第32話 男の子のシーシー問題
「ヤッホー‼」
「ヤ、ヤッホーー!」
山頂に着くとつい、こだまを試してみる俺とその後を追う遠慮がちの晴飛のヤッホーが尾根に向かって飛んでいく。
「あれ? 返ってこないな」
「そうだね」
山頂に着いてはしゃぐ俺に付き合ってくれる晴飛。
こういう所、本当に晴飛は共感性が高いよな。
「クハッ……。男の子同士で仲良し不意打ちヤッホーとかヤメて……」
「意識が……」
「おい起きろ! 山で寝るな! 死ぬぞ!」
丁度、お昼時に頂上の広場に無事に到着した。
が、先発で登頂していた他のクラスメイトの女子達が次々と倒れる。
「倒れた子たちには携帯酸素ボンベを。倒れた久留和っちは、2人がかりで運んで、そこのレジャーシートに寝かせよう」
そして、既にこの手の看護に慣れている三戸さんが指揮する。
流石は、3組とのクラス入れ替え戦の知力部門で鼻血を噴いて倒れた経験が生きているな。
「観音崎くん。こちら冷えたタオルです」
「レジャーシートを敷きましたので、こちらに靴をお脱ぎください」
「足は疲れておりませんか? マッサージを」
「だ、大丈夫だよ……みんなアリガトね」
そして、晴飛の方も相変わらずモテモテで蝶よ花よと、1組女子たちに大切にされている。
「うわっ! 橘っちのリュック重い」
「ああ、シート敷いてくれたんだ、ありがと」
三戸さんが俺の降ろしたリュックを持ち上げようとして、その重さにビックリしている所を、さり気なくリュックを受け取ってシートの上へ再び降ろす。
「2組の人たちは、本当に気が利かないですわね。殿方にリュックを運ばせるなんて」
「仕方ないですわよ。2番手の2組さんなら」
その様子を見た1組の女子たちが、三戸さんへ嫌味をぶつけてくる。
「あー、うちのクラスの橘っちはそういうの気にしない質だからね~」
「私も持とうとしたんだが断られちゃって」
「登山なら、自分の荷物はちゃんと背負いたいしって言いだすなんて、本当に変な男の子ですよね」
それに対し、2組の皆は入学当初のように真っ向から、ケンカを買ったりはしない。
1組女子と2組女子には決定的な違いがある。
クラス入れ替え戦を闘ったという実戦経験と、また次の闘いが控えている中、刃を研いでいるという自信。
それが、2組女子たちに確かな自信として揺るぎなさを与えていた。
あれだな。
前世で言えば、筋トレや格闘技にハマって己の身体を鍛え上げたら、嫌味な上司に小言を言われても、『まぁ、いいか。こんな奴、俺がその気になったらいつでも〇せるし』
という心の平穏を得るライフハックと一緒だな。
「ふ、ふん……!」
「なによ……」
自分たちが相手にされていない事を感じ取ったのか、1組女子も早々に引き上げてしまう。
「さ~て、お昼のお弁当はっと」
今日はクラス宿泊合宿ということで、流石に食事はいつものクラスの女子たちの手作り弁当とは行かず、合宿所の食堂のおばちゃんが作ってくださった物だ。
なお、朝食も合宿所の食堂で食べたのだが、ハニ学の学食の時よろしく。
『美味しかったです。ごちそうさまでした』
と伝えたら、食堂のおばちゃんたちが泣き出してしまったのは、最早恒例行事だったと言えよう。
あ、そうだ。
弁当前の今の時間がチャンスか。
「お~い晴飛。弁当前にトイレ行こうぜ」
「うん、そうだね」
そう言って、晴飛が腰を降ろしていたレジャーシートから立ち上がると。
「「総員、第二次緊急対応体制準備! 繰り返す! 総員、第二次緊急対応体制準備!」」
1組担任の武山先生と、2組担任のエッちゃん先生が同時に声を張り上げる。
すると、クラスの総員がお弁当の準備の手を止め、慌ただしく移動を開始する。
「え、何この物々しい警備体制は?」
「説明しよう橘。この登山コースは整備されている登山道とは言え、トイレはこの頂上広場にある1か所のみ。故に、トイレは男女共用」
