第27話 ナニコレ、甘い……
「さ~て、焼いていきますか」
トング2本を2刀流で持った俺は戦場を駆った。
「その肉、あと10秒炙れば食べ頃だよ」
「そこの耐熱ネットに入ったカット野菜は焦げやすいから、網の隅に。エリンギが特に旨いぞ」
「シイタケも水が出てきたな。塩か醤油お好みでどうぞ」
「お! エノキのバターホイル焼きも良さげだ。誰か、これに仕上げの粗挽き黒コショウを」
「バゲットもいい塩梅の焼き色だ。このカップで温まってるマッシュルームのアヒージョを塗ったくって食べな」
人数が多いので、計3基のバーベキューグリルを使っているので、焼きのお世話が終わったら、すぐに隣のバーベキューグリルを巡ってとグルグル回っていると休む暇がない。
「すいません橘君。調理担当が、軒並み家事シチュエーションの御褒美の餌食になって、再起不能になってしまって負担を……」
「ああ、大丈夫大丈夫。俺、バーベキューでは食うより焼くのが好きな所あるから」
申し訳なさそうにする多々良浜さんだが、これは気を使ってる訳ではなく本心だからな。
「橘くん、美味しい!」
「お肉はもちろんだけど、エリンギ焼きシイタケも美味しい!」
「エノキのバターホイル焼きもアヒージョも!」
「キノコばっかり私たちに食べさせるって、橘君誘ってるのかな……」
「お~、そりゃ良かった」
バーベキューと言うと、ただ肉を焼けばいいと思っている人も多いが、真に美味しいのは野菜なんだよな。
炭火で焼くと、野菜の甘みが引き出されて非常に美味しいのだ。
クラスの皆にも好評で良かった。
若干、勘違いしている子もいるみたいだけど。
「橘っち、お疲れ~。いや~、美味しかったよ」
三戸さんがお腹を叩きながら笑いかけてくる。
こういう屈託の無い感じで接してきてくれるのが、ギャルのいい所である。
振る舞った側としても、率直に美味しかったと言ってもらえるのが嬉しい。
「絵里奈ちゃん。橘君の前ではしたないですよ」
「みな実っちも、たくさん食べてたじゃん」
「それは言わないでくださいよ!」
「アハハ!」
かわいい女の子同士がじゃれ合ってるのを見るのは、本当に尊いな~。
「普通は、男の子なんて周りから世話を焼かれるのが普通だもん。あっちの1組さんみたいに」
「そうですね」
三戸さんと多々良浜さんがチラッと視線を送った先を見やる。
「晴飛様。お肉です」
「あ、ありがとう……」
「肉はわたくしの一族の系列会社の食肉店から最高級和牛をここまで運送させましたの」
「タレはうちのグループの食品会社の最上級の物を」
「お肉の後にさっぱりする高級メロンなどいかがですか?」
おおぅ……。
流石は1組だ。
桐の箱に入った食材がわんさか出て来てる。
バーベキュー場は流石にクラスに一か所とはならないので、体育館の時と同様に1組と分け合って使っているので、どうしても視界に入ってしまう。
なお、晴飛は相変わらず女の子達の人垣で見えない。
「1組の子たちは随分と気合い入れてるね~」
「そうですね」
「ゴメンね……。俺、今からデザートに、焼きマシュマロとチョコ焼きバナナを作ろうかと思ってたんだけど……」
桐の箱に入ったメロンとか出てきちゃった後に出すのは心苦しいな……。
でも、キャンプといったら焼きマシュマロなんだよ!
乾いたビスケットと挟んでスモアにすると最っ高にウマいんだから!
材料費が100分の1くらいだけども……。
「何を言っているんですか橘君。男の子が焼いてくれるでバーベキュー何て、私たちは1組以上に最高の体験をさせてもらっているんですよ」
「正直、高校生時代にこんな体験できるなんて、それだけでどんな金持ちにも負けない経験が出来てるって胸を張って言えるよ」
多々良浜さんと三戸さんが、曇りなき眼で答える。
その気遣いが嬉しい。
「ありがとねー。あ、焼きマシュマロは直ぐに焼けちゃうな。ほいっ、三戸さん、あ~~ん……」
「へぇ?」
「これは、俺からの日頃の感謝の気持ちだよ。最近は、クラス入替え戦の連戦で参謀役として疲れてるでしょ。頭が疲れた時には甘いものだよ。ほら、あ~ん」
「ふ……ふぇ……」
焼きマシュマロを刺した鉄串を、三戸さんの口元へ運ぶと、三戸さんは困惑顔をしながらも、大人しく焼口に頬張る。
「そう言えば、絵里奈ちゃんのリクエストの夢シチュエーションは、仕事で疲れた時にコーヒーを淹れてくれる後輩男子という設定でしたね」
お、そうか。
コーヒーもマシュマロで甘くなった口の中を洗い流すために用意してたからちょうどいい。
「じゃあっと……オッホン! せ~んぱい♪ いつもお仕事お疲れ様です。ボクが淹れたコーヒーでも飲んで、一緒にもう一頑張りしましょうね」
「ナニコレ、甘い……」
残業してるカワイイ後輩をイメージしてコーヒーを勧めてみたが、一口すすっただけで倒れる三戸さん。
焼きマシュマロは熱ですぐ溶けるから、食べて直ぐにコーヒーを飲むと口の中で溶けて、甘さが口いっぱいに広がるんだよね。
驚くのも無理はない。
「橘君は本当に……」
「え? マズかった?」
多々良浜さんが眉間を抑える背後で、クラスの女子たちが並んでいた。
あ~、そういうことね。
「大丈夫だよ、みんな。ちゃんと人数分のマシュマロは用意してるから」
「そういう意味じゃないんですよ、まったくもう……」
その後、皆焼きマシュマロやスモアを頬張り、コーヒーを飲ませるプレイが続いて、多くの女子たちがその甘さに悶えて倒れた。
あれ?
バーベキューのキノコに、その辺の毒キノコでも混ざってたか?
なんて考えていたら、ふと視線を感じた。
「男の子からアーン……」
「うらやま……いえ、なんてはしたない!」
「わ……私たちは淑女なのですから、全然……全然羨ましくなんてないんですからね!」
1組の女の子達から凝視されていた。
う~ん、お裾分けしたい所だけど、流石にマシュマロは1組全員分は無いしな。
今回のクラス宿泊合宿は、クラスの皆を労うのが目的だからな。
今回は申し訳ないが、自分の子たちを優先させてもらうか。
──って、ん? かぐや姫?
1組の面々が晴飛を取り囲んでこちらを凝視している中、かぐや姫だけが何故か皆から離れた木に寄りかかって座って空を見上げていた。
見上げる先には綺麗な満月が輝いていた。
相変わらずボッチなかぐや姫の事が一瞬気になったが、直後に俺は焼きマシュマロを皆の口に運ぶマシーンと化したので、隣のクラスにまで気を割く余裕がなくなるのであった。
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