第33話 なんか、彼女気取りやん……
「んにゃ、む……。お、朝か……」
もはやお馴染み感があるなと思いつつ、俺はカーテンの隙間から差し込んできた陽光で目を覚ます。ゴールデンウィーク3日目も快晴なようだ。
だが、今朝はリビングの床で雑魚寝ではなくベッドの上。
そして……。
「おはよ。知己くん」
ベッドに寝転びながら顔だけ横に向けると、晴飛の顔が至近距離にあった。
「わり……先に起きてたのか晴飛。待たせちまったか?」
「ううん。知己くんのかわいい寝顔を眺めてたから退屈しなかったよ」
「なんで女の子バレした後の方が王子様系な甘い言葉を囁くんだよ……」
ホンマ、この主人公様は……。
「ねぇねぇ知己くん。今日なんだけど、急に用事がキャンセルになったんだ」
「おー、そうなのかー」
どうやら、昨晩に俺が母さんに啖呵を切ったのを受けて、母さんが晴飛側に手を回したようである。
昨晩はつい暴言吐いちまったけど、やることはやってくれてるんだよな……。
次回に話す機会に謝っとくか。
「ねぇねぇ。知己くんは今日はヒマ?」
「おう。予定はないぞ」
元より、自分が晴飛の面倒を見ると啖呵を切ったのだ。
今日の俺は晴飛と一緒がマストだ。
「私、どこかにお出かけしたい」
「お出かけか……」
正直、誘拐された直後に外を出歩くっていうのはな……。
護るにしても、このまま家に引きこもってた方がいいような……。
「元はゴールデンウィークに2人で1日一緒に遊ぼうって話してたでしょ」
「いや、でも疲れたし家でのんびりゴロゴロしてる休日があっても……」
実際、ゴールデンウィーク1日目、2日目はイベント盛り沢山で既にお腹いっぱいなのだが。
「行こうね」
「はい……」
女の子と護衛対象には逆らえぬ。
こりゃ、晴飛の旦那になる男は尻に敷かれて大変だなと思いつつ、俺は諦めて外出の準備を始めた。
◇◇◇◆◇◇◇
「こうやって、休日にお泊りして少し遅めの朝ごはんをカフェで一緒に食べるのっていいよね」
「晴飛、ちょっと声のトーン落とそうか……。隣席のお姉さんが昏倒したから」
開幕からいきなり、致死量の匂わせ発言をする晴飛。
朝から何やら絶好調である。
「男の子同士お泊りって現実にあるんだ……」
「尊い……尊いね……」
「ゴールデンウィークにも頑張って朝ちゃんと起きて資格勉強のためにカフェに来て本当に良かった……」
「私も、連休にやること無さ過ぎて、無為にモバイルパソコンでカタカタ格好つけに来て良かった。やってるのはSNSだけど」
「おい、男の子たちの写真撮ってSNSに上げるなよ。逮捕されるぞ」
「男の子同士の貴重な逢瀬は脳内に焼き付けて、その後、イラスト化すれば法的にはセ~~フ!」
「まぁ、そういうイラスト見かけた男の子が悲鳴上げて、余計に女嫌いが悪化するんだけどな……」
ショッピングモールにあるカフェの中が騒然とする中、晴飛は我関せずで目の前のクラブサンドとカフェラテの朝食を楽しんでいる。
とても、昨晩に誘拐されてチビッていた子には見えない。
「って、ん? あれ?」
こちらをチラチラと見てくるお姉さん方の視線の中に、一つ異質な気配を感じた。
視線ではなく、あくまでほんのちょっとの違和感。
「何してんの? カモちゃん」
「わわ、バレてしまいました。おはようございます橘君。ちゃんと気配を絶っていたのに……流石です」
実際、カモちゃんの気配の消えっぷりは見事だった。
ゴールデンウィーク初日の時の尾行はあんなにお粗末だったのに、今ではこんな絶っぷりを見せつけるとは。
恐ろしく早いストーカー能力の成長速度。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
「いや、その格好じゃなきゃ気付かなかった」
「偵察なので変装をと思いまして、思い切ってこんな格好を……」
俺がカモちゃんに気付けた理由は、フリルがついて華やかながら、ダークピンクの所謂、地雷系ファッションで原作のカモちゃんの服装だったからだ。
「妹たちに見繕ってもらって初めて着てみたんですけど、案外悪くないなって、自分でも気に入ってます」
「うん似合ってる。カワイイよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言いながら、カモちゃんは少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにフリルのついたスカートを摘まんで見せる。
──ああ、地雷系ファッションは、別に闇墜ちするしない関係なく好きな服なのね。まぁ、ファッションは自分の好きなスタイルにするのが一番だもんな。
「誘拐騒ぎを犯した地元の先輩たちはどうやら消えたようです。警察沙汰になった訳ではなく、表向きは遠い青少女》更生施設へ行ったというカタチになったようです。先輩たちの親の家も、何故か、そう言い張っているようで。これで、うちの家に累が及ぶことは無さそうです。本当にありがとうございました」
ああ、そういう感じで処理したんだ。
流石は橘家の後詰めの部隊。
こちらの望んだとおりのシナリオを書いて押し付けたようだ。
晴飛の護衛の時には殺気飛ばしてきて怖かった方々だけど有能だな。
「観音崎君にも御迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした。でも、思ったより元気そうで安心しました」
「あ、いや……。ボクは大丈夫だから」
人前のため、一人称がボクに戻っている晴飛が、歯切れ悪く答える。
まぁ、俺にワガママ放題して回復してくれてるからな。
「それだけ伝えたくて。それでは、これで。ゴールデンウィーク明けのクラス入れ替え戦で」
そう言って、カモちゃんは地雷系ファッションでフリフリしながら去って行った。
どうやら心機一転で、新しい自分にワクワクしているという様子だ。
こりゃあ、クラス入れ替え戦を前に一皮も二皮も向けて、完全に敵に塩を送る形になっちまったかな。
でも、カモちゃんが闇墜ち犯罪中退エンドにならなくて本当に良かった。
そんな風に、久しぶりに良い原作ブレイクを起こした事に満足していると。
「ふーん……。知己くんって、ああいう服が好きなんだね」
「え?」
「鼻の下伸ばしちゃってさ……」
「いや、違うから! 俺は純粋に、カモちゃんが自分なりのファッションを見つけられたことに喜んでいただけで」
「ふーん……。じゃあ、朝ごはんも食べたし、そろそろ出ようか」
カモちゃんが居なくなった途端にワガママお嬢様に戻った晴飛。
どうやら、他の女の子にカワイイと言ったのがマズかったらしい。
──なんか、彼女気取りやん……。プンスカして。
そう思いつつも、自分の分の朝食のトレーはちゃんと自分で持っていく晴飛の人の好さに乾いた笑みを浮かべながら、俺も晴飛の後に続いた。




