第28話 多々良浜さんのお願い
「んしょ! んしょ! 多々良浜さんは部屋のドア開けて」
「は、はい……」
多々良浜さんが開けてくれたドアの先は、まさしく女の園だった。
お泊り合宿の女子部屋。
何という、甘美な響きだろうか。
ラノベやマンガなら、主人公がうっかりやラッキースケベ的な感じで女子部屋に入ってしまう展開はあるあるだが、現実ではそんな事は起こり得ない。
そもそも、現実では男子が女子の部屋に入るのは教師から禁止されているのだ。
え? リア充なら、そんな制約を物ともせずに忍び込んでたって?
うっせぇボケ!
それじゃあ、大人しく男子部屋で野郎たちだけでトランプの大富豪やってた前世の俺が可哀想だろうが!
──っと、つい前世のリア充への怨嗟の念が漏れ出ちまった。
とにもかくにも今、俺は高校の宿泊合宿の女子部屋へ入るという、人生のトロフィーを獲得したわけだ。
このトロフィーは、大人になっても『俺、高校時代の宿泊合宿で一人で女子部屋に遊びに行ったわ』と一生涯、全方位にマウントが取れる代物なのだ。
「久留和さんはこちらの布団に寝かせましょう」
とは言っても、今は絶賛、バーベキューで失神してしまったクラスの女子を部屋へ運んでいる最中だ。
女子の部屋で、パジャマ姿の女子達と一緒にトランプに興じたり、お菓子をパクついたりという事は出来ないので、ちょっと俺が思い描いていた女子の部屋に遊びに行くシチュエーションとは異なる。
「しかし、女子の部屋は狭いな」
布団を人数分敷いたら、もう部屋の中はギチギチだ。
「男の子の部屋って、どんな感じなんですか?」
「見てみる?」
スイートルーム級の俺の部屋だが、口で説明するより、見てもらう方が早い。
「え⁉ そ、それは……。ダメですよ、女の子が男の子の部屋に入るのは固く禁じられてるんですよ!」
「まぁまぁ、いいじゃん。今は隣の部屋のエッちゃん先生も、居ないみたいだし」
今は、夕飯も終わってお風呂の時間だ。
教員は、バーベキュー場の後片付けや、お風呂での管理統率で忙しくて部屋には不在だ。
「バレたら退学で……」
「あの広い部屋で一人だと寂しいんだよ。あっ! いっそ、俺もこの部屋で皆で雑魚寝を」
「も~! わかりました! 行くなら早く行きますよ!」
根負けした多々良浜さんが足早に女子部屋を後にする。
口では無理と言っておきながら、その後姿は少しスキップしているように見えた。
◇◇◇◆◇◇◇
「わぁぁああ! 凄い部屋ですね」
「だろ~」
こっそり俺の部屋に入って来た多々良浜さんは、開口一番感嘆の声を漏らす。
それを、自分の手柄でもないのに誇る俺。
「これなら、クラス全員が入れそうな広さですね」
「そうなんだよ。クラスの皆には悪いよね。自分のお金で女の子を、こういうスイートルームに招待出来たら最高なのに、実際はその真逆だからね」
男子は学費免除のハニ学なので、当然、男の俺はこのクラスお泊り合宿の費用も1円も払っていない。
という事は、この部屋の料金は、全て女子生徒側が支払っている学費によって賄われているのだ。
たくさんお金を払ってる自分たちが複数人部屋で、1円も払ってない男子がこんな広い部屋を独り占めしているなんて理不尽にもほどがある。
俺なら学園側にキレるわ。
「ふふっ。相変わらず橘君は変わった男の子ですね。そんな事、普通の男の子は気にしませんよ」
クスッと笑う多々良浜さん。
「そうかな~」
「でも、2組の私たちは、そういう意味ではとても幸運ですよ。こうして橘君が一緒のクラスで、夢の男の子との高校生活を送れていて、私たちのお願い事を希望以上に叶えてくれるんですから、学費の元は十分に取れてると思います」
「それだと良いんだけど……。あ、そういえば多々良浜さんのお願いって何?」
「私……のですか?」
「うん。今日の多々良浜さんは学級委員長として、皆の夢を叶える段取りをしてくれたでしょ? 一番頑張ってくれてたもん」
事前に、クラスの皆の要望をまとめてタイムスケジュールを組み、当日のアクシデントにも適切に対応してくれていたのは多々良浜さんだ。
