第26話 橘君が咥えた棒……
「じゃあ、室内レクは終了~! 水分摂ったら、次は野外でバーベキューだからな」
エッちゃん先生の号令により、ようやく室内レクの時間が終わった。
「あと、床で伸びてる奴らは、皆で協力して救護室に連れてけ~」
「「「は~い」」」
てきぱきと、クラスの女の子たちが床で恍惚の表情を浮かべて伸びている子たちを担ぎあげている。
特に、久留和さんは両肩に一人ずつ担ぎ上げている。
凄い筋力だな。
「さて。バーベキュー準備ですが、思ったよりも負傷者の看護に人を取られたので、少し時間がかかりそうですね」
「ご褒美対象者は最初からバーベキュー準備の人員の頭数には数えてないけどね。意識を失った人って思ったより重いんだよね。死体みたいに」
多々良浜さんと参謀役の三戸さんが、手に持った紙資料に忙しくペンを走らせる。
っていうか2人が喋ってる内容だけ聞くと、ここはどこの戦場だ? と思ってしまうが、楽しい楽しいクラス合宿なのである。
「それなら、俺がバーベキューの準備を手伝うよ」
「「え⁉ 橘君がですか⁉」」
「心得はあるからな。任せてくれ」
これでも、前世のアラサーリーマンの若手時代には、会社のBBQ会の幹事を何度もやってきたからな。
あれは、事前の買出しや連絡調整等が大変なんだが、BBQ当日の調理の廻しは結構楽しいんだよな。
最近は職場でも中堅になっちまったから、この手の仕事が回ってこなくて、内心ちょっと寂しかったんだよね。
「大丈夫かな? みな実っち……」
「うーん……。バーベキュー舞台での、ご褒美対象者もいますが、その前に流れ弾で被弾しまくる未来が見えますね……」
何やらコソコソ話して渋い顔をしている2人をよそに、俺は久しぶりのBBQ回しにワクワクして、勇んでバーベキュー場へ向かうのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
「んじゃ、火起こししますか。火種になる成形炭にバーナーで火を着けてっと」
バーベキューの花形は何と言っても火起こしだ。
大自然でのキャンプなら、シュロの木の皮からマグネシウムの火打石で火起こしするのはカッコイイんだけど。
でも、あれってやる本人の自己満足の世界だから、グループバーベキューですると、本人しか盛り上がらないんだよね……。
今日は色々とやりたい事があるから、ガスバーナーと、着火しやすい成型炭を使ってスピード重視だ
「そんな、男の子が火を使うなんて危ないよ」
「そうだよ橘君。服や髪に煤や臭いがついちゃうよ」
他の火起こし担当の子たちが心配の声を上げる。
「慣れてるから平気だよ。さて、成型炭が全体的に赤くなったから、細い薪を成型炭の周りに置いて……。フーーッ! フーーッ‼」
薪に火が移ったので、すかさず火吹き棒で空気を送り込んで、火を大きくしていく。
この、火が大きくなって育つ所が、火おこしの醍醐味だよな。
「火の前に率先して立ってくれてる男の子ってカッコイイ……」
「男の子がフーフーしてる……」
「薪になって炎に抱かれたい……」
「煤よけにタオルを頭にバンダナ風に巻いてるの最高過ぎんか……」
おっと。
クラスの女子の皆が物欲しそうな顔で、こちらを眺めている。
バーベキューの楽しみの一つを俺ばかりが享受しちゃいけないよな。
なにせ、クラス内の親交を深めるのが今回のクラス合宿の目的な訳だし。
「じゃあ、俺は調理班の方に行くね。火は皆に任せた。はい、火吹き棒ね」
「「「「──えっ?」」」」
火は安定して来たし、後は火を消さないように薪を継ぎ足し、時折り火吹き棒で空気を送り込めば問題ないはずだ。
という訳で、俺は重要アイテムである火吹き棒を、近くに居たクラスの女子に渡す。
「橘君が咥えた棒……」
「こ、これは……。上の口用、下の口用のどちらにも使える……」
「何だこれ、特級宝具か?」
「って、ちょ! 先に嘗めようとするな!」
「私が橘君に渡されたんだから、私のだから!」
「ヤメロ! そんな事したら、もうアンタを殺すしかなくなっちゃうから!」
何やら火起こし担当の女子たちが火吹き棒を巡って揉めているが、まぁ火吹き棒で火を育てるのって楽しいから、取り合いになるのは分かる分かる。
「橘君……貴方はまた……」
「え? 多々良浜さん、また俺何かやらかした?」
「いえ、火起こし担当の考えて来たシチュエーションを超えているので、もういいでしょう。次は、調理担当の方でお願いします。対象者は」
「わ、私だ……」
「おお、久留和さんか。そりゃ、お弁当作るの得意な料理上手だから調理担当になるよね」
「ふゆ……」
意識を手放しかける久留和さんが、周りの子たちに支えられて、何とか持ちこたえる。
「橘君……。久留和さんは、このクラスで一際、男の子にヨワヨワなので手加減してあげてくださいね」
「あ、ごめん」
タッパと腕っぷしはクラス一なのに、久留和さんが最弱認定なのって、この世界のバグだよな。
「う~~ん……」
「ほら、久留和さん、しっかり! 夢シチュエーションやるんでしょ?」
シャキッとしなさいと、多々良浜さんが久留和さんの尻を文字通り叩く。
いい音が鳴った。
「あ、あの……橘と一緒に、お弁当……作りたい」
指をツンツンして恥ずかしがりながら、久留和さんがお願いしてくる。
相変わらずデッカイけどカワイイ女の子だ。
その可愛さに、俺も最大限応えねばならない。
「え~。でも、俺、料理なんて出来ないな~」
「え? でも、前に料理出来るって……」
俺のそっけない態度に、ちょっと涙目になる久留和さん。
無論さっき言ったのはウソなのだが、デッカイ女の子が『ふぇ……』と泣きそうになってるのって良いよね。
っと、思わぬ副産物は嬉しかったけど、ちゃんと期待には応えないと。
「だからさ。久留和さんが俺にタコさんウインナーの作り方を教えてよ。手取り足取り」
「へ?」
「まずはウインナーを半分に切って……。って、包丁ってどう持つんだっけ~? 分からないぞ~? こうかな~?」
ここで、俺は何も知らない幼稚園児を降霊させる。
久留和さんのためとは言えちょっと恥ずかしいが、日ごろ頑張ってくれてるしな。
「あ、ダメだよ! ちゃんと猫の手で、包丁は上から押しつぶすんじゃなくて、引くように」
「猫の手って言っても分かんな~い。俺の後ろから手ほどきして~」
「ふへぇ……。それって、橘の身体に背中から密着して手に触れるってこと……ムリだよぉ……」
情けなく泣きを入れてくる久留和さんだが、そこは逃がさない。
「あ~、このままだとケガしちゃうな~。誰かが意地悪して教えてくれないから」
「や……やるよ……やるから……」
こうして、後ろから抱きしめられるようにして、文字通りの手取り足取りで料理をする俺と久留和さん。
俺もそこそこタッパがある方だが、一回り大きい久留和さんに後ろから包まれる体勢は、新鮮だった。
なお、久留和さんは終始真っ赤だったらしく、御褒美タイムが終わると同時に、目を回して倒れた。
クラスの女子が、最初から久留和さんが倒れる前提でスタンバっていて、見事に久留和さんのデッカイ身体を受け止めているのは、ちょっと笑った。
書籍に関する情報ですが、久留和さんのキャラデザすげぇ良いっすよ。
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