第35話 相手は男。相手は男。相手は男。
「良かった……。洞窟なら雨は入ってこないね」
リュックを置いて、ようやく人心地ついたという感じで、晴飛がその場に座り込む。
晴飛が見つけた自然窟は風雨を凌ぐには十分で、高さも十分な空間があった。
これなら、風雨の入ってこない位置で焚火を起こしても、一酸化炭素中毒になる心配は無さそうだ
「晴飛……。焚火を直ぐに準備する必要がある。リュックにある枝や木の皮を出してくれるか?」
「う、うん」
「さっき、洞窟の入口に竹林があったな。色々と使えるから、ちょっと今から切り出してくる」
そう言いながら、俺はリュックからサバイバルナイフを取り出す。
リュック内にナイフ専用のホルスターが着いていてしっかり固定されていたので、これも滑落の際に難を逃れていたのだ。
「え⁉ また、外に出るの⁉ ちょっと休んだ方が」
「晴飛は、枝を細枝と太い枝とで仕分けて。あと、焚き火用に穴を掘っておいて」
「なら、ボクが外に竹の切り出しをしてくるよ。知己くん、唇が真っ青だよ」
「既に全身ずぶ濡れの俺がやる方がいいんだ。それに、身体が濡れた状態で動くのを止めると一気に体温が下がるから、運動して代謝で熱を発した方が良い。焚火の準備程度じゃ、体温が上がらないからさ」
これは、やせ我慢でなく事実だ。
素人の自己診断だが、俺の低体温症は思ったよりマズい状況だ。
ここは手分けして動く方が、結果的に効率も良い。
「……分かったよ。気を付けてね」
トイレの時には一人になるのを嫌がっていた晴飛だったが。素直に頷いてくれた。
「もうすぐ日没の時間か……。竹の切り出しをしたらすぐに戻る」
そう言って、俺は洞窟から再び、風雨が激しい外へ繰り出していった。
◇◇◇◆◇◇◇
「はぁ……はぁ……。煮炊き用に貯水用にこれ位あればいいかな……」
手近な太さの竹にナイフを当てがって石を打ち付けて切り倒し、使いやすいように竹の節ごとに切り分けて容器とした。
それらを抱えて、俺は洞窟へ急ぐ。
──あ……。考えたら、竹を容器の形に切り分ける作業は、風雨をしのげる洞窟内でやれば良かったな……。
終わってから気付く、作業の効率化のアイディアよ……。
前世のリーマンの時も、そんな感じだったな。
そんな事を、回らない頭で考えながら、俺は足早に洞窟内へ戻った。
「あ、知己くん、おかえり! 焚火できたよ!」
「ざ……ざむい……火だ……」
びしょ濡れで、ガチガチ鳴る歯の振動は全く止まらない中、ようやく火に当たれると思ったら、もはや我慢何て出来なかった。
震える手で、俺は服を脱いだ。
「ちょ⁉ 知己くん⁉ 何を」
「濡れた服のまま焚火に当たるより、こっちの方がいいんだ。う……でも、寒い……」
ジャージを脱いでパンツ一丁になった俺は、ガチガチ歯を鳴らしながら焚火に手をかざす。
だが、焚火はまだ燃え始めという感じなので、正直そこまで暖かくない。
「そ……そうなんだね……」
そう言いながら、晴飛はそっぽを向いてしまう。
まぁ、野郎の身体なんてしげしげと眺めたくはないわな……。
でも、俺の方もそろそろマジで限界だ。
「すまん晴飛……。焚火に太い枝をくべて火が大きくなったら、この竹の容器に水を入れて湯を沸かしてくれ……」
「う……うん、分かった。服も焚火の近くに置いて乾かすね」
「助かる……」
焚火の暖かさを前にして完全に心が折れた俺は、もはやカチカチ歯を鳴らしながらパンツ一丁で焚火に当たる事しかできない餅でしかなかった。
ほら、アレだ。
前世で言えば、仕事終わった直後は、帰宅したらご飯作って、ゲームやってとか考えるのに、いざ帰宅してソファに一度でも寝転がったら、結局はソファでゴロゴロしてスマホを弄ってることしか出来ずにアフター5が終わるみたいな。
「お湯沸いたみたい」
「おお……白湯で……う……うめぇ……」
粉末コーヒーも紅茶のティーバッグも無いので、雨水を煮沸しただけの白湯だが、それでも冷え切った身体と内臓に沁みる……。
雨が激しくて意図せず口の中に水が入って来ていたので、そんなに喉は渇いていなかったのだが、こうして温かい飲み物を飲むとホッとする。
「落ち着くね……」
「ああ……」
いつの間にか、肩同士が触れ合う位の隣の座っていた晴飛が、俺に笑いかける。
「晴飛、ちょっと近くない?」
さっきは、俺のパンツ一丁スタイルに
「ボクは、もう服乾いたから、こ…こうしてくっついて知己くんを温めてあげてるんだよ」
「そっか、ありがとな。たしかに、低体温症は、一気に体温を上げない方が良いらしいからな」
「そういう所だよ。知己くんのバカ」
そう言って、晴飛がテントの天幕を俺にバサッと被せる。
天幕は撥水性能が高い材質の物だから、もうすっかり乾いていた。
──服を乾かしてる俺のために譲ってくれたんだな。優し……って、ん?
