第1話 呼んでみただけ~♡ フニュ~♡
2章までのあらすじ:山での遭難イベントという好感度アップイベントを無駄に男同士で消費し、かぐや姫は完墜ちしたのであった。
「キラーは敵兵を殺せぇええええ!」
「死んでも陣地を守れぇぇぇええ!」
「いけーーっ! 特攻!」
土埃が舞う中、少女たちの闘いの声が聴こえる。
これはゲームの中ではなく、今、俺の目の前の現実で起きている事だ。
戦場。
彼女たちの鬼気迫る形相と怒号から、そう表するしかないだろう。
そうこうしている間に、戦局が大きく動いた。
「仮想5組の学級委員が墜ちた! 久留和さんが指揮官を討ったぞ!」
久留和さんの武功を、俺は2組の陣地へ大声で伝えた。
指揮官が討たれると兵は動揺し、動きに迷いと焦りが出て、攻め手は単調となる。
自軍の士気は低下し、それに引き換え武功を上げた敵軍はさらに士気を高揚させる。
残念ながら、この時点で勝負は決したと言えた。
指揮官が墜ちた5組の要塞には、取り付いた久留和さんを橋頭保に、次々と2組の兵がなだれ込む。
『仮想5組の棒は倒されました。体力部門競技、棒倒しは2組の勝利です。知力部門の勝利と合わせて、1年2組と1年仮想5組のクラス入れ替え戦は2組の勝利です』
「「「「うららららぁぁぁああああああ‼」」」」
被っていたヘッドギアを、まるで士官学校卒業式の帽子投げのように天空に投げ上げ勝鬨を上げる2組女子たちと、グラウンドに膝と手を付く仮想5組女子。
残酷なまでの勝者と敗者のコントラストだ。
「やりましたよ橘くん!」
「勝ったよ私たち!」
「うん、観てたよ。みんなカッコ良かった」
「「「「きゃああぁぁあぁああ!」」」」
棒倒しに勝利した2組の女子たちが一斉にこちらに駆けて来て勝利を報告してくれるのを、笑顔で迎え入れる。
いや、棒倒しって前世では男限定の競技だし、令和の昨今はその身体接触の激しさから行わない学校も増えてきているとの事だが、やっぱり見ごたえあるよな。
「や~、体操着びりびりに破れちゃったよ」
「私も~。ブラまで千切れちゃって」
「棒倒しだと、どうしても攻防で破かれちゃうよね~」
「オフェンス止めるために、うっかりオッパイ触っちゃったりして気分悪いよね。誰得って感じ~」
「私、相手のディフェンスにブルマ下ろされちゃってショーツ丸見えになっちゃったよ」
うん。
やっぱり、女子の棒倒しは見ごたえあるわ、うん。
率直に言って、ポロりもあって最高でした!
「あの……橘君。あんまり私らの事、ジロジロ見ないでくれると……。色々とお見苦しい物が見えちゃってるから」
ボロボロな2組女子たちが、恥ずかしそうに胸元を隠す。
「いや! 俺のために戦ってくれたんだから、それを見届けて労う義務が俺にはあるんだ」
そうキッパリと俺は言い切った。
「「「「やっぱり、うちのクラスの男子の橘君は最高だぁぁぁああ!」」」」
闘争本能をむき出しにして戦う棒倒しの興奮が冷めやらない2組女子達が雄たけびを上げる。
君たち、それ好きだよね。
団結心があって大変よろしい。
「はぁ……。良かった無事に勝てて」
「多々良浜さんお疲れ様。知力部門では大活躍だったね」
クラス入れ替え戦が無事に終わって肩の荷が降りたといった感じの、2組学級委員の多々良浜さんに労いの言葉をかける。
「前回の3組の戦いで私がポカした知力部門なら勝ちの目があると思って、精鋭を突っ込んできた3組の裏をかいて、みな実っちを投入した作戦勝ちだね~」
そう言いながら、クラス入れ替え戦では参謀を務める三戸さんが、ちょっと自虐しながら話しかけてくる。
「三戸さんも、棒倒しの指揮官役お疲れ様」
「私なんて楽だったよ。久留和っちが、3組の棒を攻め落とすのを、2組の棒の先に乗っかって観てただけだったから」
「絵里奈ちゃんの指揮があったからこそ、3組のオフェンスを寄せ付けなかったんです。それに、オフェンスの作戦を事前に考案したのも絵里奈ちゃんじゃないですか」
「そうそう。名参謀だったよ」
三戸さんは、棒倒しにおける指揮官役である自陣の棒のてっぺんに上って、最終防衛ラインを守る守備役であると同時に、高い所から戦局を瞬時に判断して、守備陣に指令を飛ばす役回りをしていた。