「なので、絶対的な警備体制が必要で、ネズミ1匹すら通さない警備シフトが敷かれるんですよ観音崎君。トイレの出入り口はもちろん、周囲には変態の侵入を防ぐために、幾重にも警備を配置するんです」
2人の教諭がしたり顔で警備の手厚さについて説明してくれる。
たかがトイレに行くだけで、大げさすぎだろ。
──っていうか、これは色んな意味でマズいな。
「知己くん……。ボク、やっぱりトイレは我慢する……」
モジモジしながら、晴飛が顔を赤くして俯く。
そう。
晴飛は、男子トイレで他の男子が近くに居るだけで、まともにシーシーが出来なくなるくらい繊細なのだ。
そんな晴飛が、トイレの周りを多数の女の子たちが囲っている環境下で、出る物が出る訳無いのだ。
「トイレ前の最も重要な警備は担任教諭の我々が担うからな。フーッ……フーーッ!」
「ちょっと先輩。そんな事言っちゃダメですよ。私たちは、あくまで担任教諭として、大事な男子生徒の貞操を護る職務のために仕方なくで……デュフフ」
「エッちゃん先生たち。張り切ってる所悪いんだけど、警備は無しで良いよ」
「「なんで⁉」」
凄い剣幕で、エッちゃん先生と1組担任の武山先生が俺に食って掛かって来る。
いや、必死過ぎだろ。
「橘君。なぜですか?」
「教育者にあるまじき邪念を抱く教諭が近くに居るのが嫌なら、別の子を指名してくれもいいいんですよ?」
「ならば、私が顔面で受け止めます!」
取り乱す両担任教諭に代わり、冷静な江奈さんと多々良浜さんが俺に、警備拒否の理由を訊ねてくる。
そして、荒崎さんはその隣で明後日の方向に大興奮だ。
「なんでって、俺も自分のシーシー音を女の人に聴かせて興奮する癖は持ち合わせていないからだよ」
「実は、こうやって警備体制を敷くのは、外部からの覗き見や、盗聴盗撮を防止する目的もあるのですが、一番は抜け駆けで身内が覗きに行くのを牽制し合うための物なんですよ」
「共謀して覗きに行かないように、友人同士や同クラスの人員が隣り合わないように警備の配置を決めていますしね」
「うぐ……苦しいです、あやみ……ガクッ」
なるほど、そっちの意味か。
男子への過保護体制じゃなくて、自身のリビドーを抑えるための施策だったと……。
普段よりは手薄な男のシーシーシーンを今、江奈さんに首を絞め墜とされてる荒崎さんみたいに、劣情に支配されないようにするためか。
目の前で実演してくれて実に分かりやすい。
しかし、晴飛のシーシー出ない問題とは別のもう一つの俺の目的から言っても、トイレの近くには人がいない方がいい。
ここは、またあの手で行くか。
「大丈夫だよ。俺も晴飛も皆の事は信用してるから、警備なんて要らないよ。な? 晴飛?」
「う……うん……」
「それに」
少々困惑顔だが、晴飛から同意も得られたし、ここで俺はダメ押しを入れる。
「何かあったら、俺が晴飛を護るからさ」
晴飛の肩を抱いて、これ見よがしに俺の方に抱き寄せながら皆に宣言する。
「「「「「おぎゃああああぁぁあぁああ‼」」」」」
1組と2組女子達の雄叫びが反響する。
その叫びは、山の頂上だったので、俺と晴飛のコダマとは違って、とても遠くまで響いたらしいという事は、下山した時に知るのであった。
ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。
励みになっております。
そして、
『電車で殴られてるイケメン男子高校生を助けたら女子高の王子様だった件』の2巻が発売中!
2巻の書影も見れますので是非どうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n3623kd/
GWの読書に電車王子様を全巻購入しよう!
https://amzn.asia/d/0iHYlbkw