「じゃ……じゃあ、その……」
同じ学級委員だけど、こうして2人きりで話すのは久しぶりだ。
そして場所は、合宿所という名の実質ホテルの一室。
さて、どんな要望が飛び出すのか。
「私の個人的な話を聞いてくれますか……? その……楽しくない話なんですけど……」
「話……を聞くだけでいいの?」
「はい」
おずおずと切り出した多々良浜さんに不意を突かれる俺。
てっきり、ムッツリスケベな多々良浜さんの事だから、作り込まれたシチュエーションの依頼が来るかと思っていたのだが……。
「どうぞ。っていうか、話なんていつでも聞くのに」
「いえ、ちょっとこういう機会でもないと話づらい、本当に個人的なことなので……」
そう言って、多々良浜さんは語り始めた。
「私には姉がいるんです。とても優秀な姉で。あ! 姉と言っても腹違いの姉です」
へぇ……。
多々良浜さんと言えば、ゲームでは何度クラス入替え戦で敗れても決して折れずに挑み続ける健気な巨乳キャラというのが公式情報の全てだったんだが、そんな設定があったんだな。
ん? 腹違いの姉?
ってことは……。
「その言い方って事は、多々良浜さんにはお父さんが居るんだね?」
この男女比が1:99という極端な世界では、多くの女性は結婚はせずに、精子バンクに登録された精子を使って人工授精で子供を産む。
故に、同じ精子バンクの同一男性の物を使っても、腹違いなんて言う表現は使わないのだ。
そうしたら、この世は腹違いの姉妹だらけになってしまう。
「はい。でも、私は父親に会ったことが無いんです。私に会いに来てくれたことは一度も……」
そう言って、多々良浜さんは目を伏せて地面を見つめた。
「私には優秀な腹違いの姉がいて、父はそちらの家に居るんだと、母が寂しそうによく言ってました」
ああ……。
多々良浜さんのお母さんは第〇夫人という奴だったのか。
「だから私は頑張りました。イイ子になれば、きっと父が私を認めてくれて会いに来てくれると信じて。でも、私は大事な入試当日に体調を崩して……。入学する時に2組になった事を母に伝えるのは、今だから言いますが、結構キツかったです。何も私の事を責めない母の態度がよりしんどかった……」
これが、男にとっては至極、都合のいい夢の制度である一夫多妻制の現実……。
そうだよな。
お父さんが居るはずなのに、居ないって言うのは妻もその子供にとっても寂しいよな……。
「って、ゴメンなさい! いくらご褒美の権利を使っているとはいえ、こんな男の人にとっては気分を害するような話をしてしまって」
「いや、そんな事は……」
ペコリと頭を下げる多々良浜さんに、俺は歯切れ悪く答える。
「誤解してほしくないんですけど、今の私はすごく幸せなんですよ。橘君、貴方のおかげです」
「俺の?」
「はい。きっと、私は貴方の傍に居るために生まれてきたんだと思います。もし……」
「もし?」
言いにくそうに俯き、モジモジする多々良浜さんに、続きを促す。
「もし、橘君が私を貰ってくれるなら、第〇夫人でも構いません。だから、貴方の傍に居させてください」
──え……。う~ん、これって……。プロポーズだよね?
え?
高1の4月で、もう俺プロポーズ受けちゃったの?
前の人生では、受ける事はもちろん、結局はする事もしなかったプロポーズを、今、ここで⁉
突飛な事態に、さしもの俺もフリーズする。
「女のくせに重い事を言ってゴメンなさい……。でも、気持ちが溢れちゃいまして……」
そう言いいながら多々良浜さんは、期待した熱い眼差しを向けてくる。
女の子が、こんなにも勇気を振り絞ったのだ。
そんなの、男としての返事は。
(コンコンッ!)
「お~い橘。先生だけど入っていいか?」
──っ! エッちゃん先生⁉
思わぬインターセプトに俺と多々良浜さんは顔を見合わせる。
その顔は合わせ鏡みたいに焦っていた。
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