第3話 ボクに出来る事ある? 何でもするよ?
「ふんふ~ん♪ 楽しいGW~っと~♪」
2組のクラスみんなで遊園地へ行く話は、後日に詳細が決まり次第、クラスのグループチャットで連絡が来ることになった。
提案だけして、企画は丸投げなんてちょっと心苦しいが、俺が提案すると、大体は実現可能性が無いとかで却下されるから俺が居ない方がちゃんと早く決まるんだよな。
うん。
ここは、会社の偉い人になった気分で、みんなに任せておくのが良いな。
決して俺が無能なわけじゃないからな。
という訳で、GWで少し登校する期間が空くので、男子専用ルームに立ち寄ると。
「あ、知己くん。待ってたよ」
「おう、晴飛」
男子専用ルームには、お馴染みの晴飛がいた。
しかし、『待ってた』ってなんだろ?
「知己くんはGWはどうする予定なの?」
「ああ。今のところは2組のクラスの子達と遊園地に遊びに行く予定だな」
「あ、そうなんだ……」
「GWに女の子たちと遊ぶなんて男の夢だよな~」
「うん……そうだね……」
何故か、どんどんテンションが下がる晴飛。
──ああ、また例によって、1組女子との関係が上手くいってない事を気に病んでるのか晴飛は。
この様子だと、GW中に男女で遊ぶなんて言うアオハルイベントも無さそうだ。
まったく。
ヌルゲーのハニ学の世界なのに、晴飛は随分と奥手さんだな。
(Pi♪ Pi♪ Pi♪)
「おっと電話が……って、ウゲッ! 悪い晴飛……。ちょっと、あっちで話してくるわ~」
「うん」
スマホを見て一瞬固まった後、晴飛にことわって俺は男子専用ルームにある防音処理されたテレワークボックスに入って電話に出た。
「はい、母さん。すいません、まだ学校にいるため電話に出るのが遅れました」
開口一番、どうせ怒られるなら先に謝っといちゃえ精神で、母さんからの電話に出る俺。
『義を言うな。上官から尋ねられた事にだけ迅速に答えろ』
「Sir!| Ma'am!」
息子に電話してきてるけど、あくまで上官と部下の扱いって訳ね。
って事は仕事関連、つまりは晴飛についての話か。
『先日のクラス宿泊合宿での報告書については、先ほど赤字を入れた物を返信したから直せ』
「はい……」
まだ、直しがあるのかよ……。
何度も提出と修正指示のラリーが続いてて、すでに報告書のファイル名はバージョン6だぞ。
もう、いっその事、お前が書けや……。
『なんだ? 何か不満でもあるのか?』
「と、とんでもない! 直ぐに直して返信いたします!」
やべぇ。
つい、心の中で悪態をついてたらバレてるぅ~。
こういう所は親ゆえに直ぐにバレるのずるいだろ。
身内が上司って、つくづく地獄だわ。
『本題は別だ。明日から連休期間に入るが、基本的に休日中の観音崎晴飛様の警護については、通常通り他の者が担当する』
「はい」
平時から、警護体制はそんな感じだから、そこは変わりがないな。
『故に、休日中には暇を出す』
「はっ!」
おおっ!
という事は、ゴロゴロ二度寝したり、三食デリバリーで済ませられる最高のGWが。
『ついては、連休中に日頃のメンテナンスのためにスタッフを派遣する』
「おお! 分かりました」
身体のメンテナンスって何するんだろう?
前世でのリーマン時代での身体のメンテナンスと言ったら、スーパー銭湯に行って、風呂にサウナ、整体に湯上りのビールだったが。
流石はヤバい家の橘家。
休む時にはきちんと休むために、専門のスタッフが居るんだなぁ。
『日はおって連絡があるだろう。では、引き続き業務に励めよ』
「はっ!」
ふぅ……。
相変わらず母さんと話してると疲れるな。
しかし、連休だっていうのに帰省してこいとも言ってこないとは……。
別に男子が貴重でもない前世でも、長期休みの度に『今度の休みには実家に帰ってくるのか?』と訊ねてくるのが母親という生き物だが。
この男女比1:99の世界で、超々貴重でかわいい息子に帰って来てもらいたくないのか?
いや、帰省したら息子の中身が変ってる事がバレないか冷や冷やして、ストレスで胃に穴が開くから、俺としては帰りたくないんだけど。
「電話終わったんだ」
「お、晴飛。待っててくれたんだな」
男子専用ルームの個人ブースから共用ホールに戻ると晴飛が待ってくれていた。
「電話……ひょっとして、お母さんからだった?」
「よく分かったな」
「うん。鳴ってるスマホを見た時に苦い顔してたから」
「晴飛にはお見通しか」
晴飛には以前、俺が母親との不和を匂わせた時に気遣ってくれてたからな。
こういう、きめ細かい所に気が付くところが、晴飛がハニ学の1年生筆頭男子である由縁であろう。
「ボクに出来る事ある? 何でもするよ?」
「おま……。そういうセリフは女の子に言えっての」
俺がかつて、クラス入れ替え戦でクラスの皆に迷惑をかけた時に、この白紙小切手を渡したが結構大変だったからな。
ましてや、こっちの世界でドストライクな見た目の男子の晴飛が相手なら、おそらく1組女子もひとたまりも無いと思われるのだが。
「だから、この間も言ったけど、ボクはしばらくは女の子とどうこうなろうなんて考えてないよ」
「そういえばそうだった……」
この間のクラス宿泊合宿で遭難して、洞窟で2人きりの時に言われちゃったんだよな……。
晴飛の、女の子要らない発言。
イケメンにのみ許されたワガママと前世なら鼻白む所だが、このハニ学の世界では一大事だ。
そもそも、このハニ学の世界において男がとんでもなく優遇されるのは、人間という種を何とか存続させるために必要不可欠だからである。
まぁ、言っても男に甘いハニ学の世界だから直ぐには問題にならないだろうが……。
あと、この発言に関しては即刻、母さんの報告書に記載した。
こういう大きな問題については、とっとと上司にぶん投げて巻き込んでおくに限るからな。
けど何でか、この発言に関して特に母さんからの反応が無かったんだよな。
寧ろ無反応過ぎて怖いんだけど……。
「という訳でGWは一緒に遊ぼうね知己くん。実家に帰省しないし、2組の女の子と遊ぶ以外はヒマなんでしょ? ボクのために1日ちょうだい」
「お、おう、いいぞ。日にちは諸々の予定が決まったら連絡するのでいいか?」
「うん。楽しみにしてる」
そう言って屈託なく笑う様は、相変わらず男の癖に可愛かった。




