。
励みになります。




