第39話 この世界で男友達するのって大変だな……
「トラブル等ありましたが、皆無事に蜜月学園へ戻ることができ~」
「んあ~、眠い……」
クラス宿泊合宿の最終日。
無事にハニ学に戻って来た所で解散式となり、出迎えた真名瀬学園長が挨拶をしている所なのだが、とにかく眠い……。
結局、昨晩は今回の件の晴飛に関する報告書の草稿をまとめるのに朝までかかって、終わっても頭が冴えちゃって寝れなかったんだよな。
「あとちょっとで終わりですよ。頑張ってください橘君」
「ありがとう多々良浜さん」
立ってても寝れそうな状態でフラフラしている所を、多々良浜さんが隣から支えてくれる。
学級委員として、クラスの列の先頭に立って真名瀬学園長の挨拶に傾聴している所だから、寝る訳にいかないから助かる。
「大丈夫ですよ。そんなに眠かったなら、バスの中で寝ていてくれても良かったのに……」
「いやいや。バスの中のシチュエーションでの、御褒美の子もいたからね」
山での遭難というトラブルはあったが、それによってお預けになってしまう子が出るのは嫌だったしな。
本音を言うとバスで爆睡したかったけど、俺が寝ちゃうとみんな気を使ってバスの中で静かにしちゃうしな。
折角のクラス宿泊合宿なんだから、最後の帰り道だってお菓子を交えておしゃべりして盛り上がりたいしね。
「そう言えば、エッちゃん先生だけはテンション低くてずっと、難しい顔して考え込んでたね」
「そうですね」
「やっぱり、俺の遭難事故への対応で寝れてないのかな……。後で労いを」
「必要ないと思いますよ。あの人が悩んでいるのは、もっとしょうもない理由だと思います」
ええ……。
多々良浜さんが、こんな切り捨てるように言うのは珍しいな。
「そう言えば昨晩は、隣のエッちゃん先生の部屋が騒がしかったような気もしたけど」
「あれは、エッちゃん先生が日課の反復横跳びをしていただけです。私が行って止めさせました。独身女性にはよくある事です」
そうだったんだ。
俺も、前世のアラサー独身リーマン時代に、意味もなく風呂上りに腕立て伏せして、『若い頃にはもっと軽々出来てたんだけどな~』ってしみじみしたりしたけど、独身女性もそういう夜があるんだな。
「知己くん、知己くん」
「ん? どうした晴飛」
隣の1組の列で、同じく学級委員として列の先頭に並ぶ晴飛が、コソッと話しかけてきた。
優等生の晴飛にしては、学園長のお話中に話しかけてくるのは珍しいな。
「体調は大丈夫?」
「おう。ちょっとフラつくけど元気だぞ」
「それ元気って言わないよ。やっぱり低体温症の影響がまだ……」
心配そうな顔をする晴飛だが。
いや、単にお前に関する報告書の文案作成に手間取って寝不足なだけだぞと言ってあげたいところだが、そのまんま言う訳にはいかない。
何か、前にもこんな事あったなと、寝不足の頭で考える。
あの時は何て言ったんだっけ?
夜の試し切りが忙しくてって下ネタで返したんだっけ?
流石に、すぐ隣に多々良浜さんや江奈さんがいる場所でそんな、もろに性的な事を言ったら、今度こそ周囲の女子たちが出血多量でお陀仏だ。
「それは晴飛が温めてくれたから大丈夫だよ」
「ふぇ⁉ お……思い出させないでよ知己くん」
「学校の登山で遭難して洞窟で2人きりで焚火に当たったなんてドラマチックな思い出、忘れられるかよ」
そりゃ、あの焚火の暖かな光に照らされた横顔や、密着する2人なんてシチュエーションならヒロイン達の好感度もうなぎ上りだよな。
つくづく、俺何かでイベント消費をして好感度を犬死にさせてしまったことが悔やまれる。
「うん……ボクも憶えてると思う。たとえ何十年と経って、おばあちゃんになったとしても」
「そうだなー」
ふわぁ……。
晴飛の感想に適当に相槌を打ちながら、欠伸を何とか噛み殺す。
あれ?
