第31話 ボクは気付ているんだからね
「よ~し。1年2組集合完了してるな~? 今から、登山コースを説明するぞ~」
クラス宿泊合宿2日目。
天気は快晴。
朝食を済ませた後に、学校ジャージ姿で1年生全員が登山口に集まった。
皆、元気で活き活きとしている。
俺の方はと言うと、夜食のカップ麺を食べたのもあって、少し寝不足気味で眠い……。
「高校生という事もあって、ハイキングではなく登山コースを行くが、初心者用のコースだからそこは安心してくれ。そして登山時の隊列についてだが、安全上の問題もあるため、1組と2組で合同の一団を作る。隊列の中ほどに男子生徒を置くフォーメーションだ」
こういう登山では、初心者や体力のない子供等の前後を熟練者で挟んでフォローするのが定石だ。
そして、この男女比1:99の世界では、男子に万が一の事があってはいけないという訳で、こうしてガチガチに集団で固められるという訳だ。
まさにコクーンが如き大切に取り扱われている。
そして、護る対象はある程度固まっていてくれた方が、護りやすいという訳での1組と2組の合同での登山となるわけだ。
「おはよ。知己くん」
「おう、何か久しぶりだな晴飛」
「そうだね」
クラス宿泊合宿という、クラス内の親睦を深める事がこの行事の目的なので仕方がないのだが、こうして男子同士で会う機会はずっと無かった。
「江奈さんも、おはよ。今日は胃腸の調子、大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です」
最近は、1組内での内部抗争で気が気ではなく、限界新入社員みたいな悲壮な顔つきをしていた江奈さんだったが、今日は幾分か顔色もいい。
大自然の中でちょっとはリフレッシュできたのかな?
「橘様。足元前方の石にご注意ください」
「うん、ありがと」
「そこ、苔が生えています。私の手を滑り止めにするので、踏んで進んでください」
「荒崎さん、何でいるの?」
一瞬スルーしかけたが、なぜに3組の学級委員長の荒崎さんが1組と2組の一団に⁉
そして、段差の上に自分の手を置いて、踏んづけて欲しそうに恍惚の表情で俺を見上げるんじゃないよ!
「どうも橘様。前回は、教室までの護衛が出来ず申し訳ありません。なので、今回の登山では同行させていただきたく」
「ダメに決まってますよね……」
足元で恍惚としている荒崎さんに対して、多々良浜さんが冷たい表情で見下ろす。
「多々良浜さん。たしかに私は橘様のブタですが、同性に蔑みの目を向けられても嬉しくはない」
「そんな話はしていません! そういうプレイを橘君の前で臆面もなくしないでください! 羨ましい!」
当然のように諍いになる、荒崎さんと多々良浜さん。
そりゃ、2組の学級委員長としては面白くないよね。
ただ、多々良浜さんは最後に本音的な物が漏れてしまっているけど、そういうの興味あるの?
「そもそも、3組男子の寝室君の方はどうしたんですか?」
「アレは、護衛の渚橋さんに面倒を見てもらっているので。渚橋さんはレンジャー徽章持ちで山の行軍についてはプロですし。学校側も、そして3組のクラスの皆も快く送り出してくれました」
「ぐぬぬ……」
多々良浜さんも、クラス入替え戦というハードルを乗り越えて頼もしい感じが出てきたが、その裏で、それ以上の修羅場をくぐって来た荒崎さんが相手では、言い負かされてしまう。
「ヤッホー麻衣」
「ヤッホーあやみ」
押し黙ってしまった多々良浜さんを無視して、荒崎さんが江奈さんと挨拶を交わす。
この2人は、すっかり仲良しの親友同士という感じだな。
う~ん……。最近の江奈さんは、かぐや姫の事で心労をかけっぱなしだったしな。親友の荒崎さんが居れば心強いだろうし、今日くらいは大目に見るしかないか……。
──それに、俺のこの後の目的から言っても、江奈さんが荒崎さんに気を割いていた方がやりやすいしな。
「多々良浜さん。悪いんだけど、今日はこの陣容で我慢してやって」
そんな裏事情もあり、俺は現状の受容を多々良浜さんにお願いする。
「橘君がそう言うなら仕方ないですね……。でも……」
