第2話 地元じゃ負け知らずのヒーロー
「明日からゴールデンウイークだ。高校に入学して1か月で色々と慣れも出てくる頃だけど、羽目を外し過ぎるなよ」
5組とのクラス入れ替え戦も無事に終わり、いよいよゴールデンウイークが始まるという事で、すでにフワフワしているクラス内の雰囲気をエッちゃん先生が訓話で引き締める。
「私もこの手の学校の出身だから分かっているが、男女共学校のハニ学に通っているってだけで、地元に帰ったら負け知らずのヒーローだ」
ああ、そういうの前世の高校時代にもあったあった。
ゴールデンウイークならまだ里心もあって、地元の友達と遊んだりするんだよな。
「だが、だからといって調子に乗るなよ! 地元の友達におだてられて『今度、うちのクラスの男子を地元に連れて来たるわww』みたいな出来もしない約束して苦しむのはお前ら自身なんだからな!」
「そ、そ、そんな事するわけないじゃないですかエッちゃん先生~」
「そ、そうそう……。ねぇ~?」
エッちゃん先生のやけに実感のこもった訓話に対し、目が泳ぐクラスメイトたち。
流石はエッちゃん先生、見事に未然に起きる事故を防いだ。
赤ちゃんプレイにはまってしまった事以外は、本当に理想的な教師だな。
「ん~、でも俺、ゴールデンウイーク中は暇だし別にみんなの地元に顔出すくらい良いけど」
「「「「それは本当ですか!?」」」」
何気ない俺の一言に沸き立つクラスの面々。
って、おい。
どさくさまぎれに、訓話してたエッちゃん先生まで色めき立ってるじゃないか。
折角の訓話の説得力がゼロになるから止めて欲しい。
「橘君を地元に連れてったら、きっと大騒ぎになるな~」
「橘君を連れて帰ったら、多分、お母さんもお祖母ちゃんも泣いちゃうだろうな~」
「これ、私知ってる! 古事記に載ってる彼氏のふりをしてもらって外堀りが埋まるイベントだ!」
「高校時代に私をガリ勉だってバカにしてた地元の奴らに、若いお婿さんだと見せつけるレディコミ定番のザマァ展開……ぐふふっ」
そして広がる夢見る少女たちの妄想。
若干1名、社会の荒波にもまれて穢れてしまっているのもいるが。
「橘くぅ~ん。また、迂闊な発言をしてますね」
「た……多々良浜さん。俺、また何かやっちゃいましたか?」
ニコニコしているが目は笑っていない。
「ほら、皆さん。橘君も全員の地元になんて行けないんですから」
「「「「ええ~~~」」」」
「ブーブーブーッ!」
「委員長のケチ~!」
「担任の部屋に勝手に入って勝手に幻滅奴~!」
考えなしの俺の発言の火消しをし、そのせいでブーイングを一身に浴びる多々良浜さん。
っていうか、エッちゃん先生の担任の部屋に入って云々は何の話だろうか? 今度聞いてみよう。
──って、学級委員だからといって、いつも多々良浜さんに尻を拭ってもらっていていいのか!? 男、橘知己よ!
ここは、俺も助け船を出さねば。
「皆の地元にそれぞれ行くのが無理だって言うなら、ゴールデンウイークにクラスの皆で遊びに行こうよ。まだ暑くないし遊園地とか」
カラオケは、この前の打上げで行ったしな。
大人だと打上げって言ったら、とりあえず飲み屋か焼肉屋でも手配すれば良いけど、高校生だからな。
ここは平和に遊園地が無難だろう。
「ゆ……遊園地……」
「男の子と女が2人きり……」
「何も起こらないはずもなく……」
「お化け屋敷で身体接触!」
「夜は私の身体でアトラクション」
──あ~、遊園地って言われると、そっちの妄想が捗っちゃうのか。
もちっと可愛らしい感じになるかと思ったけど、流石は前世の男子高校生並みに頭の中がピンク色な貞操逆転世界の女子達だ。
「となると警備のフォーメーションが必要だな。アトラクションの出入り時とレストランでの食事、お土産のショッピング時によってパターンをいくつか作らないと」
「大規模過ぎる人気テーマパークは正直不向きだよね。私の方でいくつかリサーチしてみるよ~」
「頼みます、久留和さん絵里奈ちゃん」
「あ、あれ……。これ、却って俺がみんなの仕事を増やしちゃった感じ?」
前世の社畜時代にも、会社のとってもエライ役員の人が何気なく言った言葉に、上司が過剰反応して、下がてんやわんやの大騒ぎなっちゃう事があったけど、まさか自分がその立場になってしまうとは……。
申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「何言ってるんですか橘君。みんな楽しみにしてるんですから、いい提案ですよ」
「そうだよ橘っち。女の子は男の子からデートに誘われたら、張り切っちゃう生き物なんだから」
「デ、デート……はふぅん……」(バタ~~ン)
躊躇いを察してか、多々良浜さん達が俺の提案を全肯定してくる。
ま、まぁ、本人たちが喜んでるならいいか。