何か、晴飛が変な事を言ったような気がするが、寝不足がマジで限界だから頭が回りゃしないな。
「知己くんは、ホント鈍感だよね」
「え? 俺、また何か晴飛に謝らなきゃいけないこと言った?」
「別にー。そんなんじゃ女の子にも直ぐに愛想つかされちゃうよってだけ」
「おま……それは禁止カードだろうが!」
ショタっ子イケメンで1年生筆頭男子の晴飛に言われると、俺の評価がそれで固まっちゃうから!
なんで、折角男女比1:99の貞操逆転世界に来たのに、結局は前世のアラサー独身の時と同じ評価になるんだ。
所詮はモテない奴は、転生してもモテないのに変わりないというのか⁉
「はい、そこの男子2人。イチャイチャしない」
「「す、すいません……」」
ちょっと興奮しすぎたからか声が大きくなってしまっていたせいで、真名瀬学園長から直々に怒られてシュンとする俺と晴飛。
「流石は学園長……」
「未然にカタストロフィを防いだ……」
「男子同士の尊いイチャイチャ会話シーンを間近で見ていて、ちゃんと男子相手に指導が出来るとは」
「真名瀬学園長に比べたら、1組の武山先生も2組のエッちゃん先生もクソ雑魚だな」
周りも、真名瀬学園長の胆力に度肝を抜かれている様子。
まぁ、これ位じゃないと、濃い奴らの集まるハニ学の学園長は務まらな。
(バララララッ!)
「なんだ⁉」
「ヘリ?」
もうすぐ解散式も終わろうかという所で、けたたましいローター音と土埃が発生して、ヘリコプターが学園のグラウンドに着陸する。
これ、ゲームの世界だからいいけど、ちゃんと航空局の許可とか取ってるのだろうか?
無許可なら、まぁまぁの犯罪行為なんじゃねぇの?
こんな非常識な登場する奴に俺は一人しか心当たりがなかった。
「あ、不入斗さん……」
ガラッとヘリコプターの扉が開いて、この騒音の主が顔を出すと、晴飛の顔が曇った。
かぐや姫は少しキョロキョロすると、こちらを視認して、一目散にこちらに駆けてくる。
「体調不良で先に帰ってたみたいだけど、元気そうだな、かぐや姫は。晴飛が遭難したって聞きつけて、慌ててこっちに来たんだな」
にしたって、ヘリコプターはやり過ぎだろ。
この世界の男に対しての過保護のなせるわざだ。
「いや……。あの顔は、もしかして……」
いつもは、かぐや姫を見たら直ぐに俺の背中に隠れる晴飛が何故か、嫌な予感がするとばかりに、こちらに向かって来るかぐや姫を見やる。
「トモくん!」
「ん?トモくんって誰の事……って、わぶっ!」
こちらに真っ直ぐに駆けてきたかぐや姫は、そのまま俺の胸の中に飛び込んできた。
予想外だったが、何とかかぐや姫の身体を受け止める。
そして同時に突き刺さる、多々良浜さん達や晴飛からの冷たい視線。
言外に『説明しろよ』と言わんばかりだ。
いや、女の子達はともかく、晴飛まで冷たい視線を寄越すのはおかしくない?
とにもかくにも、人前で何してくれてんだこのかぐや姫は!
「ど、どうした輝夜?抱き着く相手を間違ってるぞ。この、おっちょこちょいめ」
「無事で本当に良かったトモくん……私の大事な人……」
あるうぇぇぇえええ!?
てっきり、晴飛と間違って抱き着いて来たのかと思ったんだけど、どうやら間違っていなかった様子だぞ。
っていうか、もしかしなくてもトモ君って俺のこと!?