てっきりプレゼントはテントの天幕だけなのかと思ったのだが……。
(モゾモゾ……ちょこんっ)
焚火の前に胡坐をかいている所に、晴飛が腰を落ち着ける。
え?
「あの……晴飛?」
「ボクの事、抱きしめていいよ……」
「ふへぇ!?」
この男女比1:99の貞操逆転世界へ転生してきて約1か月。
前世の感覚と、元来調子乗りな性格により数々の女の子の事を驚かせてきた。
そんな俺が、他の女の子たちみたいに本気で訳が分からない?マークで頭の中が埋め尽くされている。
──え、何これ……。チャンスか? いや、何のチャンスだよ!
「そ……遭難した時は、くっついてお互いの体温で温めあった方がいいって聞いたことあるから……」
「そ、そうだな……。それ、俺も聞いたことある」
「…………」
「…………」
お互い無言になり、洞窟内に焚火の枝がパチパチと爆ぜる音だけが響く。
先に、この無言の中で耐えられないのは、やっぱり俺の方だった。
「じゃ……じゃあ抱くぞ」
「うん……」
そう。
これは、低体温症へ対処するために、晴飛が文字通り人肌もとい! 一肌脱いでくれる救命的な処置だ。
だから、俺の行いはこの危機的な状況においては正当化され……。
「って、なんで服脱いでるんだ晴飛!」
おずおずと伸ばした手には、纏った衣服の布地ではなく、晴飛の柔肌ダイレクトな感触が伝わって来た。
「だ、だって……。服越しじゃあ知己くんにボクの体温を分け与えられないから……」
晴飛は俺の前に座っていて、こちらを振り向かずに答える。
「う…………。そりゃ、そうだけど……」
「早くしてよね。ボクだって恥ずかしいんだから……」
そう言って、晴飛は前へ向き直った。
──相手は男。相手は男。相手は男。相手は男。相手は男。相手は男。相手は男。
女の子じゃないんだから、裸で抱き合っても不貞や猥褻行為には該当しない。
だが……。
──じゃあ、なんで俺はこんなにドキドキしてるんだよぉぉぉぉぉぉおおお!
「ん……」
抱きしめる際に、俺の腕が擦れた際に、晴飛が小さく声を上げる。
後ろから抱きしめた晴飛の体躯は華奢で、女の子みたいに、ちょっと力を込めたら壊れてしまうんじゃなかと不安に思ってしまう。
けど同時に、その身体から伝わる熱は、思った以上に熱い。
身体をゼロ距離で触れ合わせているので、伝わる熱や心臓の鼓動の音も、混じりああって自分から発せられているのか、それとも晴飛から発せられている物なのか区別がつかなくなっていた。
パチッパチッ!
不規則に爆ぜる焚火の枝や薪。
普段のキャンプだったら、何十分でも無心で眺めていられる焚火。
だが、今の俺の状態は無心とはほど遠かった。
続く~。
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