少し不満そうに多々良浜さんが荒崎さんの同行を了承するが、何やら条件付きな様子。
その証拠に、多々良浜さんは立ち止まり、背伸びをして俺の耳元に顔を近づける。
「昨晩のベッドみたいな事を、他の女の子にしちゃイヤですからね……」
ハニカミながらこちらを見上げる多々良浜さんの顔には、恥ずかしさと、でもその裏にたしかに見える独占欲が垣間見えた。
原作とは違うストーリーだが、負けても何度でも立ち上がる多々良浜さんの執念深さのような物を、その瞳から感じる。
問題は、原作とは違って、その執着が主人公の晴飛にではなく脇役の俺に向いてしまっている点で……。
「あ……あれ? そういや、ウルサイかぐや姫はどこにいるんだ?」
頭の痛い問題がまた増えた事に目を背けるために、俺は本題に移る。
「彼女なら、今日は体調不良で登山は欠席して宿で寝てますよ」
「え⁉ 体調不良! 欠席!?」
江奈さんの言葉に、思わず俺は目をひん剥いてしまう。
「え、ええ……何か熱っぽいと言って布団から出てきませんでした」
「マジか……」
俺のエライ剣幕に、江奈さんが怪訝な顔をしつつ俺の質問に答える。
発熱って昨晩、深夜の背徳夜食が原因か⁉
あれで風邪ひいちゃったって事か。
別れた後、どんだけ夜風に当たってたんだよ、あのバカ!
俺がこんな焦っているのには理由がある。
──この登山では、ヒロインとの親密度が大幅アップする遭難イベントがあるってのに……。
これは原作ゲームにおける初期の大きなイベントだ。
大きく好感度を上げられるので、本命ヒロインに全ツッパして、早めにイチャイチャフェーズに入るも良し。
ハーレムエンドのために、好感度を稼げていないヒロインを選択して、一気に他のヒロインに追いつかせるも良し。
ハニ学がヌルゲーのギャルゲーと言われる、初心者にも優しい仕様の権化みたいなイベントなのである。
で、俺は今回、晴飛からの好感度が明らかに低いであろう、かぐや姫にこのカードを切ろうと思っていたのだ。
なのに、あのバカは!
お前が休んだら意味ないだろ!
「随分と不入斗さんの事を心配してるね知己くん……」
「え?」
難しい顔をして黙り込んだ俺に対し、晴飛がジトっとした視線で俺を見上げる。
心なしか、ちょっと物理的な距離が近いような……。
山道では転びやすいから、そんなに他の人と接近しちゃ危ないぞ~。
「あ、いや、別に……」
「最近、2人きりでコソコソしてるの、ボクは気付ているんだからね」
まるで、不倫を疑う妻のごとく疑惑の目を向ける晴飛。
違うんだ晴飛……。
俺は、お前のためを思って、色々と裏で動いてるから怪しく見えるだけで……。
「やっぱり知己くんは、不入斗さんみたいな綺麗で活発な女の人がいいんだ」
「今、俺の好みの女性のタイプは今、関係なくない⁉」
「プイッ」
あかん。
晴飛がヘソを曲げてソッポを向いてしまった。
しかし、先ほどからの渋い顔を見るに、晴飛のかぐや姫への印象は相当悪いようだ。
「今日はウルサイのが居ないおかげで、空気がとみに美味しいです♪」
「良かったですね、あやみ」
そして、心労の種が減って、江奈さんは実に清々しそうに、親友の荒崎さんとスキップしながら登っている。
同性から嫌われると、こういうのが怖いんだよな……。
女性の世界はホント恐ろしい。
──まぁ、あんだけワガママお姫様やってたらな……。これはどうやら、かぐや姫は負け戦だな……。
折角のチャンスイベントを、体調不良でフイにしやがって。
最早、絶望的と言えるフニュートちゃんの好感度の低さを思いながら、俺の足は重くなるのであった。
ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。
励みになっております。
そして、
『電車で殴られてるイケメン男子高校生を助けたら女子高の王子様だった件』の2巻が発売中!
2巻の書影も見れますので是非どうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n3623kd/
GWの読書に電車王子様を全巻購入しよう!
https://amzn.asia/d/0iHYlbkw