「えへへ。そう言ってもらえると、前回の3組とのクラス入れ替え戦での汚辱は注げたかな。って、棒倒しで一番の功労者の久留和っちはどこにいるんだろ?」
そう言えばと思い、俺も辺りを見回す。
クラス内でナンバー1のタッパを持つ久留和さんなので、その姿はすぐに見つけられた。
本人的には、上手く隠れているつもりだったようだが。
「あ、いた。ほら、久留和っち」
「あ……いや、私は……」
三戸さんに引っ張られて、久留和さんがこちらに来る。
「あ、鼻血出ちゃったんだ」
困惑しつつ連れてこられた久留和さんは、朱に染まったハンカチで鼻を抑えていた。
棒倒しは激しい競技だからな。
故意に殴ったりは一応ルール違反だが、どうしても揉みくちゃになる中で色々と当たっちゃって、流血したり腫れたりは日常茶飯事だ。
「見苦しいから、影でやり過ごそうとしたのに……」
「いやいや。オフェンスの功労者は久留和さんでしょ。鼻血も立派な勲章だよ。ありがとう、カッコ良かったよ」
「きゅ~~っ」
「「「また久留和の姐御が倒れたぁ!」」」
棒倒しのオフェンスではあんなにカッコ良かったのに、相変わらず男相手だとヨワヨワな久留和さんである。
「ナイスゲームでした多々良浜さん」
「荒崎さん。仮想5組のための練習試合で胸を貸していただき、ありがとうございました」
最早、定番の久留和さんぶっ倒れイベントの横で握手を交わす荒崎さんと多々良浜さん。
そう。
今回は5組とのクラス入れ替え戦に向けて、2組と3組でクラス入れ替え戦の練習試合を行っていたのだ。
「にしては、2組さんは本気を出していなかった様子」
「5組の偵察が観てますからね。本番前に久留和さんを印象づけておきたいんですよ。そちらこそ、練習試合でデータは取れましたか? そのデータを元に分析して2組に挑むのは諦めて欲しいのですが」
「冗談を」
お互いに手の内を探りたいという利益が一致したために今回の練習試合となったのだが、中々に腹黒いやりとりをする両学級委員である。
まぁ、今回はジョーカーの俺が出るまでも無かったし、5組とのクラス入れ替え戦に向けて隙はな……。
「トモくぅ~~ん!」
女優の無駄に声量が大きく、よく響く声がグラウンドに響く。
と同時に、2組の女子たちが一斉に高濃度の殺気を纏う。
ついでに3組の女子たちからも。
──あるうぇぇぇ!? もう棒倒しは終わったのに、おかしいなぁ……。
「おお、輝夜……。って、わぶっ!」
「フニュ~~~♡」
一目散に駆けてきた輝夜が、こちらに飛び込んでくる。
こ奴、いつも俺が受け止めないとそのまますっ転ぶ勢いで抱きついてくるから、言っても女の子にケガをさせちゃいけないという前世の心理が働く俺は、受け止めざるを得ないのだ。
「ト~モくん♡」
「なんだよ」
「エヘヘッ呼んでみただけ~♡ フニュ~♡」
──う……。正直、かわいい……。
遠慮無用でざっくばらんにバカ言い合ったりして仲良かった女友達が、突然デレデレの甘々になって女を出してくるのって、正直言ってたまらんのよな。
流石は、フニュートちゃんの愛称でファンが多かった人気キャラだ。
間近でくらったが故に、その破壊力がよく分かる。
「不入斗さん。他のクラスの子に迷惑をかけちゃ駄目だよ」
「あ、晴飛さま」
「お、おう晴飛……。これはだな」
どうやら2組と5組のクラス入れ替え戦の観戦をしていたらしい、我らが主人公の晴飛に対し弁明を行う俺。
この期に及んで、俺の身体から抱きついて離れない輝夜を引きはがそうとしつつ、晴飛と対峙する俺。
客観的に見ると、俺は2組の男子にも関わらず、1組の女子に手を出している以外の何物でもなく、完全に浮気現場を抑えられたような図だ。
違うんだ晴飛。
これはフニュートちゃんが勝手に……。
「デレデレしちゃって……ふんっ!」
ええ……。
晴飛は俺にクラスの女子をNTRされた事自体には、思ったほど怒ってはいない様子だが、別ベクトルで怒っている様子。
──何か、クラス宿泊合宿の頃から、態度がおかしいんだよな晴飛の奴。
そんな事を思いつつ、俺は晴飛にほっぺをつねられながら青空を見上げるのであった。
という訳で、3章始まりました。
章完結まで定期更新いたしますので、今後とも御贔屓によろしくお願いいたします。
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