第36話 ボクで練習していいよ……
──この、沈黙はマズい気がする……。
別に、晴飛とは既に深い仲だ。
いや、今のは言い方に大いに語弊があったな。
同性の気の置けない友達として仲が良い、だ。
だから本来、こうして無言でただ焚火を眺めている時間だって、親しいからこそ変に気を使わないはずなのに。
「なぁ……晴飛……。ゴメンな」
「……なんで、知己くんが謝るの? こんな事態になったのはボクのせいなのに」
腕の中に居る晴飛がモゾッと少し身体を揺らす。
「いや、最初に晴飛を怒らせた俺が悪い」
「ふーん。じゃあ、なんでボクが怒ってたのか分かる?」
「そういう男を試す系の質問はやめてくれよ……」
言ってることが面倒くさいカノジョじゃん。
この手の質問された瞬間に、男の脳は一応フル回転するが、大体はカノジョが望んだ答えが用意できずに、更なる糾弾が待ってる奴だよ。
とは言え、ここで無言で居てもしょうがない。
どこに地雷が埋まっているか分からない迷路を抜け出すためには、結局は前に進むしかないのだ。
「そうだな……。俺、晴飛の気持ちの事を考えずに、色々とお節介をし過ぎた」
「うん。それで?」
だから、怖ぇって!
どうやらまだ、答えとしては不十分な様子。
だが、まるで方向性が違うという訳ではないという晴飛の態度に、活路を見出すしかない。
「晴飛に女の子と仲良くなってもらいたいと色々と動いてたけど、独りよがりで、外ならぬ晴飛の気持ちを考えてなかった」
結局、俺がやっていた事は、強引にお見合いをさせようと余計なお世話を焼く、お見合いオバサンみたいなもんだ。
俺も、前世ではいい歳して独身だったから、親戚やら実家の近所のおばちゃんに、この手のお見合いしろ攻勢を受けていて嫌な思いをしたりしていた。
そんな俺が、『主人公のお助け男友達キャラだから』とか『攻略に有利だから』と、大した説明もせずに頭ごなしにやれと言うだなんて。
おまけに、遭難イベントで稼げる好感度がもったいないからと、かぐや姫が休んだから、江奈さんでとか完全に人を人とも思わない所業だった。
この歳で、老害ムーブしちまって世話ないぜ。
反省しないと……。
「そうだよ。まったく……。ボクの気も知らないで」
「ごめん……」
振り向きながら膨れっ面を見せる晴飛に、謝るしかない俺。
そして、平身低頭な俺の様子を見てなのか、ここで晴飛が踏み込んでくる。
「この際だから知己くんには言っておくけど、ボクはしばらくは女の子とどうこうなろうとは思ってないよ」
「え、なんで⁉ 晴飛は女の子とキャッキャウフフしたくないの?」
この男女比1:99の世界のハニ学の世界で女の子と遊ばないなんて。
他の草食系男子ならともかく、主人公様の晴飛がそんな事を⁉
そんなルート聞いたことねぇぞ!
「う~ん。今は、男友達と遊ぶ方が楽しいからかな」
「え?」
「だから、ボクが女の子に言い寄られた時には、知己くんが護ってよね。女の子みたいに」
フフッと小悪魔的に笑う晴飛。
──要は俺に女子からの防波堤になれってことか⁉ それ、1組の女子に俺が恨まれるパターンじゃん!
可愛い顔して、要求がエグイって……。
でも、男友達キャラとしては、主人公様の御意向には逆らえない訳で……。
「分かったよ……。まぁ、人肌で俺の事を温めてくれた命の恩人には従っておくか」
「そ、そうだよ……恥ずかしいけどボク頑張ったんだよ。こんな事するの、知己くんだからだよ。そこの所分かってる?」
プクゥッと頬を膨らませる晴飛。
肉体的にも精神的にも危機を脱して色々と余裕も出てきたので、晴飛の頬をツンツンする。
それに対し。
「良かった。ちゃんと知己くんの指、温かいよ」
「ん……。晴飛の頬もな」
俺の手を握って晴飛が頬ずりしてくるので、こちらも晴飛の頬を指先でなぞった。
水を弾く晴飛の肌は、俺の指先の圧をそのまま受け入れる。
「くすぐったいよ知己くん」
「これくらいでか? 敏感ちゃんめ」
「そんなんじゃ、女の子に触れる時にガッカリさせちゃうよ」
「え、マジで⁉」
男にとって、己のゴッドフィンガーが女の子に通用するか否かと言うのは最重要関心事だ。
「そうだよ。だからさ…….ボクで練習していいよ……」
「ふへっ?」
再び、普段は俺の前世基準でしでかす所業で、女の子たちが発するような素っ頓狂な声を上げてしまう。
たしかに、絶対的な評価指標は無いし、お相手に感想や評価を求めるのも難しいし、この男女比1:99の世界では尚更、女の子からの率直な意見なんて貰えなさそうだし。
でも、だからって……。
「今はボクたち遭難中なんだよ。だから……何しても大丈夫だよ」
なるほど……。
ずぶぬれになった身体を低体温症にならないように温めるのは、現在もっとも優先される事項だしな。
生き残るためなら、どんな行動も正当化される。
あれ? でも、晴飛のセンシティブエリアに触れるのは、生存に必要な行為か?
いかんな……。低体温症のせいか眠気が来ていて、頭が正常に働かない気がするぞ、うん。
「じゃ、じゃあ……晴飛」
「うん……」
焚火による暖色の光に照らされた晴飛が、静かにこちらに向き直る。
覚悟と期待が入り混じった顔。
そんな晴飛の勇気に対して、すべきことは分かっていた。
俺は……。
「無事ですか橘様! 観音崎様! 小職が救助に……ウグハァッ!」
洞窟の入口に勢いよく現れた渚橋さんが、登場と同時に即座に昏倒した。
どうやら、屈強な女性軍人の渚橋さんが、俺達をずっと捜索してくれていたようだが、救助対象を見つけた高揚感と、この世界では貴重な男子の半裸姿に、脳が瞬時に焼き切れたようだ。
「渚橋さん⁉ ちょっ! 頭打ったよ! っていうか、息してないヤバい!」
慌てて意識の無い渚橋さんを抱き起し、焚火のそばを運んで蘇生行動を開始する。
なお、渚橋さんの顔は恍惚の表情のまま固まっていたので、なんだか緊迫感のない救命現場であった。
そのせいか、死にかけている渚橋さんの心臓マッサージをしながら内心。
──助かった~。
と思っていたのは内緒だ。
なお。
「知己くんのヘタレ……」
とボソッと晴飛が言っていたのは、聞こえていない振りをした。
雨はいつの間にか止んでいた。
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