第23話 ご機嫌斜め?なかぐや姫
「ん~、ぬいぐるみ、シール、可愛いシャープペン……。結構種類が色々あるな」
「ちょっと橘。放課後まで私を連れ回して、どういう事なの? それも、こんな女の子が好きそうなファンシーショップなんて」
通い慣れていないショップなので、まずは全体像を把握しようという事で店の中をブラブラしている所なのだが、かぐや姫が早速ご機嫌斜めである。
「ほら。ちゃんと俺に引っ付いておけよ。一応、俺の護衛って設定なんだから」
「なんで、有名女優の私がアンタごときの護衛なんてしなきゃいけないのよ!」
「しょうがないだろ。お前が変装してるのがバレないように、それが一番違和感ないんだし。男の俺の隣に居れば、俺に注目の目が行って、お前がかぐや姫だって気づかれるリスクは減るんだし」
放課後。
俺とかぐや姫は、街中にあるファンシーショップへ来ていた。
ただ、何せ注目を浴びる事は前回、女装した晴飛とショッピングをした時に骨身に染みている。
おまけに、連れているのが大女優様では、おそらく街中を歩くのもままならないだろう。
よって、かぐや姫には変装させているのだが。
「けど、あんたが貸してくれた変装用のパーカー、何か臭うわね」
スンスンと、かぐや姫がパーカーの袖を嗅いで首をかしげる。
「失礼な事言うな。制服姿に帽子じゃ変だから貸してやったんだぞ」
今朝は春にしては珍しく冷えた日だったので、パーカーを防寒用に持ってきていたのだ。
しかし、フードを被せ、サングラスという怪しい出で立ちのかぐや姫は文句が多いな。
まったく。
男の着てたパーカーを着れるって、この世界の女の子からしたら、垂涎の的なのに。
──って、うわ……。俺の方も、この貞操逆転世界の価値観に染まっちまってるな……。
自分の事をナチュラルに、価値ある特別な人間として位置付けるとか、自意識過剰の思春期こじらせた男子かよ!
うわ~、恥ずかしい……。
「まぁ、騒動になっちゃ元も子もないから仕方ないわね。あ、大女優の私が着たからって、このパーカーをファンに売ったりするんじゃないわよ」
自己嫌悪に陥ってたら、目の前にもっと自意識こじらせてる奴いたわ。
「お前と友達で良かったよ」
「……何よ急に」
しみじみ言うと、かぐや姫が怪訝そうな顔でこっちを見てくる。
心配しているというよりは、『何言ってんだコイツ?』みたいな顔なのが、また良い。
「自分がまともな人間だと、お前の言動を見ていると自分に自信が持てるからな」
「ふーん。今、人前じゃなかったら、男だろうと殴ってたわよ」
「うへっ、危ねぇ危ねぇ」
こうして、殴り返してくるような奴だから、この世界でもこいつと女友達やれてるんだよな。
本当、かぐや姫にはそのままの君でいて欲しい。
「で、何でこんな女の子が好きそうなショップに来たのよ? 言っとくけど、私はこういうの、正直趣味じゃないわよ?」
「お前のじゃねぇよ。晴飛が、こういうカワイイ小物とかが好きなんだよ」
前回、晴飛とお出かけデートした時にも、このショップに来てたからな。
「それを先に言いなさいよ! よしっ! 晴飛様のために、このショップのグッズを全部買い占めてくればいい訳ね」
勇み足で、プラチナカード片手にレジに向かおうとする、浮世離れしたポンコツ女優様を慌てて止める。
「待てっての! ちゃんと、お前が選ぶことに意味があるんだろが!」
「え~。トラックに山盛りのプレゼントの方が、男の人は喜ぶんじゃないの? ドラマとかだと、そうやって女の甲斐性を見せる方が」
「それだと晴飛が引くのが目に見えてる。きちんと選び抜いた一品を宿泊合宿の時に渡すのが一番グッとくるはずだ」
「随分とロマンチックなのねアンタは。顔に似合わず」
「うるせぇ。ほら、さっさと選べ」
毎回一言多いかぐや姫を促して、俺もショップの中へと入って行くのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
「ふ~。ったく。なんで、女の人の買い物ってのはこう長いのかね」
前世と比べると、率先して前に出る男前な女の人が多い印象だが、やっぱりこの世界でも女性の買い物時間は長いというのは万物不変の理のようだ。
──こんな事なら、やっぱりショップの品を全て買占めさせた方が良かったか? でも、結局は、どのファンシーグッズが晴飛に合うかを相談されて『ああ、いいんじゃない』とか言うと『適当言うな!』と怒られるのが関の山だったか。
なんて事を、俺は安住の地である男子トイレで思ったりしていた。
こういう大型商業施設でも、男子トイレは一か所にしかないから大変だ。
「って、あれ? かぐや姫はどこ行った?」
トイレから出て手をハンカチで拭きつつ、キョロキョロと辺りを見回してみたが居ないぞ。
また、どこかで見てるのか?