「し、心配かけたな、輝夜。この通り男友達の俺は元気だぞ。男友達の俺が心配なんだよな?な?」
男友達を無理やり2回も連呼して、これはちょっと行き過ぎた友情表現だよなと周りにアピールする俺。
山での遭難という大きなアクシデントを前に、女優で感受性の強い輝夜がつい大袈裟なリアクションを取ってしまったのは仕方の無いことなんだ。
ここは、何とか穏便に。
「事故の一報を聞いた時に私の胸は押し潰されそうだった。そこで気付いたの」
「な、何に?」
話をしつつ何とかかぐや姫ホールドから逃れようとしているのだが、ガッチリ輝夜が抱き着いてきてて離れない……。
どこに、こんな力があるんだよ。
「私にとってトモ君の事が世界一大事だってこと。喪うかもしれないと思った所で、初めて自分の気持ちに気付けたの」
「い、いや……。それは仲の良い男友達だからだよ。お前は、男女の友情と恋愛を混同してしまっていて」
「ううん。ショッピングデートの時に暴漢から助けてくれた時も、一緒に深夜に外でカップラーメン食べた時もホントはドキドキしてたの。でも、あの時の私は素直になれなくて……」
トロンとした目つきでこちらを至近距離から見上げる輝夜に、逃げ道が無くなる俺。
そして、決定的な一撃が。
「好き、好き、大好き。フニュ~~~♡」
──あ……。これ、輝夜ことフニュートちゃんが堕ちた時の、有名なセリフだ。わ~、原作の通りなんだな~。
この、甘える時に発する『フニュ~~~♡』は、今まで高飛車ツンツンキャラだった輝夜が、主人公に陥落し、一転してデレキャラとなると頻発する定番セリフだ。
これが、輝夜が別名『フニュートちゃん』とファンから呼ばれていた由縁だ。
問題なのは、ゲームヒロインのフニュートちゃんが、何で主人公の晴飛にじゃなくて脇役キャラの俺に対して墜ちてしまっているのかって事だ。
どうしてこうなった……。
「な⁉ 橘君は2組の子達のものなんです! 不入斗さんになんて渡しません!」
「そうだよ! 橘っちは私たちの宝物なんだから!」
「1組……やはり奴らとは雌雄を決する時が来そうだな。決戦は近いぞ……」
そして、当然ながらフニュートちゃんのこの態度に、多々良浜さん達を始め、怒気を強める2組女子の面々。
まぁ、2組の女子達には後で説明するとしてだ……。
この場で最優先すべきは、晴飛だ。
なにしろ、自分のクラスの女子が堂々と人前で公然と乗り換え宣言をしたのだ。
これは、晴飛にとって屈辱以外の何物でもない。
あ、でも。
晴飛は、輝夜の事は持て余し気味だったし、俺が落としても怒ったりはしないんじゃ……。
「知己くん。どういう事なのか、説明してくれるかな?
──え~。激オコですやん……。なんで⁉
わずかな希望を携えながら晴飛に向き合うと、笑顔だけど目が笑っていない、一番怖いタイプの表情だった。
「あのだな、晴飛。これはだな……」
「不入斗さんともデートしたんだ……。ふーん……ボク以外の女の子と……」
もって何だよ!
あ、そういやショッピングデートは晴飛ともしたな。
って、気になる所そこ!?
てっきり1組の、自分のクラスの女に手を出しやがってと怒ってるのかと思っったのに。
それか、虎嶺みたいに脳破壊くらってるとかなら、まだ分かるって言うのに。
この世界の男どもは、ホント……。
「知己くんのバカ……。あーあ……この世界で男友達するのって大変だな……」
──それは俺も同感なんだが、それお前が言うか晴飛!?
面倒くさい主人公様の晴飛のジト目と、抱き着いて離れないフニュートちゃん、それを引きはがそうとヒートアップする多々良浜さん達。
そして、完全に無視されていて噴火5秒前の真名瀬学園長。
混沌とする解散式にて、俺は天を仰ぐしかなかったのであった。
<第2章 了>
これにて第2章完結です。
貴重なツンデレ枠のフニュートちゃんも墜ちたし、これからどうなるんですかね~?
そして皆様、お待たせしました。
本作の書籍がとうとう発売です!
ヒーロー文庫様よりタイトルを『貞操逆転学園で男友達が近すぎる』と改題しまして5月29日(金)発売です。
そう、情報解禁が5月25日(月)だったので発売まで1週間切ってるんです!
なので、みんなドシドシ予約をお願いします!
頼みます!
詳細は、活動報告にありますので、どうぞよろしくお願いいたします。
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3640522/




