第34話 あ……。雨
「知己くん! 知己くん!」
──あれ? 何か遠くで声が聞こえる。『ともき』って誰だ……。俺は……。
ボヤける視界と意識が徐々に徐々に明瞭になってくる。
と同時に。
「イテテテ……ペッ! ペッ!」
滑落によりあちこちぶつけた身体の痛みと、滑落中に口の中に入った泥と葉っぱの不快感も鮮明となり、意識が戻った。
「よかった……よかった……」
地面に仰向けに寝転んでいる俺に、晴飛が涙をボロボロ流しながら抱き着いて来る。
「ワリィ……心配かけたな。晴飛はケガはないか?」
「平気だよ……知己くんが抱きしめてくれてたから、擦り傷程度だよ。でも、私のせいで知己くんが……。声を掛けても揺すっても起きないし、死んじゃったかと思って……」
涙を拭いながら、晴飛は嗚咽まじりに自分の気持ちを吐露する。
心配かけちまったな。
「ハハッ。ちょっと、独りよがりが過ぎて罰が当たったんだろうな。アイテテ……っと」
泣きじゃくる晴飛の頭を一撫でして寝転んでいる地面から身体を起こすが、身体中色々と痛い。
幸い、どこか骨が折れたりはしていなさそうだ。
「だいぶ、落ちてきちゃったみたいだね」
「ああ。斜度のキツさ的にも登って元いた場所に戻るのは不可能だな」
ようやく冷静さを取り戻してきた晴飛と一緒に、自分たちが滑落した斜面を見上げる。
見上げてみても、俺達が居たトイレの辺りは見えない。
──あんな高さから滑落して、よく生きてるよな。
流石は橘知己の身体は、日ごろ鍛えてるから頑丈だなと思ったが。
「ああ、背負ってたリュックがクッションの役割をしてくれたのか……。って、リュックが壊れてる⁉ 中身が!」
滑落の際に、木やら岩やらにぶつかり擦れたりしたせいか、リュックは上部のジッパーが破損し大きく破けてしまっていて、中身の大半がこぼれ落ちてしまっていた。
「近くにも、それらしい物は落ちてないね」
「マジか……」
木々が鬱蒼としてるから、斜面の途中に引っかかってるんだろうな。
遭難イベントのために、色々とキャンプ用のギアを買って準備して来たのに……。
「おーーい! う~んダメだ……。声が1組の子たちに届いてる様子はないね」
「男子トイレの付近には近づかないようにしてるだろうしな。でも、俺達がいつまでもトイレから戻らなければ、その内に探しに……」
こういう山でのトラブルの時には、無暗に動かない方がいい。
な~に。
待ってたら、その内、救助されて。
「あ……。雨」
──そうだったぁぁああ! この後、遭難イベントのために天候が大荒れになるんだったぁぁぁああ!
これはマズい。
このまま野外にいたら身体はびしょ濡れだし、激しい風雨の中では、助けを呼ぶ声もかき消されて、上に居る皆には届かない。
となると、この場所に悠長に留まるのは悪手だ。
「どこか雨宿りが出来る場所を早急に探すぞ晴飛」
「う……うん!」
そう言って、全身が痛い身体を引きずりながら俺も歩き出した。
そして、今の内にという事で周囲に落ちている枯れ枝や木の皮を、破れたリュックにめいっぱい詰め込む。
小雨はすぐに大粒の雨となり、風もかなり強くなってきた。
──マズいな……。雨で身体が濡れて体温を奪われたら低体温症になる恐れがある。
特に、小柄な体躯の晴飛が心配で……。
って、そうだ!
「晴飛、これ被れ」
「え? これって」
「テントの天幕だ。雨を弾いてくれる」
雨具も当然持ってきていたのだが、悪天候時にすぐに取り出せるようにリュックの上部に入れていたため滑落時に、いの一番に飛び出てしまっていたらしく失くしていた。
テントの天幕は、クッションがわりにリュックの背中に触れる、一番内側の場所に入れていたので、滑落した後もリュックの中に残っていたのだ。
テントの骨組みとなるポール等の部品はロストしてしまっていたので、残念ながらテントとしては使えないのだが。
「そんな。ボクだけなんて使えないよ。それは知己くんが持ってきた物だし」
「いいから」
固辞する晴飛の言い分は聞かずに、俺はとっとと天幕を晴飛の身体に纏わせる。
「でも……」
「あ、リュックに入れた枝は濡らしたくないから、悪いけど晴飛が背負ってくれ。頼むぞ」
自分だけ天幕で雨をしのぐ事に後ろめたさを感じている晴飛に、俺はこれでお相子とばかりにリュックを背負わせる。
「……このリュック、大して重くないじゃない」
「大事なミッションだからな。頼むぞ晴飛」
そう言って笑いかけると、俺さ先に歩を進める。
──しかし、雨がきつくなってきたな……。
もう、ジャージの上下はもちろんの事、パンツまでグショグショだ。
防水仕様でもないただのスニーカーは歩を進めるたびに、水がグジュッ! と滲み出て来て気持ちが悪い。
如何に、橘知己の身体が屈強とは言え、これは堪える。
「ガチガチ……」
さっきから、身体の震えと歯が鳴るのを自分の意志で止められない。
早く、どこか雨を凌げる所に……。
岩場か何か……。
雨の中動き続ける疲労により脳が働かず、ボーッとしてしまう。
まずい……。
これは、低体温症の症状が出てきている。
このままじゃ……。
「あ! 知己くん、見て! あれ!」
そんな朦朧とした状態で晴飛の指を指す方を見やる。
「…………ハハッ。流石は主人公様だな」
「主人公様って?」
「いや、こっちの話さ」
ずぶ濡れの身体とは対照的な乾いた笑いを溢しながら、俺は晴飛が見つけた、ゲームでお馴染みの遭難イベントの舞台である洞窟の中に、重くなった身体を引きずるように入って行った。
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