「おいテメェ。パーカーで隠してるけど、ハニ学の生徒だな」
「な、なによアンタ……」
お?
何やら揉めている声が。
聞こえてくる声を頼りに向かうと、テナントとテナントの間にある『関係者以外立ち入り禁止』の看板が立つエリアで、かぐや姫が数人の少女に取り囲まれていた。
取り囲んでいるのは女番長風に制服を着崩した女の子たちだった。
「さっき、男のツレがハニ学の制服だったもんな」
「けど、護衛がお前みたいなチンチクリンでウケるわ」
「誰がチンチクリンですって⁉」
「威勢だけはいいけど、迫力ねぇよ」
「ハニ学に通うようなお嬢ちゃんだから金持ってるんだろ? アタイらみたいな不良クズ女に恵んでくれや」
「そうそう。日頃、男と触れ合ってイイ思いしてるんだからよ~」
───うへぇ……。ハニ学の世界でもこういうのってあるんだ。人数は向こうの方が多いけど、女の子相手なら何とかなるか。
そう思った俺は、火中の栗を拾いに行った。
「あの~」
「あ? なんだてめぇ……って、へぇ⁉」
「お……お……男!?」
「なんで⁉ 普通、護衛が絡まれてても男なら即逃げるって聞いてたのに……」
不良少女の一団に声を掛けると、振り向きざまはガンを飛ばして低いドスのきいた声だったが、男の俺だと分かると急に声のオクターブが上がったのに、思わず苦笑いしてしまう。
「そいつ、俺のツレなんだよね。一緒に遊びたいのかもしれないけど、ちょっと勘弁してやってね」
そう言って動揺した一団から、俺はかぐや姫の手を取り引っ張り出す。
「あ……」
「う……」
「話しかけられた……男に……」
「ふわぁ……男の子……」
まるで夢でも見ているかのように呆けた不良少女の一団から、俺はかぐや姫の手を取り、とっとと離脱した。
◇◇◇◆◇◇◇
「もう、ここまで来れば大丈夫だな」
配車アプリで呼んだハイヤーに乗り込んで、俺はようやく人心地ついた。
「…………」
「…………」
が、車中に気まずい沈黙が流れる。
まぁ、かぐや姫は子役時代から蝶よ花よと大事にされてきたんだろうか、ああやって悪意を向けられること自体が初めてだったのかもな。
こういう時に、沈黙に耐えられない小心者の俺は先行で行動を開始する。
「ごめんな、輝夜。一人にして怖かったな」
ヨシヨシと頭を撫でてやるイケメンムーブである。
こうすれば、気の強いかぐや姫のことだ。
『なにをドサクサ紛れに触ってんのよ! 私は天下の大女優の不入斗輝夜よ!』
と元気に反撃をして。
「ん……」
あ、あるうぇぇえええ⁉
視線を俯かせた輝夜は、微かに声を漏らすが、そのまま俺にされるがままに委ねている。
え、なんだこれ。
ワナか?
「ま、まぁ、なんだ……。とにかく、晴飛へのプレゼントが買えて良かったな」
そう言って、強引に会話を終了した俺はハイヤーの窓から外を眺めていた。
時々、チラッチラッとこちらへ視線を送るかぐや姫がガラスに映り込んでいるのに気付かないふりをして。
なぜ無視したのか。
自分でも理由はよく分からなかった。
おや? フニュートちゃんに異変が。
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